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第三十話 全部の学校を、俺一人で助けるつもりはない



エルガ学院長。


こちらにも。


子供たちを助けてください。


第五校。


第六校。


第七校。


三つの通信映像から、教師たちの声が同時に響いた。


俺はしばらく何も答えなかった。


第五校の背後では、鎧を着た兵士たちが校舎の門を破ろうとしている。


第六校では、白い服を着た子供たちが大きな礼拝堂へ集められていた。


第七校の映像は激しく揺れ、遠くから魔物の咆哮まで聞こえている。


どこも危険だ。


今すぐ助けが必要なのも分かる。


先生。


リリアが聖剣へ手をかける。


三手に分かれましょう。


私が第五校へ。


エリシアが第六校。


フィオナとヴァルガスなら、第七校へすぐ到着できます。


待て。


ですが。


俺たちが全部解決してどうする。


リリアが目を瞬かせた。


三つの学校は、エルガ学院の生徒ではない。


それぞれ教師がいる。


生徒もいる。


その土地で暮らしている人たちもいる。


俺たちが乗り込んで敵を倒し、管理者を追い出せば、一時的には助かる。


だが、次に同じことが起きたら。


また俺たちを呼ぶのか。


第四校のエレナが、静かに俺を見た。


つまり。


助けない、ということですか。


違う。


助ける。


ただし、俺たちのやり方で終わらせない。


俺は三つの通信を大きく表示した。


まず、順番に話を聞く。


第五校からだ。


通信の向こうにいるのは、四十歳ほどの男性教師だった。


名をバルトという。


第五校は現在、ガルディア帝国領内にあるらしい。


生徒数は三百二十一人。


もともとは戦闘能力が高すぎて通常の学校では扱えない子供を育てる学院だった。


だが現在は、帝国軍へ強制的に所属させるための育成施設に変わっている。


今日。


第四校で起きた反乱が伝わり、生徒たちも軍への配属を拒否した。


その結果。


帝国兵が学校を包囲したという。


今すぐ門を開け。


映像の外から声が響く。


拒否すれば、反逆者とみなす。


リリアの表情が険しくなった。


先生。


まだだ。


俺はバルトへ尋ねる。


教師は何人いる。


二十三人です。


全員、生徒を守る意思は。


あります。


戦える教師は。


七人ほど。


では、生徒の中に、自分たちの学校を守れる力を持つ者はいるか。


バルトは言葉に詰まった。


危険なので、能力を使わせないようにしていました。


そこから直せ。


俺が答えると、バルトが驚いた顔をした。


子供へ戦わせろという意味ではない。


門を守る。


避難路を作る。


通信をつなぐ。


怪我人を治す。


できることは戦闘だけではない。


生徒一人ずつへ聞け。


自分に何ができるか。


何をしたいか。


まず教師が、それを知るんだ。


バルトはしばらく黙った後、強く頷いた。


やってみます。


必要ならこちらから教師を一人送る。


だが、指揮を取るのはお前たちだ。


はい。


次は第六校。


映像に現れたのは、若い女性神官だった。


第六校は聖教国領内。


生徒二百八十七人。


神聖魔法が強すぎる、あるいは普通と異なる形で発現した子供が集められている。


現在。


教会上層部から、全生徒へ浄化儀式を受けさせるよう命令が出ていた。


浄化とは。


俺が尋ねると、女性神官の顔が曇った。


能力の一部を永久に封じる儀式です。


本人たちは望んでいるのか。


いいえ。


なら、まず儀式を止めろ。


ですが、大司教の命令です。


命令と、生徒の意思。


教師ならどちらを先に確認する。


女性神官は唇を噛んだ。


生徒です。


それでいい。


戦う必要はない。


儀式を始める前に、生徒一人ずつへ意思確認を行うと宣言しろ。


教会が拒否した場合は。


その通信をこちらへつなげ。


聖女セレナ。


はい。


お前が第六校を担当しろ。


セレナが驚いた。


私が。


神殿で落ちこぼれだった頃の自分を思い出せ。


今の生徒が何を怖がっているか、一番分かるのはお前だ。


セレナは胸へ手を当てた。


分かりました。


戦うのではなく。


話を聞いてきます。


ようやく教師らしくなってきた。


最後は第七校。


映像に現れたのは、獣人の老教師だった。


背景では校舎の周囲を大量の魔物が走り回っている。


第七校は獣王国との国境近く。


人間だけでなく、獣人や魔族、魔物と意思疎通できる子供まで学んでいるという。


問題は。


学院を管理していた結界が壊れました。


老教師が答える。


長年、結界によって抑えられていた周辺の魔物が、一斉に校内へ入り始めています。


生徒に怪我は。


まだありません。


魔物は襲っているのか。


老教師は一瞬、黙った。


いいえ。


では、なぜ危険だと思った。


数が多すぎます。


映像を見る。


確かに何百体もの魔物が校庭を埋めている。


だが。


走り回っているだけだ。


子供へ飛びかかる様子はない。


中には、生徒の隣へ座っている魔狼までいる。


ノエル。


俺が呼ぶ。


はい。


この魔物たち、怒っているように見えるか。


ノエルは映像へ近づいた。


少しだけ力を使う。


角ウサギが反応するように、彼女は魔物の生命の流れを感じ取れるようになっていた。


怒っていません。


むしろ。


ノエルは首を傾げた。


助けを求めているような。


その直後。


第七校の一人の少女が叫んだ。


先生。


この子たち、山から逃げてきています。


どうして分かる。


私、魔物と話せます。


少女の声を聞いた老教師が固まった。


今まで、嘘だと思っていたのだろう。


何から逃げている。


少女は校庭にいる大きな魔狼へ耳を近づける。


山の奥で。


何かが目を覚ました。


フィオナの古竜ヴァルガスが、映像越しにも反応した。


低い唸り声を上げる。


先生。


フィオナが顔を上げる。


これは普通の魔物ではありません。


山の魔物全体が逃げるほどの何か。


第七校の問題だけでは済まないかもしれない。


だが、それでも最初にすることは同じだ。


その少女を教師の隣へ置け。


俺が老教師へ告げる。


魔物の言葉を聞ける生徒がいるなら、その子に聞く。


何が起きているのか。


どうすれば魔物と生徒を両方守れるのか。


教師だけで決めるな。


老教師は、少女を見る。


今まで彼女の言葉を信じなかったことを悔いているようだった。


分かりました。


そして。


フィオナ。


はい。


第七校へ行け。


竜騎士としてではなく、教師としてな。


分かっています。


フィオナは笑った。


まず、竜と魔物の話を聞きます。


これで三校それぞれに方針が決まった。


第五校にはリリア。


第六校にはセレナ。


第七校にはフィオナ。


ただし三人とも、問題を代わりに解決するために行くのではない。


現地の教師と生徒が、自分たちで解決できるよう支える。


俺は残る。


エリシアたちもエルガ学院と第四校を支援。


何かあれば通信で共有する。


エレナが隣で、小さく笑った。


アレン先生は、助けを求められてもご自分では行かないのですね。


全部へ行ける身体が三つあれば考える。


それに。


俺は通信映像に映る教師たちを見る。


俺一人が全部の学校を助けられるようになったら。


それは失敗だ。


教師を育てる学校なのだから。


俺がいなくても、生徒を守れる教師を増やす。


それがエルガ学院の次の仕事だ。


エレナはしばらく黙った後。


深く頷いた。


私も学ばなければいけませんね。


ああ。


俺もだ。


そのとき。


第七校から再び緊急通信が入った。


魔物と話していた少女が、真っ青な顔でこちらを見ている。


学院長先生。


山から逃げてきた魔物たちが言っています。


何だ。


少女は震える声で答えた。


目を覚ましたものは。


魔物ではありません。


人です。


人間。


はい。


魔狼たちは、その人を知っています。


少女が一度息を飲む。


百年以上前。


エルガ学院から来て。


山の魔物たちへ、戦い方を教えた先生だそうです。


俺の隣で。


ティナが持っていた工具を落とした。


その先生。


名前は。


少女が魔狼へ聞く。


そして、答えた。


初代エルガ総合育成学院長。


アルフォンス・レイヴァン。


学院地下に映像を残していた、あの白髪の老人。


二百年以上前の初代学院長が。


今も生きているという。


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