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さえないおっさん魔術師は役不足と初心者パーティーを追放される  作者: 水源


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12/17

オーガに襲われるおっさんは間違いなく魔術師である

 ――神界。


『……今回は、本当に危なかった』


 白き神が、地上を映す水晶を見つめながら呟いた。


『もう少しで勝てた』


 黒き神も、珍しく苦々しい顔をしている。


 五人のゴブリン。


 それぞれの能力は、単独なら決して強力とは言えなかった。


 だが。


 五人が互いの能力を理解し、一つの能力のように組み合わせたことで、ドレヴァンツを追い詰めた。


『それでも、あいつは最後に気づいた』


『能力そのものではなく、能力同士の関係に……ですね』


『ああ』


 黒き神は腕を組んだ。


『一度見ただけで、そこまで理解するとはな』


『……厄介ですね』


『厄介どころじゃない』


 黒き神は、地上のドレヴァンツを睨んだ。


『もう、ゴブリンでは駄目だ』


『では、次は?』


『オーガだ』


『オーガ……』


『ああ。それも普通のオーガではない』


 黒き神が水晶に手をかざす。


『アルティメットオーガだ』


 水晶の中に、巨大な魔物が映し出された。


『今度こそ、苦戦してもらう。そして――』


 黒き神はそこで言葉を切った。


『……あいつの勘違いを何とかする』


『ゴブリン退治には役不足、というやつですね』


『そうだ。そもそも、あんな紛らわしい言い方をしなければよかったものを』


『今更それを言っても……』


『分かっている』


 黒き神はため息をついた。


『だからこそ、今回は明確に強い奴を出す』


 ――こうして。


 新たな刺客が、地上へ送られた。


     ◆


 その頃。


 ドレヴァンツは山の中にいた。


「……よし」


 目の前に転がっているのは、巨大な岩。


 重さは百トン。


「次は二百トンだな」


 ドレヴァンツは岩を持ち上げようとした。


 その瞬間だった。


 ――ドォン!


 地面が揺れた。


「ん?」


 振り返る。


 そこに立っていたのは、三メートルを超える巨体だった。


 筋肉の塊。


 岩のような皮膚。


 その手だけでも、人間の胴体ほどある。


「ドレヴァンツだな」


『俺はアルティメットオーガ』


 巨大な拳を握りしめる。


『オーガ族最強の戦士だ』


「そうか」


『驚かないのか?』


「強そうだな」


『……その程度か』


 アルティメットオーガが踏み込んだ。


 ――ドゴォン!


 拳がドレヴァンツの腹に叩き込まれる。


 大地が震えた。


 土煙が舞う。


『どうだ!』


 だが。


 煙の向こうから、ドレヴァンツが歩いてくる。


「……なるほど」


『なに?』


「今までのゴブリンより、ずっと強い」


『ゴブリン……?』


 アルティメットオーガの顔が引きつった。


『俺を、ゴブリンと比べているのか?』


「いや。比べたわけじゃない」


『今、比べただろ!』


 オーガが吠えた。


『ならば、見せてやる!』


 全身の筋肉が膨れ上がる。


『アルティメット・オーガ・フォーム!』


 ――ズンッ!


 凄まじい圧力が周囲に広がった。


 木々が揺れる。


 地面が沈む。


『これが俺の全力だ!』


 ドレヴァンツは構えた。


 そして。


 ――殴り合いが始まった。


     ◆


 拳がぶつかる。


 蹴りが飛ぶ。


 岩が砕ける。


 山肌が削れる。


『どうだ!』


「強いな!」


『まだまだ!』


 アルティメットオーガは攻撃を続けた。


 一撃。


 二撃。


 三撃。


 それでもドレヴァンツは倒れない。


 むしろ。


 少しずつ動きを変えている。


『……こいつ』


 オーガが気づいた。


 最初は真正面から受けていた。


 だが、今は違う。


 拳を受け流し。


 踏み込みをずらし。


 相手の力を利用している。


『戦いながら覚えているのか……』


 オーガの背中に冷たい汗が流れた。


『だったら!』


 オーガは距離を取った。


『俺には再生能力がある!』


 傷ついた腕が、みるみるうちに元へ戻っていく。


『長期戦なら、俺が勝つ!』


「なるほど」


 ドレヴァンツは頷いた。


「それなら、こちらも戦い方を変えないとな」


『何?』


「一撃で終わらせる」


『一撃……?』


 ドレヴァンツが拳を握る。


 だが。


 すぐに首を横に振った。


「いや」


『?』


「拳じゃ駄目だな」


 ドレヴァンツは右足を引いた。


「新しい技を試してみよう」


『ま、待て』


 アルティメットオーガが一歩下がる。


『お前、今まで俺の攻撃を受けながら、何を考えていた?』


「どうすれば、もっと効率よく勝てるかだ」


『……』


 オーガの顔が青ざめる。


『まさか』


 ドレヴァンツが踏み込んだ。


「秘奥義――」


 大地が割れる。


「アルティメット・ドレヴァンツキック!」


『その名前はやめろぉぉぉ!』


 ――ドゴォォォン!!


 巨大な蹴りが炸裂した。


 アルティメットオーガの巨体が宙を舞う。


 山を越え。


 木々をなぎ倒し。


 そのまま遠くの山肌へ激突した。


 ――ズドォォォン!


 山の一部が崩れ落ちた。


     ◆


「……俺は」


 瓦礫の中から、アルティメットオーガが這い出してきた。


「俺はゴブリンより強い……」


 ふらふらと立ち上がる。


「オーガの中でも最強……」


 膝が震える。


「アルティメットだぞ……」


 そして。


「なのになんで俺が蹴り飛ばされるんだ……」


「すまない」


 ドレヴァンツが近づいてきた。


「次は、もう少し上手くできると思う」


「やめてくれ」


「?」


「その向上心を俺に向けないでくれ……」


 アルティメットオーガは頭を抱えた。


     ◆


 ――神界。


 白き神と黒き神は、無言で水晶を見つめていた。


『……どういうことだ?』


『アルティメットオーガでも駄目でしたね』


『違う』


 黒き神が頭を抱える。


『強い敵を出せば、苦戦すると思ったんだ』


『実際、苦戦していましたよ』


『そうだ』


『ですが、その苦戦から新しい戦い方を覚えてしまいました』


『……』


 黒き神は沈黙した。


 白き神が呟く。


『そして、アルティメットオーガも……』


 水晶の中では。


 アルティメットオーガがドレヴァンツと並んで歩いていた。


『その蹴りは、どうやって身につけたんだ?』


「まだ試したばかりだ」


『なるほど……』


 オーガは真剣な顔で頷いている。


『ならば、俺も一緒に修行していいか?』


「もちろんだ」


『よろしく頼む』


「こちらこそ」


 がっちりと握手する二人。


『……また修行仲間になった』


『またですね』


 黒き神が天を仰いだ。


『こうなったら……』


『どうします?』


『次は、絶対に修行仲間にならない奴を出す』


『そんな存在がいるのですか?』


『知らん』


『……』


『今から探す』


 白き神は、もう何も言わなかった。


 ――神々の苦悩とは裏腹に。


 ドレヴァンツの修行仲間は、また一人増えた。


 そして。


 さらに奇妙な戦いは、まだ終わらなかった。

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