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第十九話 四十八人の生徒を、迎えに行く



王都地下には、今も四十八人の子供が拘束されています。


宮廷魔導技師エドガーは、床へ額をつけたまま続けた。


私が逃げたことで、教育院長は施設ごと子供たちを処分するつもりです。


処分まで、どれくらいある。


最終命令が出されるのは、今夜です。


現在は昼過ぎ。


王都まで馬車なら十日。


古竜で飛んでも、急げば半日近くかかる。


間に合うかどうかは微妙だった。


転移魔法は使えないのか。


賢者ルシアが尋ねる。


王都地下の施設には、転移を妨害する結界があります。


エドガーは箱から、王都地下の図面を取り出した。


施設は教育院本部の真下。


地下十二階まであり、子供たちは最下層の居住区画へ集められている。


表向きは、危険な魔道具を保管する倉庫。


実際は、危険な才能を持つ子供を拘束し、服従術式を刻むための場所だった。


施設が襲撃された場合、教育院長は中央制御室から処分命令を出せます。


どんな命令だ。


すべての拘束具へ魔力を流し、装着者の魔力回路を焼き切ります。


教室の空気が一瞬で冷えた。


リリアが聖剣を抜く。


今すぐ王都へ向かいます。


待て。


一刻を争います。


だからこそ、何も考えず突入するな。


四十八人全員が拘束具を身につけている。


正面から施設を攻撃すれば、教育院長は迷わず処分命令を出すだろう。


クロエがエドガーの背後へ立つ。


中央制御室だけを先に制圧します。


不可能です。


エドガーは首を横に振った。


教育院長以外が扉を開ければ、処分命令が自動で発動します。


なら、外から術式を壊す。


ルシアが図面を受け取る。


それも危険です。


拘束具の術式が一つでも消えれば、残りすべてが起動する仕組みです。


アイラが不安そうに自分の手を見る。


私が触っても。


一つずつでは間に合いません。


完全に逃げ道を塞いでいる。


子供たちを守るための施設ではない。


逃がさないためだけに作られた牢獄だ。


俺は図面を詳しく確認した。


地下施設の壁。


魔力炉。


空調設備。


水路。


古い魔力路。


その一部に、見覚えのある紋章が刻まれていた。


王冠と鎖ではない。


エルガ総合育成学院と同じ、開かれた本を模した紋章だ。


この施設は、最初から教育院が作ったものではないのか。


エドガーが顔を上げる。


ご存じだったのですか。


王都地下特別育成所は、もともとエルガ学院の王都分校だったそうです。


百年以上前、王国が接収し、現在の施設へ改造しました。


なら、学院側の権限が残っている可能性がある。


俺は学院管理人形へ向き直った。


王都分校との接続は残っているか。


管理人形の目が青く光る。


旧王都分校を確認。


通信接続、遮断。


転移接続、封印。


管理権限、王国側により不正変更。


不正変更。


その言葉に、ルシアの目が輝いた。


先生。


ああ。


学院の施設を王国が勝手に書き換えたのなら、正式な学院長権限で取り戻せるかもしれない。


転移接続を復旧できるか。


王都分校側の接続点が必要です。


エドガー。


俺が呼ぶと、男はすぐに頷いた。


施設内に、古い転移室があります。


現在は物置として使われていますが、紋章も残っています。


接続点へ入れるか。


私の技師権限なら、転移室までの扉は開けられます。


ただし、私は王都を出た時点で追跡対象になっています。


施設へ近づけば、気づかれます。


近づく必要はない。


俺はエドガーの持つ技師用の魔力鍵を受け取った。


学院管理人形へ渡す。


これを通して、王都分校の接続点へ干渉できるか。


解析を開始。


短い沈黙。


接続可能。


復旧まで、二十七分。


間に合う。


俺は教室にいる全員を見回した。


王都へ向かう者を決める。


七人の教え子が、一斉に前へ出た。


全員は連れていかない。


先生。


今回は四十八人の救助だ。


王都側がこちらの学院を襲う可能性もある。


リリア、フィオナ、セレナ、マリアはここへ残れ。


リリアが納得できない顔をする。


先生の護衛は。


エリシア、ルシア、クロエを連れていく。


さらにアイラとエドガー。


ガレスも同行を希望した。


教育院長の服従術式を受けた騎士として、直接確かめたいらしい。


お前はここで二百人の騎士をまとめろ。


しかし。


王都から命令を受けても、今度は自分で判断できるな。


ガレスは一度黙り、深く頭を下げた。


承知しました。


俺たちがいない間、生徒を守ります。


準備を始める。


ルシアは転移後に使う防御術式を確認。


クロエは武器を服の中へ隠そうとして、学院管理人形にすべて没収された。


エリシアは剣を置くよう言われても、最後まで抵抗した。


相手を斬るためではありません。


何のためだ。


先生の前にある扉を斬るためです。


普通に開ければいい。


アイラは拘束具の術式を見分ける練習を始めた。


エドガーが持ってきた金属の輪を使い、処分命令と服従命令を別々にほどく。


一度目は輪そのものが消えた。


二度目は服従命令だけが外れた。


三度目には、外見を変えず処分命令だけを無効化した。


成功です。


少女は小さく息を吐く。


これなら、教育院長に気づかれません。


四十八人すべてへ同時にできるか。


同じ術式なら。


アイラは真剣な表情で頷いた。


やってみます。


俺はアイラの頭へ手を置く。


無理だと思ったら、すぐに言え。


失敗しても、お前一人の責任にはしない。


はい、先生。


転移接続の復旧まで、残り三分。


学院の生徒たちが、地下転移室の前へ集まっていた。


ミレイユが俺へ近づく。


先生。


何だ。


新しい生徒を、連れて帰ってくるのですよね。


まだ入学すると決まったわけではない。


ですが、帰る場所がない子供たちなのでしょう。


ミレイユは当然のように答えた。


それなら、きっとこの学校へ来ます。


後ろでは、生徒たちが四十八人分の寝床を準備していた。


生活班は夕食の量を増やしている。


ノエルは治療室に寝台を並べ、テオは地下寮まで安全に歩ける道を確認していた。


まだ会ったこともない子供たちを、全員が新しい仲間として迎えるつもりらしい。


俺は生徒たちへ告げた。


行ってくる。


先生。


ティナが小さな声で俺を呼ぶ。


百年以上前、王都へ連れていかれた子たちも。


分かっている。


記録が残っているか、必ず確かめる。


ティナは工具を握ったまま、深く頭を下げた。


学院管理人形の声が響く。


旧王都分校との転移接続を復旧。


現学院長権限による、緊急立入を実行します。


床に巨大な光の輪が広がった。


俺、エリシア、ルシア、クロエ、アイラ、エドガーが中へ入る。


光が強くなる。


リリアたちの姿が見えなくなり、次の瞬間。


俺たちは、暗い物置の中へ立っていた。


積まれた箱。


壊れた机。


埃をかぶった古い学院の紋章。


王都地下特別育成所。


その内部へ入ることには成功した。


だが、転移した直後から警報が鳴り響いていた。


侵入者を確認。


全職員へ通達。


学院長権限による不正侵入が発生。


自分たちで権限を書き換えておきながら、正式な学院長を不正侵入扱いしているらしい。


施設全体へ、冷たい男の声が響いた。


アレン・クロフォード。


教育院長ゼルドの声だった。


やはり、あなたは来ましたか。


俺は天井にある通信魔道具を見上げる。


子供たちを解放しろ。


それはできません。


彼らは王国の未来を支える、貴重な資源です。


子供は資源ではない。


教師らしく、甘い考えです。


ゼルドは静かに笑った。


では、あなたの教育が正しいのか試しましょう。


最下層にいる四十八人へ、すでに命令を出しました。


通路の奥から、何人もの足音が聞こえてくる。


エドガーの顔が青ざめた。


子供たちは普段、拘束室から出られないはずです。


今は違うようだ。


物置の扉がゆっくりと開く。


その向こうには、白い服を着た子供たちが並んでいた。


四十八人全員。


首には金属の輪。


目には光がなく、それぞれが魔法や武器を構えている。


ゼルドの声が響く。


最初の命令です。


アレン・クロフォードを殺しなさい。


四十八人の子供たちが、一斉に俺たちへ襲いかかってきた。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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