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第三十二話 初代学院長が育てた七人は、先生を許していなかった



旧第三校。


二百十一年ぶりに生命反応を確認。


登録生徒、七名。


全員、在学中。


学院管理端末の報告を聞き、俺は通信映像の向こうにいるアルフォンスを見た。


老人の表情は、これまでで一番苦しそうだった。


「あの子たちまで、目を覚ましてしまった」


「危険なのか」


俺が尋ねると、アルフォンスはすぐには答えなかった。


遠くの空が赤く染まっている。


第三校がある方角だ。


「危険かどうかと聞かれれば、危険じゃ」


「どういう能力を持っている」


アルフォンスは一本ずつ指を折った。


「魔法を食う者」


一本。


「受けた傷を相手へ返す者」


二本。


「死んだ魔物を従える者」


三本。


「触れた生物の姿と能力を写す者」


四本。


「未来の可能性を見る者」


五本。


「他人の才能を奪う者」


六本。


そして最後。


アルフォンスの手が止まった。


「七人目は?」


「わしと同じじゃ」


俺は眉をひそめた。


「教師なのか?」


「才能を見る」


アルフォンスが答える。


「その者が何に向いているのか。どう育てればいいのか。それが分かる」


俺の《才能鑑定》に近い。


だが、それだけなら危険とは思えない。


「何が問題なんだ」


アルフォンスは目を伏せた。


「わしは、あの子へ一つだけ間違ったことを教えた」


「何を」


「才能のない者など存在しない、と」


俺は首を傾げる。


むしろ、俺も似た考えだ。


今のエルガ学院にいる生徒たちも、才能がなかったわけではない。


使い方を知らなかっただけだ。


「間違っていないだろう」


「続きがある」


アルフォンスは自分の拳を握った。


「才能が見つからないなら、見つかるまで鍛えればいい」


嫌な予感がした。


「どれくらい」


「倒れれば起こした」


「……」


「吐けば水を飲ませて続けた」


「……」


「骨が折れれば治癒術師へ運び、翌日から別の訓練をした」


リリアたち七人が通信の向こうで一斉にアルフォンスを見た。


俺も同じ気持ちだった。


「それは育成じゃない」


「ああ」


アルフォンスは否定しなかった。


「今なら分かる」


老人は山の魔物たちを見る。


自分の姿を見るだけで逃げ出した理由も、きっと分かっているのだろう。


「わしは才能を見ることに夢中になり、生徒を見ることを忘れた」


その言葉だけは、軽くなかった。


「七人も?」


「最初の七人は特に酷かった」


アルフォンスは苦笑した。


「世界を変えられる才能だと思った。だから、世界を救えるところまで育てなければならないと思い込んだ」


「本人たちは望んでいたのか」


返事はなかった。


それが答えだ。


俺は自分の七人を見る。


勇者リリア。


剣聖エリシア。


聖女セレナ。


賢者ルシア。


竜騎士フィオナ。


精霊使いマリア。


影の英雄クロエ。


俺も、こいつらの才能を伸ばしてきた。


もし俺が「もっと強くできる」という理由だけで、本人たちの気持ちを無視していたら。


今とは違う関係になっていたかもしれない。


リリアが、静かに尋ねた。


「その七人は、なぜ第三校へ?」


「わしから逃げた」


アルフォンスは答えた。


「そして第三校を占拠した」


ずいぶん正当な逃亡理由に聞こえる。


「わしは連れ戻そうとした」


「なんでだ」


「当時のわしは、それが教師の責任だと思っていたからじゃ」


アルフォンスは自嘲するように笑った。


「結果、七人は第三校そのものを封鎖した」


学院管理端末が補足する。


旧第三校。


外部接続完全遮断。


封鎖実行者、在籍生徒七名。


つまり教師から逃げるため、生徒自身が学校を閉じたのか。


「二百年以上、どうして生きている」


「第三校には時間維持設備がある」


ルシアが反応する。


「時間を止めていたのですか?」


「完全ではない」


アルフォンスが首を振る。


「施設内部の生命活動を極端に遅くする設備じゃ」


七人は二百年以上眠っていた。


そして今、広域教育網の再起動で目覚めた。


俺が起こしたようなものだ。


その瞬間。


学院管理端末から警告音が響いた。


旧第三校より、通信要求。


全員が黙った。


アルフォンスの顔色が変わる。


「つなぐな」


「どうして」


「まず、わしから説明を」


「本人たちから聞く」


俺は管理端末へ告げた。


「接続」


通信映像が開いた。


最初は真っ暗だった。


やがて。


一人の少女が映る。


長い銀髪。


年齢は十六、七歳ほどに見える。


黒い制服は二百年前のエルガ学院と同じ形だ。


少女は無表情でこちらを見ていた。


「現在の第一校学院長」


「アレン・クロフォードだ」


「あなたが教育網を起動しましたか」


「ああ」


少女の視線が、通信の端に映っているアルフォンスへ動く。


その瞬間。


表情が変わった。


怒りでもない。


恐怖でもない。


ただ。


冷たい。


「先生」


アルフォンスの肩が小さく揺れた。


「久しぶりじゃな、ソフィア」


「二百十一年ぶりです」


ソフィア。


おそらく七人目。


才能を見る少女だ。


「まず謝らせてほしい」


アルフォンスが頭を下げようとする。


「不要です」


ソフィアは即座に遮った。


「謝罪によって、過去の訓練記録は消えません」


「分かっておる」


「私たちは、先生を許していません」


アルフォンスは目を閉じた。


「それも分かっておる」


ソフィアは今度は俺を見る。


「現在の学院長」


「何だ」


「あなたも、才能を見つけて生徒を育てる教師だと確認しました」


どうやって確認した。


通信越しなのに。


「私の才能は、目で見る必要がありません」


ソフィアは答える。


「教育網を通して、あなたが育てた生徒たちの成長記録を読みました」


リリアたち七人。


ミレイユ。


セシリア。


ノエル。


テオ。


アイラ。


ティナ。


これまでの訓練記録は、学院にすべて残っている。


「判定します」


ソフィアの瞳が淡く光った。


「アレン・クロフォード」


一瞬の沈黙。


「育成能力、極めて高い」


アルフォンスがわずかに安心した顔をする。


だが。


「教師適性」


ソフィアが続ける。


「不合格」


今度は俺が黙る番だった。


リリアが前へ出る。


「先生のどこが不合格なのですか」


「自分を危険へ晒しすぎる」


即答だった。


俺を見る。


「生徒を守ることを優先し、自身の安全を軽視する傾向」


……。


「複数回、生徒を後方へ残し、自分だけ危険区域へ進入」


……。


「戦闘能力が低いにもかかわらず、最前線へ立つ」


俺の教え子たち七人が、一斉にこちらを見た。


リリアが小さく頷いている。


なぜ納得している。


「さらに」


まだあるのか。


「すべての生徒を救う責任を、自分一人で負おうとする傾向があります」


「それは最近直している」


第五校、第六校、第七校には現地教師を頼った。


「改善傾向は確認」


少し評価が上がったらしい。


「しかし、まだ不十分」


ソフィアは通信画面へ一歩近づいた。


「したがって」


第三校の背後で。


六つの扉が同時に開いた。


六人の少年少女が姿を現す。


二百年前。


アルフォンスが育て。


そして逃げられた最初の七人。


全員がこちらを見ていた。


ソフィアが告げる。


「第三校の七名は」


一拍置く。


「アレン・クロフォード学院長の再教育を要求します」


アルフォンスが目を見開いた。


俺も聞き返す。


「俺を?」


「はい」


ソフィアは真顔だった。


「先生が生徒を教育するのであれば」


「生徒が先生を教育してはいけないという規則はありません」


その後ろで。


六人全員が頷いた。


二百年以上眠っていた七人の最初の要求は。


世界征服でも復讐でもなかった。


俺を、生徒にすることだった。


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