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第三十六話 世界最強の十四人に、最初の授業を任せてみた



教師見習い。


十四名。


その顔ぶれだけを見れば、とても新人教師には見えない。


現代の七人。


勇者リリア。


剣聖エリシア。


聖女セレナ。


賢者ルシア。


竜騎士フィオナ。


精霊使いマリア。


影の英雄クロエ。


そして二百年前の七人。


ガルド。


ミラ。


ノクス。


フェル。


ユリウス。


リナ。


ソフィア。


一人で国家の戦力に数えられるような者ばかりだ。


だが。


「では、今日から教師課程を始める」


俺が告げると。


十四人全員が机へ座った。


俺より年上に見える者までいる。


アルフォンスも教室の一番後ろへ座っていた。


「なぜお前までいる」


「わしも教師として学び直す」


「それはいい」


少し成長したらしい。


学院管理人形が横から判定する。


「アルフォンス・レイヴァン。判断教育、改善中。生徒意思確認能力、著しく不足」


「最後の一言はいらん!」


まだ先は長そうだ。



最初の授業。


俺は十四人へ、一枚ずつ紙を配った。


書いてある内容は同じだ。


――十歳。


――剣を握った経験なし。


――身体能力、平均以下。


――剣士になりたい。


――最初に何を教えるか。


「簡単ですね」


エリシアがすぐに筆を動かした。


嫌な予感がする。


答案を受け取る。


足幅。


親指一本分内向き。


腰を三度落とす。


右肩は半寸下げる。


剣先角度は十二度。


呼吸を四拍で整え――


「長い」


「まだ最初の十分だけですが」


十分でこれなのか。


次。


ガルド。


筋力訓練。


山道十往復。


丸太担ぎ。


基礎体力がついた後、剣を。


「却下」


「まだ倒れる回数は指定していないぞ」


「指定するつもりだったのか」


アルフォンスが横から頷いている。


二百年前の教育が残っている。


ミラの答案。


剣そのものを理解するため、鉄鉱石の魔力構造から学ぶ。


ルシアも似たようなものだった。


百二十七種類の基本術式と人体強化理論。


「十歳だぞ」


「必要です」


二人が同時に答えた。


時代が違っても、賢い者ほど説明を増やすらしい。


リリア。


「まず私と一度打ち合います」


「経験なしだ」


「手加減します」


お前の手加減を信用できない。


フィオナ。


「竜の背に乗せます」


なぜだ。


クロエ。


「剣を使わず敵へ近づく方法を教えます」


もう剣士ですらない。


ノクス。


「死んだ剣士に聞きます」


怖い。


十四人分を確認した。


まともなのは。


セレナの、


――まず、なぜ剣士になりたいのか聞く。


だけだった。


「セレナ。合格」


「え?」


本人が一番驚いている。


ソフィアが答案を見比べる。


「能力を教える前に、本人の目的を確認する」


「ああ」


剣士になりたい理由が。


親を守りたいからなのか。


格好いいからなのか。


騎士団へ入りたいからなのか。


友達と一緒に学びたいだけなのか。


それだけで教え方は変わる。


「それから」


俺は新しい紙を配る。


――剣士になりたい理由。


――父親が剣士だから。


――でも本人は、剣を振るより本を読む方が好き。


「どうする」


リリアが悩む。


エリシアも腕を組む。


以前なら。


才能がある。


強くなれる。


それだけで訓練を始めていた者もいるだろう。


ソフィアが静かに言った。


「本人へ聞きます」


「何を」


「本当に剣士になりたいのか」


「合格」


ガルドが頭を抱えた。


「教師って難しいな」


「料理より?」


「料理なら失敗しても作り直せる」


ガルドは真面目な顔で答えた。


「生徒は、そうはいかない」


悪くない答えだった。



午後。


今度は実習にした。


十四人を二人一組。


現代の七人と、二百年前の七人を組ませる。


リリアとガルド。


エリシアとミラ。


セレナとノクス。


ルシアとフェル。


フィオナとユリウス。


マリアとリナ。


クロエとソフィア。


担当するのは。


学院へ最近入った子供たちだ。


条件は一つ。


「今日は何も教えるな」


十四人が固まった。


「では何をするのですか」


「聞く」


生徒の名前。


好きなもの。


嫌いなもの。


何をしたいか。


何が怖いか。


今できること。


それだけ聞く。


能力測定も禁止。


訓練も禁止。


「才能を見るのも?」


ソフィアが尋ねる。


「今日は使うな」


彼女の表情が初めて困った。


才能を見ることが呼吸のようになっているのだろう。


だからこそ。


見ない練習も必要だ。



夕方。


十四人が戻ってきた。


リリアは少し落ち込んでいた。


「どうだった」


「担当した子に」


言いにくそうにする。


「勇者になりたいわけじゃないと言われました」


「何になりたい」


「パン屋です」


ガルドが横で満面の笑みを浮かべる。


「俺の担当でもある」


嫌な予感がする。


「もう厨房へ連れていく約束をした」


「今日は教えるなと言った」


「見学だけだ」


ぎりぎりだ。


エリシアは。


剣を怖がっていた少女と話した。


剣士を目指しているのは、家族へ褒めてもらいたいから。


本当は裁縫が好きだった。


「明日から剣をやめさせるのか」


俺が尋ねる。


エリシアは首を横に振った。


「本人に選んでもらいます」


成長している。


フィオナとユリウスの担当は。


空へ憧れる少年。


だが高い場所が怖い。


フィオナは以前なら、ヴァルガスへ乗せて慣れさせただろう。


今日はしなかった。


「まず地面から竜を眺めるだけにします」


ユリウスも頷く。


「未来を見れば、この子がどこまで成長するか分かります」


「見たのか」


「いいえ」


一瞬だけ。


彼は嬉しそうに笑った。


「今日だけを見ることにしました」


それでいい。



最後。


クロエとソフィア。


担当したのは、八歳の少女だった。


「何が分かった」


クロエが答える。


「甘い物が好きです」


「他は」


「夜、一人で寝るのが怖い」


「他は」


「先生の部屋の場所を知りたがっています」


なぜだ。


クロエが少女へ何を教えたのか不安になる。


ソフィアは静かに一枚の紙を出した。


そこには。


能力。


才能。


適性。


一つも書かれていなかった。


代わりに。


好きな花。


嫌いな食べ物。


仲の良い友達。


最近嬉しかったこと。


将来やってみたいこと。


細かな文字で埋まっている。


「どうだった」


俺が尋ねる。


ソフィアは少し考えた。


「二百年前」


「私は、生徒を見るとは才能を見ることだと思っていました」


「違ったか」


「はい」


紙を大切そうに持つ。


「才能を使わなくても」


「その子について、こんなに知ることがありました」


教室の後ろ。


アルフォンスが俯いた。


七人へできなかったことを。


今、教え子が学び直している。


「今日の実習は全員合格だ」


十四人から安堵の息が漏れた。


「ただし教師になるのはまだ先だ」


一斉に肩を落とす。


そのとき。


学院管理人形が教室へ入ってきた。


「学院長」


「何だ」


「教師募集への新規応募を確認」


クラリスが続いて飛び込んでくる。


手には分厚い紙束。


「アレン先生」


「今度は何人だ」


クラリスは一度息を整えた。


「第五校、第六校、第七校からの話が広がりました」


「王国内だけではありません」


机へ紙束を置く。


「周辺六か国から」


「教師になりたいという応募が」


俺は紙束を見る。


「何人」


クラリスが答えた。


「千二百四十八人です」


教室中が静まり返った。


十四人の教師見習いを育てるだけでも大変なのに。


今度は。


千人を超える大人が。


エルガ学院へ学びに来ようとしていた。


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