エピローグ
空閑は目の前で起きた出来事をすぐには受け止められず、ただ呆然と立ち尽くしていた。
朔良は両腕を差し出したまま、一切の抵抗も見せない。
そのまっすぐな瞳は、初めて彼女に出会った日を思い出させた。
「本当に...君はそれでいいのか?」
ようやく絞り出した言葉に、朔良はかすかに微笑む。
「今、見たでしょう?私が殺人犯だという証人は空閑君でしょ?」
「いや、今回じゃなくて、君が――」
「空閑君」
静かに遮る声が、彼の言葉を封じた。
「私が犯人だって、私が言ってる。それで十分でしょう」
震える声に宿る決意に、空閑は返す言葉を失った。
彼には、彼女の真意こそ掴めなかったが、その“覚悟”だけは重く伝わっていた。
どれほどの時間が流れたのか。
空閑はポケットからおもむろに手錠を取り出し、朔良の手首にかけた。
「ありがとう、空閑君」
朔良は、小さな声でそうつぶやいた。
霧島昴は死に、影山朔良は逮捕された。
影山朔良は、自身が一連の連続殺人事件の主犯であると自供した。
最初の4件については、霧島昴を拳銃で脅し、殺害を命じたと語った。
死体の姿勢は、彼女の愛する・オリオン座になぞらえたものだと言った。
そして5件目――最後の事件については、霧島昴と口論になり、彼を射殺したと供述した。
空閑は、霧島昴から“あの日”聞いた話については、知らぬ存ぜぬを押し通した。
それが彼女の“覚悟”に対する誠意である、と彼なりに考えたからであった。
彼女は殺害の手順や状況を、まるで記録を読み上げるように事細かに語ったが、動機だけは「言えません」と固く口を閉ざした。
それでも、彼女の証言は現場から見つかった物的証拠によって次々と裏付けられていった。
「オリオン連続殺人事件」――。
死体の特徴から、あるマスコミがそう名づけた。
それ以来、世間ではこの奇妙な一連の事件をその呼び名で語るようになった。
影山朔良は残忍な殺人事件の主犯として大きく報じられ、事件は瞬く間に全国を騒がせた。
彼女の名は、世間の記憶に深く刻まれた。
今日も、空閑青洲は影山朔良と対峙する。
光の届かない取調室で、彼女は枯れた花弁のように静かに色を失っていた。
――俺はあの日、本当に“正しい”判断をしたのか。
胸の奥で、答えのない問いだけが、静かに沈んでいく。
こんにちは、後星/畑中葵です。
私の拙い文章をもし読んでくださった方がいたのなら、この上なく嬉しい限りです。
ありがとうございます。
小説を書いたのはこの作品が初めてで、きっかけはこの世に「何かを残したい」という思いが強かったからです。
アニメ鑑賞が趣味で、”DEATH NOTE”の夜神月、”コードギアス”のルルーシュ・ランペルージのような、最強の力を持ち、己の正義のために人殺しをするアニメ(語弊があれば申し訳ないです)に影響され、このような作品を書いてみたいと当初考えていました。
そして紆余曲折の末、辿り着いたのが本作の霧島昴です。
己の正義のための人殺し、というテーマではありませんが...
彼のモチーフは、“名探偵コナン(マジック快斗)”の白馬探です。白馬探をとんでもなく黒い殺人鬼として描いてみたいと考え生まれたのが、霧島昴です。
次に作品設定ですが、なかなかしっくりくる設定が浮かばない中、ある日の夜、夢で見た「心臓にナイフ一突きで殺す男」と「柱の影からそれを見ている謎の女」
そして、「女は触れることで作動する力を持つ」という情景を見て、これは面白いと思って採用しました。疲れていたのでしょうね笑。
男の名前を一旦、“昴”と一旦(適当に)名付けたあと、死体の共通点を考えました。
昴が星に関連する名前であることから、目を付けたのがオリオン座。
星の中でも王者的な存在であり、昴(プレアデス星団)に近く位置することから、使えないかと考え、この設定に至ります。
最も悩んだのは、朔良の持つ力の設定です。
空閑を救い、昴は救えなかった――その構造をどう成立させるか。
私は大学で医学を学んでいるので、人間の構造としてあまりにも筋が通らない設定は避けたいというこだわりがあり、ずっと悩みました。
書いていて後悔したのは、空閑以外に頭の切れる人物を登場させなかったことです。
当初、空閑は昴に殺される予定でした。だらしない服装の設定もそのためで、殺されたときはしわくちゃな服の袖とズボンの裾を切られて“オリオンの姿”で死ぬ――そんな構想でした。
しかし「空閑が死んだら誰が事件を解決する?」と考え、泣く泣く生存ルートに変更しました。
当初の結末は、昴が生き、朔良と空閑が死ぬという展開。作者が一番推す、霧島昴をどうしても生かしたかったのですが……結果は真逆のエンドになりました。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
次作も楽しんでいただけたら嬉しいです。
ではまた。




