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第十話 百二十三年間、地下に隠れていた最後の生徒



驚かせた場合、この地下施設は高確率で崩壊します。


石人形の警告を聞き、全員が動きを止めた。


地下第七封鎖室には、百二十三年間ここで暮らしている生徒がいる。


しかも、非常に臆病。


驚くと地下施設が崩壊する。


どういう生徒なんだ。


回答。


石人形の目が青く光る。


名前、ティナ。


種族、地精族。


入学時の年齢、十四歳。


現在の年齢、百三十七歳。


ミレイユが小声で尋ねる。


百三十七歳でも、生徒なのですか。


地精族は人間より寿命が長い。


外見も、ほとんど成長しない種族だ。


だが、いくら長寿とはいえ、百二十三年間も卒業せず地下に残っているのは普通ではない。


保有する才能は。


俺が尋ねると、石人形はすぐに答えた。


建築。


修復。


地脈操作。


施設管理。


災害発生。


最後の一つだけ、才能ではない気がする。


フィオナが周囲の壁へ目を向ける。


この地下学院を作った方でしょうか。


否定。


地下施設の建築時、当該生徒は未入学。


ただし、入学後に施設の三十八パーセントを修復。


優秀じゃないか。


非常に優秀。


石人形は一度言葉を止めた。


ただし、他者との接触時に極度の緊張状態となり、周辺の地脈を暴走させます。


つまり、人に会うだけで地震を起こすのか。


肯定。


それでは地上へ出られない。


王都の学院なら、危険人物として封印されてもおかしくない能力だ。


この学院では、どう教えていた。


回答不能。


当時の教師記録が失われています。


俺は壁に表示された地図を見る。


地下第七封鎖室は、中央魔力炉の近くにある。


魔力炉を再起動するには、どちらにしても通らなければならない。


俺一人で会ってくる。


そう告げた瞬間、七人の教え子全員が反対した。


危険です。


先生を一人にはできません。


地下を崩された場合、私が剣で支えます。


エリシア。


剣で地下全体は支えられない。


リリアは当然のように俺の隣へ立った。


でしたら、私だけでも同行します。


相手は人に会うことを怖がっている。


七人の英雄を連れていけば、それだけで逃げ出すかもしれない。


特に今の七人は、鎧や武器を身につけたままだ。


魔王軍なら逃げることすら諦める姿である。


ミレイユたちも残れ。


先生。


俺は教師だ。


生徒に会うために、武器は必要ない。


七人は最後まで納得していなかったが、石人形と一緒に待つよう指示した。


俺は一人で、地下第七封鎖室へ向かった。



封鎖室へ続く通路には、何重もの扉があった。


だが鍵はかかっていない。


扉を閉じたのは、外から誰かを封じ込めるためではなく、中にいる生徒を安心させるためだったらしい。


一番奥の扉の前で、俺は足を止めた。


中から、小さな物音が聞こえる。


何か硬いものを削る音。


規則正しく、途切れることなく続いている。


俺は扉を叩かなかった。


大きな音で驚かせる可能性がある。


代わりに、扉の前へ座った。


ティナ。


削る音が止まった。


俺はアレンという。


今日から、この学院を預かることになった。


返事はない。


だが、扉の向こうで何かが動く気配がした。


勝手に中へ入るつもりはない。


話したくなければ、そのままでいい。


床が、わずかに揺れた。


まだ緊張しているらしい。


俺は声を少し落とす。


地上の校舎は、かなり壊れている。


屋根には穴が開き、窓も割れている。


地下施設も、ほとんど動いていない。


再び沈黙。


だが今度は、扉の下から小さな紙が押し出されてきた。


紙には、細かな文字で一言だけ書かれている。


知っています。


地上の様子まで分かるのか。


新しい紙が出てくる。


壁と、床と、地脈を通して。


なるほど。


ティナは地下施設全体の状態を把握している。


石人形より詳しい可能性もある。


直せるか。


長い間、返事はなかった。


やがて三枚目の紙が出てくる。


魔力炉が動けば。


その魔力炉を動かすために、生徒たちを連れてきた。


扉の向こうから、何かが落ちる音がした。


床が大きく揺れる。


俺はすぐに言葉を続けた。


ここへ連れてくるつもりはない。


ティナが会いたくないなら、誰にも会わせない。


揺れが少し収まった。


ただ、力を貸してほしい。


また紙が出てくる。


どうして。


この学院には、行く場所を失った生徒が百十六人いる。


今日来たばかりの者も多い。


俺は扉へ背を預けた。


魔法を使えば爆発する少女。


剣を握れば気絶する少女。


人間より魔物を元気にしてしまう少女。


五年間、片脚を動かせなかった少年。


王都では、全員が落ちこぼれと呼ばれていた。


扉の向こうは静かだった。


だが、ティナが聞いていることは分かる。


この地下学院が使えるようになれば、あの子たちは雨に濡れずに眠れる。


学ぶ場所も作れる。


だから、ティナの力を貸してほしい。


返事を待つ。


一分。


二分。


さらに長い時間が過ぎた。


俺が今日は諦めようと立ち上がりかけたとき、扉の下から一枚の紙が出てきた。


私も。


途中で文字が止まっている。


その下には、何度も書き直した跡があった。


私も、落ちこぼれですか。


俺は少し考えた。


落ちこぼれという言葉は好きではない。


扉の向こうで、息を呑む音がした。


まだ、自分に合った学び方を見つけていない生徒だ。


それなら、百二十三年間卒業できていなくても問題はない。


卒業するまで、俺の生徒でいればいい。


床が揺れた。


先ほどまでとは違う。


地震のような荒い振動ではない。


地面の奥を、温かい魔力が静かに流れていく。


目の前の扉が、わずかに開いた。


隙間から、小さな赤い瞳がこちらを見ている。


薄茶色の髪。


頭には、地精族特有の小さな角が二本。


見た目は十四歳ほどの少女だった。


ティナは扉の陰に身体の大部分を隠したまま、小さな板を差し出した。


板には、震える文字が刻まれている。


先生。


呼んでいいですか。


もちろんだ。


俺が答えると、ティナの目から大粒の涙がこぼれた。


地下全体が激しく揺れ始める。


泣いても地震が起きるのか。


俺は倒れないよう壁へ手をついた。


ティナ。


落ち着け。


ご、ごめんなさい。


初めて声を聞いた。


細く、消え入りそうな声だった。


私は、嬉しくても揺らしてしまいます。


悪いことではない。


ですが、学院が。


壊れる前に、力を別の場所へ流せばいい。


ティナの目が大きく開かれた。


ミレイユにも同じことを教えた。


力を止める必要はない。


安全に流す道を作ればいい。


ティナは、恐る恐る扉から出てきた。


小柄な身体に、大きすぎる作業服を着ている。


腰には何十本もの工具。


両腕には、古い魔導部品を抱えていた。


私にも、できますか。


やってみよう。


俺は手を差し出さなかった。


触れられることも怖いかもしれない。


代わりに、ゆっくりと立ち上がる。


ティナは数歩離れたまま、俺の後ろをついてきた。



俺たちが戻ると、七人の教え子たちは一斉に駆け寄ろうとした。


待て。


俺が手を上げる。


全員、その場から動くな。


七人が完全に静止した。


その後ろでは、ミレイユたちも息を潜めている。


俺の背後から、ティナが少しだけ顔を出した。


十人以上の視線が集まった瞬間、地下の壁が震える。


ミレイユがすぐに地面へ両手を向けた。


余った力は、地面へ流せばいいんです。


自分も昨日覚えたばかりの方法を、必死に伝えている。


テオも床へ手をついた。


僕が、流れる場所を探します。


ノエルはティナを見ず、静かに呼吸を合わせ始めた。


セシリアは木の枝を地面へ置き、武器を持っていないことを示した。


誰も近づかない。


誰も急かさない。


ティナの震えが、少しずつ収まっていく。


俺は中央魔力炉を指した。


再起動できそうか。


ティナは涙を拭き、小さく頷いた。


できます。


ミレイユ、テオ、ノエル、セシリア。


四人の力があれば、壊さずに動かせます。


ティナは中央魔力炉の前へ歩き、百二十三年間離さなかった工具を構えた。


そして振り返る。


先生。


何だ。


最初の授業を、始めてもいいですか。


ああ。


頼む。


ティナが魔力炉へ工具を差し込む。


ミレイユが魔力を流し、テオが地脈をつなぎ、ノエルが古い生体部品を活性化させる。


セシリアは設備に残った危険な魔力だけを見分け、木の枝で接続部分を切り離した。


低い音が地下全体へ響く。


一つ。


また一つ。


百年以上消えていた照明が、次々と灯っていく。


教室。


工房。


浴場。


食堂。


巨大な地下学院が、長い眠りから目を覚ました。


石人形の目が強く光る。


中央魔力炉、再起動を確認。


施設稼働率、十一パーセントから六十四パーセントへ上昇。


地下学院の使用が可能になりました。


歓声が上がる。


ティナは驚いて俺の背中へ隠れた。


だが、もう地震は起きなかった。


その直後。


中央魔力炉の上に、古い映像が浮かび上がる。


白髪の老人が、こちらを見ていた。


エルガ総合育成学院、次代の学院長へ。


この記録を見ているということは、最後の生徒が再び誰かを信じたのだろう。


老人は穏やかに笑った。


ならば、学院のすべてを君へ託す。


ただし、一つだけ覚えておいてほしい。


この学院が閉鎖された本当の理由は、資金不足でも魔物の増加でもない。


映像の老人の表情が、静かに曇る。


王国が、才能を持ちすぎた子供たちを恐れたからだ。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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