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第二十六話 処刑命令を受けた者たちは、まず証拠を求めた



才能検査に協力しなかった教師と家族を、反逆者として処刑する。


命令が出されるのは、明日の朝。


エミルから届いた手紙を読み終えたレオンは、しばらく動かなかった。


学院長室には、俺とレオン、クラリス、ガレス、七人の教え子が集まっている。


王国各地で才能検査へ立ち会っている教師は、百八十六人。


協力した家族や神官、騎士まで含めれば、処刑対象が何人になるか分からない。


先生。


勇者リリアが立ち上がる。


今度こそ、王城へ向かうべきです。


ゼルド一人を捕らえれば、命令は止まります。


教育院長を捕らえることには反対しない。


ただし、ゼルドだけを止めても同じことは起きる。


命令を出した者がいなくなっても、命令を疑わず実行する者が残れば意味がない。


処刑命令を受け取るのは、各地の騎士や役人だ。


その全員へ、ゼルドが直接術式を刻んでいるとは限らない。


王命だから。


上官が言ったから。


逆らえば自分が処罰されるから。


それだけで、教師や家族を捕らえる者もいるだろう。


では、どうするのですか。


命令が出る前に、受け取る側へ準備をさせる。


俺は黒板へ三つの文章を書いた。


誰が罪を犯したのか。


どんな証拠があるのか。


本人へ説明する機会を与えたのか。


処刑命令を受け取った者には、この三つを確認してもらう。


証拠がなければ、命令の執行を止める。


それは王命への反抗になります。


クラリスが静かに指摘した。


ああ。


だから俺が命令するのではない。


実行する者自身に選んでもらう。


王命へ従うか。


目の前にいる罪のない人間を守るか。


その責任まで、こちらで引き受けることはできない。


ガレスは黒板を見つめた。


以前の私なら、王印のある命令書を見た時点で教師を拘束していたでしょう。


今は違うか。


分かりません。


ガレスは正直に答えた。


王命へ逆らえば、部下や家族まで危険になるかもしれません。


それでも、証拠もなく人を処刑する命令には従えない。


なら、自分の言葉で各地の騎士へ伝えろ。


俺はガレスへ通信室を任せた。


元王国騎士団長として命じるのではない。


服従術式を刻まれ、知らないうちに仲間へ剣を向けた一人の騎士として話してもらう。


クラリスは教師たちへ連絡。


各地の検査会場で起きたことを、正確に記録してもらう。


危険指定された子供の名前。


能力。


教師が何を確認したか。


本当に誰かを傷つけたのか。


王都への移送を拒んだ理由。


証拠が残っていれば、反逆ではなく教育上の判断だったと示せる。


アイラとルシアには、王命の鐘へつながる服従術式の監視を頼んだ。


命令そのものを消す必要はない。


無理に操られようとしている者だけ、術式を弱める。


そしてレオン。


俺が名前を呼ぶと、彼は顔を上げた。


お前は、どうする。


王都へ戻る。


迷いのない答えだった。


王位を取り戻すためか。


違う。


レオンは砕けた王印の欠片を机へ置いた。


私が王だったときに作った仕組みが、エミルと国民を苦しめている。


王位を取り返すだけなら、また弟から選ぶ権利を奪うことになる。


私は、自分が命令した側の人間として王都へ戻る。


そして皆の前で、アレンを追放した判断が誤りだったと認める。


王国の制度が、王へ考えさせない仕組みになっていたことも。


自分がそれへ甘えていたことも話す。


俺は少しだけ考えた。


戻れば、ゼルドに捕らえられる可能性がある。


分かっている。


処刑されるかもしれない。


それでも行く。


逃げるために学院へ残ることは認めない。


俺に言われた言葉だ。


レオンは自分で決めた。


なら、止める理由はない。


ガレスとクロエを同行させる。


七人の教え子全員が、自分も行くと名乗り出た。


だが王城を囲めば、レオンが力で王位を奪いに来たように見える。


同行は二人だけだ。


クロエは手紙を届けた通路を知っている。


ガレスは王国騎士へ話ができる。


先生は。


俺は学院へ残る。


各地の教師と家族を守る必要がある。


リリアたちは、明日の才能検査へ予定どおり参加する。


何かあっても、勝手に王城を占拠しないこと。


七人は不満そうだったが、最後には頷いた。



夜のうちに、エルガ学院から王国各地へ記録が送られた。


ハンナが橋を救った映像。


人を眠らせる少女が患者の痛みを和らげた報告。


動物の感情を読む少年が、怪我をした馬を見つけた記録。


王都地下から救出された四十八人の証言。


そして教育院が使用していた首輪と服従術式の設計図。


ガレスは各地の騎士へ、自分の経験を語った。


私は命令へ従うことが騎士の正しさだと思っていた。


その結果、自分でも知らないうちに子供のいる学院へ剣を向けた。


王命を無視しろとは言わない。


だが、剣を抜く前に確かめてほしい。


目の前にいる者が、本当に罪を犯したのか。


その言葉を受け取った騎士たちは、すぐには返事をしなかった。


それでも夜が明ける頃には、各地から短い通信が届き始めた。


証拠を確認するまで拘束しない。


教師本人から事情を聞く。


家族を処罰対象にはしない。


王都へ、命令の根拠を問い合わせる。


誰もエルガ学院へ従うとは書かなかった。


自分の判断として、執行を止めると答えた。


それでよかった。



朝。


王城の大広間には、貴族、騎士、官僚が集められていた。


十二歳のエミルは玉座へ座っている。


首の黒い紋章は、昨日より濃くなっていた。


その隣には教育院長ゼルド。


手には、王国全土へ送る処刑命令書がある。


読み上げなさい。


ゼルドが告げる。


エミルは紙を受け取った。


才能検査を妨害した教師と、その協力者を反逆者として拘束する。


抵抗した場合は、その場で処刑する。


書かれた言葉を見つめる。


首の紋章から命令が流れ込む。


読め。


逆らうな。


考えるな。


エミルの唇が動いた。


王国に属するすべての騎士、役人へ命じる。


大広間の魔道具が彼の声を王国全土へ伝える。


ゼルドが満足そうに微笑んだ。


才能検査へ協力しなかった教師と家族を。


エミルの声が止まる。


黒い紋章が強く光り、首から血が流れた。


それでも少年は紙から顔を上げた。


罪を証明する記録がないまま、拘束してはならない。


大広間がざわついた。


ゼルドの表情が変わる。


命令書どおりに読みなさい。


これが、僕の命令です。


エミルは震える手で紙を破った。


教師や家族が反逆者だというなら、王国は証拠を示さなければならない。


本人へ説明する機会も与えなければならない。


それまですべての処刑を禁じる。


ゼルドが術式を最大まで強めた。


エミルの身体が玉座へ押しつけられる。


口が勝手に動こうとする。


だが少年は歯を食いしばり、自分の声を守った。


僕は王になりたいと思ったことはない。


兄上からの手紙を読んで、初めて考えました。


それでも今、王の椅子に座っているなら。


少なくとも、罪のない人を殺す命令だけは出さない。


首の紋章へ、二本目の亀裂が走った。


その瞬間。


大広間の入口が開いた。


学院の灰色の制服を着たレオンが、ガレスとともに入ってくる。


王冠も剣も持っていない。


レオン。


ゼルドが低い声を漏らす。


王位を奪い返しに来たのですか。


違う。


レオンは玉座ではなく、集まった人々へ向き直った。


私は、前国王レオン・アルバート。


自分で確かめることをせず、アレン・クロフォードを役立たずとして追放した。


教育院の言葉だけを信じ、王国中の人間へ影響する決定を下した。


その責任は、術式だけのせいにはできない。


レオンは大広間の中央で膝をついた。


私は王として命令するためではなく。


自分の過ちを証言するために戻った。


ざわめきがさらに大きくなる。


騎士たちは、ゼルドとレオンを交互に見た。


ゼルドが叫ぶ。


二人とも、エルガ学院に洗脳されています。


反逆者を拘束しなさい。


誰も動かなかった。


近衛騎士団長が、剣へ手を置いたまま尋ねる。


教育院長。


前国王と現国王が反逆者である証拠を、お示しください。


ゼルドの顔が固まる。


命令です。


証拠を。


別の騎士も声を上げた。


才能検査へ協力した教師が、誰を傷つけたのですか。


王都地下に拘束されていた子供たちは、なぜ首輪をつけられていたのですか。


命令を受け取るだけだった者たちが。


初めて命令した者へ理由を求めていた。


ゼルドは周囲を見回す。


誰一人として、すぐには従わない。


その目に、怒りではなく恐怖が浮かんだ。


ならば。


ゼルドは懐から黒い魔石を取り出した。


王国全土に埋め込まれた服従術式を、強制起動させるための中枢魔石。


王命が役に立たないのなら。


全員から、選ぶ力そのものを奪えばよい。


黒い魔石が砕かれた。


王都の地下から、巨大な黒い光が立ち上る。


アイラがエルガ学院で顔を上げた。


先生。


王国中の黒い糸が、一本につながりました。


その先にあるのは。


王城ではありません。


アイラは震える指で、王都のさらに地下を示した。


王国全土の人間を操る、本当の中枢が目を覚まそうとしています。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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