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触れる罪〜殺人に同行する女〜  作者: 後星/畑中葵
触れる罪

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11/12

アルテミスの引き金

空閑は仕事帰り、疲れ切った足取りでアパートの階段を上っていた。“Bee”事件の捜査に追われ、心身ともに限界に近かった。

コンビニ袋を提げながら階段を上ると、後ろから足音が聞こえた。

空閑と同じ3階で降り、数歩後ろをついてくる。

――つけられている?

空閑は振り返り、突きを入れようとした。


「俺に何の用だよ!」

しかし、目に飛び込んできたのは見覚えのある顔だった。


「朔良...?」


その瞬間、朔良が空閑の腕を掴んだ。



“止まれ”



気づけば朔良に腕を握られていた。


「しまった....!」


空閑の体が、ぴたりと動かなくなった。


「朔良...これが、お前の“力”で......お前がしたかったことなのか?」



“騒ぐな”



空閑は自身の喉が締め付けられるような感覚になった。



「空閑青洲さん。君に用があるのは僕ですよ」


朔良の背後から、茶色いロングコートを着た男が現れた。

防犯カメラに映っていた“黒い傘の男”と同じ服装。

空閑は悟った。

――こいつが“Bee”だ。


「お前らが...“Bee”か......」

荒い息のまま、空閑は2人をにらみつけた。


「ほう。警察はそんな呼び方をしているんですね」

昴はゆっくりと歩み寄り、楽しそうに笑った。


「俺を...殺すのか...」


「焦らないで下さいよ、まずは部屋でゆっくり話しましょう」



“扉を開けろ”



“ゆっくり歩け”



朔良の力に操られ、空閑は自室の扉を開け、中へ入った。空閑は彼女の顔をちらりとみた。彼女の目には涙が浮かんでいた。



朔良は空閑の腕を掴んだまま、昴と向き合わせた。


「手間をかけさせたね、朔良」昴は微笑む。


「...いえ」


「聞かせろ。被害者をあんな状態にしたのはなぜだ」

空閑が絞り出すように言うと、昴は嬉しそうに目を輝かせた。


「おお、君は僕の“芸術”に興味があるのか、それはいい。あれは僕の大好きな星、オリオンの芸術さ」


「オリオン...冬の星座の?」


「あぁ」


空閑は頭の中で事件をつなげた。


「なるほど...3つ目の赤い塗料はベテルギウス。4つ目の青い靴はリゲルか。じゃあ1つ目のバットと2つ目の上着は?」


「1つ目のバットはこん棒。2つ目の上着は獅子の毛皮。どちらも狩人オリオンが持つものだ。ちなみにナイフもね」


「殺害した理由は...何だ。1人目は朔良のストーカーだったようだが、他の3人は?」


「拳銃、塗料、青い靴。彼らが愛した物で、この世界に僕の“作品”を刻むためさ。他に理由が必要か?」


「...狂ってやがる...」

空閑の額に汗が流れた。


「さぁ、そろそろお喋りは終わりだ」

昴は右ポケットから拳銃を取り出し、銃口を空閑に向けた。



その瞬間――



空閑の視界の端で、朔良が動いた。


彼女は空閑の背後から腕を伸ばし、隠し持っていた拳銃を昴へ向けた。


「おっと、どうしたんだ朔良?」


昴は驚いたように眉を上げた。

だが彼の表情はそんな“今”を楽しんでいた。


「昴......楽しい?」


「楽しい?」

昴は目を見開き、笑みを深くした。その笑みは温度がなく、底が見えない。


「――あぁ。最高だよ」


朔良の呼吸が乱れる。


「......そう......良かった」


昴は薄く笑ったまま、首を傾げる。

「それで?朔良は僕を殺すのかい?」

その声は、期待と興奮の混じった声であった。


「......」


「なら急ぐんだ。僕の指が引き金を引く前に」


朔良の肩が震える。声にならない嗚咽が漏れる。


「昴......あなたは...」



声がかすれ、次の瞬間、彼女は叫ぶように言った。



「あなたは...私にアルテミスになって欲しかったんでしょ...ずっと......!」



引き金が引かれた。



乾いた銃声が響き、弾丸は昴の頭部を正確に撃ち抜いた。



「朔良...ありがとう......」


それが、昴の最期の言葉だった。

彼は力を失い、後ろへ倒れこむように地面へ崩れ落ちた。




朔良は空閑の腕をそっと離し、彼の前に立った。

まっすぐな瞳で空閑を見つめる。



「全部、私がやりました。彼は......私の指示で動きました」


静かに、彼女は両腕を差し出した。

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