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第三十九話 王立学院首席は、落ちこぼれを試験で測ろうとした



「僕は、エルガ学院の教育が間違っていることを証明しに来ました」


少年はそう言って。


俺へ入学願書を差し出した。


名前。


カイル・ヴェルナー。


十五歳。


ゼフィール魔導王国、王立中央学院三年。


今年度総合首席。


魔法理論、実技、戦術、歴史。


すべて学年一位。


願書の志望理由には。


――能力の低い者へ教育資源を無制限に投入する方式は非効率である。


――成績評価を否定すれば、努力した者が正当に評価されない。


――エルガ学院の教育思想には重大な欠陥があると考える。


ずいぶん丁寧に喧嘩を売ってきたものだ。


「先生」


後ろにいたリリアが小声で言う。


「追い返しましょうか?」


「なぜだ」


「先生へ失礼です」


「入学したいと言っている」


「でも、間違いを証明すると」


「それも入学理由だろう」


カイルが少し意外そうな顔をした。


「僕を受け入れるのですか」


「断る理由がない」


「あなたの教育を否定しに来た人間ですよ」


「否定されたら困る教育なら、最初から教えるべきじゃない」


ソフィアが隣で小さく頷く。


また採点されている気がする。


俺は願書を返した。


「一つだけ聞く」


「何でしょう」


「お前は何を学びたい」


カイルは即答した。


「あなたが間違っていることを証明する方法です」


「分かった」


学院管理人形。


青い光が少年を包む。


「カイル・ヴェルナー」


「知識教育、高」


「魔法教育、高」


「論理的思考、高」


カイルの口元が少し上がる。


「対話教育」


一拍。


「不足」


笑みが消えた。


「異なる価値観への理解」


さらに一拍。


「不足」


「待ってください」


「初等課程一年、一部科目への編入を推奨」


「僕は王立中央学院の三年生です!」


隣でレオンが笑った。


「私も国王だった」


「関係ありません」


「すぐ慣れる」


慣れなくていい。



翌朝。


カイルは自分から俺の授業へやって来た。


灰色の学院服は着ていない。


ゼフィール王立中央学院の白い制服のままだ。


「今日は、この学院の教育成果を確認したい」


「どうやって」


「試験をします」


カイルが大量の紙を机へ置いた。


魔法理論。


計算。


魔力量測定。


基本術式。


命中精度。


王立中央学院で実際に使われている試験を、年齢に合わせて調整してきたらしい。


「これなら公平です」


「誰に受けさせる」


「同年代の生徒を」


俺は教室を見回した。


ミレイユ。


セシリア。


テオ。


アイラ。


他にも数人。


本人たちへ聞く。


「受けたいか」


ミレイユが手を挙げた。


「やります」


セシリアも頷く。


「私も」


テオは少し不安そうだが。


「僕もやってみたいです」


アイラも。


「試験って、受けたことがほとんどないので」


全員、自分で選んだ。


なら問題ない。



結果は。


カイルの圧勝だった。


魔法理論。


カイル、百点。


ミレイユ、二十一点。


セシリア、三十四点。


テオ、十九点。


アイラ、四十六点。


計算。


カイル、百点。


基本術式構築。


カイル、九十八点。


命中精度。


カイル、満点。


学院の生徒たちは。


ひどいものだった。


ミレイユの火球は、標的の横に置いてあった計測器まで吹き飛ばしかけた。


セシリアは魔法試験そのものが苦手。


テオは杖を持ちながら地面ばかり気にしている。


アイラに至っては。


試験用魔法陣を見て。


「ここ、術式が一本余っています」


勝手に分解してしまった。


採点不能になった。


カイルは答案を並べる。


「これが結果です」


自信に満ちた顔。


「僕の学校なら、彼らは全員下位クラスです」


「そうだな」


カイルが少し止まった。


反論されると思っていたらしい。


「認めるのですか」


「この試験なら、お前の方が上だ」


「なら」


「それで何が分かった」


カイルが眉を寄せる。


「学力です」


「何のための学力だ」


「将来、優秀な魔導師になるための」


「テオ」


俺が呼ぶ。


少年が顔を上げる。


「この建物の地下、水が流れている場所は」


テオは杖を置く。


床へ手を当てる。


数秒。


「東へ十二歩。深さ七メートルくらいです」


カイルが首を傾げる。


クラリスが古い学院図面を持ってきた。


確認する。


地下水路。


位置。


ほぼ一致。


「では、壁の向こうに空洞は」


テオが目を閉じる。


「三つあります」


図面と一致。


「これは試験にありますか」


俺が聞く。


カイルは黙った。


次。


「アイラ」


「はい」


「カイルの命中試験で使った魔法陣」


少女が見る。


「少し古いです」


「どこが」


「ここです」


指先を近づける。


「この二本を一本にできます」


カイルが反応した。


「そんな変更をすれば術式が不安定になります」


「やっていいですか」


「構いません」


アイラが一本。


糸をほどく。


組み替える。


そして。


同じ魔法を発動。


魔力消費量。


元の七割。


命中精度。


変わらない。


カイルの目が大きくなる。


「ありえない」


「でも実際に動いています」


アイラは困ったように答えた。


今度はセシリア。


彼女には中古の訓練剣を三本並べる。


「どれが危ない」


セシリアは剣へ触れずに見た。


「中央です」


「理由は」


「この剣だけ、怖がっています」


カイルが怪訝な顔をする。


剣が怖がる。


普通なら意味が分からない。


だが。


鍛冶師に確認すると。


中央の剣には内部亀裂があった。


最後。


ミレイユ。


「小さな火を出してみろ」


「はい」


指先に。


小さな炎。


昔なら。


それだけで教室の屋根が吹き飛んでいた。


今は。


揺れもしない。


「これだけですか」


カイルが言う。


「ああ」


「攻撃力なら僕の方が上です」


「今はな」


ミレイユが苦笑する。


「私、前はこれすらできなかったんです」


「どういう意味ですか」


「小さくしようとすると爆発して」


ミレイユが学院の天井を見る。


以前壊した場所はもう修理されている。


「先生に教えてもらって、やっと普通の火が出せるようになりました」


カイルは。


何も言わなくなった。



俺は彼が作った試験用紙を黒板へ貼った。


「この試験が間違っているわけじゃない」


カイルが顔を上げる。


「魔法理論をどれだけ理解しているか」


「決められた術式を正確に使えるか」


「計算ができるか」


「それを測るには役に立つ」


「なら問題ないでしょう」


「問題は」


俺は答案を指す。


「これで人間全部を測ったと思うことだ」


テオは十九点。


だが地脈感知なら。


学院の教師でも勝てない。


アイラは試験問題を壊した。


だが魔法陣そのものの欠点を見抜いた。


セシリアは普通の剣を握ることすら難しい。


その代わり。


武器に残る殺気や恐怖を感じ取れる。


「成績をつけること自体が悪いわけじゃない」


カイルは黙って聞いている。


「順位も、必要な場合はある」


「でも」


「何を測った順位なのか忘れるな」


百メートル走が一位だから。


一番優れた人間。


そうならないのと同じだ。


カイルは自分の答案を見る。


「では」


しばらく考える。


「試験項目を増やせばいい」


俺は少し驚いた。


「魔法だけでなく」


カイルは立ち上がる。


「地脈感知」


「術式分析」


「武器感応」


「生活技能」


「対話能力」


「もっと細かく測れば」


「今より正確に、生徒の能力を評価できます」


悪くない。


むしろ。


かなりいい。


「やってみろ」


カイルが止まった。


「否定しないのですか」


「なぜ否定する」


「あなたは試験を嫌っているのでは」


「嫌ってない」


試験で分かることもある。


記録すれば。


本人自身が成長を確認することもできる。


問題は。


試験の結果を。


その人間の価値そのものにしてしまうことだ。


「お前の方法で、もっといい試験を作ってみろ」


カイルはしばらく俺を見ていた。


「僕は」


「あなたの教育が間違っていることを証明しに来たんですが」


「だから調べればいい」


「結果として俺が間違っていたら教えてくれ」


カイルは黙る。


ソフィアが横で尋ねた。


「カイル」


「何ですか」


「今、何をしたいですか」


少年は。


初めて即答しなかった。


黒板。


答案。


そして。


さっきまで下位だと思っていた生徒たちを見る。


「……作りたい」


「何を」


「誰かを落とすためではなく」


カイルは自分の試験用紙を一枚取った。


「その人が何をできるのか見つける試験を」


俺は頷いた。


「なら、それがお前の最初の課題だ」


学院管理人形が青く光る。


「カイル・ヴェルナー」


「新規学習目標を確認」


「教育評価研究課程への適性、高」


「初等課程一年に加え」


「評価制度研究班への配属を推奨」


カイルが固まった。


「研究班?」


「今日できた」


俺が答える。


「班員は」


「今のところ、お前一人だ」


「僕しかいないじゃないですか!」


「最初はみんなそんなものだ」


少し離れたところで。


ティナが強く頷いていた。


百二十三年間。


一人で学院に在籍していた先輩の説得力は強い。


カイルは頭を抱えた。


エルガ学院へ。


教育が間違っていると証明しに来た王立学院首席。


その日のうちに。


うちの新しい試験を作る担当者になっていた。


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