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第二話 落ちこぼれ三人の才能を確かめる



教室の天井が吹き飛んだ翌朝。


俺は校舎の前に立ち、屋根に開いた大穴を見上げていた。


昨日までは人が一人通れるほどだった穴が、今では荷馬車でも通れそうな大きさになっている。


幸い、昨夜は雨が降らなかった。


だが、このまま放置するわけにはいかない。


学院を始める前に、まず建物を直す必要があるな。


俺がそう呟くと、隣に立っていたミレイユが深く頭を下げた。


申し訳ありません、先生。私が必ず修理代を稼ぎます。


どうやって稼ぐつもりだ。


魔物を倒します。


魔法を使えば周囲ごと吹き飛ばす少女が、森の中で魔物を狙う。


修理費より被害額の方が大きくなりそうだ。


却下だ。


では、働きます。


何ができる。


魔法が使えます。


同じところに戻ってきてしまった。


ミレイユは魔力量だけなら、俺が育てた七人の中で最も魔力に優れていた賢者ルシアを超えている。


だが、今の彼女に魔法を使わせるのは危険すぎる。


昨日の爆発も、本人が本気で放ったものではない。


魔力を押さえ込もうとして、わずかに漏れただけだ。


あれが全力なら、この学院だけでなく丘そのものが消えていた可能性すらある。


修理については後で考える。今日は三人の能力を詳しく確認する。


運動場へ移動すると、セシリアとノエルがすでに待っていた。


雑草だらけだった地面の一部が、きれいに刈られている。


セシリアが早朝から剣を使わず、手で草を抜いたらしい。


その横では、ノエルが昨日の角ウサギへ野菜を食べさせていた。


どうして魔物がまだいるんだ。


この子は森へ帰そうとしたのですが、ついてきてしまいました。


角ウサギはノエルの膝に乗り、完全にくつろいでいる。


体格も昨日より一回り大きくなっていた。


ノエルの力を受け続けた影響だろう。


まずはミレイユから確認する。


俺は運動場の中央に、三本の木の棒を立てた。


一本目は十歩先。


二本目は二十歩先。


三本目は三十歩先だ。


一番近い棒へ、小さな火を当ててみろ。


分かりました。


ミレイユは両手を前に出した。


全身に膨大な魔力が集まっていく。


待て。


俺が止めると、ミレイユは慌てて手を下ろした。


今、どれくらいの魔力を使おうとした。


一番弱い火なので、一割ほどです。


一割でこの学院が消し飛ぶ。


昨日使ったのはどれくらいだ。


千分の一くらいです。


俺は少し考え、地面へ小さな丸を描いた。


魔力を減らそうとするな。


減らさなくてよいのですか。


お前は魔力を内側に押し込もうとするから爆発する。必要なのは量を減らすことではなく、余った魔力を別の方向へ流すことだ。


俺は運動場を囲むように溝を掘った。


魔法を使うとき、余分な魔力を地面へ流してみろ。


そんなことをすれば、地面が爆発するのでは。


流すだけなら爆発しない。無理に止めるから、一か所に力が溜まる。


ミレイユは不安そうだったが、再び棒へ手を向けた。


小さな火が生まれる。


同時に、彼女の足元から風が広がり、運動場の土がわずかに震えた。


火は真っ直ぐ飛び、一本目の棒へ当たった。


棒の先端だけが、静かに燃える。


爆発は起きなかった。


ミレイユは目を見開いた。


できました。


初めて、何も壊さず魔法が使えました。


まだ一度成功しただけだ。


それでもミレイユは、泣きそうな顔で燃える棒を見つめていた。


王都魔術学院では、失敗するたび魔力を抑えろと言われ続けていたらしい。


力が大きすぎる者へ、力を小さくしろと教えても意味がない。


大切なのは、大きな力を安全に通す道を作ることだ。


次はセシリアだ。


俺は彼女が腰に下げている剣を指した。


剣を抜いてみろ。


セシリアの顔が強張った。


鞘へ手をかけただけで、指先が震え始める。


無理なら止めてもいい。


いいえ。騎士を目指す者が、剣から逃げるわけにはいきません。


セシリアは歯を食いしばり、剣を引き抜いた。


半分ほど抜いたところで、彼女の膝が崩れる。


俺は倒れる前に身体を支えた。


やはり失神している。


ミレイユが心配そうに駆け寄ってきた。


先生。セシリアは大丈夫でしょうか。


問題ない。眠っているだけだ。


才能鑑定で詳しく見る。


セシリアの感覚は、普通の騎士より何十倍も鋭い。


彼女は剣へ触れた瞬間、その武器が過去に浴びた殺気や恐怖まで感じ取ってしまう。


今使っている剣は、実戦で何人も斬ったものだ。


おそらく家から与えられた古い名剣なのだろう。


だが、今のセシリアには刺激が強すぎる。


俺は運動場の端に落ちていた木の枝を拾った。


しばらくして目を覚ましたセシリアへ、それを差し出す。


今日からお前の剣はこれだ。


木の枝を、ですか。


殺気を持たないものから始める。


しかし、これでは魔物を斬れません。


今のお前は、魔物より先に自分が倒れる。まずは武器へ触れても意識を失わない訓練だ。


セシリアは不満そうに枝を受け取った。


だが、その瞬間。


彼女の表情から恐怖が消えた。


右手で枝を握り、軽く振る。


風を切る音が響いた。


次の一振りでは、十歩離れた草が一直線に倒れた。


ただの木の枝で、剣圧を飛ばしたのか。


本人は何が起きたのか分からず、倒れた草を見つめている。


俺も少し驚いた。


セシリアの才能は、想像していた以上かもしれない。


最後はノエルだ。


俺は腕に小さな傷をつけた。


先生。


慌てるノエルへ傷を見せる。


これを治してみろ。


ですが、私の魔法は人には効きません。


最初から治そうとするな。傷ではなく、俺自身を見ろ。


ノエルは困ったように首を傾げた。


それでも俺の腕へ両手をかざす。


淡い緑色の光が広がった。


傷には何も起きない。


代わりに、近くの角ウサギがさらに元気になり、運動場を跳び回り始めた。


ノエルの顔が曇る。


やはり駄目です。


違う。今、お前は俺ではなく、この場所にいる命すべてへ力を与えた。


治癒ではなく、生命活性。


ノエルが持つのは、傷だけを塞ぐ力ではない。


対象の生命力そのものを高める力だ。


問題は、人間と魔物の区別ではなく、対象を一人に絞れないことにある。


俺はノエルの手を取り、自分の傷へ近づけた。


周りを見なくていい。俺の呼吸だけを感じろ。


先生の、呼吸。


そうだ。俺一人だけへ力を流せ。


ノエルは目を閉じた。


緑色の光が少しずつ細くなる。


運動場全体へ広がっていた光が、一本の糸のようになって俺の腕へ集まった。


傷がゆっくりと塞がっていく。


ノエルが目を開けたとき、そこには薄い跡しか残っていなかった。


治りました。


ああ。


本当に、人を治せました。


ノエルは自分の両手を見つめたまま、動かなくなった。


三人とも、才能がないわけではなかった。


教え方が間違っていただけだ。


ミレイユは魔力を流す。


セシリアは殺気のない武器から慣らす。


ノエルは対象を一人に絞る。


たったそれだけで、三人は初日にできなかったことを成功させた。


俺は運動場に並ぶ三人を見た。


今日の訓練はここまでだ。


もう終わりですか。


ミレイユが残念そうに尋ねる。


学院を直さなければ、今夜から俺たちは空の下で寝ることになる。


三人が一斉に壊れた校舎を振り返った。


そして、なぜか俺を見る。


先生なら、修理もできるのではありませんか。


俺は教師だ。


大工ではない。


そのとき、丘の下から馬車の音が聞こえてきた。


一台ではない。


何台もの馬車が、長い列を作って学院へ向かっている。


先頭を走る馬車には、王国騎士団の旗が掲げられていた。


セシリアが目を細める。


王都からの使者でしょうか。


俺は首を傾げた。


追放されたばかりの俺に、王都が何の用だろう。


やがて馬車は正門の前で止まった。


扉が開き、鎧姿の騎士が慌てた様子で降りてくる。


騎士は俺の姿を見つけると、その場で膝をついた。


アレン先生。


北方遠征軍より、緊急の知らせです。


七人の勇者様が、魔王軍を撃退されました。


無事だったのか。


安堵した俺に、騎士は震える声で続きを告げた。


ですが、王都へ帰還された勇者様方が、先生の追放を知りました。


騎士は一度、言葉を止めた。


そして顔を上げる。


現在、七人全員が王城を占拠しています。


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