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第二十話 四十八人の子供は、誰一人として敵ではない



アレン・クロフォードを殺しなさい。


教育院長ゼルドの命令が、施設全体へ響いた。


首に金属の輪をつけた四十八人の子供たちが、同時に動き出す。


炎。


氷。


風の刃。


飛び道具。


小さな身体から放たれたとは思えない攻撃が、狭い通路を埋め尽くした。


ルシア。


はい。


賢者ルシアが杖を床へ突き立てる。


半透明の壁が広がり、すべての魔法を受け止めた。


激しい衝撃で、物置に積まれていた箱が次々と倒れる。


先生。


この子たち、全員が能力を限界以上まで使わされています。


分かっている。


子供たちの動きは速い。


だが、正確ではなかった。


身体が壊れることを無視して、首輪から流れ込む命令に従っているだけだ。


一人の少年が短剣を握り、結界の隙間から飛び込んでくる。


エリシア。


剣聖エリシアは剣を鞘から抜かなかった。


鞘の先で少年の手首を軽く打ち、短剣だけを落とす。


そのまま少年の身体を受け止めた。


ごめんなさい。


少年の口から、小さな声が漏れた。


謝る必要はない。


俺は少年の目を見る。


お前が望んでやっていることではない。


少年の瞳には、まだ意識が残っている。


身体を止められないだけだ。


首輪が赤く光る。


少年はエリシアの腕の中で暴れ、俺へ手を伸ばそうとした。


アイラ。


はい。


少年の命令部分だけを外せるか。


アイラの紫色の瞳が首輪を見つめる。


糸が多すぎます。


一人の首輪に、何十もの命令が重ねられています。


抵抗するな。


命令へ疑問を持つな。


逃げようとするな。


教育院長に従え。


そして、アレン・クロフォードを殺せ。


今まで何年もかけて、子供たちの意思を縛ってきたのだろう。


最後の命令だけ外せ。


アイラが指を伸ばす。


だが、その直前。


四十八個の首輪すべてが強く光った。


エドガーが叫ぶ。


触れてはいけません。


一つの命令を外せば、処分術式が起動します。


アイラが慌てて手を止める。


ゼルドの笑い声が通信魔道具から聞こえた。


よく理解していますね、エドガー。


あなたが作った、とても優秀な首輪です。


エドガーは唇を噛んだ。


命令部分と処分術式が複雑に絡み合っています。


無理にほどけば、装着者の魔力回路が焼き切れます。


では、首輪に触れず止めるしかない。


クロエ。


はい。


子供たちの武器を奪え。


影の英雄クロエの姿が消える。


次の瞬間、子供たちが持っていた剣、短剣、杖が次々と床へ落ちた。


それでも攻撃は止まらない。


素手で魔法を放つ者。


爪や牙を使う獣人。


身体そのものを石や炎へ変える者。


どの子も、王都では危険と判断されるほど大きな才能を持っている。


だが、本人たちは泣いていた。


嫌だ。


止まりたい。


ごめんなさい。


苦しい。


攻撃を続けながら、何度も謝っている。


俺は結界の外へ出た。


先生。


ルシアが俺の腕をつかむ。


結界から出れば危険です。


中にいても、何も解決しない。


俺が一歩進むと、四十八人の攻撃が集中した。


エリシアとクロエが前へ出る。


氷の槍を砕き、炎を切り裂き、飛んできた石を弾く。


一人の少女が俺へ向かって雷を放った。


アイラが反射的に手を伸ばす。


雷の術式が途中でほどけ、光だけが通路を照らした。


少女は自分の両手を見つめる。


殺さずに済んだことへ、ほんの少し安堵した顔をした。


聞こえるか。


俺は四十八人へ呼びかける。


返事をしなくていい。


身体を止められなくてもいい。


ただ、俺の声だけを聞け。


子供たちは攻撃を続けている。


だが、何人かの視線が俺へ向いた。


お前たちは、俺を傷つけたいのか。


違う。


小さな声が聞こえた。


一人ではない。


何人もの子供が、苦しそうに首を横へ振っている。


なら、お前たちは敵ではない。


命令されていることと、自分が望んでいることは違う。


身体が従っていても、心まで命令へ渡す必要はない。


ゼルドの声が響いた。


無意味です。


彼らは何年も教育を受けています。


教師の甘い言葉などでは、命令を覆せません。


その言葉を聞き、俺は天井の通信魔道具を見上げた。


お前は、これを教育と呼ぶのか。


もちろんです。


危険な力を正しく使わせるには、従わせる必要があります。


違う。


従わせなければ扱えないのは、教師に教える力がないからだ。


通信魔道具の向こうで、ゼルドが黙った。


俺は四十八人を見る。


炎を持つ少女。


影を操る少年。


身体から毒を生み出す獣人。


触れた物を凍らせる幼い子。


能力は違う。


だが、全員が自分の力を怖がっている。


俺がエルガ学院で最初に出会った生徒たちと同じだ。


アイラ。


はい。


命令を外す必要はない。


少女が戸惑う。


では、どうすれば。


首輪が命令を伝えるには、子供たちの魔力へ接続する必要がある。


その接続部分だけ、緩められるか。


完全に外すのではなく、命令が届く量を少しずつ減らす。


アイラは四十八人の首輪を見つめた。


できます。


ですが、一度に全員は。


一人でやる必要はない。


ルシア。


俺が呼ぶと、賢者はすぐに意図を理解した。


アイラが見つけた接続部分を、私が共有します。


ルシアは床へ巨大な魔法陣を描いた。


アイラの見ている術式を、四十八人分の首輪へ重ねて映し出す。


無数の赤い糸が、空中へ現れた。


アイラが一本へ触れる。


ルシアの魔法陣を通じ、四十八本の同じ場所が光った。


少しだけ緩めろ。


アイラが指を動かす。


子供たちの動きが、一瞬鈍くなる。


首輪は異常を検知していない。


命令はまだ残っている。


ただ、身体を完全に支配するほど強く届かなくなった。


もう一度だ。


アイラがさらに接続を緩める。


一人の少女が、振り上げていた杖を止めた。


腕は震えている。


首輪から命令を送られ続けている。


それでも、自分の意思で抗おうとしていた。


できる。


俺は少女へ告げる。


命令へ勝つ必要はない。


自分が本当にしたいことを、一つだけ選べ。


少女は涙を流しながら、杖を床へ置いた。


その瞬間。


彼女の首輪から伸びていた命令の糸が、一本だけ切れた。


アイラは触れていない。


少女自身が命令を拒否したのだ。


一人が止まる。


その姿を見て、隣の少年も拳を下ろした。


続いて二人。


三人。


十人。


首輪に支配されながら、子供たちは自分の意思で攻撃を止めていく。


ゼルドの声が荒くなった。


命令強度を最大へ。


四十八個の首輪が赤く輝いた。


子供たちが苦しそうに頭を押さえる。


処分術式の一部が動き始めている。


エドガー。


中央制御室はどこだ。


この通路を直進し、階段を二つ下りた先です。


クロエ。


行け。


黒い影が一瞬で消える。


エリシアも続こうとしたが、俺は止めた。


ここで子供たちを守れ。


クロエ一人で大丈夫でしょうか。


扉があれば斬れないと困る。


エリシアが真剣に言う。


クロエなら鍵を探す。


扉を何でも斬ろうとするな。


数秒後。


施設全体の照明が消えた。


すぐに予備灯がつく。


クロエの声が通信魔道具から聞こえた。


中央制御室へ到着。


早いな。


扉は。


開いていました。


ゼルドは。


いません。


制御装置だけが動いています。


教育院長は、施設の外から操作していたらしい。


止められるか。


破壊なら。


壊すな。


アイラが解除するまで、命令を弱めるだけでいい。


承知。


クロエが制御装置の魔力供給を絞る。


首輪の赤い光が弱くなった。


今だ。


アイラ。


はい。


接続部分をすべて外せ。


少女が両手を広げる。


ルシアの魔法陣を通じ、四十八個の首輪へ同時に干渉する。


一本。


二本。


何年も絡みついていた命令の糸が、次々とほどけていく。


服従。


恐怖。


処罰。


教育院長への忠誠。


最後に残ったのは、処分術式だった。


これは外すな。


俺が止める。


今すぐ作動しないなら、あとで一人ずつ安全に解除する。


アイラは頷き、処分術式だけを残した。


四十八人の身体から力が抜ける。


床へ倒れそうになった子供たちを、エリシアとルシアが支えた。


誰も死んでいない。


大きな怪我をした者もいない。


命令から解放された四十八人は、しばらく自分の手足を見つめていた。


やがて最初に杖を置いた少女が、俺へ尋ねる。


もう、誰かを傷つけなくていいのですか。


ああ。


命令を聞かなくても、罰を受けませんか。


受けさせない。


少女はその場へ座り込み、声を上げて泣き始めた。


それをきっかけに、他の子供たちも泣き出す。


長い間、泣くことさえ許されていなかったのかもしれない。


俺は四十八人の前へ座った。


すぐに何かを決めなくていい。


まずは休もう。


食事をして、眠って、その後で自分がどうしたいか考えればいい。


一人の少年が恐る恐る尋ねる。


帰る場所が、ありません。


なら、エルガ学院へ来るか。


学校。


行くかどうかは、自分で選べる。


来なくてもいい。


別の場所を探したいなら、それも手伝う。


四十八人は顔を見合わせた。


命令ではなく、自分で決める。


それだけのことが、彼らには初めてだった。


先ほどの少女が、小さく手を挙げる。


私は、その学校へ行きたいです。


一人が答える。


すると、また一人。


さらに一人。


最終的に四十八人全員が、エルガ学院へ行くことを希望した。


俺はエドガーへ告げる。


転移室を使えるようにしてくれ。


はい。


エドガーが古い施設図を広げる。


そのとき。


通信魔道具から、ゼルドの声が再び聞こえた。


お見事です、アレン学院長。


怒っている様子はなかった。


むしろ、満足しているような声だった。


子供を失ったのに、ずいぶん余裕があるな。


失ったとは思っていません。


彼らは、優秀な教師のもとへ移っただけです。


何を言っている。


ゼルドは静かに笑った。


四十八人の首輪を外さず、エルガ学院へ連れて帰る。


あなたなら、そうすると分かっていました。


俺は首輪を見る。


処分術式だけを残している。


アイラ。


少女がすぐに首輪を確認した。


さっきまでなかった糸があります。


どこへつながっている。


アイラの顔が青ざめる。


エルガ学院です。


首輪の内部に隠されていた新しい術式。


四十八人がエルガ学院へ入った瞬間、学院の中央魔力炉へ接続する命令が刻まれていた。


ゼルドの声が続く。


どうぞ、四十八人を迎えてください。


その子たち全員が。


あなたの学院を内側から破壊する鍵なのです。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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