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第十三話 すべての魔法を壊す少女は、誰よりも魔法を見ていた



この災害も、あなたの生徒として引き取っていただきます。


教育院の男は、鎖につながれた少女を指した。


少女は顔を伏せたまま、何度も小さく謝っている。


ごめんなさい。


壊すつもりは、なかったんです。


俺は黒い馬車へ近づいた。


名前は。


少女の肩が震える。


教育院の男が代わりに書類を開いた。


危険指定番号十二番。個人名を用いる必要はありません。


俺は男を見た。


この子に聞いている。


男が口を閉じる。


しばらく待っていると、少女がかすかな声で答えた。


アイラです。


そうか。


俺は馬車の前へ膝をついた。


アイラ。今から目を覆っている布を外す。


嫌なら先に言ってくれ。


少女は少し迷い、頷いた。


布へ手を伸ばそうとすると、教育院の男が慌てて止める。


危険です。視界を与えれば、周囲の術式を認識して破壊します。


それなら、なおさら確認が必要だ。


俺はゆっくりと布を外した。


現れたのは、淡い紫色の瞳だった。


十歳ほどの少女とは思えないほど、疲れ切った目をしている。


アイラは俺を見た後、周囲へ視線を動かした。


その瞬間。


正門の結界が揺れた。


教育院の職員たちが一斉に後ろへ下がる。


だが、結界は消えなかった。


アイラは何もしていない。


俺は才能鑑定を発動した。


名前、アイラ・エルノート。


魔力量、極小。


魔力感知適性、測定限界以上。


術式解析適性、最高。


魔力分解適性、最高。


魔力再構築適性、未開花。


自動防御、常時発動。


やはり、ただ魔法を消しているわけではない。


アイラは、魔法を構成する一つ一つの流れを見ている。


そして自分へ危険が迫ったとき、無意識に術式を分解している。


王都の結界が壊れたのも、魔導塔が停止したのも、誰かが彼女を拘束しようとした結果だろう。


この鎖は何だ。


魔力を封じる拘束具です。


教育院の男が答えた。


アイラの手足を縛っている黒い鎖には、複雑な術式が刻まれている。


だが、彼女の能力で消えていない。


理由は簡単だった。


これは魔法だけではなく、物理的にも頑丈な鎖だ。


術式を壊しても、鎖そのものは残る。


鍵を出せ。


危険です。


鍵を出せ。


俺がもう一度告げると、男はガレスへ助けを求めるような視線を向けた。


騎士団長ガレスは、短く息を吐く。


渡せ。


団長まで。


この学院内では、学院長の指示に従う。それが調査の条件だ。


教育院の男は渋々、鍵を差し出した。


手首。


足首。


首につけられた細い輪。


一つずつ外していく。


最後の鎖が床へ落ちても、アイラは動かなかった。


逃げてもいいのか分からないらしい。


俺は馬車から少し離れた。


降りられるか。


アイラは恐る恐る立ち上がる。


長く拘束されていたためか、足元がふらついた。


ノエルが支えようと近づく。


その瞬間。


アイラの周囲から、透明な波が広がった。


ノエルの身体を覆っていた生命活性の魔力が消える。


ノエルは驚いて足を止めた。


アイラの顔が青ざめる。


ごめんなさい。


大丈夫です。


ノエルは自分の身体を確認した。


怪我も痛みもありません。


魔法が消えただけです。


近づかない方がいい。


アイラが後ろへ下がる。


私の近くにいると、全部なくなります。


全部ではない。


俺は地面へ、小さな火の魔法を出した。


指先ほどの炎だ。


そのままアイラへ近づける。


炎は彼女の少し手前で崩れ、光の粒へ変わった。


やはり駄目です。


今、何が見えた。


アイラは目を瞬かせた。


赤い糸が三本。


青い糸が一本。


結び目が二つありました。


それが魔法の構造だ。


この場で、そこまで詳しく見えた者はアイラだけだ。


賢者ルシアでさえ、驚いた顔をしている。


先生。


ルシアが炎の消えた場所を見つめた。


私にも術式の流れは見えましたが、糸の本数までは分かりませんでした。


アイラ。


俺はもう一度、小さな火を出した。


今度は壊さず、赤い糸一本だけを外せるか。


少女が首を横に振る。


できません。


やったことがないだけだ。


失敗してもいい。


爆発しませんか。


この程度の炎なら、俺が消せる。


アイラは炎を見つめた。


紫色の瞳が、わずかに光る。


炎が揺れた。


一度は全体が消えかける。


だが、アイラは両手を握り、何かへ耐えるように息を止めた。


やがて炎の色だけが変わった。


赤かった火が、淡い青へ変化する。


周囲から驚きの声が上がる。


何を外した。


熱を大きくする糸です。


俺は炎へ手を近づけた。


青い火は、ほとんど熱を持っていない。


消していない。


術式の一部だけを分解し、性質を変えた。


できたな。


アイラは青い炎を見つめていた。


自分が何をしたのか、まだ理解できていないようだった。


壊れませんでした。


ああ。


初めてです。


少女の目から涙がこぼれる。


魔法を見たら、全部壊すしかないと思っていました。


違う。


お前は魔法を壊す力を持っているのではない。


魔法を一つずつほどく力を持っている。


壊れかけた術式。


暴走する魔道具。


人へかけられた呪い。


正しく育てれば、どれも安全に分解できるようになる。


ルシアが興奮を隠せない様子で口を開く。


先生。この子は、魔法研究の常識を変えます。


研究材料にはさせないぞ。


分かっています。


ルシアはそう答えながら、すでに紙へ大量の文字を書き始めていた。


念のため、後で内容を確認しよう。


教育院の男が声を上げる。


たった一度成功しただけです。


王都では三度も結界を破壊した危険人物なのですよ。


三度とも、アイラを拘束しようとしたときだな。


男の表情が固まる。


書類には書かれていないが、アイラの反応で分かる。


怖がらせた結果、自動防御が働いた。


危険なのはアイラではない。


能力を理解せず、力で押さえ込もうとした教え方だ。


男は反論しようとしたが、ガレスが先に口を開いた。


その少女を、引き取るのか。


俺はアイラを見る。


ここで学びたいか。


少女はすぐには答えなかった。


ミレイユ。


魔法を使うたび爆発する。


セシリア。


剣を握れば気絶する。


ノエル。


人間より魔物を元気にする。


テオ。


五年間、片脚を動かせなかった。


ティナ。


人に会うだけで地震を起こし、百二十三年間地下へ隠れていた。


全員が、アイラを見ている。


だが、怖がっている者はいない。


ミレイユが手を挙げた。


私は入学初日に、教室の屋根を吹き飛ばしました。


セシリアも続く。


私は今も、本物の剣を持てない。


ノエルは角ウサギを抱き上げた。


私は最初、人を治せませんでした。


テオが杖を軽く持ち上げる。


僕はまだ、長い距離を歩けません。


ティナは俺の後ろから顔を出す。


私は、今も人が多いと揺らします。


少しだけ床が震えた。


誰も気にしなかった。


アイラの唇が震える。


私が、皆さんの魔法を消してしまっても。


そのときは、もう一度使えばいいです。


ミレイユが笑った。


私の魔力は余っているので、何度消しても大丈夫です。


それは別の問題だ。


俺が注意すると、周囲から小さな笑い声が起きた。


アイラは初めて、ほんの少しだけ笑った。


学びたいです。


なら、今日から生徒だ。


俺が告げると、学院管理人形の目が光る。


新入生、アイラ・エルノートを登録。


適性学科。


管理人形が一度停止した。


登録可能な既存学科なし。


新学科の設立を推奨。


ルシアが勢いよく手を挙げる。


魔術分解学科です。


名前が危険すぎる。


では、魔法安全学科。


それなら悪くない。


アイラは、この学院で最初の魔法安全学科の生徒になった。


王都で災害と呼ばれた少女が、魔法による事故から人を守るための力を学び始める。


その直後だった。


アイラが突然、学院の外へ顔を向けた。


どうした。


少女の瞳が強く光る。


兵士の皆さんから、同じ糸が見えます。


ガレスが眉をひそめる。


糸。


黒い糸です。


アイラは外で待機している二百人の兵士を指した。


全員の首から、王都の方角へつながっています。


ルシアの表情が変わった。


兵士たちには、自分でも気づかない服従術式が埋め込まれていた。


そしてその術式は今、遠く離れた王都から起動しようとしていた。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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