第3話 おっさんはどこからどう見ても魔術師である
ゴブリン。
それは(以下略)。
LV999の異世界チーレム主人公ゴブリンを神は召喚したものの自称足技の魔術師の新しい技によってLV999の異世界チーレム主人公ゴブリンは消滅してしまった。
人間や亜人を管轄する白き神と魔獣や妖魔などを管理する黒き神はお互いに均衡を保つ程度にその勢力を削り合っていたのだが、黒き神の勢力は更に大きくそがれてしまった。
”うーむ、まずあれには広いところで戦わせてはならぬな”
”確かに、今回は被害が最小限ですみましたけど、下手すれば国というか大陸や下手すれば惑星や星系ごと消滅してもおかしくないですよ、あれは。
それはともかく洞窟の中でならあの技は使えないでしょう”
”うむ、であれば広い空間である森では戦わせずに、狭くて天井の低い洞窟に誘い込むとするか”
”それが良いと思います”
”その上で今度は一人ではなくクラス召喚でいくとしよう”
”人数を増やし役割分担を行わせればばきっとなんとかなりますね”
人間の味方のはずの白き神にも完全に目をつけられたおっさん魔術師であった。
・・・
再挑戦したゴブリン退治でまたもや役不足と言われたドレヴァンツはまたしても山の中で孤独に鍛錬を行っていた。
「ふん! ふん!」
”どずーん! どずーん!”
今は重さ2トンほどの岩を頭上に抱えあげての豪快に四股踏みを行って更に下半身の維持強化の最中である。
「ふー、そろそろホブゴブリンと戦っても役不足といわれない程度にはなりましたかね。
よし溶岩上ダッシュもやっておきましょう」
灼熱の溶岩流と言われるが、その温度は玄武岩質のもので1050~1200℃くらい、安山岩質のもので1000~1100℃くらいの範囲である。
その程度であればドレヴァンツにとってはちょっとポカポカする程度の温度である。
火口から溶岩の満たされた火口に飛び込むと溶岩上をドレヴァンツは走り出す。
「うむ、足の裏がポカポカしますね。やはり溶岩浴は良いですな」
恐らく一般的な溶岩浴とは全く違うがドレヴァンツは溶岩の上をしばらく走り回ると汗だくになりやがて跳躍して火口から飛び出した。
「ふう、いい汗をかきました。
うむ、もうそろそろゴブリン退治に再チャレンジしても良い頃でしょう」
彼はエネルギー消費を極力減らすために活動する筋肉の量を最低限まで落とし、タングステン合金より遥かに軽いカルシウムに骨格を戻すことでヒョロっとした魔術師のスタイルへ戻って山をゆるゆると降りて行くのだった
・・・
そして、サルーンに今日も一枚の張り紙が張り出された。
”たくさんのゴブリンが近くの洞窟に棲み付いてしまいました。
どうか早く助けてください”
辺境の小さな村の近くにある洞窟にゴブリンが棲み付いたらしい。
そして張り紙を見ているのは二人の若者。
片方は戦士、片方は斥候のようだ。
「また、ゴブリン退治か」
「ああ、そうだな。
しかし退治してもまったくもってキリがないよな、あいつらどこから湧いてでてるんだか」
「まあ新人にはちょうどいい依頼ではあるし、いつでもある依頼ってのは助かりもするんだが。
これ受けないか?」
そういう戦士に斥候が呆れたようにいう。
「熱くなって賭けポーカーで全財産かけたりするからだ。
それで負けてれば世話はない。
アホだろライトニング」
「まあ、そういうこともあるさ。
閑話休題はした金と言ってもメシ代くらいにはなるしさ、これ受けないか。
ムンライト」
ムンライトの方はそこまでカネに困ってるわけではないにせよ、まあ金があるに越したことはない。
「まあ、よかろう、赤字になるようなこともないだろうしな」
二人がそんな事を話していると声をかけてきたものがいた。
「ゴブリン退治ならぜひ私も加えてください!」
二人が声の主を見れば白いローブにヒョロっとした体躯のうだつの上がらなそうな30代から40代位に見えるおっさんだった。
「んー、まあゴブリン退治だし、おっさんも一緒に来るかい?」
「はい! ぜひとも!」
まあ、魔術師は珍しいし、ゴブリンも数も多いらしいしと、いないよりはマシと二人組はパーティに彼を加えた。
「ああ、じゃあ魔術師のおっさんこれからよろしくな」
「ええ、よろしくおねがいします」
ゴブリン討伐に向かうことになった三人は金もないので、てくてく街道を歩いて村へと向かう。
「ところでおっさんはどんな魔術を使えるんだ?」
その質問に対してドレヴァンツはにこやかに答えた。
「ははは、火炎弾とその変形の魔法しかまともに撃ち出すことができません。
けど、きっと役に立ってみせます。
あ、私はドレヴァンツと申します」
その言葉にちょっとがっかりした表情のライトニング。
「あ、そうなんだ、もうちょっといろいろ魔術が使えるのかと思ったんだけどな」
ドレヴァンツは恥ずかしそうに頭をかきながら言う。
「いやいや、なかなか覚えが悪いものでして誠にお恥ずかしい」
そんな感じで3人は軽く雑談しながらあるき続け、やがて村についた3人組はまずは基本とばかり村長の家におもむいて、現状の被害やおおよその周囲の地形などの情報を聞こうとした。
「で具体的にどんな被害が出てるんだろうか?」
ライトニングがそう言うと村長は答えた。
「ああ、いや、村自体にはまだ被害は出ておりません。
ただゴブリンが棲み付いた洞窟付近の薬草やきのこなどが取れなくなってしまいまして困っておりましてな」
それについてはドレヴァンツが深くうなずいていった。
「なるほど、それらが取れないと生活に支障をきたす人もいるということですか」
「はい、それに今はまだ村に被害が出ていなくても、いつ襲われるかわかりません。
ですのでどうかゴブリン退治をよろしくおねがいします」
「ああ、わかった」
「了解だ」
「わかりました、頑張ってゴブリンを退治してみせますよ」
そして、ゴブリンをみたという村人によるとその数は間違いなく五匹以上は居て、洞窟の中にはその5倍位はいるだろうとのことだった。
「となると30匹ぐらいはいるってことか」
「結構な数ではあるがゴブリンだったら問題はないだろ」
「まあな」
二人がそう言うとドレヴァンツは真剣な表情で言った。
「いえいえ、数が揃えばゴブリンは侮れませんよ」
しかしライトニングはどこ吹く風とばかりに答える。
「大丈夫だって、ゴブリンが相手なら二対一でも後れを取るようなことはないさ」
そんな感じで一行は疲れた足を休めるために村でしばし休憩を取ると、洞窟へと向かった。
斥候のムンライトが先頭を進み、戦士ライトニングがそのあとに続く。
ドレヴァンツは一番後ろだ。
そして一行が洞窟にたどり着きそれに入ろうとしたとき……。
”ゴガッ”
洞窟の上から巨大な岩石が落ちてきた!
そして頭上から落ちてくる岩石を見たドレヴァンツがブツブツと小さく何かをつぶやいた。
「活動筋力50%開放……反射神経増幅……骨組織置換」
”トッ、ゴガンッ”
そしてドレヴァンツは落ちてきた2トンほどの重さの石を足でトラップして受け止めると、上に蹴り返した。
”ズドォン”
”ぐあわーーーー”
”ぎゃーーーーー”
などという重たいものが落下する音とともに断末魔の声が響いた後、あたりは静かになった。
そしてミンチになった緑色の肉片が崖の下に落ちてきている。
「なるほど、洞窟に入ろうとしたところを落石で仕留めるトラップですか。
なかなか頭の回るゴブリンのようですね」
当然ドレヴァンツの肉体はごっつくぶっとく大きく変貌しており、それを見たライトニングとムンライトは驚く。
「お、おっさんそれは一体?」
「はい、肉体強化系魔術は得意でして。
あの程度の重さの岩でしたら蹴り返すのはたやすいことです」
「いやどうみても普通は無理だろ」
「そうですか? 努力し続ければできるようになりますよ?」
あっさりとそういうドレヴァンツに対して否定しかできない二人。
「いやいやいや」「いやいやいや」
「まあそうは言ってもとりあえずゴブリンを倒すのが先でしょう。
今度こそ、役不足と言われないようにがんばりますよ」
二人はドレヴァンツの言葉に目を合わせた後で意味がわからないと首を傾げた。
「?」「?」
そして洞窟に入って暫く先の広くなっている場所にたどり着きムンライトがうめき声を上げた。
「何だこりゃ、床に油がぶちまけられてるぞ」
「油が? ふむ足を滑らせると大変そうではありますね。
ではまず足技の魔術師である私が先に行きましょう」
「あ、ああ、きをつけてな」
ドレヴァンツが足を滑らせないようにとソロリソロリと先へ足を進めると突如、松明を持ったゴブリンが一段高くなった場所に複数現れ、その松明をドレヴァンツの方へ投げつけた!
”いまだ!”
”そおい!”
”燃えろ!”
「松明? 油? まさか! おっさんやばいぞ!」
ライトニングが叫ぶが時すでに遅く、上から投げ落とされた松明から床の油に引火した炎が大きく燃え上がりドレヴァンツが炎に包まれてしまった!
”やったか?!”(死亡フラグ)
”ああ、これなら流石にひとたまりもあるまい”(死亡フラグ)
”これで生きていたら驚きだ”(死亡フラグ)
しかし、ドレヴァンツは死んでいなかった。
彼は回転しながら呪文を唱える。
「炎よ……もっともっと、熱く高く燃え上がれよなれよおおおおおおおおおおおお!スピニングファイヤーーーーーーーーーーーーー!」
超高速で回転しながら炎の竜巻となった炎は上にいた松明を投擲したゴブリンたちを焼き尽くしたのだ。
”があああああああああああ”
”うぎゃーーーーーーーーー”
”ぐわあああああああーーー”
「うむ、危ないところでした。
私が炎の魔術の使い手でなければ死んでいるところです」
カラカラと笑いながら言うドレヴァンツにツッコミを入れる二人。
「うん、いやそういう問題じゃないだろ」
「普通は死んでるぜ、本当に」
更に進むとドレヴァンツは落とし穴に落ちたが、そこに仕掛けられていた槍の穂先につま先でひょいと乗って跳躍して脱出してきた。
「いやあ、針の先に飛び乗ってその後も長時間立ち続けたり飛び移ったりする修行をしなかったら死んでましたね」
カラカラと笑いながら言うドレヴァンツに疲れたようにツッコミを入れる二人。
「ああ、そうかもな……」
「どんな修行だよ」
そして更に進むと少し開けた場所で10匹ほどのゴブリンがナイフを抜いて襲いかかってきた。
”くそうこんな化物だって話は聞いてないぞ!”(死亡フラグ)
”ここで食い止めるんだ!”(死亡フラグ)
”数で押せばきっとなんとかなる!”(死亡フラグ)
”ああ、俺達は神より力を与えられてるんだからな”(死亡フラグ)
”いくぞ、俺達の力を信じて!”(死亡フラグ)
しかしドレヴァンツの足技の前にはサブキャラに与えられる神の加護くらいでは対抗できず、エリートゴブリンファイターたちは全身の骨を砕かれたり内臓をぶちまけたりしながら消滅した。
そして洞窟の最深部にそれはいた。
「まさか、ここまでたどり着くとはね。
やはりお前は危険なようだ」
「さて、ゴブリンのほうが危険なはずですが?」
「僕はクラス委員長。
神により最強のスキルを与えられたこのクラスの委員長だ」
「なるほど、ゴブリンリーダーとはかなりの強敵ですね」
「世界の歪であるお前にはここで死んでもらう!」
異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長がナイフを抜いてドレヴァンツに襲いかかった。
「たしかに速い……ですが捉えられないほどではない!」
「ぐわあ!」
異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長のナイフよりもドレヴァンツのローキックが先にヒットして、異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長がガクリと膝をつく。
「ぐうう」
「では新しい技を試しますよ!
秘奥義! 閃光魔術!」
ドレヴァンツは片脚を踏み台にして大腿骨を踏み折りながら、すぐさま異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長の顎めがけて膝蹴りを繰り出す!
「ごぶべあっ!」
膝に続いて顎を蹴り砕かれて悶絶する異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長。
「まさか? あれは?」
「知っているのかライトニング」
「うむ、聞いたことがある。
はるか昔、東方の国から写・異人と言う魔術師が生み出した肉体言語と言われる魔術の奥義の一つ。
しかしながらそれを受けて生きて帰ったものはいないと言われている幻の技だという」
「なんと、ではあのおっさんはその技の伝承者だったということか?」
「うむ、そうなのだろう」
そんな漫才を二人がしているところへ、異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長にクラスメイトゴブリンの声援が飛んだ。
「立って!」
「負けないで!」
「そうよ! わたしたちに残された希望はあなただけなの!」
その声援により異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長の傷が癒やされその体が一回り大きくなった。
異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長は死にかけたところで声援を受けるとレベルが上って受けたダメージもすべて治る、そして彼はどんな大きなダメージを受けても一撃では死なないのだ。
「そ、そうだ、僕は与えられた使命を果たすまで……倒れる訳にはいかないんだ!」
ゆらりと立ち上がる異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長は再びドレヴァンツにナイフで襲いかかる!
「先程よりは速いようですが……」
再び蹴りで迎撃しようとした異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長の足を捉えたと思った時それはおこった。
「残像だ」
ドレヴァンツの蹴りは空を切り、背後に回った異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長のナイフはドレヴァンツの背中を捉えたのだ。
「ぐっ? 残像? そんなはずは」
異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長が丁寧な説明する。
「ふん、移動に緩急を入れ、なおかつ緩から急に移行する際に垢を剥がしてその場に残すこの残像はけっして見きれない!」
「くっ、さすがゴブリンリーダー、そのような能力を持っているとは」
ドレヴァンツのセリフにライトニングがツッコミを入れた。
「いや、どう考えてもゴブリンリーダーが持ってる能力じゃないだろそれ」
「ここまでだ、神より預かった力、それを使い世界の歪み!
ここでお前を消滅させる!」
異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長が多数の分身を残しながらドレヴァンツの背中を捉えようとした!
「人のままではゴブリンに勝てない。
ならば私は人を捨てる!
我が気血よ、全身を巡って紅蓮となせ!
我が真眼よ開け! そして、角よ生えよ!」
ドレヴァンツの全身が真っ赤に染まり、額に新たな目が開き、その頭には一本の角が生えた。
「赤くて角つきの鬼の姿になることで私は通常の3倍の出力を得る!」
異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長が突き立てようとしたナイフをするりとかわし、ドレヴァンツは大きく息を吸い込む口から業火を洞窟の奥へと吐き出した!
「ぎゃーーーーーーーーーーーー!」
「ひぎぃーーーーーーーーーーー!」
「いやーーーーーーーーーーーー!」
その業火に巻き込まれてクラスメイトゴブリンが消し炭になる。
「く、まさかクラスメイトを全滅させるとは!
だが、刺し違えてでもお前を倒す!」(死亡フラグ)
異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長が再び多量の残像を残してドレヴァンツへ迫る。
「すでにその技は見切りました!」
接近した異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長の膝にドレヴァンツがローキックを叩き込むと異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長がガクリと膝をつく。
「ぐああ」
「では、新しい技を試しますよ!
秘奥義! 爆熱魔術!」
ドレヴァンツは異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長の太ももを踏み台にして消し炭として消滅させながら顎めがけて膝蹴りを繰り出す!
「ごぶべあっ!」
頭部に大やけどをおってのたうち回る異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長。
「トドメです!」
ドレヴァンツはのたうち回る異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長に対して容赦なくストンピングを加えていく。
そして異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長の体はやがて消し炭となって消えていった。
消し炭になって動かなくなった異世界クラス転移ゴブリンクラス委員長を見下ろしながら人の姿に戻ったドレヴァンツは額の汗を拭いながら爽やかに言う。
「いやあ、ゴブリンリーダーは流石に強かったですね。
こんなに苦戦するとは思いませんでした」
そういうドレヴァンツにライトニングは呆れたように言った。
「おいおい、どう考えてもおっさんにはゴブリン退治は役不足だろ」
そう言われてしゅんとうなだれるドレヴァンツ。
「そ、そうですか……やはりゴブリンに苦戦するようでは駄目ですよね。
真に残念ですがもう少し修行を積んでやり直します」
ドレヴァンツはそういってうなだれながらパーティから外れ立ち去っていったのだった。
・・・・
そして神々は匙を投げる。
「よく考えたらよそからあれを倒せる存在を呼ぼうとするよりも、この世界から追放したほうが早いような気がするんだがどうだろうか?」
「たしかにそう思いますね。
戦いのない平和な世界とかに送ったほうがいいような気がします」
ドレヴァンツはこの世界から追放されてしまうのか!?