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さえないおっさん魔術師は役不足と初心者パーティーを追放される  作者: 水源


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第7話 フェンリルに懐かれてもおっさんは間違いなく魔術師である

 ――翌日。


 神界。


 白き神と黒き神は。


 今日も地上を見下ろしていた。


『……』


『……』


 しばしの沈黙。


 やがて。


 黒き神が口を開いた。


『行くぞ』


『はい』


『暗殺は駄目だった』


『はい』


『ならば――今度こそ速度だ』


『速度……ですか?』


『そうだ』


 黒き神が。


 神殿の奥へ手を向ける。


 その瞬間。


 巨大な召喚陣が。


 眩い光を放った。


『今回の刺客は――』


 ――ゴォン!


 魔法陣の中央。


 巨大な影が姿を現す。


 黒銀の毛並み。


 剣のように鋭い牙。


 大人など一飲みにできそうな巨体。


 そして。


 四本の脚からは。


 青白い魔力の風が漏れ出していた。


『フェンリル』


『……』


 白き神が。


 思わず息を呑む。


『あのフェンリルを?』


『そうだ』


 黒き神は。


 自信満々に頷いた。


『そして――』


 もう一つ。


 召喚陣が光る。


 現れたのは。


 一匹のゴブリンだった。


 細身の身体。


 軽装の鎧。


 両手には短槍。


 顔には風除けのゴーグル。


 ゴブリンは。


 一切迷うことなく。


 フェンリルの背へ飛び乗った。


『フェンリルライダーゴブリン』


『こいつは違う』


『何がです?』


『速さだ』


 黒き神は。


 地上を見下ろす。


『ドレヴァンツがどれほど強くとも』


 一拍。


『追いつけなければ、攻撃はできない』


『……なるほど』


『フェンリルの速度を完全に引き出し』


『その速度のまま戦う』


『そして』


 黒き神が。


 力強く言った。


『必要なら、そのまま逃げる』


『……』


『今回は勝てる』


 白き神は。


 少しだけ不安そうに言った。


『本当に大丈夫でしょうか』


『今度こそ大丈夫だ』


 黒き神は即答した。


 ――神々は。


 まだ学習していなかった。


 ・・・


 その頃。


 山の中。


「…………」


 ドレヴァンツは。


 一人。


 木の前に立っていた。


 動かない。


 微動だにしない。


 風が吹く。


 葉が揺れる。


 鳥が枝に止まる。


 それでも。


 ドレヴァンツは動かなかった。


「…………」


 十分。


 二十分。


 一時間。


 三時間。


 ついには。


 完全に木と化していた。


「……ふむ」


 突然。


 ドレヴァンツが口を開く。


「かなり難しいですね」


 木の陰から。


 ナイトメアアサシンゴブリンが顔を出した。


「……」


「どうでしょう?」


「……」


「もう動いていませんか?」


「……いや」


 ナイトメアアサシンは。


 疲れたように答えた。


「かなり木らしくなっている」


「そうですか」


「だが」


 じっと。


 ドレヴァンツを見る。


「本当に一週間やるつもりなのか?」


「はい」


「…………」


 ナイトメアアサシンは。


 もう何も言わなかった。


 その時だった。


 ――ドン。


「……?」


 小さな振動。


 ドレヴァンツが。


 顔を上げる。


「今のは……?」


「……地響きか?」


 ナイトメアアサシンも。


 周囲を見回す。


 ――ドン。


 また。


 今度は。


 はっきりと分かった。


 足元の小石が跳ねる。


 木々の葉が揺れる。


「……」


 ドレヴァンツは。


 音のした方向へ視線を向けた。


 ――ドドン。


 ――ドドドン。


 ――ドドドドドドドドドドッ!


「……来ます」


「何がだ?」


 答えは。


 すぐに現れた。


 森の奥。


 木々が。


 次々と倒れていく。


 一本。


 二本。


 三本。


 まるで。


 何かが森そのものを。


 正面から突き破ってくるように。


「なんだ……?」


 ナイトメアアサシンが。


 思わず後ずさる。


 そして。


 ――ドォォォン!


 最後の大木が。


 根元から吹き飛んだ。


 土煙の向こう。


 巨大な影が現れる。


「――ッ!」


 巨大。


 あまりにも巨大だった。


 狼。


 そう呼ぶには。


 あまりにも圧倒的。


 黒銀の毛並み。


 獣とは思えないほど鋭い眼光。


 牙は。


 剣のように長い。


 四本の脚からは。


 青白い魔力の風が噴き出している。


 地面を踏む。


 それだけで。


 土が爆ぜた。


 木々が揺れた。


 ――フェンリル。


 世界最速と呼ばれる。


 高位魔獣。


 そして。


 その背には。


 一匹のゴブリンがいた。


 軽装の鎧。


 両手には短槍。


 顔には風除けのゴーグル。


 身体を低く伏せ。


 まるでフェンリルの身体の一部になったかのように。


 完全に。


 その動きと一体化している。


「…………」


 ドレヴァンツが。


 珍しく目を見開いた。


「……素晴らしい」


「何がだ?」


 ナイトメアアサシンが聞く。


 ドレヴァンツは。


 フェンリルから目を離さない。


「あの魔獣です」


「は?」


「あれほど美しい走り方をする魔獣は」


 一拍。


「初めて見ました」


「そこか!?」


 次の瞬間。


 フェンリルが。


 地面を蹴った。


 ――ドォンッ!


 消えた。


「――!」


 ナイトメアアサシンが。


 反射的に身を伏せる。


 一瞬遅れて。


 猛烈な突風が。


 二人の横を吹き抜けた。


 木々が大きくしなる。


 砂埃が舞い上がる。


 そして。


 遥か先。


 ――キキィィィッ!


 フェンリルが急停止した。


 大地を抉りながら。


 巨大な身体を翻す。


 その背で。


 ゴブリンが立ち上がった。


「見つけたぞ!」


 声が。


 山中に響き渡る。


「ドレヴァンツ!」


 ドレヴァンツは。


 静かに彼を見る。


「……私ですか?」


「そうだ!」


 ゴブリンが。


 短槍を構える。


「俺は――」


 一拍。


「フェンリルライダーゴブリン!」


 フェンリルが。


 背後で低く唸った。


「グルルルル……!」


 その声だけで。


 周囲の空気が震える。


「お前を倒すために来た!」


「なるほど」


 ドレヴァンツは。


 素直に頷いた。


 そして。


「それより」


「……?」


「そのフェンリル」


 ドレヴァンツが。


 少しだけ嬉しそうに笑う。


「もう一度、走ってもらえませんか?」


「…………」


 フェンリルライダーゴブリンの。


 顔が引きつった。


「そこを気にするのか!?」


「はい」


「俺がお前を倒しに来たんだぞ!?」


「分かっています」


「なら、なぜフェンリルなんだ!」


「だって」


 ドレヴァンツは。


 真剣な顔で言った。


「あれほど速く走れる魔獣は」


 一拍。


「素晴らしいではありませんか」


「…………」


 フェンリルライダーゴブリンは。


 一瞬。


 何も言えなかった。


 そして。


 嫌な予感がした。


 とても。


 嫌な予感が。


 なぜなら。


 これまで神々が送り込んだ刺客は。


 なぜか最後には。


 ドレヴァンツの修行に付き合うことになっていたからだ。


「……フェンリル」


「グルルル……」


「お前」


 ゴブリンは。


 慎重に尋ねる。


「こいつのこと、気に入ってないよな?」


「…………」


 フェンリルは。


 ドレヴァンツを見た。


 ドレヴァンツも。


 期待に満ちた目で。


 フェンリルを見ている。


「…………」


「おい」


「グル」


「おい!」


 フェンリルが。


 ほんの少しだけ。


 尻尾を振った。


「やめろおおおおおおおおお!」


 ――こうして。


 世界最速の魔獣を駆るゴブリンは。


 ドレヴァンツの前に姿を現した。


 ただし。


 ドレヴァンツが最初に興味を持ったのは。


 騎手ではない。


 フェンリルだった。


 そして。


 フェンリルライダーゴブリンは。


 まだ知らなかった。


 この出会いから数時間後。


 自分が。


「待てえええええええ!」


 と叫びながら。


 自分のフェンリルを追いかけることになる未来を。


 ――もちろん。


 そのフェンリルの背には。


 満面の笑みを浮かべたドレヴァンツが乗っている。

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