第十二話 王国の兵士は、武器を置かなければ入学できない
気づかず同じ11話を投稿してました。修正しました
王国の調査団がエルガ村へ到着したのは、三日後の朝だった。
兵士二百人。
魔術師二十人。
王国教育院の職員が十二人。
さらに、地下施設から資産を運び出すためらしい空の荷馬車が三十台。
どう見ても、話し合いへ来た人数ではない。
学院の正門前に並ぶ兵士たちを見ながら、俺は小さく息を吐いた。
先生。
勇者リリアが俺の右隣へ立つ。
追い返しますか。
まず話を聞く。
剣聖エリシアが左隣へ立った。
門を越えた者だけ斬ればよいでしょうか。
斬らない。
まだ何もしていません。
今からするつもりだっただろう。
エリシアは無言で視線を逸らした。
俺の後ろには、七人の教え子が全員そろっている。
さらに、ミレイユたち初期生徒とクラリス。
正門の内側には、百人以上の生徒が隠れるように並んでいた。
見学を禁止したはずなのだが。
子供たちは、自分たちの学校がどうなるのか心配なのだろう。
調査団の先頭から、立派な鎧を着た男が進み出た。
四十代ほどの大柄な騎士。
胸には王国騎士団長を示す紋章がある。
私は王国調査団長、ガレス・オルドマンだ。
アレン・クロフォード学院長だ。
ガレスは俺の背後にいる七人を見た。
表情が明らかに硬くなる。
魔王軍を退けた七人が全員そろっているのだから、緊張するのも無理はない。
国王陛下の命令により、地下施設を調査する。
事前に伝えた条件は読んだか。
武装を解いた者だけ、教師として学院へ入ることを許可する。
ガレスは腰の剣へ触れた。
王国騎士へ、武器を置けと言うのか。
ここは学校だ。
生徒を守るために、必要のない武器は持ち込ませない。
我々は調査団であり、教師ではない。
なら、入れない。
ガレスの後ろに並ぶ兵士たちがざわついた。
教育院の職員らしい痩せた男が前へ出る。
アレン学院長。
この土地は王国領です。
その地下から発見された施設と資産も、当然ながら王国に帰属します。
クラリスが俺の隣へ並んだ。
その点については、すでに調査済みです。
彼女は分厚い書類を開く。
エルガ総合育成学院は、現在の王国が成立する二百年以上前に建設されています。
また、初代国王との契約により、学院領内の自治権、教育権、財産管理権を認められています。
教育院の男が眉をひそめた。
そのような古い契約が、現在も有効だと。
契約の期限は、学院が最後の生徒を失うまで。
クラリスは隣に立つティナへ視線を向けた。
ティナは俺の背中へ半分隠れている。
学院には百二十三年間、在籍を続けた生徒がいました。
したがって学院は一度も消滅しておらず、契約も継続しています。
教育院の男の顔色が変わる。
おそらく、ここまで調べていなかったのだろう。
俺も地下の記録を確認するまで知らなかった。
ガレスが険しい顔で尋ねる。
その契約書が本物である証拠は。
石人形。
俺が呼ぶと、正門の横に立っていた巨大な学院管理人形が一歩前へ出た。
胸部が開き、古い金属板が現れる。
初代国王の血印。
王国成立時の魔力署名。
学院側の契約記録。
すべてが刻まれていた。
ガレスは金属板を確認し、苦々しそうに黙った。
偽造はできない。
魔力署名は、本人の魂に近い性質を記録したものだ。
二百年前の初代国王と同じ署名を作れる者など存在しない。
つまり。
クラリスが眼鏡を押し上げる。
王国には、この学院の資産を接収する権限がありません。
学院の生徒を強制的に移動させる権限もありません。
ならば、王国に対して反逆する者を育てていないか確認する。
教育院の男は引き下がらなかった。
危険な才能を持つ子供を百人以上集めている。
王国の安全を考えれば、監視が必要だ。
背後にいた生徒たちが不安そうに身を寄せ合った。
俺は教育院の男を見る。
この学院で、王国へ反逆するための授業は行っていない。
証明できますか。
授業を見ればいい。
ならば。
武器を置き、教師として門をくぐれ。
話は最初に戻った。
教育院の男は言葉を失う。
ガレスはしばらく俺を見つめた後、腰の剣を外した。
団長。
部下の一人が声を上げる。
調査をするには、中へ入らなければならない。
ガレスは剣を部下へ渡した。
鎧も脱いだ方がいいか。
武器を隠していなければ、そのままでいい。
俺の返事を聞き、ガレスは正門へ向かって歩く。
門を越えようとした瞬間。
管理人形の目が赤く光った。
武器を確認。
ガレスの動きが止まる。
持っていない。
右の靴。
ガレスは無言で靴の中から小さな短剣を取り出した。
左腕。
鎧の内側から細い刃が出てくる。
背中。
小さな投げ針が三本。
口腔内。
そこまで隠しているのか。
ガレスは奥歯の裏から、薄い金属片を取り出した。
七人の教え子たちが、感心したように見ている。
真似しなくていいからな。
クロエが静かに口を閉じた。
何か隠そうとしていたらしい。
すべての武器を預けたガレスが、ようやく門を通過する。
続いて教育院の職員五人も、武器や攻撃用魔道具を置いた。
残る兵士たちは、学院の外で待機することになった。
空の荷馬車も入れない。
資産を運び出させるつもりはないからだ。
俺たちは調査員たちを地下へ案内した。
食堂。
寮。
教室。
工房。
訓練場。
生徒たちは、それぞれの班で授業と作業を始めている。
生活班は昼食の準備。
学習班では、文字を覚えた生徒が年下の子へ教えている。
生産班はティナの指導で、壊れた机を修理していた。
訓練班では、ミレイユが魔力を地面へ流す練習をしている。
小さな火が的へ当たるたび、周囲から拍手が起こった。
ガレスは黙って授業を見ていた。
教育院の男が、何か欠点を探すように周囲を見回す。
そのとき、訓練場の端にいたテオがガレスへ気づいた。
杖を使いながら近づいてくる。
騎士様。
何だ。
テオは地面へ手を置いた。
外にいる兵士の一人が、倒れそうです。
ガレスの表情が変わる。
誰だ。
一番後ろの列。
身体の中の水が、すごく少なくなっています。
暑い中、鎧を着たまま待機している。
体調を崩したのだろう。
ガレスは正門へ急いだ。
俺たちも後を追う。
学院の外では、一人の若い兵士が地面へ膝をついていた。
顔が赤く、呼吸も荒い。
ノエル。
はい。
ノエルが兵士の前へ座り、両手をかざす。
生命活性の光が兵士一人へ集まる。
以前のように、周囲の草や魔物まで元気になることはない。
兵士の呼吸が少しずつ落ち着いた。
水と塩が必要です。
生活班の生徒たちが、すぐに水筒を運んでくる。
ガレスは回復した部下と、テオたちを交互に見た。
危険な子供たちには見えないだろう。
俺が尋ねると、ガレスはすぐには答えなかった。
やがて、正直に頷く。
少なくとも、今見た生徒たちは違う。
教育院の男が声を荒らげた。
一部だけを見て判断するのは早い。
まだ危険指定を受けた者もいる。
危険指定。
男が調査団の最後尾へ合図を送る。
兵士たちが、一台の黒い馬車を前へ運んできた。
窓はなく、扉には何重もの鎖と封印が施されている。
中に何がいる。
教育院の男は、わずかに笑った。
何が、ではありません。
誰が、です。
扉が開かれる。
馬車の奥に、一人の少女が座っていた。
年齢は十歳ほど。
白い髪。
両手と両脚を黒い鎖で縛られ、目には布を巻かれている。
少女の周囲だけ、魔力の気配が完全に消えていた。
教育院の男が書類を開く。
触れた魔法、魔道具、結界をすべて消滅させる異常能力。
王都の防御結界を三度破壊し、魔導塔一棟を機能停止させた危険人物です。
少女が、かすかな声を漏らした。
ごめんなさい。
壊すつもりは、なかったんです。
俺は教育院の男を見た。
この子を、何のために連れてきた。
エルガ学院が本当にすべての落ちこぼれを受け入れるというのなら。
男は拘束された少女を指した。
この災害も、あなたの生徒として引き取っていただきます。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
続きが気になる、面白かったと思っていただけましたら、ページ下部からブックマークと評価で応援していただけると嬉しいです。
皆さまの応援が、今後の更新の大きな励みになります。




