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さえないおっさん魔術師は役不足と初心者パーティーを追放される  作者: 水源


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第6話 アサシンに襲われるおっさんは間違いなく魔術師である

 ――神界。


 白き神と黒き神は。


 またしても頭を抱えていた。


『……駄目だった』


『はい』


『ゴブリン・アークメイジも駄目』


『はい』


『ゴルゴも駄目』


『はい』


『我々は何人のゴブリンを無駄にしているのだ?』


『数えるのをやめました』


 しばし。


 二柱の神は沈黙した。


 やがて。


 黒き神が口を開く。


『では、発想を変えよう』


『発想を?』


『正面から戦うからいけない』


『……』


『遠距離から攻撃しても、あれは避ける』


『……』


『ならば』


 黒き神が目を細める。


『攻撃されたことすら、気づかせなければいい』


 白き神が。


 ゆっくりと頷いた。


『暗殺……ですね』


『そうだ』


『それなら、さすがに――』


『勝てる』


 二柱の神は。


 今度こそ自信を持っていた。


 召喚されたのは。


 普通の暗殺者ではない。


 闇の中に生き。


 影そのものと一体化し。


 気配、殺気、音、匂い、そのすべてを消す。


 標的が寝ていても。


 起きていても。


 背後に立っていても。


 目の前に立っていても。


 その存在を認識させない。


 そして。


 一度狙った標的は。


 決して逃さない。


 その名は――。


 ナイトメアアサシンゴブリン。


『こいつなら』


『ええ』


『さすがのドレヴァンツも――』


 二柱は頷いた。


 ・・・


 その頃。


 山の中。


「ふっ!」


 ドゴォン!


「ふんっ!」


 ドゴォン!


 今日もドレヴァンツは修行中だった。


 十トンの岩を抱えてスクワットをしている。


「ふっ!」


 ドゴォン!


 そして。


「そろそろ、別の修行も必要ですね」


 岩を置く。


「最近は力ばかり鍛えている気がします」


 彼は考えた。


「敵と戦う際には、気配を察知することも重要です」


 そして。


「今日は気配察知の訓練をしましょう」


 目を閉じる。


「…………」


 風の音。


 鳥の声。


 木々のざわめき。


「…………」


 遠くの川。


 木の葉。


 虫の音。


 ドレヴァンツはじっと耳を澄ませた。


「よし」


 目を開く。


「まずは自分の気配を消すところからですね」


 そこで。


 ドレヴァンツは。


 滝の裏側へ向かった。


 ・・・


 一方。


 その数百メートル先。


 木の影。


 ――何もいない。


 いや。


 いる。


 ナイトメアアサシンゴブリンだ。


 彼は。


 完全に気配を消していた。


 呼吸。


 心拍。


 筋肉の動き。


 衣擦れ。


 すべてを極限まで抑えている。


 視線の先には。


 ドレヴァンツ。


『……見つけた』


 ナイトメアアサシンは微動だにしない。


『これまでの者たちは正面から挑んだ』


『愚かだ』


『俺は違う』


 標的は。


 自分が狙われていることすら知らない。


『静かに近づき』


 影から影へ移動。


『背後に立ち』


 さらに距離を詰める。


『一撃で首を――』


「そこですね」


「――ッ!」


 ナイトメアアサシンの動きが止まった。


 ドレヴァンツが。


 振り返った。


「…………」


 ナイトメアアサシンは。


 何もしていない。


 声も出していない。


 音も立てていない。


 なのに。


 ドレヴァンツは。


「木の陰にいらっしゃいますね」


「……」


 沈黙。


「出てきてください」


 ナイトメアアサシンは。


 ゆっくりと姿を現した。


「なぜ分かった?」


「気配がしましたので」


「…………」


「おそらく暗殺者の方ですよね?」


「……そうだ」


「なるほど」


 ドレヴァンツは頷いた。


「ゴブリンアサシンですね」


「違う」


「はい?」


「俺はナイトメアアサシンだ」


「なるほど」


「闇に潜み、あらゆる生命の気配を消し去り、標的の存在を夢の中からも追跡する最高位の暗殺者だ」


「それは凄いですね」


「……」


「つまり、凄腕のゴブリンアサシンなのですね」


「だから違う!」


 山に。


 ナイトメアアサシンの怒号が響いた。


 ・・・


「まあいい」


 ナイトメアアサシンは冷静さを取り戻した。


「俺の力を知れば、お前も理解する」


 腰から短剣を抜く。


 刃には黒い毒が塗られている。


「この毒は、ほんの一滴で巨大な魔獣すら殺す」


「なるほど」


「そして俺の短剣は、肉体だけではなく魂をも切り裂く」


「なるほど」


「さらに――」


 ナイトメアアサシンの姿が。


 ふっ。


 消えた。


 ドレヴァンツの目の前から完全に姿が消える。


「…………」


「…………」


 ナイトメアアサシンは。


 ドレヴァンツの背後へ回った。


「終わりだ」


 首へ短剣を突き立てる。


 しかし。


 カァンッ!


「……?」


 刃が止まった。


 ドレヴァンツの首に。


 傷一つない。


「な……」


 ナイトメアアサシンの顔が引きつる。


「私の短剣が……」


 ドレヴァンツが振り返る。


「なるほど」


「……」


「隠れて近づく技術は素晴らしいですね」


「…………」


「ただ」


 ドレヴァンツは自分の首を撫でる。


「首を鍛えていて良かったです」


「何?」


 ナイトメアアサシンは。


 嫌な予感がした。


「昔から首を鍛えるために、滝の中へ頭から突っ込んだり」


「……」


「巨大な岩を首で支えたり」


「……」


「時には自分で自分の首を叩いたりしていました」


「…………」


「修行の成果が出ましたね」


「どういう修行だ、それは!」


 ナイトメアアサシンが叫ぶ。


「そもそも暗殺というのは!」


 彼は怒り始めた。


「相手に気づかれずに殺すものだ!」


「はい」


「防御されるものじゃない!」


「そうですね」


「ましてや首を鍛えている奴など――」


「では」


 ドレヴァンツが構える。


「今度はこちらから行きます」


「待て」


「はい?」


「暗殺者相手に正面から構えるな」


「なぜです?」


「暗殺者だからだ!」


「なるほど」


 ドレヴァンツは頷いた。


「では、私も暗殺の修行をしてみましょう」


「……?」


 ドレヴァンツが目を閉じる。


 姿勢を低くする。


 呼吸を止める。


「…………」


 そして。


 次の瞬間。


 ドレヴァンツの姿が消えた。


「……!」


 ナイトメアアサシンの顔色が変わる。


「どこへ――」


 背後。


「ここです」


「なっ!」


 ナイトメアアサシンが振り返る。


 誰もいない。


「……?」


 反対側。


「ここですよ」


「くっ!」


 また振り返る。


 いない。


「どこだ!」


「ここです」


「うわっ!」


 真横。


 ドレヴァンツが立っている。


「なぜだ!」


「気配を消してみました」


「……!」


「以前、山の中で野生動物を観察する修行をしたのですが」


「…………」


「その時に、三日間まったく動かず木になりきったことがあります」


「木……?」


「ええ」


「…………」


「ですので、気配を消す程度なら多少はできます」


 ナイトメアアサシンは。


 生まれて初めて。


 自分の存在意義を疑った。


「俺は……」


 震える声。


「俺はナイトメアアサシンだぞ……」


「凄いですね」


「最高位の暗殺者だ」


「はい」


「なのに……」


「はい?」


「なぜ俺より暗殺が上手いんだ!」


「…………」


 ドレヴァンツは困った顔をした。


「努力したからでしょうか?」


「努力で片付けるな!」


 ・・・


 ナイトメアアサシンは。


 最後の手段に出た。


 闇魔術を発動。


 周囲を完全な暗闇にする。


「これならどうだ!」


 光が消える。


 何も見えない。


「闇の中では俺の姿を認識することはできない!」


「なるほど」


 暗闇の中。


 ドレヴァンツの声だけがする。


「では」


 ナイトメアアサシンは。


 息を殺した。


「……」


「…………」


「………………」


「…………………」


 次の瞬間。


「そこです!」


「なぜだぁぁぁぁぁ!」


 ドレヴァンツのローキックが。


 暗闇の中からナイトメアアサシンの足を捉えた。


「ぐあっ!」


 転倒。


 しかし。


「まだだ!」


 ナイトメアアサシンは起き上がる。


「闇に紛れて逃げる!」


 姿を消す。


 ――シュッ。


 遠ざかる。


 百メートル。


 二百メートル。


 三百メートル。


「逃げ切った……!」


 安心した。


「……」


「…………」


 背後から。


「もう少し速く走ったほうがいいと思いますよ」


「――ッ!」


 ドレヴァンツが立っている。


「なぜ追いついた!」


「走ってきました」


「だから、俺は暗殺者だぞ!」


「はい」


「姿も見えなかったはずだ!」


「音がしましたので」


「…………」


 ナイトメアアサシンは。


 ついに膝をついた。


「……完敗だ」


「そうですか」


「俺はお前を殺せなかった」


「はい」


「ならば……」


 ナイトメアアサシンは呟いた。


「一つだけ聞かせてくれ」


「何でしょう?」


「お前は……」


 ゆっくりと顔を上げる。


「一体、何者なんだ?」


「私ですか?」


 ドレヴァンツは首を傾げた。


「ごく普通の少しだけしか魔術の使えない魔術師ですよ」


「…………」


「多少、修行しているだけです」


「…………そうか」


 ナイトメアアサシンは。


 静かに目を閉じた。


「それが一番恐ろしいんだよ……」


 ・・・


 神界。


『…………』


『…………』


『また駄目だったな』


『はい』


『今度は暗殺だぞ』


『それすら見破られました』


『しかも最後には追いつかれた』


『はい』


『……』


 黒き神が。


 天を仰ぐ。


『もう、あれはどうすればいいんだ?』


 白き神は答えない。


 しばらくして。


『……一つだけ』


『何だ?』


『あの男に「あなたは最強です」と教えるのはどうでしょう』


『……』


『本人が自分を弱いと思って修行し続けるから、ここまで強くなってしまっているのです』


『なるほど』


『ならば自分が最強だと認識させれば――』


 黒き神は。


 ゆっくりと頷く。


『そうか』


『はい』


『それならば、もう修行をする必要はなくなるかもしれない』


 二柱は。


 初めて希望を見つけた。


 しかし。


 その直後。


 地上から声が聞こえてくる。


「さて……」


 ドレヴァンツだった。


「今回は暗殺者相手に苦戦してしまいました」


『…………』


「まだまだ修行が足りませんね」


『…………』


「次は――」


 ドレヴァンツが空を見上げる。


「気配そのものを消す修行をしてみましょう」


『…………』


『…………』


 白き神と黒き神は。


 ゆっくりと顔を見合わせた。


『……やめよう』


『はい』


『あれに何かを教えるのは』


『はい』


『逆効果だ』


『完全に同意します』


 そして。


 ドレヴァンツは今日も山へ帰っていく。


「まずは三日間ではなく、一週間ほど木になりきってみましょう」


 神々は。


 また頭を抱えた。


 ――ナイトメアアサシンゴブリン。


 世界最高峰の暗殺者。


 その称号を持つ者でさえ。


 また一人。


 ドレヴァンツに敗れたのだった。


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