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触れる罪〜殺人に同行する女〜  作者: 後星/畑中葵
触れる罪

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4/12

公園でカメラを構える男

「空閑、コーヒー買ってきたで。あったかいのと冷たいの、どっちがええか?」

氷室が缶コーヒーを両手に持って近づいてきた。


「冷たいので。ありがとうございます」

空閑は受け取り、軽く頭を下げた。


2人は“Bee”第1の事件ーー野上圭をもう一度洗いなおしていた。

というのも、1人だけ刺殺であること、カメラのデータが抜かれていることなど、他の事件と異なる部分が多く、空閑が捜査会議で「ここが突破口になるかもしれない」と提案したためであった。


「そっちはどうや?何か見つかったか?」

氷室が空閑のパソコンを覗き込む。


「いえ、今のところは。自宅、職場、近所のスーパー付近以外の防犯カメラには映っていません」

空閑はコーヒーを開けながら答えた。


「氷室さんはどうですか?」


「俺は公園のカメラを見直していた。ひたすらベンチでカメラ構えてるだけやが......公園の名前は確か......」


「ひまわり公園」

空閑が小さく呟いた。


「あぁ、それや」

氷室もコーヒーを一口、口にした。


「夏の向日葵、綺麗なんですよ」

空閑は遠い夏を思い出すような目をした。


「何お前詳しいな。この辺住んでたんか?」


「えぇ、昔。高校生の頃......10年前とかですけど」


「ほう。それで?秋は何か咲くんか?野上が来るようになったのは9月初めや」


「いえ、秋に公園に咲く花は聞いたことがありません。野上が写真を撮っている所は映っていないんですか?」


「それが映ってなくてな。公園付近にも防犯カメラがなくて、あるのは公園のカメラ1つだけときた」

氷室は缶コーヒーの底を覗き込みながら、そう答えた。


「わざわざ自宅から徒歩15分の距離を、カメラ持って来てるんですから、何か目的があると考えるのが妥当ですが。自分は夏に咲く向日葵以外、あの公園で有名なものを知りません。少し映像、見せてもらえますか?」


2人は氷室のデスクへ移動し、野上が映っている日の映像をいくつか再生した。


「どっちを見ているかといえば...。ベンチ右側の花や遊具より、左側を気にしているように見えます」


「左ってお前、木と道路だけやぞ」


「えぇ、9月はまだ紅葉の時期でもないですよね」空閑はある可能性を思い浮かべたが、口に出さなかった。考えすぎだ、と考えたからだった。


「とりあえず聞き込み行くぞ」

氷室は缶を飲み干した。



ひまわり公園に向かう道すがら、桜の花びらが風に舞っていた。第1の事件から5か月以上が経ち、季節はすっかり春へと移り変わっていた。


「ここですね」

空閑が指さした先には、左側に大きく太い桜の木、右側に例のベンチがあった。

ベンチには1人の老人が腰掛けていた。


「こんにちは。こういう者なんですが、少しお話よろしいでしょうか」


氷室は自分の警察手帳を見せながら、老人に話しかけた。


「えぇ、なんでしょう?」


「こちらの公園にはよく来られるんですか?」


「えぇ、ここ数年は毎日来るようにしています。医者に“家にこもらず外に出ろ”と言われてましてね」

老人は膝を触りながら答えた。


「そうですか。この男性を見たことはありますか?」

氷室は野上圭の写真を老人に見せた。老人はしばらく写真を見つめた後、首を横に振った。


「いえ、ありません。ごめんなさいね」

そう言って申し訳なさそうに目を伏せた。


「あ、最後に1つだけ」

空閑が後ろから顔を出した。


「この公園で、秋に咲く花や、秋に綺麗な木はありますか?」


「いいえ。8月に咲く向日葵と11月の紅葉は綺麗ですがね。花のない時期は寂しいものです。私はこのベンチから見える景色が好きでね、これを楽しみに公園まで歩いてきているんですよ」

老人は満開の桜を見上げた。


「ご協力ありがとうございます」

2人は老人に軽く頭を下げ、公園を後にした。


日が陰るまで2人は聞き込みを続けたが、有力な情報は得られなかった。



「あぁ疲れたな......」


氷室が深いため息をつき、ベンチに腰をおろした。


「えぇ、収穫はほぼゼロ、ですね」


空閑も隣に座った。


「まぁ、近くの住民は口を揃えて“9月や10月に公園に咲く花や綺麗な木はない”と言ってたな」


「はい。となると、公園で誰かと待ち合わせていたか、何かを待っていたか......」


「なるほどな。まぁ、明日もう1度映像洗うとするか。今日は帰るぞ」

氷室は立ち上がり、スーツのしわを整えた。


「あ、自分はもう少しここでゆっくりしてから帰ります」


「なんや、思い出にでも浸ってるんか?」


「まあそんなところです」

空閑は少し照れたように笑った。

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