↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
さえないおっさん魔術師は役不足と初心者パーティーを追放される  作者: 水源


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/17

第11話 異能使いにおそわれ敗北寸前まで追い詰められるおっさんはまちがいなく魔術師である

 ――さらに数日後。


 神界。


『…………』


『…………』


 白き神と黒き神は、言葉もなく地上を見下ろしていた。


 眼下に広がるのは。


 鬱蒼とした森。


 その奥。


 一人の自称魔術師が、静かに修行を続けている。


『今回は違う』


 黒き神が低く呟いた。


『はい』


『今までのように、五人の能力を、それぞれ単独で使わせるのではない』


『はい』


 白き神も頷く。


『五人で一つの能力として使う』


 黒き神の口元が、わずかに吊り上がった。


『一人ひとりでは勝てなくても』


 拳を握る。


『五人で力を合わせれば、ドレヴァンツを倒せる』


『……期待できますね』


 ――地上。


 森の中には、風の音だけが響いていた。


 木々の葉が擦れ合い。


 時折、遠くで鳥の鳴き声がする。


 その静かな森の中で。


 ドレヴァンツは、一人で鍛錬を続けていた。


「……ふっ」


 息を吐く。


 拳を振る。


 空気が唸った。


 続けて。


 身体を捻る。


 蹴りを放つ。


 ドンッ!


 太い木の幹が大きく揺れ、葉が一斉に舞い落ちた。


「今日は――」


「そこまでだ」


 声がした。


 ドレヴァンツが動きを止める。


 森の向こうから。


 一人。


 また一人。


 さらに一人。


 合計五人のゴブリンが姿を現した。


 全員。


 これまでの刺客とは違う。


 互いに距離を取りながら。


 一切の無駄なく配置についている。


「また来ましたか」


 ドレヴァンツは軽く笑った。


 だが。


 五人の様子を見て。


 その笑みが、ほんの少しだけ薄くなる。


「……いつもと違いますね」


「当然だ」


 一人目が笑う。


「今までの俺たちは、一人ずつ戦っていた」


 二人目が前へ出る。


「だから勝てなかった」


 三人目が続く。


「ならば、勝ち方を変える」


 四人目が手を広げる。


「俺たちは今日」


 最後の一人が、静かに言った。


「互いの能力を組み合わせる」


 ドレヴァンツが目を細めた。


「連携ですか」


「そうだ」


「今までの刺客とは違う」


 一人目が腰を落とす。


「逃げ道を消す」


 二人目が手をかざす。


「動きを奪う」


 三人目が続く。


「反撃を遅らせる」


 四人目が構える。


「正面を封じる」


 そして最後の一人。


「最後に」


 ニヤリと笑う。


「俺が仕留める」


 五人が、一斉に身構えた。


 空気が変わった。


 森の静けさが。


 急に重くなったように感じられる。


「戦闘開始!」


 最初に動いたのは、一人目だった。


「《影縫い》!」


 足元に黒い魔法陣が走る。


 ズンッ!


 ドレヴァンツの影が地面へ叩きつけられた。


「――っ!」


 足を動かす。


 動かない。


 もう一度。


 強引に踏み出そうとする。


 しかし。


 まるで大地そのものに身体を繋ぎ止められたかのように。


 影がびくともしない。


「動けない!」


 その瞬間。


「《重力印》!」


 二人目が叫んだ。


 バチッ!


 黒い印がドレヴァンツの胸へ刻まれる。


 直後。


 ズンッッ!!


 身体が一気に沈んだ。


「ぐっ……!」


 地面が鳴る。


 足元の土がめり込む。


 十倍。


 普段の十倍もの重力が。


 全身へ容赦なく圧し掛かった。


 膝が折れる。


「……これは」


 ドレヴァンツの口から。


 初めて苦痛の声が漏れた。


 それでも。


「まだ……」


 立ち上がろうとする。


 だが。


「今だ!」


 三人目が駆け込む。


「《遅延》!」


 手が。


 ドレヴァンツの右肩に触れた。


 瞬間。


 右腕の感覚が消える。


「――!」


 動かない。


「三秒後まで、右腕は動かない!」


「まだだ!」


 四人目が手を突き出した。


「《反射鏡》!」


 ドレヴァンツの目の前。


 空間そのものが歪む。


 次の瞬間。


 巨大な透明の壁が出現した。


 鏡のように光を反射する。


「これで正面からの攻撃は防ぐ!」


「…………」


 ドレヴァンツは周囲を見回した。


 動けない。


 身体は重い。


 右腕は封じられている。


 正面も塞がれた。


 逃げようにも。


 足元には影が縫い付けられている。


 そして。


「最後だ」


 五人目が前へ出る。


 指を立てた。


「《条件成立》」


「…………」


 ドレヴァンツが目を細める。


「条件は」


 五人目が笑う。


「もう、揃っている」


「何が起こるんです?」


「教えない」


 ニッと笑った。


「食らってみろ」


 その瞬間。


 ドレヴァンツの足元。


 地面が膨れ上がった。


「――!」


 轟音。


 ドゴォォン!!


 土と石が一気に吹き飛ぶ。


 爆発の衝撃で。


 ドレヴァンツの身体が宙へ跳ね上がった。


 だが。


 影は。


 地面に縫い付けられている。


「――ぐっ!」


 身体だけが引っ張られ。


 上空へ飛び上がったはずの身体が。


 不自然な勢いで地面へ引き戻される。


 重力が。


 さらに追い打ちをかけた。


「ぐあっ!」


 ドンッ!!


 地面へ叩きつけられる。


 土煙が舞う。


「今だ!」


 五人が同時に動いた。


「《影縫い》!」


「《重力印》!」


「《遅延》!」


「《反射鏡》!」


「《条件成立》!」


 一つ。


 また一つ。


 能力が重なる。


 逃げ道を奪う。


 身体を押さえる。


 反撃を封じる。


 正面を塞ぐ。


 そして。


 条件が成立する。


「いけぇぇぇっ!」


 五人の攻撃が。


 一斉に叩き込まれた。


 ドォォォン!!


 森全体が揺れた。


 地面が大きく陥没する。


 土が噴き上がり。


 折れた枝が宙を舞う。


「まだだ!」


「攻撃を止めるな!」


「畳み掛けろ!」


 土煙の向こうへ。


 さらに攻撃が飛ぶ。


 ドン!


 ドゴン!


 バシュッ!


 ドォォン!!


 衝撃のたびに。


 森の木々が揺れる。


 太い幹がへし折れ。


 枝が落ちる。


 足元の土は掘り返され。


 地面そのものが崩れていく。


「逃がすな!」


「能力を重ねろ!」


「今なら勝てる!」


 五人は止まらない。


 攻撃。


 攻撃。


 さらに攻撃。


 やがて。


 森を埋め尽くしていた土煙が。


 少しずつ晴れていった。


「…………」


 五人が息を止める。


 その中央。


 ドレヴァンツが倒れていた。


 身体は土に埋まり。


 片膝をついたまま。


 動かない。


「……勝った?」


 一人が震える声で呟いた。


「まだだ」


 別の一人が手を上げる。


「油断するな」


 全員が身構える。


 数秒。


 何も起きない。


「…………」


 そして。


 ぴくっ。


 ドレヴァンツの指が。


 わずかに動いた。


「!」


 ゆっくり。


 本当にゆっくりと。


 ドレヴァンツの身体が動いた。


「……っ」


 腕を地面につく。


 身体を起こす。


 だが。


 立てない。


 十倍の重力。


 影縫い。


 遅延。


 反射鏡。


 四つの能力が。


 完全に重なっている。


 ドレヴァンツは。


 荒い呼吸を繰り返した。


「……はぁ……」


 肩が大きく上下する。


 額から血が流れ。


 頬を伝って落ちる。


「これは……」


 一度。


 深く息を吸う。


「……本当に、厄介ですね」


 五人の表情が変わった。


「効いている!」


「今度こそ!」


「勝てる!」


 喜びが。


 声に滲む。


 これまで。


 どんな攻撃を叩き込んでも。


 どんな能力を使っても。


 ドレヴァンツは笑っていた。


 だが。


 今は違う。


 苦しそうに息を吐き。


 地面に手をつき。


 立つことすらできない。


「《条件成立》!」


 五人目が叫ぶ。


「もう一度だ!」


 ドォン!!


 衝撃が走る。


 ドレヴァンツの身体が吹き飛ぶ。


 木々を薙ぎ倒し。


 斜面を転がり。


 山肌へ激突する。


 ドゴォォン!!


 岩肌が砕けた。


「…………」


 静かになった。


 鳥の鳴き声さえ。


 聞こえない。


 五人は。


 息を殺して。


 崩れた山肌を見つめていた。


「…………立てない?」


 一人が呟く。


「本当に?」


 誰も答えない。


 そして。


 土砂が。


 わずかに崩れた。


「……!」


 ドレヴァンツが。


 ゆっくりと顔を上げた。


「……困りました」


 額から流れる血を。


 手の甲で拭う。


「このままだと……」


 一度。


 苦しそうに息を吐いた。


「負けますね」


「!」


 五人の目が見開かれた。


 その言葉。


 それだけで。


 戦場の空気が変わった。


 今まで。


 どれほど追い詰めても。


 どれほど攻撃しても。


 ドレヴァンツは決して。


 自分が負けるとは言わなかった。


「勝てる!」


「俺たちなら勝てる!」


「絶対に逃がすな!」


 五人が再び構える。


 最後の攻撃。


 その準備に入った。


 ドレヴァンツは動けない。


 影は地面に固定。


 重力は十倍。


 右腕は遅延。


 正面は反射鏡。


 そして。


 最後の能力。


 《条件成立》。


 何が条件なのか。


 それだけは。


 まだ分からない。


「終わりだ!」


 五人が一斉に迫った。


 ドレヴァンツが。


 静かに目を閉じる。


 そして。


「……そういうことですか」


「?」


 五人の足が止まる。


 ドレヴァンツの目が開いた。


「皆さんは」


 荒い呼吸を整えながら。


 静かに言う。


「お互いの能力を、邪魔していない」


「…………」


「むしろ」


 口元に。


 薄い笑みが浮かぶ。


「弱点を補っています」


 五人が黙り込む。


「影縫いで、僕の動きを止める」


 ドレヴァンツが足元を見る。


「だから、重力を最大限に使える」


 視線を上げる。


「遅延で反撃を遅らせる」


 反射鏡へ目を向ける。


「だから、その隙に正面を塞ぐことができる」


 そして。


「最後に条件成立」


 五人目を見た。


「一つひとつなら」


 ゆっくりと立ち上がろうとする。


「僕を倒せなかった」


 ギシッ。


 身体を拘束する影が。


 わずかに軋んだ。


「だから」


 ズズズズ……。


 重力の中。


 筋肉が軋む。


 身体が。


 少しずつ起き上がる。


「五つを重ねた」


「…………」


 五人の顔から。


 笑みが消えた。


 そして。


「見事です」


 ドレヴァンツが笑った。


「ならば――」


 ギシィッ!!


 影が。


 大きく軋む。


「僕も」


 ズズズズズ……。


 重力に逆らい。


 身体を起こす。


「五人分を」


 一歩。


「一つにしてみます」


「何!?」


 ドンッ!!


 地面が爆発した。


 土煙が舞う。


 ドレヴァンツが。


 立ち上がった。


 影縫いを。


 力任せに引き剥がす。


 バキッ!


「なっ……!」


 十倍の重力を。


 身体能力だけで押し返す。


「嘘だろ……」


 遅延された右腕は。


 無理に動かさない。


 そのまま。


 解除される瞬間を待つ。


 反射鏡の正面には。


 立たない。


 能力そのものを。


 壊そうとはしない。


 ドレヴァンツは。


 五つの能力を見ながら。


 静かに呟いた。


「……そうか」


 一歩。


 土を踏み締める。


「能力に」


 もう一歩。


「勝つ必要はない」


 五人が後ずさる。


「能力同士の関係を」


 さらに一歩。


「理解すればいい」


「囲め!」


「距離を取れ!」


「止めろ!」


 五人が慌てて動く。


 だが。


 遅い。


「――もう遅いです」


 次の瞬間。


 ドレヴァンツの姿が消えた。


「なっ――」


 五人の中央。


 一瞬で。


 そこへ入り込んでいた。


「速い!」


「囲め!」


「無理だ!」


 ドレヴァンツの拳が。


 振り抜かれる。


「せいっ!」


 ドンッ!!


 凄まじい衝撃。


 五人の身体が。


 同時に宙へ浮いた。


 そのまま。


 四方へ吹き飛ぶ。


 木々へ叩きつけられ。


 地面を転がり。


 砂埃が舞う。


 森が。


 大きく震えた。


「…………」


 静寂。


 誰も。


 すぐには動けなかった。


 やがて。


「……負けた」


 一人が呟いた。


「本当に……負けた」


 二人目が。


 地面に仰向けになったまま笑う。


「俺たち」


 三人目が苦しそうに息を吐く。


「初めて……追い詰めたのに」


「あと少しだった」


 四人目が悔しそうに拳を握る。


 ドレヴァンツは。


 五人を見回した。


 そして。


 静かに頷く。


「はい」


「……認めるのか?」


「もちろんです」


 ドレヴァンツは真剣な顔で言った。


「皆さんの連携がなければ」


 自分の胸へ手を当てる。


「僕は負けていました」


「…………」


 五人が顔を見合わせる。


 その言葉を聞いて。


 悔しさより先に。


 胸の奥から。


 熱いものが込み上げてきた。


「だったら!」


 一人が立ち上がる。


「はい?」


「もう一度、一緒に戦ってくれ!」


「もちろんです」


 即答だった。


「修行仲間になってくれ!」


 ドレヴァンツが笑う。


「喜んで!」


 こうして。


 ドレヴァンツを。


 初めて。


 本当の意味で敗北寸前まで追い詰めた五人の能力使いたちは。


 またしても。


 ドレヴァンツの修行仲間になった。


 ――そして。


 神界。


『…………』


『…………』


 白き神と黒き神は。


 しばらく。


 何も言わなかった。


『今回は』


 ようやく。


 白き神が口を開く。


『本当に危なかったですね』


『はい』


『もう少しで勝てた』


『はい』


『あと一手あれば』


『はい』


 黒き神が。


 拳を握る。


『なのに……』


 視線の先。


 地上では。


 五人とドレヴァンツが。


 すでに一緒に鍛錬を始めている。


『……あいつ』


 黒き神が。


 低い声で呟いた。


『戦いながら』


 拳が震える。


『能力の仕組みそのものを理解し始めたぞ』


『はい』


『次に戦ったら』


 一拍。


『もっと強くなる』


『はい』


 長い沈黙。


『…………』


『…………』


 黒き神は。


 ゆっくりと天を仰いだ。


『……駄目だ』


『はい』


 それだけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。