第8話 超変身ゴブリンに狙われてもおっさんは間違いなく魔術師である
――ビーストゴブリン。
彼には。
四つの変身段階がある。
ただ強くなるだけではない。
形態が変わるたび。
肉体の性質そのものが変わる。
第一形態。
――**獣化**。
第二形態。
――**剛獣化**。
第三形態。
――**超獣化**。
そして。
最終形態。
――**真・獣王化**。
それぞれ。
まったく別の戦い方をする。
◆
「まずは第一形態だ」
ビーストが言った。
「獣化!」
――ドンッ!
身体が一回り大きくなる。
筋肉が盛り上がる。
爪が伸び。
瞳が獣のように鋭くなる。
「…………」
ドレヴァンツが観察する。
「身体能力が上がっていますね」
「そうだ」
ビーストが笑う。
「だが、第一形態の本質は力じゃない」
「では?」
「速度だ」
――ドンッ!
ビーストが消えた。
「…………!」
次の瞬間。
ドレヴァンツの背後に回っている。
「速いですね」
「まだだ!」
再び消える。
右。
左。
背後。
上空。
あらゆる方向から攻撃が飛んでくる。
――ドゴッ!
――バキッ!
――ズドンッ!
「なるほど」
ドレヴァンツは。
攻撃を受けながら頷く。
「第一形態は速度特化」
「その通り!」
ビーストが笑う。
「筋力は通常時の三倍!」
「三倍」
「速度は五倍!」
「五倍ですか」
「ああ!」
ビーストが地面を蹴る。
「だから第一形態では――」
拳が迫る。
「相手に反撃させない!」
――ドゴォン!
ドレヴァンツが吹き飛ぶ。
「…………」
しかし。
空中で姿勢を整える。
「面白いです」
「何?」
「速い相手と戦うのは初めてです」
「…………」
ビーストの笑顔が。
少し引きつった。
◆
「ならば!」
ビーストが叫ぶ。
「第二形態!」
――ゴオオオオオオ!
身体がさらに膨張する。
筋肉が倍以上に膨れ上がる。
腕は太く。
脚は巨大に。
身体の重量そのものが増していく。
そして。
地面が。
ミシリと沈んだ。
「…………」
ドレヴァンツが目を細める。
「今度は遅くなりましたね」
「ああ」
ビーストは笑った。
「第二形態は速度を捨てる」
「その代わり?」
「力だ」
拳を握る。
「筋力――十倍!」
――ドンッ!
地面が陥没した。
「一撃の破壊力――第一形態の五倍!」
ビーストが拳を振り抜く。
「食らえ!」
――ズゴォォォォン!
衝撃波だけで。
山肌が吹き飛んだ。
「…………」
ドレヴァンツは。
飛んできた岩を片手で受け止める。
「凄い威力ですね」
「そうだ!」
ビーストが吠える。
「第二形態は避けるんじゃない!」
一歩踏み込む。
「全部叩き潰す!」
――ドゴォン!
拳と拳がぶつかる。
山が揺れた。
「…………」
ドレヴァンツが。
少しだけ後ろへ滑る。
数メートル。
「…………!」
ビーストの目が見開かれる。
「今、下がったな?」
「はい」
「俺の拳で?」
「はい」
「…………」
ビーストは。
初めて。
少し嬉しそうに笑った。
「なら!」
◆
「第三形態!」
――バチバチバチッ!
今度は。
身体が巨大化することはなかった。
むしろ。
細くなった。
「…………?」
ドレヴァンツが首を傾げる。
「小さくなりましたね」
「ああ」
ビーストの身体には。
無駄な筋肉が一切ない。
極限まで研ぎ澄まされた肉体。
そして。
全身から。
青白い光が漏れていた。
「第三形態は――」
ビーストが拳を握る。
「気力と肉体の融合だ」
「…………」
「力は第二形態ほどではない」
「では弱いのですか?」
「逆だ」
ビーストが笑う。
「無駄がない」
――ドンッ!
姿が消える。
次の瞬間。
「――ここだ」
ドレヴァンツの懐。
「…………!」
拳。
肘。
膝。
蹴り。
すべてが。
最短距離で急所へ飛んでくる。
――ドドドドドドドドッ!
「速い!」
第一形態より速い。
そして。
「重い……!」
第二形態ほどではない。
だが。
一撃一撃が。
確実に身体の内部へ響く。
「これが第三形態!」
ビーストが叫ぶ。
「速度――七倍!」
「七倍……」
「筋力――八倍!」
「…………」
「そして!」
ビーストの拳が。
ドレヴァンツの腹へ突き刺さる。
「衝撃を内部へ通す!」
――ドゴォン!
ドレヴァンツの身体が。
数十メートル吹き飛んだ。
「…………」
ドレヴァンツが。
ゆっくり立ち上がる。
「なるほど」
「どうだ?」
「かなり痛いです」
「…………」
ビーストは。
思わず笑った。
「そうか!」
◆
そして。
「最後だ」
ビーストが。
ゆっくり構える。
「第四形態――」
空気が。
変わった。
「真・獣王化」
――ゴオオオオオオオオオオ!
これまでとは。
明らかに違う。
巨大化しない。
細くもならない。
ただ。
身体のすべてが。
完成された。
筋肉。
骨格。
神経。
感覚。
呼吸。
すべてが。
一つの戦闘形態として最適化されていく。
瞳が金色に変わる。
全身に。
淡い光が走る。
「…………」
ドレヴァンツは。
じっと見つめた。
「これが最終形態ですか?」
「ああ」
ビーストが答える。
「第一形態は速度」
「はい」
「第二形態は力」
「はい」
「第三形態は技術」
「はい」
そして。
拳を握る。
「第四形態は――」
一歩。
踏み出す。
「全部だ」
――ドンッ!
消えた。
次の瞬間。
ドレヴァンツの目の前。
「速い」
拳。
――ドゴォン!
重い。
「…………!」
続いて。
肘。
膝。
蹴り。
すべてが。
第一形態の速度。
第二形態の破壊力。
第三形態の精密さ。
それらを。
一つにまとめている。
「これが!」
ビーストが吠える。
「真・獣王化だ!」
――ドォォォォォン!
衝撃波が山を横切る。
木々がなぎ倒される。
大地が割れる。
そして。
静寂。
◆
砂煙の向こうから。
ドレヴァンツが歩いてくる。
「…………」
「…………」
二人が。
向かい合う。
「どうだ?」
ビーストが聞く。
ドレヴァンツは。
少し考え。
「凄いです」
答えた。
「…………」
「今までで一番強いです」
「…………!」
ビーストの目が輝く。
「本当か!」
「はい」
「なら!」
ビーストが構える。
「もう一度だ!」
「はい!」
ドレヴァンツも。
拳を構える。
「お願いします!」
――二人が。
同時に地面を蹴った。
◆
神界。
『…………』
『…………』
白き神と黒き神は。
地上を見下ろしていた。
『第一形態』
『速度特化ですね』
『第二形態』
『パワー特化』
『第三形態』
『技術とエネルギー効率』
『そして第四形態』
二柱は。
黙って地上を見る。
『…………全部盛り』
『はい』
『…………』
『…………』
黒き神が。
小さく呟く。
『あれを敵に回したのか?』
『はい』
『しかも』
『はい』
『ドレヴァンツに修行を教えている』
『はい』
『…………』
黒き神は。
頭を抱えた。
『なぜ我々の刺客は』
『はい』
『毎回、敵を強くして帰ってくるんだ?』
『…………』
白き神は。
答えなかった。
◆
――そして。
戦いの後。
「ありがとうございました!」
ドレヴァンツが頭を下げる。
ビーストは。
地面に倒れていた。
「…………」
「ビーストさん?」
「…………」
「大丈夫ですか?」
「…………ああ」
ビーストは。
震える腕で身体を起こす。
「一つだけ」
「はい?」
「お前」
「はい」
「第四形態を見て」
「はい」
「何か思わなかったか?」
「…………」
ドレヴァンツは。
少し考えた。
「はい」
「何を?」
「私も変身できるようになりたいです」
「…………」
ビーストは。
空を見上げた。
「……やっぱりそうなるか」
そして。
ドレヴァンツの身体を見る。
「だが」
「はい」
「お前が変身するなら」
「はい」
「俺の四段階を真似するだけじゃ駄目だ」
「どうしてです?」
ビーストは。
真剣な顔で答えた。
「お前は――」
一拍。
「変身する前から、俺の最終形態より強いからだ」
「…………」
ドレヴァンツは。
少し困ったように笑った。
「では」
そして。
拳を握る。
「私専用の変身を作りましょう」
「…………」
ビーストは。
その言葉を聞いて。
確信した。
――また、とんでもないものが生まれる。
そして。
神界では。
『…………』
『…………』
二柱の神が。
同時に頭を抱えていた。
『絶対に変身を教えるなと言っただろうが!』
しかし。
もう遅い。
ドレヴァンツの変身修行は。
始まってしまった。




