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第十八話 王都へ乗り込む前に、授業を始めます



王国教育院長。


ゼルド・ヴァルハイム。


アレン・クロフォードの排除を最優先とする。


名簿に残された一文を読んだ直後、地下室の空気が変わった。


最初に動いたのはクロエだった。


では、消してきます。


待て。


王都までなら、今夜中に戻れます。


戻る時間の問題ではない。


クロエはすでに壁の影へ半分溶け込んでいる。


俺が止めなければ、本当に教育院長の寝室まで侵入するつもりだろう。


ルシアも杖を持ち上げた。


転移魔法を使えば、全員で王都へ向かえます。


何をするつもりだ。


教育院を包囲します。


王城を占拠したばかりだろう。


今回は教育院です。


建物が違えばいいという話ではない。


フィオナは古竜ヴァルガスへ連絡するため、竜笛を取り出している。


エリシアは無言で剣の手入れを始めた。


セレナは祈るように両手を組んでいるが、足元には大規模な拘束用聖法陣が広がっている。


マリアの背後には、王都へ向かいたそうな風の精霊が集まっていた。


リリアだけは動かなかった。


先生。


何だ。


ゼルドという者を、生きたまま連れてくればよいのですね。


一番危険なのはリリアかもしれない。


誰も王都へ行かない。


七人が同時に俺を見る。


先生のお名前まで書かれています。


だからこそだ。


俺の名前が書かれているだけでは、ゼルド本人が命令した証拠にはならない。


名簿を偽造されたと言われれば終わる。


クロエが小さく首を傾げた。


本人へ直接確認します。


確認の方法を聞くのが怖い。


俺たちの目的は、教育院長を倒すことではない。


百年以上前に連れ去られた生徒たちに何が起きたのか。


現在も王都で誰が服従術式を使われているのか。


そして、今も閉じ込められている子供がいるのか。


それを確かめることだ。


力ずくで教育院へ入れば、証拠を消される。


人質がいれば危険にさらすことにもなる。


リリアたちは不満そうだったが、武器を下ろした。


では、どうされるのですか。


まず調べる。


俺は古い生徒名簿を持ち上げた。


ちょうど授業に使える資料もある。


授業。


ガレスが名簿と俺を交互に見る。


王国の陰謀を調べることが、授業になるのですか。


知らないことを調べ、自分で答えを見つける。


立派な授業だ。


俺たちは最下層から、大教室へ移動した。


騎士二百人。


子供の生徒百十七人。


英雄七人。


教育執行人三十二体。


全員を一度に入れると、大教室でも狭くなった。


俺は黒板へ三つの項目を書く。


一、移送された生徒の行方。


二、服従術式の仕組みと対象者。


三、現在の王都地下施設の場所。


この三つを調べる。


ただし、王都へ直接乗り込むことは禁止だ。


七人の教え子たちが、明らかに残念そうな顔をした。


調査は班ごとに行う。


ルシアとアイラは、服従術式の解析。


ティナと教育執行人は、百年前の施設記録を調べる。


テオと騎士団は、王都へ続く地下の魔力路を追う。


クラリスは現在の教育院の予算と人員記録を確認。


クロエ。


はい。


王都へ行くことは禁止だ。


まだ何も言っていません。


顔を見れば分かる。


クロエには、学院周辺へ監視者がいないか調べてもらう。


不満そうだが、彼女にしかできない仕事だ。


残るリリアたちは。


先生の護衛をします。


リリアが即答した。


調査をしなさい。


では、先生を護衛しながら調査します。


俺は五人へ、古い卒業生と関係者の記録を渡した。


現在も存命の長命種がいるかもしれない。


各地の精霊や竜、神殿の記録から情報を集めてもらう。


直接戦うより難しい仕事だが、五人は真剣に資料を受け取った。


授業開始から一時間後。


最初に成果を出したのは、意外にも教育執行人たちだった。


三十二体が壁際へ整列し、同時に古い記録を読み取っている。


教育執行人一号が手を挙げた。


質問を許可する。


我々の内部に、移送記録の一部が残されています。


見せてくれ。


一号の胸部から、古い映像が投影された。


映っていたのは、百年以上前の地下教室。


子供たちが一人ずつ椅子へ座らされ、頭に金属の輪を取り付けられている。


王国への忠誠。


命令への服従。


自分の能力を王国のために使うこと。


同じ言葉を、何度も聞かされていた。


ティナが俺の服をつかむ。


あの子。


映像の端に、小さな地精族の少年がいる。


知っているのか。


同じ教室にいた、友達です。


ティナの声が震えた。


ある日、王都の学校へ移ると言われて。


帰ってこなかった。


映像の日付を確認する。


その少年が学院から移送された三日後だった。


教育執行人一号が記録を進める。


再教育完了者を、王国各機関へ配属。


騎士団。


教育院。


神殿。


財務院。


宮廷魔術師団。


子供たちは消されたのではない。


考え方を書き換えられ、王国の中へ送り込まれていた。


その子孫や弟子たちへも、同じ教育が受け継がれた可能性がある。


ガレスの顔が険しくなる。


王国の主要機関が、百年以上前から影響を受けているということですか。


可能性はある。


だが、全員が敵というわけではない。


映像の子供たちも被害者だ。


現在の騎士や官僚の中には、服従術式を知らず受け継いだ者もいるだろう。


そのとき、アイラがルシアの袖を引いた。


先生。


黒い糸のことか。


違います。


アイラは教育執行人が映した映像へ近づいた。


この金属の輪。


少女たちの頭につけられていた装置を指す。


私が閉じ込められていた場所にもありました。


現在も使われているのか。


はい。


毎晩、つけられていました。


アイラは自分の頭を押さえた。


でも私が触ると壊れるので、何度も新しいものへ交換されました。


ルシアが映像の術式を拡大する。


装置には、製作者を示す魔力署名が残っていた。


古い署名の上へ、修理や改良をした者たちの署名が重なっている。


一番新しい署名。


製造日は、わずか半年前。


クラリスが王国教育院の職員名簿を開いた。


署名の持ち主を探す。


すぐに一人の名前が見つかった。


宮廷魔導技師。


エドガー・ロム。


教育院長ゼルド直属の魔道具開発責任者。


現在の所在は。


三日前、王都から姿を消しています。


クラリスは別の書類を見た。


家族も、同じ日に王都を出ています。


証拠を持って逃げたのか。


消された可能性もあります。


教室が静かになる。


クロエ。


返事はなかった。


先ほどまで壁際にいたはずの彼女が消えている。


王都へ行くなと言ったばかりだ。


先生。


声は天井から聞こえた。


クロエが梁の上から一枚の紙を落とす。


学院の外で捕まえました。


何を。


直後。


教室の扉が開いた。


騎士二人に支えられ、痩せた中年の男が入ってくる。


泥だらけの外套。


抱えているのは、大きな魔道具の箱。


その後ろには、妻らしい女性と幼い子供が二人いた。


男は俺を見ると、その場へ膝をついた。


アレン学院長。


私はエドガー・ロムです。


探していた宮廷魔導技師本人だった。


なぜここにいる。


教育院長から逃げてきました。


男は震える手で、魔道具の箱を開けた。


中には、アイラが話した金属の輪が何十個も入っている。


私は命令され、これを作りました。


危険な才能を持つ子供を従わせるための装置です。


エドガーは額を床へつけた。


王都地下には、今も四十八人の子供が拘束されています。


助けてください。


そして顔を上げた。


急いでください。


私が逃げたことで、教育院長は施設ごと子供たちを処分するつもりです。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


続きが気になる、面白かったと思っていただけましたら、ページ下部からブックマークと評価で応援していただけると嬉しいです。


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