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第二十八話 転移門の向こうには、まだ学校へ行けない子供たちがいた


門の向こうから、大量の子供の声が聞こえます。


クロエから届いた通信に、地下教室が静まり返った。


一人や二人ではない。


どれくらいいる。


分かりません。


声が重なりすぎています。


王都地下で、ゼルドが開こうとしている正体不明の転移門。


その向こうに、大勢の子供がいる。


偶然とは考えにくい。


クロエ。


ゼルドは今、何をしている。


門の前で術式を操作しています。


逃げようとしている様子ではありません。


こちら側へ、何かを呼ぼうとしています。


呼ぶ。


俺はルシアへ視線を向けた。


王都地下の施設図に、転移門の記録はあるか。


ありません。


エドガーも首を横に振る。


私も十年以上あの地下施設で働いていましたが、転移門の存在は知りませんでした。


なら、さらに古い設備か。


そのとき。


壁に白い文字が浮かんだ。


先ほどエルガ学院への入学を希望した、王国管理中枢からのものだった。


旧広域教育転移網を確認。


使用停止から、百六十八年。


接続施設数、七。


七つ。


エルガ学院だけではなかったのか。


俺が尋ねると、文字が続く。


エルガ総合育成学院は、旧広域教育網第一校。


王都分校は第一校所属施設。


残る六校は、現在の王国外に存在。


ルシアが王国地図を広げ、その周囲まで範囲を広げた。


二百年前なら、国境線そのものが現在とは違う。


つまりエルガ学院が作られた頃、この地域には複数の学校があった。


それぞれが、既存の教育では扱えない子供を受け入れていた可能性がある。


現在の状態は。


俺が尋ねる。


第二校、応答なし。


第三校、管理権限喪失。


第四校、稼働中。


第五校、稼働中。


第六校、稼働中。


第七校、稼働中。


四つも動いている。


学院としてか。


回答不能。


嫌な予感がした。


王国では、エルガ学院と王都分校が王国教育院に利用されていた。


他の国でも、同じことが起きていても不思議ではない。


ゼルドの転移門は、どこにつながっている。


検索。


文字が一度消える。


数秒後。


接続先。


旧第四校。


現在名称。


聖アルカナ特別矯正院。


矯正院。


学校ではない。


クロエ。


聞こえているか。


はい。


門を開かせるな。


承知。


ただし、ゼルドを殺すな。


少し間があった。


承知しました。


なぜ今、間を置いた。


何でもありません。


不安だ。


俺はすぐに王都へ向かう準備を始めた。


リリアが立ち上がる。


今度こそ、私も同行します。


今回は戦うためではない。


分かっています。


リリアは真剣な顔で頷いた。


門の向こうに子供がいるのであれば、教師として行きます。


以前なら、迷わず聖剣を抜いていた。


少しは教師らしくなったらしい。


同行は俺、リリア、ルシア、アイラ。


さらに王国管理中枢と接続するため、学院管理人形の小型端末を持っていく。


エリシアが不満そうに尋ねる。


私は。


学院を守れ。


フィオナは。


学院を守れ。


セレナは。


学院を守る。


マリアが手を挙げる前に言う。


お前もだ。


四人が同時に肩を落とした。



クロエが見つけた転移門は、王城よりさらに深い場所にあった。


エルガ学院から旧王都分校を経由して移動し、そこから地下通路を進む。


俺たちが到着したとき。


黒い石で作られた巨大な門が、半分ほど開いていた。


門の表面には、七つの学院紋章。


そのうち四つが赤く光っている。


そして門の前には、教育院長ゼルド。


その背後にクロエが立っていた。


短剣を首元へ向けている。


先生。


お待ちしていました。


よく殺さなかったな。


褒めてください。


あとでな。


少し嬉しそうな顔をした。


ゼルドは抵抗していなかった。


むしろ俺が来ることを待っていたように見える。


アレン学院長。


あなたなら、必ず来ると思っていました。


門を閉じろ。


それはできません。


向こうには子供がいる。


だからこそ開くのです。


ゼルドは門へ手を向けた。


隙間の向こうから、確かに声が聞こえる。


泣き声。


誰かを呼ぶ声。


意味の分からない言葉まで混じっている。


リリアの表情が険しくなる。


何人いるのですか。


現在、四百九十三名。


多すぎる。


何のために集めた。


私ではありません。


ゼルドは初めて、少し疲れたような笑みを浮かべた。


第四校を管理している者たちです。


私が王国で行っていたことなど、彼らに比べれば小規模ですよ。


言い方が気に入らない。


自分がしてきたことが軽くなるわけではない。


もちろん。


ゼルドは否定しなかった。


それでも門を開く理由は。


王国管理中枢が停止したことで、向こう側の施設にも異常が伝わりました。


彼らはエルガ学院を脅威と判断した。


間もなく、四百九十三人の子供へ一斉処分命令が出ます。


アイラの顔が青ざめる。


また、首輪ですか。


似たものです。


ただし第四校では、首輪すら必要ありません。


ゼルドは門の向こうを見る。


施設そのものが、生徒の身体へ直接命令を送るよう改造されています。


俺は門へ近づいた。


隙間の向こうには、白い壁が見える。


何列もの扉。


その扉一つ一つの奥から、子供の声が聞こえていた。


学院管理端末。


接続できるか。


小型端末が青く光る。


旧第四校との接続を試行。


拒否。


再試行。


拒否。


管理権限が完全に書き換えられている。


ゼルドが言った。


向こうには、エルガ学院長の権限は通りません。


では、どうしてお前は門を開けられた。


歴代教育院長が持つ、旧教育監督院の権限です。


皮肉なものです。


あなたが否定した制度の権限が、今は子供を救う唯一の鍵になっている。


ゼルドが自分の手にある黒い鍵を見せる。


クロエ。


取れるか。


すでに取っています。


クロエが同じ形の鍵を持っていた。


いつの間に。


ゼルドまで驚いている。


では、彼が持っているものは。


偽物へ交換しました。


優秀だな。


褒めましたね。


あとでと言ったが、今でいい。


クロエは満足そうに鍵を俺へ渡した。


ゼルドは大きく息を吐く。


あなたの教え子は、本当に恐ろしい。


教師としては、まだ勉強中だ。


俺は鍵を学院管理端末へ近づける。


旧教育監督院権限を確認。


第四校への緊急立入権を取得。


門がさらに開き始めた。


だが、その瞬間。


向こう側から鋭い警告音が鳴った。


不正侵入を確認。


全生徒を処分対象へ変更。


アイラが叫ぶ。


先生。


向こうに、糸が見えます。


何本だ。


アイラは門の向こうを見つめる。


すぐには答えなかった。


やがて震える声を出す。


四百九十三本。


全部、建物につながっています。


一本ずつ外す時間はない。


ルシア。


門越しに術式を共有できるか。


距離ではなく、別の管理領域なので難しいです。


なら、向こうへ行くしかない。


リリアが俺の前へ出た。


先生より先に私が。


待て。


門の向こうがどうなっているか分からない。


だから私が。


戦う場所ではない。


俺は門の奥を見る。


四百九十三人。


全員を今すぐエルガ学院へ連れて帰るのは不可能だ。


助けたとしても、別の国の子供たちなら家族もいる。


俺たちが勝手に奪うわけにもいかない。


まず処分命令を止める。


その後、子供一人ずつに何を望むか聞く。


ゼルドが小さく笑った。


四百九十三人全員へですか。


ああ。


時間が、どれだけかかっても。


教師の仕事だ。


俺が門をくぐろうとしたとき。


向こう側から、一人の少女が飛び出してきた。


十二歳ほど。


黒い制服。


裸足。


腕には何本もの魔法文字が刻まれている。


少女はその場で転び、必死に這いながらこちらへ手を伸ばした。


助けて。


リリアがすぐに抱き起こす。


少女は震えながら門の奥を指した。


先生が。


俺はまだ何も名乗っていない。


誰のことだ。


私たちの先生。


少女は泣きながら答えた。


一人だけ、ずっと私たちを逃がそうとしてくれていた先生がいます。


でも今。


処分命令に逆らったから。


あの人も、生徒と一緒に処分されます。


少女の腕にある魔法文字が赤く光り始める。


学院管理端末が警告を発した。


第四校、生徒処分開始まで。


残り十分。


四百九十三人だけではなかった。


その子たちを守ろうとしている教師まで。


門の向こうで、俺たちを待っていた。


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