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第十七話 再教育されるべきなのは、俺ではなく教師の方だった


新任教師の思想に、重大な不備を確認。


再教育対象へ登録します。


三十二体の教育執行人が、一斉に指示棒を構えた。


赤い光が床を走り、俺の足元を囲む。


ルシアが杖を向ける。


先生を対象から外しなさい。


教育執行人は反応しない。


代わりに、壁から無数の鎖が飛び出した。


魔力で作られた拘束具だ。


アイラ。


はい。


鎖そのものではなく、俺を対象に選んでいる部分だけ外せるか。


アイラは紫色の瞳で術式を追った。


できます。


だが、少女が指を動かすより先に、教育執行人の一体が口を開く。


生徒による教師への反抗を確認。


追加再教育対象、一名。


赤い光がアイラの足元にも広がった。


少女の身体が強張る。


自分が動けば、さらに誰かが処罰されると思ったのだろう。


俺はアイラの前へ一歩出た。


止まる必要はない。


でも、私が先生を助けたら。


助けるかどうかを決めるのは、お前だ。


命令されて動く必要も、怖がって動かない必要もない。


アイラは俺を見上げた。


それから、赤い鎖をもう一度見つめる。


私は、先生を助けたいです。


なら、やってみろ。


アイラが指先を振った。


俺の足元を囲んでいた赤い光が消える。


飛びかけていた鎖が途中で崩れ、魔力の粒となって床へ落ちた。


教育執行人の目が激しく明滅する。


反抗行為を確認。


処罰段階を上昇。


三十二体が同時に動き出した。


クロエが姿を消す。


ルシアは防御結界を展開。


ガレスは武器もないまま、ティナとテオをかばうように前へ出た。


待て。


俺は全員を止めた。


まだ攻撃するな。


教育執行人へ向き直る。


教師として質問がある。


中央の一体が動きを止める。


質問を許可。


お前たちの目的は何だ。


王国の命令へ従う優秀な人材の育成。


優秀とは、どういう人間だ。


命令を正確に理解し、迅速に実行する者。


間違った命令でも従うのか。


王国の命令に誤りは存在しません。


それを誰が証明した。


教育執行人が停止した。


ほんの一秒。


だが、明らかに答えを探している。


王国は正しい。


根拠は。


王国が定めたため。


それでは証明になっていない。


俺は黒板代わりの壁へ近づいた。


指で埃を払い、二つの文章を書く。


王国の命令には、必ず従う。


王国の命令に誤りは存在しない。


一つ目を正しいとするには、二つ目が正しくなければならない。


だが、二つ目が正しい根拠は、王国がそう定めたから。


つまり王国の命令が正しい理由を、王国の命令で証明している。


同じ場所を回っているだけだ。


教育執行人たちの目が、次々と明滅した。


論理矛盾を確認。


修正を開始。


中央の一体が即座に答える。


王国の命令に誤りがあった場合、命令を修正するため上位者へ報告します。


上位者が誤っていた場合は。


さらに上位へ報告。


国王が誤っていた場合は。


沈黙。


王国に、国王より上の者はいない。


教育執行人の指示棒が小さく震えた。


想定外。


国王は誤りません。


また同じところへ戻ったな。


ルシアが小さく笑った。


先生。


何だ。


この人形たち、先生の授業に負けかけています。


勝負ではない。


間違った教育方針を直しているだけだ。


教育執行人が一斉に俺へ顔を向ける。


新任教師による教育方針の改変を確認。


緊急処分を実施。


話し合いを放棄したらしい。


床から赤い壁がせり上がり、俺たちを分断しようとする。


今度は止めなかった。


ルシア。


はい。


壁の術式を維持しろ。


普通なら壊す場面だ。


だがルシアは俺の意図を理解し、赤い壁が完成する直前で形を固定した。


アイラ。


命令部分だけを外せ。


少女が赤い壁を見つめる。


この壁には、閉じ込める、という命令があります。


外せるか。


やってみます。


アイラが指を動かす。


赤い壁は消えなかった。


だが、俺たちを囲むはずだった壁が途中で曲がり、教育執行人たちの方へ向きを変える。


三十二体が、自分たちの作った壁に囲まれた。


ティナ。


壁を床へ固定できるか。


できます。


ティナが工具を地面へ打ち込む。


赤い壁と地下施設の床が接続され、教育執行人たちは完全に動きを封じられた。


クロエが壁の内側へ入り込もうとする。


壊すな。


先生を再教育しようとしました。


まだ何も壊していない。


心は壊そうとしました。


それも失敗している。


クロエは渋々、手にしていた針をしまった。


教育執行人たちは壁の内側で、何度も指示棒を振っている。


だが、自分たちの術式なので破壊できない。


解除命令を出しても、アイラが命令部分を外しているため反応しない。


俺は中央の一体へ近づいた。


今の状況をどう判断する。


新任教師による反乱。


違う。


俺たちは、お前たちの命令へ従わなかった。


その結果、誰かが傷ついたか。


教育執行人の目が周囲を確認する。


負傷者、ゼロ。


施設損害、ゼロ。


では、お前たちの教育を受けなければ危険になるという前提は正しいか。


回答不能。


お前たちは命令へ従う人間を育てようとした。


だが、自分たちこそ百年以上前の命令へ従い続け、今の生徒も王国も見ていない。


中央の一体の目から、赤い光が消えかける。


俺は壁へ書いた文章の下に、新しい一文を加えた。


教師は、生徒より先に学ぶことをやめてはいけない。


教育執行人たちが完全に停止した。


長い沈黙。


やがて中央の一体が、ゆっくりと指示棒を下ろす。


現行教育方針に、重大な欠陥を確認。


旧王国教育監督院からの命令を停止。


周囲の赤い光が消えた。


ルシアが固定していた壁も、魔力の粒となって崩れる。


三十二体の教育執行人は、その場へ膝をついた。


新任教師。


俺は学院長だ。


学院長。


教育方針の再提出を要請。


俺は少し考えた。


生徒を、王国の命令へ従わせない。


命令へ逆らわせることも目的にしない。


自分で考え、選び、その結果へ責任を持てるようにする。


中央の一体が俺の言葉を記録する。


新教育方針を登録。


全教育執行人へ共有。


そして三十二体が、一斉に頭を下げた。


再教育の実施を希望します。


誰を再教育する。


我々です。


ルシアが耐えきれず、声を上げて笑った。


先生を再教育しようとした人形が、先生の生徒になりました。


笑うことではない。


だが、間違いを認めて学び直すなら拒む理由もない。


分かった。


ただし、生徒を命令で動かすことは禁止だ。


質問し、理由を説明し、本人に選ばせろ。


承知。


管理人形の声が、封印区画へ響く。


新規生徒、三十二体を登録します。


教育執行人たちの目が青く変わった。


その直後。


最奥の壁が大きな音を立てて開いた。


内部には、数百個の透明な箱が並んでいる。


箱の中に入っていたのは、古い学生服。


子供用の寝具。


名前が刻まれた首輪。


そして、王国へ移送済みと書かれた生徒名簿だった。


ティナの顔から血の気が引く。


この子たち。


知っているのか。


昔、一緒に学んでいた生徒です。


名簿には、卒業ではなく移送と記録されている。


移送先はすべて同じだった。


王都地下特別育成所。


ガレスが低い声で呟く。


そんな施設は、現在の王都にも存在しません。


存在しないのではない。


表に出ていないだけかもしれない。


アイラが名簿へ近づく。


その一番下にある古い紋章を見た瞬間、身体を震わせた。


この印。


知っているのか。


私が閉じ込められていた場所にも、ありました。


百年以上前に移送された子供たち。


現在も使われている服従術式。


危険な才能を持つアイラを拘束していた施設。


すべてが、王都地下でつながっている。


そして名簿の最後には、現在の責任者の名前が新しい文字で追記されていた。


王国教育院長。


ゼルド・ヴァルハイム。


アレン・クロフォードの排除を最優先とする。


どうやら王都にいる敵は、俺のことをずいぶん前から知っていたらしい。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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