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さえないおっさん魔術師は役不足と初心者パーティーを追放される  作者: 水源


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3/17

第3話 おっさんはどこからどう見ても魔術師である

  ゴブリン。


 それは(以下略)。


  LV999の異世界チーレム主人公ゴブリンを神は召喚したものの、自称足技の魔術師の新しい技によってLV999の異世界チーレム主人公ゴブリンは消滅してしまった。


 人間や亜人を管轄する白き神と、魔獣や妖魔などを管理する黒き神は、お互いに均衡を保つ程度にその勢力を削り合っていたのだが、今回の一件によって黒き神の勢力は更に大きく削がれてしまったのである。


 ”うーむ、まずあれには広いところで戦わせてはならぬな”


 ”確かに、今回は被害が最小限で済みましたけど、下手すれば国というか大陸や、下手すれば惑星や星系ごと消滅してもおかしくないですよ、あれは。それはともかく洞窟の中でならあの技は使えないでしょう”


 ”うむ、であれば広い空間である森では戦わせずに、狭くて天井の低い洞窟に誘い込むとするか”


 ”それが良いと思います”


 ”その上で今度は一人ではなくクラス召喚でいくとしよう”


 ”人数を増やし役割分担を行わせればきっとなんとかなりますね”


 こうして人間の味方であるはずの白き神からも完全に目をつけられてしまったのが、本人だけはその事実を知る由もない、おっさん魔術師ドレヴァンツであった。


 ・・・


 再挑戦したゴブリン退治でまたもや役不足と言われたドレヴァンツは、そんな評価を覆すためなのか、それとも単純に自分の修行が足りないと思い込んでいるだけなのか、またしても人里離れた山の中へ入り込み、誰に見られることもなく黙々と鍛錬を続けていた。


「ふん! ふん!」


 ”どずーん! どずーん!”


 今の彼は、重さ2トンほどもある巨大な岩を頭上へ軽々と抱え上げ、その状態を維持したまま豪快に四股を踏んでは地面を揺らし、更なる下半身の維持強化に励んでいるところである。


「ふー、そろそろホブゴブリンと戦っても役不足と言われない程度にはなりましたかね。よし、溶岩上ダッシュもやっておきましょう」


 本人としてはいたって真面目な修行なのだが、その口から出てくる内容だけを聞けば、もはや普通の人間が理解できる範囲を完全に逸脱していた。


 灼熱の溶岩流と言われるが、その温度は玄武岩質のもので1050~1200℃くらい、安山岩質のもので1000~1100℃くらいの範囲である。


 しかし、その程度であればドレヴァンツにとっては、熱いというよりもちょっとポカポカする程度の温度にしか感じられない。


 そこで彼は何のためらいもなく火口へと近づくと、溶岩で満たされたその中へ勢いよく飛び込み、そのまま溶岩の上を走り出した。


「うむ、足の裏がポカポカしますね。やはり溶岩浴は良いですな」


 恐らく一般的に想像される溶岩浴とは全く異なるものなのだろうが、本人が満足している以上、それを止めるものは誰もいない。


 ドレヴァンツは熱い溶岩の上をしばらく走り回り、額から汗を流しながら十分に身体を温めると、やがて満足したように大きく跳躍して火口の外へ飛び出した。


「ふう、いい汗をかきました。うむ、もうそろそろゴブリン退治に再チャレンジしても良い頃でしょう」


 そう判断したドレヴァンツは、戦闘時以外のエネルギー消費を極力抑えるために活動する筋肉の量を最低限まで落とし、タングステン合金より遥かに軽いカルシウムへと骨格を戻すことで、いつものヒョロっとした魔術師のスタイルへと戻った。


 そして巨大な肉体を維持する必要がなくなったことで、先ほどまでとは打って変わった細身の姿になった彼は、特に急ぐ様子もなく、ゆるゆると山を下りて行くのだった。


 ・・・


 そんな頃、辺境の町にあるサルーンには、今日もまた一枚の依頼の張り紙が張り出されていた。


 ”たくさんのゴブリンが近くの洞窟に棲み付いてしまいました。どうか早く助けてください”


 どうやら辺境の小さな村の近くにある洞窟にゴブリンの群れが棲み付き、そのせいで村人たちは近隣で採取していたものを取りに行けなくなって困っているらしい。


 そして、その張り紙を眺めていたのは二人の若者だった。


 片方は剣を腰に差した戦士風の男で、もう片方は軽装に身を包み、周囲を油断なく見回している斥候風の男である。


「また、ゴブリン退治か」


 戦士が少し面倒そうに張り紙へ目を向けると、隣に立っていた斥候も肩をすくめながら頷いた。


「ああ、そうだな。しかし退治してもまったくもってキリがないよな、あいつらどこから湧いて出てるんだか」


「まあ新人にはちょうどいい依頼ではあるし、いつでもある依頼ってのは助かりもするんだが。これ、受けないか?」


 そう言う戦士に対して、斥候は呆れたように横目で相手を見ながら口を開いた。


「熱くなって賭けポーカーで全財産かけたりするからだ。それで負けてれば世話はない。アホだろライトニング」


「まあ、そういうこともあるさ。閑話休題、はした金と言ってもメシ代くらいにはなるしさ。これ、受けないか、ムンライト」


 ライトニングが苦笑しながらそう返すと、ムンライトはため息をつきつつも張り紙へ視線を戻した。


 ムンライトの方はそこまでカネに困っているわけではないにせよ、まあ金があるに越したことはない。


「まあ、よかろう。赤字になるようなこともないだろうしな」


 二人がそんな事を話し合っているところへ、背後から妙に場違いなほど明るい声が飛んできた。


「ゴブリン退治ならぜひ私も加えてください!」


 二人が声の主を振り返ると、そこには白いローブに身を包み、ヒョロっとした体躯をした、見るからにうだつの上がらなそうな30代から40代くらいに見えるおっさんが立っていた。


「んー、まあゴブリン退治だし、おっさんも一緒に来るかい?」


 ライトニングは相手の姿を頭の先から足元まで眺めながら、少し迷うような表情でそう問いかける。


「はい! ぜひとも!」


 その返事を聞いたおっさんは、まるで大仕事でも任されたかのように嬉しそうに顔をほころばせた。


 まあ、魔術師は珍しいし、ゴブリンの数も多いらしいし、いないよりはマシだろうと二人組は考え、そのまま彼をパーティに加えることにした。


「ああ、じゃあ魔術師のおっさん、これからよろしくな」


「ええ、よろしくお願いします」


 ゴブリン討伐に向かうことになった三人は、金もないので馬車などを使うこともなく、てくてくと街道を歩いて村へと向かうことになった。


「ところでおっさんはどんな魔術を使えるんだ?」


 しばらく歩いたところでライトニングが何気なく尋ねると、ドレヴァンツはにこやかな笑みを浮かべながら、まるで自分の得意分野を聞かれた学生のような様子で答えた。


「ははは、火炎弾とその変形の魔法しかまともに撃ち出すことができません。けど、きっと役に立ってみせます。あ、私はドレヴァンツと申します」


 その言葉を聞いたライトニングは、期待していたよりも使える魔術の種類が少なかったらしく、ちょっとがっかりした表情を浮かべる。


「あ、そうなんだ、もうちょっといろいろ魔術が使えるのかと思ったんだけどな」


 それでもドレヴァンツは気にした様子もなく、むしろ自分の未熟さが恥ずかしいとでも言うように頭をかきながら苦笑した。


「いやいや、なかなか覚えが悪いものでして、誠にお恥ずかしい」


 そんな感じで3人は道中も軽く雑談を続けながら歩き、やがて目的地である村へとたどり着いた。


 村へ入ると、三人組はまずは基本とばかりに村長の家へ赴き、そこで現在の被害状況や洞窟周辺のおおよその地形、さらにゴブリンたちの数や行動について話を聞くことにした。


「で、具体的にどんな被害が出てるんだろうか?」


 ライトニングが村長へ向かってそう尋ねると、村長は少し困ったように眉を下げ、両手を軽く広げながら事情を説明した。


「ああ、いや、村自体にはまだ被害は出ておりません。ただ、ゴブリンが棲み付いた洞窟付近の薬草やきのこなどが取れなくなってしまいまして、困っておりましてな」


 それを聞いたドレヴァンツは事情を理解したように深く頷き、村長へ確認するように言葉を返した。


「なるほど、それらが取れないと生活に支障をきたす人もいるということですか」


「はい、それに今はまだ村に被害が出ていなくても、いつ襲われるかわかりません。ですので、どうかゴブリン退治をよろしくお願いします」


 村長がそう言って頭を下げると、ライトニングは任せておけと言わんばかりに胸を張り、ムンライトも小さく頷いて応じた。


「ああ、わかった」


「了解だ」


「わかりました、頑張ってゴブリンを退治してみせますよ」


 そしてゴブリンを実際に見たという村人から詳しい話を聞いてみると、その数は間違いなく五匹以上は居て、洞窟の中にはその5倍くらい、つまり少なくとも三十匹近くはいるだろうとのことだった。


「となると30匹ぐらいはいるってことか」


「結構な数ではあるが、ゴブリンだったら問題はないだろ」


「まあな」


 二人がそう話すのを聞いていたドレヴァンツは、数を甘く見てはいけないというように真剣な表情で二人を見つめながら口を開いた。


「いえいえ、数が揃えばゴブリンは侮れませんよ」


 しかしライトニングは、そんなドレヴァンツの忠告などどこ吹く風とばかりに手をひらひらと振りながら笑う。


「大丈夫だって、ゴブリンが相手なら二対一でも後れを取るようなことはないさ」


 その自信満々な言葉にムンライトも特に反論することはなく、三人はそのまま村でしばし休憩を取って疲れを癒やしたあと、改めて装備を整えて洞窟へと向かった。


 洞窟へ近づくにつれて周囲の木々は次第に密度を増し、道も細くなっていく。


 斥候のムンライトが先頭を進み、そのすぐ後ろを戦士のライトニングが続き、ドレヴァンツはさらに一番後ろを歩いていた。


 そんな隊列のまま洞窟の入り口へたどり着き、いよいよ中へ入ろうとした、その瞬間だった。


 ”ゴガッ”


 洞窟の上から、まるで最初から狙っていたかのように巨大な岩石が落ちてきた!


 突然の落石に気づいたドレヴァンツは、慌てて身をかわすどころか、頭上から落ちてくる岩石を見上げながら、いつものようにブツブツと小さく何かをつぶやく。


「活動筋力50%開放……反射神経増幅……骨組織置換」


 次の瞬間、ドレヴァンツの肉体が大きく変化し、落下してきた2トンほどの重さの岩石に足を伸ばすと、まるでサッカーボールでも扱うような軽さで足の裏へ受け止めた。


 ”トッ、ゴガンッ”


 そのまま落下の勢いを利用するどころか、完全に逆らうようにして受け止めた岩石を、ドレヴァンツは軽々と頭上へ蹴り返した。


 ”ズドォン”


 そして次の瞬間、洞窟の上方から岩石が叩きつけられるような重々しい轟音とともに、いくつもの断末魔が響き渡る。


 ”ぐあわーーーー”


 ”ぎゃーーーーー”


 岩石が落下した音に続いて聞こえていた悲鳴もやがて途絶え、あたりには不気味なほど静かな空気が戻ってきた。


 それから少し遅れて、崖の下からミンチになった緑色の肉片がぽつぽつとこちらへ落ちてきたのを見て、ライトニングとムンライトはそろって顔を引きつらせる。


「なるほど、洞窟に入ろうとしたところを落石で仕留めるトラップですか。なかなか頭の回るゴブリンのようですね」


 そんなことを平然と分析しているドレヴァンツの肉体は、当然のようにごっつくぶっとく大きく変貌しており、先ほどまでのヒョロっとした魔術師とはまるで別人のような姿になっていた。


 その姿を見たライトニングとムンライトは、しばし言葉も出ないまま目を見開いてドレヴァンツを見つめたあと、ようやく震える声で問いかけた。


「お、おっさん、それは一体?」


「はい、肉体強化系魔術は得意でして、あの程度の重さの岩でしたら蹴り返すのはたやすいことです」


「いや、どうみても普通は無理だろ」


「そうですか? 努力し続ければできるようになりますよ?」


 まるで毎日筋トレでもすれば誰でも可能だと言わんばかりにあっさりと言い放つドレヴァンツに対し、ライトニングとムンライトは思わず顔を見合わせた。


「いやいやいや」


「いやいやいや」


 二人が揃って否定する一方で、ドレヴァンツだけは本気で不思議そうな顔をして首を傾げている。


「まあそうは言っても、とりあえずゴブリンを倒すのが先でしょうし、。今度こそ、役不足と言われないようにがんばりますよ」


 二人はそんなドレヴァンツの言葉を聞いたあと、互いに目を合わせ、それから同時に意味がわからないといった顔で首を傾げた。


「?」


「?」


 しかし考えても仕方がないので、とりあえず一行はそのまま洞窟の中へと入っていった。


 しばらく薄暗い洞窟を進んでいくと、やがて通路が少し開けた場所へと出たところで、先頭のムンライトが足元へ視線を落とし、そこで妙なものに気づいてうめき声を漏らした。


「何だこりゃ、床に油がぶちまけられてるぞ」


「油が? ふむ、足を滑らせると大変そうではありますね。ではまず足技の魔術師である私が先に行きましょう」


「あ、ああ、きをつけてな」


 ムンライトとライトニングが若干不安そうに見守るなか、ドレヴァンツは油で足を滑らせないようにと、ソロリソロリと慎重に先へ足を進めていく。


 するとそのとき、一段高くなった場所から複数のゴブリンが一斉に姿を現し、それぞれが手にしていた松明をドレヴァンツのいる場所へ向かって勢いよく投げつけた!


 ”いまだ!”


 ”そおい!”


 ”燃えろ!”


「松明? 油? まさか! おっさんやばいぞ!」


 ライトニングが危険を察して叫んだものの、時すでに遅く、投げ落とされた松明の炎は床一面にまかれていた油へ次々に引火し、あっという間に大きな炎となってドレヴァンツを包み込んでしまった!


 ”やったか?!”(死亡フラグ)


 ”ああ、これなら流石にひとたまりもあるまい”(死亡フラグ)


 ”これで生きていたら驚きだ”(死亡フラグ)


 だが、そんなゴブリンたちの予想を裏切るように、炎の中にいたドレヴァンツは倒れることも苦しむこともなく、むしろ何か面白いことを思いついたかのように身体をくるりと回転させ始めた。


 そして炎に包まれたまま彼は回転を続けながら、楽しそうな声で呪文を唱える。


「炎よ……もっともっと、熱く高く燃え上がれよなれよおおおおおおおおおおおお!スピニングファイヤーーーーーーーーーーーーー!」


 超高速で回転しながら炎の竜巻となったドレヴァンツの身体から、周囲の炎がさらに勢いを増して吹き上がり、そのまま上にいた松明を投擲したゴブリンたちまで巻き込んで焼き尽くしていく。


 ”があああああああああああ”


 ”うぎゃーーーーーーーーー”


 ”ぐわあああああああーーー”


 やがてゴブリンたちの悲鳴が途絶えると、ドレヴァンツは何事もなかったかのように立ち止まり、カラカラと笑いながら自分の身体についた火の粉を払った。


「うむ、危ないところでした、私が炎の魔術の使い手でなければ死んでいるところです」


 そんなドレヴァンツに対し、ライトニングとムンライトはもはやどこから突っ込めばいいのかわからないといった疲れ切った表情を浮かべながら言った。


「うん、いや、そういう問題じゃないだろ」


「普通は死んでるぜ、本当に」


 それでも一行は歩みを止めず、更に洞窟の奥へと進んでいった。


 すると今度はドレヴァンツの足元に仕掛けられていた落とし穴が突然開き、彼はそのまま穴の中へ落下してしまった。


 しかしその底には鋭い槍が何本も仕掛けられていたにもかかわらず、ドレヴァンツは慌てる様子もなく、その槍の穂先へつま先をひょいと乗せると、まるでそこが平らな床であるかのように一瞬だけ身体を支え、そのまま跳躍して落とし穴から脱出してきた。


「いやあ、針の先に飛び乗って、その後も長時間立ち続けたり飛び移ったりする修行をしなかったら死んでましたね」


 自分が死にかけたという話をしているにもかかわらず、ドレヴァンツは相変わらずカラカラと笑っている。


 その姿を見た二人は、もう驚く気力すら失ったように肩を落とし、それぞれ思ったことを口にした。


「ああ、そうかもな……」


「どんな修行だよ」


 そうして更に洞窟の奥へ進んでいくと、今度は少し開けた場所へ出たところで、その周囲から10匹ほどのゴブリンが一斉に姿を現した。


 彼らはナイフを抜きながら取り囲むように散開し、明らかにこちらを逃がすつもりのない殺気を向けて襲いかかってくる。


 ”くそう、こんな化物だって話は聞いてないぞ!”(死亡フラグ)


 ”ここで食い止めるんだ!”(死亡フラグ)


 ”数で押せばきっとなんとかなる!”(死亡フラグ)


 ”ああ、俺達は神より力を与えられてるんだからな”(死亡フラグ)


 ”いくぞ、俺達の力を信じて!”(死亡フラグ)


 そんな気合いと根性で一斉に飛びかかったエリートゴブリンファイターたちだったが、残念ながら相手が悪すぎた。


 ドレヴァンツの足技の前には、サブキャラに与えられる神の加護くらいでは対抗できず、飛び込んできたゴブリンたちは蹴りが入るたびに身体ごと吹き飛ばされ、骨を砕かれ、内臓をぶちまけ、次々と洞窟の床へ転がった末に、そのまま消滅していった。


 そして、そんな数々の罠とゴブリンたちを突破した先、洞窟の最深部には、これまでとは明らかに雰囲気の違う存在が待ち構えていた。


「まさか、ここまでたどり着くとはね。やはりお前は危険なようだ」


「さて、ゴブリンのほうが危険なはずですが?」


「僕はクラス委員長(リーダー)。神により最強のスキルを与えられたこのクラスの委員長(リーダー)だ」


「なるほど、ゴブリンリーダーとはかなりの強敵ですね」


「世界の歪であるお前にはここで死んでもらう!」


 異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長は、そう叫ぶと同時にナイフを抜き、神より授かった力を発揮するかのように一気にドレヴァンツへ襲いかかった。


「たしかに速い……ですが捉えられないほどではない!」


 その動きを見切ったドレヴァンツは迎撃するように足を振り抜き、異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長のナイフよりも先にローキックを叩き込んだ。


「ぐわあ!」


 その一撃をまともに受けた異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長は、膝から力が抜けたようにガクリとその場へ膝をつく。


「ぐうう」


「では新しい技を試しますよ! 秘奥義! 閃光(シャイニング)魔術(ウイザード)!」


 ドレヴァンツは倒れかけた異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長の身体を踏み台にするように片脚を置き、その大腿骨を容赦なく踏み折る勢いで身体を跳ね上げると、そのまま一気に顎めがけて膝蹴りを繰り出した!


「ごぶべあっ!」


 膝に続いて顎まで蹴り砕かれた異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長は、その場で顔を歪めながら激しく悶絶する。


「まさか? あれは?」


「知っているのかライトニング」


 あまりにも異常な技を目の前で見たライトニングが思わず声を上げると、隣にいたムンライトも驚いたように彼の顔へ視線を向ける。


「うむ、聞いたことがある。はるか昔、東方の国から写(シャ)・異人(イニン)と言う魔術師が生み出した肉体言語と言われる魔術の奥義の一つ。しかしながらそれを受けて生きて帰ったものはいないと言われている幻の技だという」


「なんと、ではあのおっさんはその技の伝承者だったということか?」


「うむ、そうなのだろう」


 二人がまるで伝説でも語るかのような調子でそんな漫才を繰り広げているところへ、異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長へ向かって、今度はそのクラスメイトであるゴブリンたちから必死の声援が飛んだ。


「立って!」


「負けないで!」


「そうよ! わたしたちに残された希望はあなただけなの!」


 その声援が響き渡った瞬間、異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長の傷がまるで時間を巻き戻すかのように癒やされ、その体は先ほどよりも一回り大きく膨れ上がった。


 異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長は死にかけたところで声援を受けるとレベルが上って受けたダメージもすべて治る。そして彼は、どんな大きなダメージを受けても一撃では死なないという、どう考えても主人公向けとしか思えないような能力まで与えられているのだ。


「そ、そうだ、僕は与えられた使命を果たすまで……倒れる訳にはいかないんだ!」


 ゆらりと立ち上がった異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長は、再びナイフを構えると、先ほどよりも速くドレヴァンツへ向かって襲いかかった!


「先程よりは速いようですが……」


 再び蹴りで迎撃しようとしたドレヴァンツは、迫ってくる相手の足を正確に捉えたと思ったのだが、その瞬間に妙な違和感を覚えた。


「残像だ」


 ドレヴァンツの蹴りは見事に空を切り、その直後、背後へ回り込んだ異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長のナイフが、ドレヴァンツの背中を捉えたのだった。


「ぐっ? 残像? そんなはずは」


 予想外の一撃を受けて振り返るドレヴァンツに対して、異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長は勝ち誇ったように、しかもなぜか親切丁寧に自分の能力について説明し始めた。


「ふん、移動に緩急を入れ、なおかつ緩から急に移行する際に垢を剥がしてその場に残すこの残像はけっして見きれない!」


「くっ、さすがゴブリンリーダー、そのような能力を持っているとは」


 しかし、その説明を聞いたドレヴァンツの言葉に、すかさずライトニングが横からツッコミを入れた。


「いや、どう考えてもゴブリンリーダーが持ってる能力じゃないだろ、それ」


「ここまでだ、神より預かった力、それを使い世界の歪み! ここでお前を消滅させる!」


 異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長が多数の残像を残しながら一気に距離を詰め、今度こそドレヴァンツの急所へナイフを突き立てようとする。


 そんな相手を見据えたドレヴァンツは、これまでの人間の姿ではどうにもならないと判断したのか、静かに身体へ力を込めながら、妙に物騒な独白を始めた。


「人のままではゴブリンに勝てない。ならば私は人を捨てる! 我が気血よ、全身を巡って紅蓮となせ! 我が真眼よ開け! そして、角よ生えよ!」


 次の瞬間、ドレヴァンツの全身は見る見るうちに真っ赤へと染まり、額にはこれまで存在していなかった新たな目が開き、その頭からは一本の角がぬっと生えてきた。


 その姿はもはや普通の人間というより、赤く染まった鬼そのものだった。


「赤くて角つきの鬼の姿になることで私は通常の3倍の出力を得る!」


 異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長が突き立てようとしたナイフを、ドレヴァンツは身体をひねるだけでするりとかわし、そのまま大きく息を吸い込むと、口から凄まじい業火を洞窟の奥へ向かって一気に吐き出した!


「ぎゃーーーーーーーーーーーー!」


「ひぎぃーーーーーーーーーーー!」


「いやーーーーーーーーーーーー!」


 避ける間もなく業火に巻き込まれたクラスメイトゴブリンたちは、一人、また一人と炎に飲み込まれて消し炭となり、あっという間にその姿を消していった。


「く、まさかクラスメイトを全滅させるとは! だが、刺し違えてでもお前を倒す!」(死亡フラグ)


 それでも異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長は諦めることなく、再び多量の残像を残しながらドレヴァンツへと猛然と迫っていく。


「すでにその技は見切りました!」


 今度はドレヴァンツも相手の動きを完全に見切っており、接近してきた異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長の膝へローキックを叩き込むと、その勢いだけで相手の身体が大きく揺らぎ、またしてもガクリと膝をついた。


「ぐああ」


「では、新しい技を試しますよ! 秘奥義! 爆熱(バーニング)魔術(ウイザード)!」


 ドレヴァンツは膝をついた異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長の太ももへ足を乗せると、その肉体を踏み台にするだけでなく、そこへ込めた異常な力で太ももそのものを消し炭にしながら一気に身体を跳ね上げ、そのまま顎めがけて激烈な膝蹴りを繰り出した!


「ごぶべあっ!」


 直撃を受けた頭部からは大やけどを負い、異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長は何とか立ち上がろうとしながらも、その場で苦しそうにのたうち回る。


「トドメです!」


 それを見たドレヴァンツは、逃げることも起き上がることもできない相手に対して一切の容赦を見せず、そのまま何度も何度もストンピングを加えていく。


 何度目かも分からない踏みつけを受けたところで、異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長の身体はとうとう耐え切れなくなり、その姿は完全な消し炭となって崩れ落ちた。


 消し炭になって動かなくなった異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長をしばらく見下ろしたあと、ドレヴァンツは変身を解除して元の人間の姿へ戻り、額に浮かんだ汗を手の甲で拭いながら、まるで軽い運動でも終えたかのような爽やかな表情で言った。


「いやあ、ゴブリンリーダーは流石に強かったですね。こんなに苦戦するとは思いませんでした」


 その言葉を聞いたライトニングは、もう何を言っても無駄なのではないかという諦めにも似た表情を浮かべながら、それでも一応ツッコミだけは入れておくことにした。


「おいおい、どう考えてもおっさんにはゴブリン退治は役不足だろ」


 その言葉を聞いたドレヴァンツは、まるでまた自分の力不足を指摘されたかのように肩を落とし、しゅんとうなだれてしまった。


「そ、そうですか……やはりゴブリンに苦戦するようでは駄目ですよね。真に残念ですが、もう少し修行を積んでやり直します」


 そう言ってドレヴァンツは本気で落ち込んだ様子のまま二人へ一礼すると、パーティから外れ、そのまま一人で洞窟の外へ向かって立ち去っていったのだった。


 その背中を見送るライトニングとムンライトは、しばらく無言のまま顔を見合わせる。


 しかし、いくら考えても先ほどまで目の前で繰り広げられていた出来事の意味を理解することはできず、結局二人とも深々とため息をつくのだった。


 ・・・・


 そして、その一部始終を見ていた神々は、ついに匙を投げた。


「よく考えたら、よそからあれを倒せる存在を呼ぼうとするよりも、この世界から追放したほうが早いような気がするんだが、どうだろうか?」


 そう提案する黒き神に、白き神もさすがに反論する気力を失ったようにしばし沈黙したあと、静かに頷く。


「たしかにそう思いますね。戦いのない平和な世界とかに送ったほうがいいような気がします」


 こうしてドレヴァンツは、この世界から追放されてしまうのか!?

LV999の異世界チーレム主人公ゴブリンを神は召喚したものの自称足技の魔術師の新しい技によってLV999の異世界チーレム主人公ゴブリンは消滅してしまった。


 人間や亜人を管轄する白き神と魔獣や妖魔などを管理する黒き神はお互いに均衡を保つ程度にその勢力を削り合っていたのだが、黒き神の勢力は更に大きくそがれてしまった。


 ”うーむ、まずあれには広いところで戦わせてはならぬな”


 ”確かに、今回は被害が最小限ですみましたけど、下手すれば国というか大陸や下手すれば惑星や星系ごと消滅してもおかしくないですよ、あれは。

 それはともかく洞窟の中でならあの技は使えないでしょう”


 ”うむ、であれば広い空間である森では戦わせずに、狭くて天井の低い洞窟に誘い込むとするか”


 ”それが良いと思います”


 ”その上で今度は一人ではなくクラス召喚でいくとしよう”


 ”人数を増やし役割分担を行わせればばきっとなんとかなりますね”


 人間の味方のはずの白き神にも完全に目をつけられたおっさん魔術師であった。


 ・・・


 再挑戦したゴブリン退治でまたもや役不足と言われたドレヴァンツはまたしても山の中で孤独に鍛錬を行っていた。


「ふん! ふん!」


 ”どずーん! どずーん!”


 今は重さ2トンほどの岩を頭上に抱えあげての豪快に四股踏みを行って更に下半身の維持強化の最中である。


「ふー、そろそろホブゴブリンと戦っても役不足といわれない程度にはなりましたかね。

 よし溶岩上ダッシュもやっておきましょう」


 灼熱の溶岩流と言われるが、その温度は玄武岩質のもので1050~1200℃くらい、安山岩質のもので1000~1100℃くらいの範囲である。


 その程度であればドレヴァンツにとってはちょっとポカポカする程度の温度である。


 火口から溶岩の満たされた火口に飛び込むと溶岩上をドレヴァンツは走り出す。


「うむ、足の裏がポカポカしますね。やはり溶岩浴は良いですな」


 恐らく一般的な溶岩浴とは全く違うがドレヴァンツは溶岩の上をしばらく走り回ると汗だくになりやがて跳躍して火口から飛び出した。


「ふう、いい汗をかきました。

 うむ、もうそろそろゴブリン退治に再チャレンジしても良い頃でしょう」


 彼はエネルギー消費を極力減らすために活動する筋肉の量を最低限まで落とし、タングステン合金より遥かに軽いカルシウムに骨格を戻すことでヒョロっとした魔術師のスタイルへ戻って山をゆるゆると降りて行くのだった


 ・・・


 そして、サルーンに今日も一枚の張り紙が張り出された。


 ”たくさんのゴブリンが近くの洞窟に棲み付いてしまいました。

 どうか早く助けてください”


 辺境の小さな村の近くにある洞窟にゴブリンが棲み付いたらしい。


 そして張り紙を見ているのは二人の若者。


 片方は戦士、片方は斥候のようだ。


「また、ゴブリン退治か」


「ああ、そうだな。

 しかし退治してもまったくもってキリがないよな、あいつらどこから湧いてでてるんだか」


「まあ新人にはちょうどいい依頼ではあるし、いつでもある依頼ってのは助かりもするんだが。

 これ受けないか?」


 そういう戦士に斥候が呆れたようにいう。


「熱くなって賭けポーカーで全財産かけたりするからだ。

 それで負けてれば世話はない。

 アホだろライトニング」


「まあ、そういうこともあるさ。

 閑話休題はした金と言ってもメシ代くらいにはなるしさ、これ受けないか。

 ムンライト」


 ムンライトの方はそこまでカネに困ってるわけではないにせよ、まあ金があるに越したことはない。


「まあ、よかろう、赤字になるようなこともないだろうしな」


 二人がそんな事を話していると声をかけてきたものがいた。


「ゴブリン退治ならぜひ私も加えてください!」


 二人が声の主を見れば白いローブにヒョロっとした体躯のうだつの上がらなそうな30代から40代位に見えるおっさんだった。


「んー、まあゴブリン退治だし、おっさんも一緒に来るかい?」


「はい! ぜひとも!」


 まあ、魔術師は珍しいし、ゴブリンも数も多いらしいしと、いないよりはマシと二人組はパーティに彼を加えた。


「ああ、じゃあ魔術師のおっさんこれからよろしくな」


「ええ、よろしくおねがいします」


 ゴブリン討伐に向かうことになった三人は金もないので、てくてく街道を歩いて村へと向かう。


「ところでおっさんはどんな魔術を使えるんだ?」


 その質問に対してドレヴァンツはにこやかに答えた。


「ははは、火炎弾とその変形の魔法しかまともに撃ち出すことができません。

 けど、きっと役に立ってみせます。

 あ、私はドレヴァンツと申します」


 その言葉にちょっとがっかりした表情のライトニング。


「あ、そうなんだ、もうちょっといろいろ魔術が使えるのかと思ったんだけどな」


 ドレヴァンツは恥ずかしそうに頭をかきながら言う。


「いやいや、なかなか覚えが悪いものでして誠にお恥ずかしい」


 そんな感じで3人は軽く雑談しながらあるき続け、やがて村についた3人組はまずは基本とばかり村長の家におもむいて、現状の被害やおおよその周囲の地形などの情報を聞こうとした。


「で具体的にどんな被害が出てるんだろうか?」


 ライトニングがそう言うと村長は答えた。


「ああ、いや、村自体にはまだ被害は出ておりません。

 ただゴブリンが棲み付いた洞窟付近の薬草やきのこなどが取れなくなってしまいまして困っておりましてな」


 それについてはドレヴァンツが深くうなずいていった。


「なるほど、それらが取れないと生活に支障をきたす人もいるということですか」


「はい、それに今はまだ村に被害が出ていなくても、いつ襲われるかわかりません。

 ですのでどうかゴブリン退治をよろしくおねがいします」


「ああ、わかった」


「了解だ」


「わかりました、頑張ってゴブリンを退治してみせますよ」


 そして、ゴブリンをみたという村人によるとその数は間違いなく五匹以上は居て、洞窟の中にはその5倍位はいるだろうとのことだった。


「となると30匹ぐらいはいるってことか」


「結構な数ではあるがゴブリンだったら問題はないだろ」


「まあな」


 二人がそう言うとドレヴァンツは真剣な表情で言った。


「いえいえ、数が揃えばゴブリンは侮れませんよ」


 しかしライトニングはどこ吹く風とばかりに答える。


「大丈夫だって、ゴブリンが相手なら二対一でも後れを取るようなことはないさ」


 そんな感じで一行は疲れた足を休めるために村でしばし休憩を取ると、洞窟へと向かった。


 斥候のムンライトが先頭を進み、戦士ライトニングがそのあとに続く。


 ドレヴァンツは一番後ろだ。


 そして一行が洞窟にたどり着きそれに入ろうとしたとき……。


 ”ゴガッ”


 洞窟の上から巨大な岩石が落ちてきた!


 そして頭上から落ちてくる岩石を見たドレヴァンツがブツブツと小さく何かをつぶやいた。


「活動筋力50%開放……反射神経増幅……骨組織置換」


 ”トッ、ゴガンッ”


 そしてドレヴァンツは落ちてきた2トンほどの重さの石を足でトラップして受け止めると、上に蹴り返した。


 ”ズドォン”


 ”ぐあわーーーー”

 ”ぎゃーーーーー”


 などという重たいものが落下する音とともに断末魔の声が響いた後、あたりは静かになった。


 そしてミンチになった緑色の肉片が崖の下に落ちてきている。


「なるほど、洞窟に入ろうとしたところを落石で仕留めるトラップですか。

 なかなか頭の回るゴブリンのようですね」


 当然ドレヴァンツの肉体はごっつくぶっとく大きく変貌しており、それを見たライトニングとムンライトは驚く。


「お、おっさんそれは一体?」


「はい、肉体強化系魔術は得意でして。

 あの程度の重さの岩でしたら蹴り返すのはたやすいことです」


「いやどうみても普通は無理だろ」


「そうですか? 努力し続ければできるようになりますよ?」


 あっさりとそういうドレヴァンツに対して否定しかできない二人。


「いやいやいや」「いやいやいや」


「まあそうは言ってもとりあえずゴブリンを倒すのが先でしょう。

 今度こそ、役不足と言われないようにがんばりますよ」


 二人はドレヴァンツの言葉に目を合わせた後で意味がわからないと首を傾げた。


「?」「?」


 そして洞窟に入って暫く先の広くなっている場所にたどり着きムンライトがうめき声を上げた。


「何だこりゃ、床に油がぶちまけられてるぞ」


「油が? ふむ足を滑らせると大変そうではありますね。

 ではまず足技の魔術師である私が先に行きましょう」


「あ、ああ、きをつけてな」


 ドレヴァンツが足を滑らせないようにとソロリソロリと先へ足を進めると突如、松明を持ったゴブリンが一段高くなった場所に複数現れ、その松明をドレヴァンツの方へ投げつけた!


 ”いまだ!”

 ”そおい!”

 ”燃えろ!”


「松明? 油? まさか! おっさんやばいぞ!」


 ライトニングが叫ぶが時すでに遅く、上から投げ落とされた松明から床の油に引火した炎が大きく燃え上がりドレヴァンツが炎に包まれてしまった!


 ”やったか?!”(死亡フラグ)

 ”ああ、これなら流石にひとたまりもあるまい”(死亡フラグ)

 ”これで生きていたら驚きだ”(死亡フラグ)


 しかし、ドレヴァンツは死んでいなかった。


 彼は回転しながら呪文を唱える。


「炎よ……もっともっと、熱く高く燃え上がれよなれよおおおおおおおおおおおお!スピニングファイヤーーーーーーーーーーーーー!」


 超高速で回転しながら炎の竜巻となった炎は上にいた松明を投擲したゴブリンたちを焼き尽くしたのだ。


 ”があああああああああああ”

 ”うぎゃーーーーーーーーー”

 ”ぐわあああああああーーー”


「うむ、危ないところでした。

 私が炎の魔術の使い手でなければ死んでいるところです」


 カラカラと笑いながら言うドレヴァンツにツッコミを入れる二人。


「うん、いやそういう問題じゃないだろ」


「普通は死んでるぜ、本当に」


 更に進むとドレヴァンツは落とし穴に落ちたが、そこに仕掛けられていた槍の穂先につま先でひょいと乗って跳躍して脱出してきた。


「いやあ、針の先に飛び乗ってその後も長時間立ち続けたり飛び移ったりする修行をしなかったら死んでましたね」


 カラカラと笑いながら言うドレヴァンツに疲れたようにツッコミを入れる二人。


「ああ、そうかもな……」


「どんな修行だよ」


 そして更に進むと少し開けた場所で10匹ほどのゴブリンがナイフを抜いて襲いかかってきた。


 ”くそうこんな化物だって話は聞いてないぞ!”(死亡フラグ)

 ”ここで食い止めるんだ!”(死亡フラグ)

 ”数で押せばきっとなんとかなる!”(死亡フラグ)

 ”ああ、俺達は神より力を与えられてるんだからな”(死亡フラグ)

 ”いくぞ、俺達の力を信じて!”(死亡フラグ)


 しかしドレヴァンツの足技の前にはサブキャラに与えられる神の加護くらいでは対抗できず、エリートゴブリンファイターたちは全身の骨を砕かれたり内臓をぶちまけたりしながら消滅した。


 そして洞窟の最深部にそれはいた。


「まさか、ここまでたどり着くとはね。

 やはりお前は危険なようだ」


「さて、ゴブリンのほうが危険なはずですが?」


「僕はクラス委員長(リーダー)。

 神により最強のスキルを与えられたこのクラスの委員長(リーダー)だ」


「なるほど、ゴブリンリーダーとはかなりの強敵ですね」


「世界の歪であるお前にはここで死んでもらう!」


 異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長がナイフを抜いてドレヴァンツに襲いかかった。


「たしかに速い……ですが捉えられないほどではない!」


「ぐわあ!」


 異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長のナイフよりもドレヴァンツのローキックが先にヒットして、異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長がガクリと膝をつく。


「ぐうう」


「では新しい技を試しますよ!

 秘奥義! 閃光(シャイニング)魔術(ウイザード)!」


 ドレヴァンツは片脚を踏み台にして大腿骨を踏み折りながら、すぐさま異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長の顎めがけて膝蹴りを繰り出す!


「ごぶべあっ!」


 膝に続いて顎を蹴り砕かれて悶絶する異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長。


「まさか? あれは?」


「知っているのかライトニング」


「うむ、聞いたことがある。

 はるか昔、東方の国から写(シャ)・異人(イニン)と言う魔術師が生み出した肉体言語と言われる魔術の奥義の一つ。

 しかしながらそれを受けて生きて帰ったものはいないと言われている幻の技だという」


「なんと、ではあのおっさんはその技の伝承者だったということか?」


「うむ、そうなのだろう」


 そんな漫才を二人がしているところへ、異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長にクラスメイトゴブリンの声援が飛んだ。


「立って!」

「負けないで!」

「そうよ! わたしたちに残された希望はあなただけなの!」


 その声援により異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長の傷が癒やされその体が一回り大きくなった。


 異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長は死にかけたところで声援を受けるとレベルが上って受けたダメージもすべて治る、そして彼はどんな大きなダメージを受けても一撃では死なないのだ。


「そ、そうだ、僕は与えられた使命を果たすまで……倒れる訳にはいかないんだ!」


 ゆらりと立ち上がる異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長は再びドレヴァンツにナイフで襲いかかる!


「先程よりは速いようですが……」


 再び蹴りで迎撃しようとした異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長の足を捉えたと思った時それはおこった。


「残像だ」


 ドレヴァンツの蹴りは空を切り、背後に回った異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長のナイフはドレヴァンツの背中を捉えたのだ。


「ぐっ? 残像? そんなはずは」


 異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長が丁寧な説明する。


「ふん、移動に緩急を入れ、なおかつ緩から急に移行する際に垢を剥がしてその場に残すこの残像はけっして見きれない!」


「くっ、さすがゴブリンリーダー、そのような能力を持っているとは」


 ドレヴァンツのセリフにライトニングがツッコミを入れた。


「いや、どう考えてもゴブリンリーダーが持ってる能力じゃないだろそれ」


「ここまでだ、神より預かった力、それを使い世界の歪み!

 ここでお前を消滅させる!」


 異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長が多数の分身を残しながらドレヴァンツの背中を捉えようとした!


「人のままではゴブリンに勝てない。

 ならば私は人を捨てる!

 我が気血よ、全身を巡って紅蓮となせ!

 我が真眼よ開け! そして、角よ生えよ!」


 ドレヴァンツの全身が真っ赤に染まり、額に新たな目が開き、その頭には一本の角が生えた。


「赤くて角つきの鬼の姿になることで私は通常の3倍の出力を得る!」


 異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長が突き立てようとしたナイフをするりとかわし、ドレヴァンツは大きく息を吸い込む口から業火を洞窟の奥へと吐き出した!


「ぎゃーーーーーーーーーーーー!」

「ひぎぃーーーーーーーーーーー!」

「いやーーーーーーーーーーーー!」


 その業火に巻き込まれてクラスメイトゴブリンが消し炭になる。


「く、まさかクラスメイトを全滅させるとは!

 だが、刺し違えてでもお前を倒す!」(死亡フラグ)


 異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長が再び多量の残像を残してドレヴァンツへ迫る。


「すでにその技は見切りました!」


 接近した異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長の膝にドレヴァンツがローキックを叩き込むと異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長がガクリと膝をつく。


「ぐああ」


「では、新しい技を試しますよ!

 秘奥義! 爆熱(バーニング)魔術(ウイザード)!」


 ドレヴァンツは異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長の太ももを踏み台にして消し炭として消滅させながら顎めがけて膝蹴りを繰り出す!


「ごぶべあっ!」


 頭部に大やけどをおってのたうち回る異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長。


「トドメです!」


 ドレヴァンツはのたうち回る異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長に対して容赦なくストンピングを加えていく。


 そして異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長の体はやがて消し炭となって消えていった。


 消し炭になって動かなくなった異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長を見下ろしながら人の姿に戻ったドレヴァンツは額の汗を拭いながら爽やかに言う。


「いやあ、ゴブリンリーダーは流石に強かったですね。

 こんなに苦戦するとは思いませんでした」


 そういうドレヴァンツにライトニングは呆れたように言った。


「おいおい、どう考えてもおっさんにはゴブリン退治は役不足だろ」


 そう言われてしゅんとうなだれるドレヴァンツ。


「そ、そうですか……やはりゴブリンに苦戦するようでは駄目ですよね。

 真に残念ですがもう少し修行を積んでやり直します」


 ドレヴァンツはそういってうなだれながらパーティから外れ立ち去っていったのだった。


 ・・・・


 そして神々は匙を投げる。


「よく考えたらよそからあれを倒せる存在を呼ぼうとするよりも、この世界から追放したほうが早いような気がするんだがどうだろうか?」


「たしかにそう思いますね。

 戦いのない平和な世界とかに送ったほうがいいような気がします」


 ドレヴァンツはこの世界から追放されてしまうのか!?

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