第九話 廃学院の地下には、もう一つの学校が眠っていた
運動場の中央に現れた階段は、地下深くまで続いていた。
石造りの段差には大量の埃が積もっている。
少なくとも、何十年も使われていない。
だが、奥からは確かに何かが動く音が聞こえていた。
先生。
テオが地面へ手をついたまま、地下を見つめる。
大きなものが、こちらへ近づいています。
魔物か。
分かりません。
七人の教え子たちが、すぐに俺の前へ並んだ。
リリアは聖剣を抜き、エリシアは階段の奥へ意識を集中させる。
フィオナが古竜ヴァルガスを呼ぼうとしたが、地下へ入れる大きさではない。
俺は周囲の生徒たちへ告げた。
全員、校舎から離れろ。
先生はどうされるのですか。
ミレイユが尋ねる。
俺は地下を確認する。
でしたら、私も行きます。
危険かもしれない。
私の魔力が必要になるかもしれません。
ミレイユは、自分からそう言えるようになった。
以前なら、魔法を使えば迷惑をかけると考え、後ろへ下がっていただろう。
セシリアとノエルも前へ出る。
テオは地下の地形を感じ取れる。
最初の四人は、それぞれ役に立つ可能性がある。
俺は少し考え、同行を認めた。
七人の教え子全員まで来ようとしたが、それは止めた。
生徒たちを守る者が必要だ。
リリア、セレナ、マリアは地上へ残れ。
残るのは三人だけですか。
三人もいる。
先生に何かあった場合は。
俺が七人全員を連れて地下へ入った方が、地上の方が危険になる。
百人以上の生徒を守れる者がいなくなるからだ。
リリアは納得していない顔をしたが、最後には頷いた。
俺たちは灯りを持ち、階段を下り始めた。
先頭はクロエ。
次にエリシアとフィオナ。
その後ろを俺と四人の生徒が歩く。
階段は長かった。
地上から十階分ほど下りた頃、ようやく広い通路へ出る。
壁には、薄い青色の魔石が埋め込まれていた。
俺たちが近づくと、一つずつ光を放ち始める。
先生。
ルシアが壁へ触れる。
この術式は、少なくとも百年以上前のものです。
今でも動くのか。
魔力を供給する設備が、どこかに残っています。
テオが通路の奥を指した。
動いていたものは、あちらです。
その直後。
暗闇の向こうから、重い足音が響いた。
現れたのは、三メートルほどの石人形だった。
全身を黒い金属で補強され、胸には学院の紋章が刻まれている。
セシリアが木の枝を構える。
戦闘用の魔導人形。
ルシアが杖を向けた。
まだ攻撃するな。
石人形は俺たちの数歩手前で止まった。
頭部にある二つの魔石が光る。
侵入者を確認。
フィオナが剣へ手をかける。
石人形の腕が持ち上がった。
だが、俺たちへ拳を向けることはなかった。
胸の前で両手を重ね、深く頭を下げる。
エルガ総合育成学院へ、ようこそ。
聞いたことのない名前だ。
地上の看板には、エルガ騎士学院と書かれていた。
石人形はゆっくりと立ち上がる。
学院長代理の帰還を確認。
俺のことか。
肯定。
現在、地上施設の損壊率七十三パーセント。
在籍教師数、不足。
在籍生徒数、百十六名。
どうして人数を知っている。
学院敷地内の生命反応を確認しています。
石人形は当然のように答えた。
百年以上前の魔導人形が、地上の状況を正確に把握している。
ルシアは興奮した様子で、石人形の周囲を歩き始めた。
先生。この人形だけでも、王都の魔導塔が何棟も建つほどの価値があります。
売らないぞ。
まだ何も言っていません。
顔を見れば分かる。
石人形は俺たちへ背を向けた。
学院長代理、および新入生を案内します。
新入生。
ミレイユが自分を指す。
私たちのことでしょうか。
才能が完成していない者は、すべて生徒です。
後ろで、七人の英雄たちが一斉に反応した。
エリシアが珍しく動揺する。
私たちも、生徒に含まれていますか。
未完成。
石人形は迷わず答えた。
クロエが静かに姿を消した。
傷ついたらしい。
俺たちは石人形の後ろについて通路を進む。
やがて、巨大な扉が現れた。
石人形が手をかざすと、重い音を立てて左右へ開いていく。
扉の向こうには、広大な空間があった。
いくつもの教室。
錬金工房。
鍛冶場。
魔法訓練室。
地下水を利用した浴場。
何百人も眠れそうな寮。
天井には太陽の光に似た魔法照明まで設置されている。
地上の廃校とは比べものにならない。
ここだけで、小さな町ほどの広さがある。
フィオナが周囲を見回す。
これなら、生徒全員が生活できます。
使えるのか。
石人形の目が点滅した。
現在、施設稼働率十一パーセント。
中央魔力炉の停止により、大部分の設備は利用不能。
やはり、すぐにすべて使えるわけではないらしい。
魔力炉はどこにある。
中央区画。
修理できるか。
必要な魔力を供給すれば、再起動は可能。
石人形はミレイユへ顔を向けた。
高出力魔力保持者を確認。
ミレイユの顔が引きつる。
私ですか。
おそらく、お前だな。
ですが、私が魔力を流せば、地下全体が爆発するかもしれません。
一人では危険だ。
俺は地下施設を見回した。
床の下には、地脈が流れている。
テオなら魔力炉へ続く流れを見つけられる。
ノエルは、古くなった魔力植物や生体素材を活性化できる。
セシリアの感覚なら、設備に残った危険な魔力を見分けられるかもしれない。
四人でやれば、再起動できる可能性がある。
やってみるか。
俺が尋ねると、四人は顔を見合わせた。
最初にミレイユが頷く。
この学院を使えるようにしたいです。
テオも杖を握り直す。
僕も、地下の流れを探します。
セシリアとノエルも同意した。
石人形が、再び歩き出す。
中央魔力炉へ案内します。
俺たちは巨大な地下学院の奥へ向かった。
その途中。
俺は壁に設置された古い名簿へ目を留めた。
生徒の名前が並んでいる。
ほとんどは、百年以上前に卒業または退学した者たちだ。
だが、一番下の一人だけ、表示が違っていた。
在学中。
入学から百二十三年。
居住区画、地下第七封鎖室。
俺は石人形を呼び止めた。
この生徒は、何者だ。
石人形は振り返った。
回答。
学院閉鎖時に、地上へ出ることを拒否した最後の生徒です。
まだ生きているのか。
生命反応を継続して確認しています。
百二十三年間、地下にいる生徒。
石人形は、何でもないことのように続けた。
なお、当該生徒は非常に臆病です。
学院長代理へ警告。
驚かせた場合、この地下施設は高確率で崩壊します。




