第一話 七人の勇者を育てた男は、役立たずとして追放された
七人の勇者を育てた俺は、その七人が魔王軍と戦っている間に、王都から追放されることになった。
王城の謁見室。
新しく即位した国王は、玉座から俺を見下ろしていた。
アレン・クロフォード。本日をもって、そなたを王国育成官の任から解く。
理由は単純だった。
俺自身が、強くないからだ。
俺が持つ才能鑑定は、他人の素質と成長方法を見抜くための能力でしかない。
剣を持てば一般兵以下。
魔法を使っても、小さな火を起こせる程度。
王国育成官としての俺の仕事は、才能のある者を探し、その力を伸ばすことだった。
これまで育てた七人の少女は、勇者、剣聖、聖女、賢者として魔王軍との戦いへ向かっている。
だが、新国王にとって大切なのは、俺が何人育てたかではなかった。
そなたには討伐実績がない。戦場へ出た記録もない。戦えない者へ高額な報酬を支払い続ける理由もない。
国王の隣に立つ宰相が、冷たい声で告げた。
俺が育てた者たちの功績は、評価されないのでしょうか。
王国の施設と資金を使った結果だ。そなたでなくとも同じ成果を出せただろう。
どうやら、七人は最初から優秀だったと思われているらしい。
剣聖エリシアは、剣を振るたび手首を痛めていた。
勇者リリアは、魔力が少なすぎて学院を追い出されかけていた。
聖女セレナは、人前に出ることすらできなかった。
何年もかけて訓練方法を探し、一人ずつ育てた。
だが、ここで説明しても決定は覆らない。
分かりました。
俺が素直に頭を下げると、国王はわずかに眉を動かした。
反論や懇願を期待していたのかもしれない。
代わりに、王都から馬車で十日ほど離れたエルガ村の廃学院を与える。名目上は学院長だ。そこで余生を過ごすがよい。
余生と言われるほどの年齢ではない。
それでも、住む場所まで失うよりはましだった。
俺は王国育成官の銀色の徽章を外し、宰相へ返した。
七人には、戦いが終わってから知らせよう。
遠征中に余計な心配をかける必要はない。
辺境で小さな学校を始めることになった。
元気にしている。
それだけ伝えれば、きっと分かってくれる。
そう考えていた。
◆
十日後。
エルガ村の外れにある丘の上で、俺は廃学院を見上げていた。
石造りの校舎は蔦に覆われ、窓ガラスは割れ、屋根には穴が開いている。
運動場は草原になり、正門は片方が倒れていた。
看板には、かろうじて文字が残っている。
エルガ騎士学院。
生徒数はゼロ。
教師は俺一人。
学院長というより、廃墟の管理人だな。
まずは雨風を防げる部屋を探そう。
倒れた門を越えた瞬間、校舎の二階から爆発音が響いた。
黒い煙が窓から噴き出す。
俺は荷物を置き、急いで校舎へ入った。
煙の出ている教室の扉を開けると、金髪の少女が立っていた。
王都魔術学院の制服を着ているが、袖は焦げ、顔は煤だらけ。
足元では、机が粉々になっていた。
大丈夫か。
怪我はありません。小さな火を出そうとしただけです。
小さな火で、机が一つ消えたらしい。
才能鑑定を使う。
ミレイユ・アストリア。
保有魔力量、測定限界以上。
魔力放出適性、最高。
魔力圧縮適性、最低。
なるほど。
力が強すぎるのに、抑え込む訓練ばかり受けてきたのか。
あなたが、新しい学院長ですか。
そうだ。アレン・クロフォードという。
少女の目が大きく開いた。
七人の勇者を育てた、アレン先生。
なぜ俺の名を知っているのだろう。
そう呼ばれていたこともある。
お願いします。私を、この学院の生徒にしてください。
事情を聞こうとしたところで、廊下から二人の少女が入ってきた。
一人は銀髪の騎士令嬢。
腰に剣を下げているが、その鞘へ触れるだけで顔色が悪くなっている。
もう一人は白い神官服の少女。
腕には、本来なら人間を襲う角ウサギを抱いていた。
角ウサギは傷一つなく、妙に元気そうだ。
私はセシリア・ローゼンベルク。剣を握ると気絶するため、騎士学院を退学になった。
ノエルと申します。治癒魔法が人間には効かず、魔物ばかり元気にしてしまうため、聖女候補から外されました。
ミレイユも、魔法を使うたび周囲を爆破するとして退学になったらしい。
三人とも、昨日から俺を待っていたという。
先代国王が残した命令書により、王都で才能を認められなかった者は、俺の学院への入学を認められていた。
だが、三人を見た俺には分かる。
ミレイユは、魔力を抑えるのではなく、流す方法を覚えるべきだ。
セシリアは、剣に残る殺気を感じ取るほど感覚が鋭い。
ノエルの力は治癒ではない。生命そのものを活性化させる、古い祝福だ。
才能がないわけではない。
今まで、誰も正しい教え方を知らなかっただけだ。
ミレイユが不安そうに尋ねる。
やはり、私たちでは駄目でしょうか。
屋根は壊れている。
机も今、一つ減った。
資金も設備もない。
それでも、俺は久しぶりに胸が躍るのを感じていた。
俺が本当に好きだったのは、完成した英雄を褒めることではない。
誰にも見つけてもらえなかった才能を、見つけることだ。
三人とも、本気で強くなりたいか。
三人が同時に頷いた。
なら、今日から君たちは俺の生徒だ。
ミレイユが満面の笑みを浮かべる。
ありがとうございます、先生。
その瞬間、彼女から大量の魔力が漏れ出した。
喜ぶ前に、力を外へ逃がせ。
分かりました。
ミレイユはなぜか、全力で魔力を内側へ押さえ込んだ。
違う。それは一番やってはいけない。
直後。
学院全体を揺らす轟音が響き、教室の天井が吹き飛んだ。
俺たち四人は、突然広がった青空を見上げる。
先生。入学初日に、教室を壊してしまいました。
大丈夫だ。
屋根は元から壊れていた。
少し穴が大きくなっただけだ。
こうして俺は、役立たずとして追放された十日後、辺境の廃学院で三人の落ちこぼれを教えることになった。
このときの俺は、まだ知らなかった。
遠い北方で魔王軍を退けた七人の教え子たちが、王都へ帰還しようとしていることを。
そして俺の追放を知った彼女たちが、王国からの命令をすべて拒否することになるとは。




