愛する人に殺される幸せ
影山朔良は幼い頃から絵を描く事が好きだった。
初めて描いたのは、家の目の前の公園に咲く向日葵の絵。
夏になると毎年咲くその花が、彼女は大好きだった。
描いた絵を親に見せると「上手いね」「よく描けたね」と褒めてもらえるのが嬉しかった。
中学校では美術部に入部した。植物だけではなく、周囲の人の似顔絵を描くのも好きになった。
高校でも美術部に入部した。当時好きだったアニメキャラの模写に夢中になった。
大学に入学しても美術部に入部した。その年の新入部員は朔良ともう1人の男だけだった。
2人は共通の絵を描く趣味で瞬く間に仲良くなった。
彼は名は―霧島昴。
「朔良、僕の絵を見てくれないか?」
昴が自分の描いた絵を指さしながら呼んだ。
「作品、完成したの?見たい」
朔良は絵を描いていた手を止め、昴の絵を覗き込んだ。そこには、年配の狩人の男性が描かれていた。
「題名は“オリオンの祈り”」
「オリオンって、あの冬の星の?えっと...ベテルギウスと...」
朔良が記憶をたどると、昴は静かに言った。
「ベテルギウスとリゲル、だよ」
「あぁ、それ。だから右肩付近に赤、左足付近に青を入れたのね」
「そう。朔良、オリオンの神話、知ってるか?」
「ううん、何それ?」
昴はゆっくりと語り始めた。
オリオンは背が高く、強く、美しく、そして自他共に認める世界一の狩人だった。
だが、乱暴な性格で周囲を困らせることも多かった。
ある日、狩りの女神アルテミスがオリオンに惹かれ、2人は仲良く狩りをするようになった。
しかし、アルテミスの兄・アポロンはこの関係を嫌い、海に浮かぶ小さな黒い点を指して「遠くのあれを射抜けるか」妹に挑戦させた。
アルテミスが矢を放つとーーその黒い点はオリオンの頭だった。
愛する人を射殺してしまったアルテミスは深く悲しみ、ゼウスに頼んでオリオンを星座として夜空に残した。
話し終えると、朔良は言葉を失った。
「悲しい話ね」
「いや、僕はこの話が好きなんだ」
昴は朔良をじっと見つめた。
「オリオンの結末がってこと?」
「あぁ。愛する人に殺される。僕は幸せな事だと思うんだ」
そう言い、昴は微笑んだ。
この時の朔良には、その微笑みの意味が分からなかった。
出会ってから1年、2人は自然と惹かれあい、交際を始めた。
更に1年後、同棲を始めた。
最初は幸せそのものだった。
しかし、少しずつ綻びが生じ始める。




