オリオンよ、僕を狩ってくれ
「昴?友達からお土産貰ったんだけど、起きてる?入るよ」
ある日、朔良はお盆にお茶とお菓子をのせ、昴の部屋のドアを開けた。
ベッドの上で小さく丸まって座る昴が目に入った。
「良かった、起きてて。じゃーん、生八ツ橋ゲット〜!朔良はニッキが好きだから、昴は...」
「朔良...」
荒い息遣いが、朔良の声を遮った。
シャツが汗で濡れているのが見てとれた。
「どうしたの?汗びっしょりだけど」
「大丈夫だ。お菓子はあとで食べるから......置いといてくれ」
昴はうずくまり、両腕を抱え込んだ。
その時、袖の隙間から――
左手首の傷が見えた。
「左の手首、どうしたの?」
朔良は手を伸ばした。
「ちょっと転んだだけだ」
昴は慌てて手首を隠した。
「なら何で見せてくれないの?困ったときは朔良が力になるって言ったよね」
朔良は真剣な目で昴を見つめた。彼の髪は乱れ、顔には汗がにじんでいた。今まで見た事のない昴の姿であった。
「だから...困ってないって...」
昴はかたくなに彼の手首を見せようとしなかった。
「もう...ちょっと見るよ」
朔良は彼の腕を引き寄せ、手首を見た。
そこには、何度も刃物で切ったような跡があった。
「昴...死にたいの?」
思わず口から出た言葉だった。
数秒の沈黙。
「朔良、前にしたオリオンの話......覚えてるか?」
昴がポツリとつぶやいた。
「今はその話じゃ...」
「朔良」
昴は朔良の声を遮り、壁に飾られた“オリオンの祈り”を見つめた。
「オリオン座が好きな理由が、もう一つあるんだ...」
昴は静かに続けた。
「オリオン座の右隣に牡牛座がある。その牡牛座の背にあたる部分に“プレアデス星団”という星の集まりがある」
「プレアデス...星団...?」
「あぁ和名は“昴”。僕の名前だ」
「オリオンは、まるで僕に弓を引いているように見えるだろ?」
「えぇ......まぁ」
「それが......僕にはずっと、オリオンに狩られているいる気分なんだ。オリオンが僕を狩ってくれないかなって」
慰める言葉も、反論する言葉も、朔良は何も言えなかった。
ただ――
彼を助けたいと思った。
誰かを幸せにするために使うと誓った“力”で――




