第三話 七人の勇者は、王国より先生を選んだ
現在、七人全員が王城を占拠しています。
騎士から告げられた言葉の意味を理解するまで、少し時間がかかった。
王城を、占拠。
俺が知っている占拠という言葉は、武装した者が建物を支配下に置く行為を指す。
魔王軍を撃退したばかりの七人の勇者が、王国の中心である城を支配している。
それはもう、反乱ではないだろうか。
なぜそんなことになった。
先生が追放されたと知ったからです。
それは先ほど聞いた。
俺が知りたいのは、その後どうして王城を占拠する流れになったのかだ。
騎士は額の汗を拭った。
七人の勇者様は、本日早朝に王都へ帰還されました。
◆
王都の正門前には、何万人もの民衆が集まっていた。
魔王軍を退けた英雄たちを迎えるためだ。
先頭を歩いていたのは、勇者リリア。
金色の髪を揺らし、魔王の軍勢を一人で退けた聖剣を腰に下げている。
その隣には剣聖エリシア。
さらに聖女セレナ、賢者ルシア、竜騎士フィオナ、精霊使いマリア、影の英雄クロエ。
七人はそれぞれ、王国一つを相手にしても勝てるほどの力を持つ。
だが、彼女たちは民衆から向けられる歓声に手を振ることもなく、険しい表情で王城へ向かっていた。
城門前で、新国王と宰相が七人を出迎えた。
よくぞ帰った、王国の英雄たちよ。
国王は両腕を広げた。
七人が勝利したことで、王国の未来は守られた。盛大な祝宴を用意している。まずは城へ入り、そなたたちの功績を。
リリアは国王の言葉を最後まで聞かなかった。
アレン先生は、どちらにいらっしゃいますか。
国王の表情がわずかに固まった。
戦いへ向かう前、七人は必ず王都へ帰ると俺に約束していた。
そして帰還したら、全員で食事をしながら遠征の話を聞かせることになっていた。
七人にとっては、祝宴より先に果たすべき約束だったらしい。
アレンなら、王国育成官を解任した。
国王が何でもないことのように答えた瞬間、城門前から音が消えた。
数万の民衆がいたにもかかわらず、誰一人として声を発しなかった。
リリアは、表情を変えなかった。
解任。
ああ。戦闘能力を持たぬ者へ、これ以上高額な報酬を支払う理由はない。
では、今はどちらへ。
辺境の廃学院を与えた。すでに王都を去っている。
その直後。
王都全体を覆う結界が、激しく震えた。
賢者ルシアから漏れ出した魔力が、王城周辺の空気を歪ませていた。
剣聖エリシアは腰の剣へ手を置いている。
聖女セレナは目を伏せ、静かに祈っているように見えた。
だが彼女の足元から、王城の床を覆うほど巨大な聖法陣が広がり始めていた。
竜騎士フィオナの背後では、上空を飛んでいた古竜が城へ向かって降下している。
精霊使いマリアの周囲には、炎、水、風、土の上位精霊が次々と姿を現した。
クロエだけは、その場から消えていた。
数秒後。
国王の背後に立っていた宰相の首元へ、黒い短剣が触れた。
先生を、追放した。
リリアの声は静かだった。
怒鳴ってはいない。
剣を抜いてもいない。
それなのに、その場にいた騎士たちは誰一人として動けなかった。
国王は、七人の反応が理解できないようだった。
そなたたちは英雄だ。アレンは、そなたたちを育てるために雇われていた職員にすぎぬ。
七人の視線が、同時に国王へ向けられた。
城門前の石畳に亀裂が走った。
勇者リリアは、幼い頃に魔力が少ないという理由で捨てられた。
俺は彼女が外から魔力を取り込み、聖剣へ流す才能を持っていると見抜いた。
剣聖エリシアは、間違った姿勢で剣を振り続け、身体を壊しかけていた。
俺は彼女に合った剣術を、一から作り直した。
七人全員が、誰にも価値を認められなかった時期を知っている。
そのとき、彼女たちを拾い上げたのが俺だった。
私たちの先生を、職員にすぎないと。
リリアが一歩、国王へ近づいた。
その場にいた近衛騎士たちが剣を抜こうとした。
だが、柄へ触れる前に全員の武器が砕け散った。
エリシアが剣を振った様子はなかった。
騎士たちには、彼女の動きが見えなかっただけだ。
国王陛下。
聖女セレナが、穏やかな声で告げた。
私たちはアレン先生の教え子です。王国に雇われた兵器ではありません。
魔王軍との戦いが終わった以上、王国から命令を受ける理由はなくなりました。
賢者ルシアが指を鳴らす。
王城を守っていた魔法結界が、一瞬で消滅した。
王都中の魔術師が何十年もかけて作り上げた防御を、たった一人で解除したのだ。
竜騎士フィオナは窓の外を見上げる。
上空では古竜が王城を囲み、いつでも攻撃できる体勢を取っていた。
精霊使いマリアは、怯える兵士たちへ優しく微笑んだ。
安心してください。先生が無事であると確認できるまで、誰にも危害は加えません。
無事でなければどうするのか。
その場にいた全員が同じ疑問を抱いたが、誰も口にはしなかった。
リリアは国王の前を通り過ぎ、王城へ入った。
先生の居場所と、追放を決めた者全員の記録を確認します。
勝手な行動は許さぬ。
国王が叫んだ。
リリアは振り返る。
では、止めてください。
国王は何も言えなかった。
こうして七人は王城へ入り、執務室、通信室、転移魔法陣を次々と確保した。
王国側の人間を傷つけることはなかった。
ただし、国王と宰相を含め、城にいた全員が七人の許可なしでは外へ出られなくなった。
それを王城の占拠と呼ぶべきか、七人による事情聴取と呼ぶべきかは、現在も議論が続いているらしい。
◆
そこまで聞き、俺は大きく息を吐いた。
あいつらは、何をしているんだ。
先生のためかと。
頼んでいない。
七人の気持ちは嬉しい。
俺が追放されたことへ怒ってくれるのも分かる。
だが、王城を占拠する必要はない。
国王たちへ直接話せば済むことだ。
騎士は何とも言えない表情を浮かべた。
すでに、直接お話しされた結果が現在の状況です。
そうだった。
話し合いの途中で王城を占拠している。
今すぐ王都へ戻るべきだろうか。
しかし、馬車で十日かかる。
俺が到着する頃には、城が七人の所有物になっている可能性すらある。
手紙を書こう。
俺がそう言うと、騎士の顔が明るくなった。
王城へ届けてくれるか。
もちろんです。
俺は荷物の中から紙とペンを取り出した。
七人へ。
心配をかけて申し訳ない。
俺は元気にしている。
学院長として三人の生徒を迎え、今日から訓練を始めた。
王城を占拠する必要はないので、すぐに国王たちを解放すること。
戦いを終えたばかりなのだから、きちんと休むように。
書き終えた手紙を騎士へ渡す。
騎士は両手で受け取った。
必ずお届けします。
頼んだ。
騎士たちは馬車を反転させ、王都へ戻っていった。
その様子を見送っていたミレイユが、俺の袖を引く。
先生。
どうした。
七人の勇者様は、先生のことが大好きなのですね。
俺は少し考えた。
教師としては、慕ってくれていると思う。
ミレイユ、セシリア、ノエルの三人が顔を見合わせた。
なぜか全員、納得していないようだった。
その夜。
王都から手紙を届ける騎士とは別の道を使い、一頭の古竜がエルガ村へ向かって飛んでいた。
古竜の背に乗っているのは、七人のうち最も行動が早い竜騎士フィオナ。
王城に残った六人には、先生の安全を確認してくるとだけ伝えてある。
だが彼女の荷物には、鎧や武器だけでなく、生活用品が大量に詰め込まれていた。
辺境の廃学院で暮らすための荷物だった。
先生が新しい学校を始めたのなら、竜騎士科が必要になりますよね。
翌朝。
まだ誰も起きていない学院の運動場へ、王国最強の古竜が降り立った。




