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触れる罪〜殺人に同行する女〜  作者: 後星/畑中葵
触れる罪

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2/12

右肩に赤い塗料のついた不気味な死体

「朝っぱらから殺しの現場見るの勘弁してほしいですよ......」


直らない寝ぐせをなでながら、空閑青洲は不満げにぼやいた。ゆがんだネクタイが、彼の気分をそのまま体現しているようであった。

空閑は、同じく捜査一課で上司の氷室と共に、とある殺人現場となったアパートの前に来ていた。


「お前はもっとシャキッとせぇや。そんなんだから彼女の1人もできんのや」

氷室はオールバックに整えた髪に、派手なオレンジと黒の縞々のネクタイ、そして完璧に着こなしたスーツ姿で、いつも通り隙のない出で立ちであった。


「朝から電話でたたき起こされたっていうのに、どこにそんな時間があったんですか...てかなんで氷室さんはそんなにいつも通りキマッてるんですか」

空閑は自分のネクタイを正しながら、怪訝な顔を向けた。


「聞きたいか?それはな......って、こんな話してる場合ちゃうわ」氷室は一つ咳払いをした。

「行くぞ」

氷室は非常階段へ続く扉を開けた。2人は赤く錆びた非常階段を登り始めた。


「今分かっていることを教えろ」


「ああ、そうでした」

空閑はスーツのポケットから手帳を取り出し、走り書きされた文字を読み上げ始めた。


「前島実。今朝、アパート屋上の扉の前で亡くなっているのを住民により発見されました。死亡推定時刻は本日0時から2時。死因は拳銃で頭部を撃たれた事によるものです。また、腹部を刃渡り12cmほどのナイフで刺されていますが、出血量から見て、これは死後に刺されたものと考えられています」


「それってまさか...」


「ええ、ライヨールナイフで間違いないそうです。背に蜂(Bee)の装飾が入っていました。遺体の状態も類似しています」


「また“Bee”か......」

氷室は顔をしかめた。

遺体が両腕を上げ、左足を屈曲させているという奇妙な姿勢、そして腹部のライヨールナイフ。蜂の装飾にちなみ、警察は犯人を“Bee”と呼称していた。


「しかし死体は屋上の手前だろ?発見者は屋上に用事でもあったんか?」

氷室は数段下を歩く空閑に声をかける。


「いえ、それが...被害者の右肩に赤い塗料が大量にふりかけられており、その塗料が下の非常階段の手すりに垂れていたんです。これです」

空閑は手すりに数箇所こびりついた赤い塗料を指差した。


「上から垂れてきている塗料に気づいた住民が、不審に思って階段を登り、被害者を発見したとのことです」

2人は階段を登りきり、現場にたどり着いた。狭い空間で鑑識が忙しく動きまわっている。


「頭部に銃創、腹部にナイフ、右肩に赤い塗料...ねぇ...。わざわざ塗料を持ってきたってことだよな」

「はい。被害者は“マエジマ塗装”という塗装屋の個人経営者で、その塗料が使われているのではないか、とのことです」

空閑は氷室に1枚の写真を見せた。にこやかな顔の前島が店の前でピースをしていた。


「塗装屋のおっちゃんが......可哀想にな」

氷室は深く息を吐いた。



時計の針が時を刻む音だけが響く。しわくちゃな白いパジャマは空閑のお気に入りであった。

ベッドの上で天井を見つめ、思考を巡らせていた。

—“Bee”の第1の事件。

被害者は野上圭。28歳。自宅で遺体となっているのを同僚が発見。死因は腹部をナイフで刺されたことによる刺殺。

手がかりは両腕を上げ、左足を曲げた姿勢。右手に握られた野球バット。そして、腹部に刺されたライヨールナイフ。

腹部にはもう1つ、別のナイフによる刺し傷。その刺し傷からの出血が多く、これが致命傷となったと考えられ、死後ライヨールナイフは刺されたと考えられる。

死後1週間以上経っていたこと、交友関係が極端に狭かった事等から有益な情報が集まらず、捜査は難航。


“Bee”の第2の事件。

被害者は真北祐介。45歳。拳銃の密輸人。彼の仕事場で遺体となっているのを匿名の通報により発見。死因は頭部を拳銃で撃たれたことによる銃殺。

手がかりは第1の事件と同じ遺体の姿勢。腹部のライヨールナイフ。そして、左腕にまとうようにかけられた彼の上着。

現場は真北本人に関連する情報、証拠品となり得るものが回収された後と考えられ、親戚身寄りの情報も乏しく操作は難航。得られた情報は彼が拳銃の密輸人であったという情報だけ。おそらく匿名の通報は同業者によるもので、通報前に密輸に関連する証拠品を回収されたのか?


そして“Bee”の第3の事件。

被害者は前島実。52歳。アパートの屋上扉前で遺体となっているのを住民が発見。死因は真北と同じ銃殺。死体の状態も類似しているが、違うのは右肩の赤い塗料。使用された拳銃は第2の事件と同一のもの。


被害者の姿勢は、右腕を真上に挙げ、左腕は斜めに挙げている、という点も一致している。


バットに、上着に、赤い塗料。そしてすべてに共通するライヨールナイフ。


第1の事件だけ刺殺、他は銃殺。全員銃殺したければ真北(第2の被害者)を殺してから、野上(第1の被害者)を殺せば良いものをー。

第1の事件だけ、犯人の計画外だった?

だとすれば、探るべきは第1の事件の関係者か?

しかし野上(第1の被害者)は家族とも疎遠で、交友関係も少なすぎる。というか、被害者3人とも身寄りや交友関係が狭すぎるから、犯人はわざわざそういう人間を狙っているのかもしれない。

3つの現場に共通して、黒い傘の人物がカメラに写っていたが、身長180cm前後の男、以外の情報は得られていなかった。


そういえば――。

野上はカメラで写真を撮るのが好きだった、と同僚が話していたっけ。しかし彼のものと思われるカメラからはデータが抜かれていた。

野上は撮られては困るものを撮った?

そして口封じで殺したのか?


第2、第3の事件で同じ銃が使われているのも気になる。もし拳銃を入手するために第2の事件を起こしたのなら、今回も塗料を入手するために第3の事件を起こしたのか?

だが、塗料は殺さなくとも手に入る。

別に何か目的が......?

空閑は髪をかきむしった。


「まずは第1の事件を調べるか......」

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