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第四十話 落ちこぼれを探す試験なのに、首席の方が落第しました



翌朝。


評価制度研究班。


所属、一名。


カイル・ヴェルナーは、黒板の前で腕を組んでいた。


机の上には、一晩かけて作ったらしい試験問題が積まれている。


「できました」


「早いな」


「王立中央学院では、一晩あれば試験案を三種類は作ります」


さすが首席。


ただ。


紙束の厚さが嫌な予感しかしない。


俺は一枚目を取る。


魔法理論。


計算。


魔力操作。


空間認識。


記憶。


論理。


観察。


判断。


対話。


生活技能。


全部で。


「三百問?」


「人間を一つの能力だけで測らないためです」


方向は間違っていない。


だが。


「受験時間は?」


「八時間です」


「十歳の子供へ?」


「休憩を二回入れます」


根本から直す必要がありそうだ。



俺はカイルを連れ。


学院の食堂へ向かった。


朝食後。


生徒たちが片づけをしている。


皿を運ぶ者。


机を拭く者。


残った食材を確認する者。


そこで。


一人の少年が困っていた。


名はポル。


十一歳。


以前いた学院では。


魔法、最低。


剣術、最低。


学科試験も下位。


そのため。


何をやらせても遅い。


そう評価されていた。


今も。


皿を三枚持ったところで立ち止まっている。


「ポル」


「はい」


「どうした」


「運びたいんですけど」


少年は食堂の奥を見る。


「今、行くとぶつかります」


カイルが首を傾げる。


「誰と?」


そのとき。


厨房から大鍋を抱えたガルドが出てきた。


同時に。


反対側から小さな生徒が走ってくる。


さらに。


掃除用の台車が横切った。


確かに。


ポルがさっき歩き出していれば。


三人が狭い通路でぶつかっていた。


全員が通過してから。


ポルはゆっくり歩き。


皿を棚へ置いた。


「今のは偶然では?」


カイルが言う。


「試してみるか」


俺たちはポルへ頼み。


昼食準備を見てもらった。


ただし。


仕事はさせない。


食堂の端から眺めるだけ。


十分後。


ポルが厨房へ近づいた。


「ガルド先生」


「何だ?」


「その鍋、今置かない方がいいです」


ガルドが止まる。


「なんでだ?」


「そこに置くと、あとでフィオナ先生が持ってくる箱とぶつかります」


「フィオナ?」


まだ姿すら見えない。


一分後。


フィオナが大きな食料箱を抱えて現れた。


通る場所は。


まさに鍋を置こうとしていたところ。


ガルドが眉を上げる。


次。


ポルが食器棚を指す。


「上から二段目、少し減らした方がいいです」


確認する。


一見問題ない。


だが皿を数枚外した直後。


棚を固定していた古い金具が外れた。


もしそのままだったら。


皿が全部落ちていた。


カイルの表情が変わった。


「未来予知?」


「違うと思います」


ポル自身が否定した。


「先のことは分かりません」


「じゃあ、どうして?」


「人がどこへ行くかとか」


少年は食堂を見る。


「物がどこへ動くかとか」


「なんとなく、線みたいに分かるんです」


俺は才能鑑定を使う。


空間把握。


最高。


動線予測。


測定限界以上。


複数対象同時追跡。


最高。


反応速度。


低。


単純計算。


低。


だから。


普通の試験では落ちる。


問題を早く解けない。


剣も素早く振れない。


魔法も速く発動できない。


しかし。


人や物が大量に動く場所では。


誰よりも先を読める。


「カイル」


「はい」


「お前の三百問で測れるか」


少年は紙束を見る。


しばらくして。


「……測れません」


「なら一問増やすか?」


「いえ」


カイルは首を横に振った。


「増やしても」


「次は、この試験にない別の才能を持つ人が出てくる」


分かってきたらしい。


「では、どう測る」


カイルは考える。


長い沈黙。


やがて。


ポルを見る。


「本人へ、普段何をしているときが一番楽か聞きます」


「聞いてみろ」


カイルが少年の前へしゃがむ。


「ポル」


「はい」


「何をしているときが好きですか?」


「好き?」


「勉強でも仕事でも遊びでも」


ポルは困った。


しばらく考え。


食堂を見回す。


「みんなが、ぶつからないようにすること」


カイルが目を瞬かせる。


「それ、楽しいの?」


「はい」


「人がいっぱい動いてると」


ポルは少し嬉しそうに笑う。


「どこを空ければ全部うまく通れるか考えるのが楽しいです」


ガルドが腕を組む。


「じゃあ昼飯の配膳を考えてみるか?」


「いいんですか?」


目が輝いた。



昼。


食堂には。


普段より多い三百人近くが集まっていた。


最近。


教師見習い。


騎士。


各地から来た関係者。


人数が増え。


昼食時にはいつも行列ができる。


昨日は。


全員へ料理が届くまで二十七分かかった。


今日は。


ポルが机の位置を変えた。


入口を二つに分ける。


食器を先に取らせない。


料理を受け取った後で取る。


子供と大人で列を分けない。


代わりに。


必要な料理の量で並ぶ場所を変える。


さらに。


歩く方向を一方向へ統一した。


カイルは横で記録する。


昼食開始。


人が動く。


最初は誰も違いを感じなかった。


五分。


十数人が着席。


十分。


半分以上。


十五分。


最後の一人が座った。


「十五分二十三秒」


カイルが呟く。


十二分近く短縮。


誰も走っていない。


誰も急かされていない。


ただ。


人がぶつからなくなった。


厨房からガルドが声を上げる。


「こっちも楽だぞ!」


料理を渡す順番まで整ったため。


厨房側の混乱も減っていた。


ポルは。


その様子を見ながら。


信じられないような顔をしていた。


「僕が考えたので」


「ああ」


「みんな、早く食べられた?」


「ああ」


少年は笑った。


以前の学院では。


何をやらせても遅い。


そう書かれた子供だった。


だが。


本人が速く動く必要などなかった。


みんなが速く動ける道を作ればいい。



午後。


カイルは。


自分で作った三百問の試験を全部捨てた。


「いいのか」


「はい」


「一晩かけたんだろう」


「間違っていたので」


思い切りがいい。


代わりに。


新しい紙を一枚だけ作った。


題名。


――才能発見記録。


そこには点数欄がなかった。


代わりに。


何をしているとき楽しそうだったか。


本人が苦手だと思っていること。


周囲から褒められたこと。


本人が当たり前だと思っていること。


今まで失敗したこと。


試してみたいこと。


最後に。


――まだ分からないこと。


その欄が、一番大きかった。


「試験じゃなくなったな」


俺が言う。


カイルは首を横へ振る。


「これも試験です」


「何点だ」


「点数はつけません」


「順位は」


「つけません」


王立学院首席とは思えない回答だ。


「では、何を評価する」


カイルは少し考えた。


「評価するためではなく」


「次に何を試せば、その人についてもっと分かるかを探します」


俺は頷いた。


「いいんじゃないか」


カイルが嬉しそうに笑った。


学院管理人形が青く光る。


「評価制度研究班」


「第一研究成果を登録」


「名称を要求」


カイルが困る。


「名前?」


「好きにつけろ」


少し考えて。


黒板へ書いた。


《未発見才能記録》。


俺は悪くないと思った。


ところが。


その直後。


学院の転移門が起動した。


白い制服を着た大人たちが五人。


次々と現れる。


カイルの顔色が変わった。


「王立中央学院の先生たちです」


先頭の男が、俺ではなく。


真っ先にカイルを見る。


「カイル・ヴェルナー」


「はい」


「本国より通達する」


男は一枚の書類を広げた。


「エルガ学院での学習によって」


「君の思想に著しい問題が生じたと判断された」


カイルが固まる。


「本日付で」


「王立中央学院首席の資格を剥奪する」


周囲がざわついた。


だが。


カイルは。


自分の手にある《未発見才能記録》を見た。


そして。


以前なら絶対にしなかったことをした。


「理由を教えてください」


男が眉をひそめる。


「決定だ」


「それは分かりました」


カイルは引かなかった。


「何を根拠に」


「僕が間違っていると判断したんですか?」


王立中央学院で。


最も命令へ従っていた優等生が。


初めて。


先生に質問を返した。


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