第27話 隠されていた一行
ランプの下で、公証印のある別紙が開かれていた。
『甲が共同資金を私的に流用した場合、乙は損害補填のため、共同経営で生じた事業資産の一切を即時差し押さえることができる』
ダミアンは横領を知ってから、この特約へ署名させた。婚約を餌に証拠を積ませ、最も価値が高くなった時に店ごと取るための罠だ。
「最初から、この別紙を知っていましたね」
リーゼの膝で、両手が固く組まれた。
「署名した時、見せられました」
「なぜ、別紙はないと言ったのですか」
「これを見たら、受けてもらえないと思ったからです」
二度目の告白だった。横領も、特約も、リーゼは自分に不利な紙だけを抜いて持ってきた。
「依頼を続ける条件を覚えていますか」
「事実を隠したら、辞任する」
「この別紙を隠したのは、あの約束より前です。ですが、今ここでまた嘘をつけば終わりです」
リーゼは別紙から目を逸らさなかった。
「隠しました。母の薬のために横領して、それを知られた後、婚約を破棄されたくなくて署名しました。全部、記録にしてください」
リツは綴りの封を確かめた。自分の手元に来なかった紙を読むことはできない。だが、公証済みの一式を相手に提出させたのは、五日間の保全を打ったからだ。急いだ手続きが、依頼人の嘘と敵の罠を同時に表へ出した。
別紙の一行をもう一度読む。
「店をすべて失う条項ではありません」
「でも、事業資産の一切と」
「その前に、『共同経営で生じた』とあります」
リツは焼き型の製作台帳と、二十年前の祭り記録を別紙の左右へ置いた。
「契約前からある屋号、店舗、製法、焼き型は、共同経営で生じていません。横領分は返す。契約後に買った備品は差押えの対象になる。けれど、書かれていない昔からの財産まで渡したことにはなりません」
翌朝、セドリックは三枚の書類を順に読んだ。初回の申立て、訂正書、公証済みの別紙。
「相手は、リーゼの信用を攻撃します。帳簿を隠し、別紙も隠した人間の証拠など信じられない、と」
「だから、こちらから先に全部認めます」
「保全を求めた経緯も?」
「ダミアンが屋号移転を宣言したこと。対象を五日間に限ったこと。原本提出後、翌朝に範囲を狭めたこと。順番まで記録に残っています」
セドリックは祭り記録へ指を置いた。
「依頼人の信用が崩れても、第三者の台帳の日付までは崩れない」
「そこを突きます」
数日後。王都法院、第三査問会室。
ダミアンはリーゼの筆跡が残る帳簿と、別紙を高く掲げた。
「申立人は横領を隠し、契約の特約まで隠した! 二度も嘘をついた女が集めた紙を、誰が信じるというのです。訴えそのものを退けるべきだ!」
彼の武器は、リーゼが実際についた嘘だった。




