新たな戦いへ
ワッサーブルクの北門から再び北の荒れ地に戻った時、俺達はできるだけ平静を装った。
カレドニアの戦士達にもバリン、バランとその部下達にもさっきの話はまだできなかった。
むやみに広げて良い内容ではないからな。
パーシー達にも勿論、内緒だ。
門の外ではパーシーが待ち受けていた。
「ダンカン!お話は終わった?」
「あぁ。パーシー、そちらはどうなんだ?」
「僕達も終わったよ。いや終わってないや。もう少ししたら夕食を用意しなきゃいけないんだよ。」
確かに外に出ると日は沈んでいた。
冬の北方の日の入りは早い。
夕食の準備も早めにしとかないと真っ暗になってしまうからな。
「わかった。じゃあ、先に夕食の用意をするんだ。話はあとだ。」
ちぇっ、つまんない。
パーシーはそんな顔をしていたが…
「わかった。じゃあ、寝る前に必ずだよ?ダンカンの仲間を紹介してね。」
そう言って、背を向けた。
歩きながら故郷から付いてきた者達に色々と指示をしている。
俺はその後姿を見て微笑ましく思った。
十歳なりに一所懸命やっている。
「ああ見えて、パーシー若様は頑張られておったのですよ。」
ダグが話しかけてきた。
ダグの話では幼いパーシーは最初、半死半生の負傷者の治療を怖がったらしい。
しかし、歯を食いしばって皆に指示を出し、治療を手伝ったらしい。
「本当にご立派でした。ロバート様に見せて差し上げたかったです。」
パーシーも頑張ったんだな。
「ですから、後でダンカン若様のお仲間を紹介してあげてくだされ。それを楽しみに頑張っておられたのです。」
「そうか。わかった。」
「あの…ソニア様は本当にテルデサード王国の王女様なのでしょうか?」
「あぁ、そうさ。」
「ソニア様が少しパーシー若様にお話ししてくださったのですよ。」
「ほう。」
「えぇ、その、ダンカン若様にはたくさんのお仲間がおられると。」
そう言えば、丘に上がってきた時、ソニアはパーシーと一緒にいたな。
「それにパーシー若様は奥方様から色々お聞きになられているのですよ。」
ダグの言う奥方様とはアリシアのことだ。
アリシアから話を?
どういうことだ…
パーシー達、後方支援部隊の連中が夕食を配っている。
俺達もパンとチーズ、燻製肉を受け取った。
大麦のスープもあった。
遠くでダグが運ぶ大鍋からゴブリン兵の持つ椀にスープをよそうパーシーの姿を見た。
頑張っているな。
俺達が食事を終えた頃、パーシーがダグや故郷の連中とやってきた。
「ダンカン!約束だよ!」
「わかったよ。」
俺は順に紹介しようと思ったら。
「僕、実は知っているんだよ!あなたがきっとンダギ、そしてあなたがブロウでしょ?二人ともすごく強い戦士なんでしょ?」
パーシーがンダギとブロウに話しかけた。
「それでね。エミィはとっても賢くて隠れるのが得意。フレッドは弓の名人!どんな遠くの的だって百発百中!そして息子のフレディ坊やは僕より小さな子供で可愛くて、奥さんのアンナさんは美人!」
エミィもフレッドもらしくなく少し照れている。
「ここにいないヴィーラはハイエルフの女王様!ディアリンはダンカンにできた一番新しい友達ね!」
ディアリンはパーシーに肩をたたかれて照れているのか、ますます堅苦しい顔になった。
こんな子供にまでどんな顔をしていいかもわからないらしいな。
最後にはディアリンは妙にひきつった微笑を浮かべた。
及第点はやるよ。
それにしても…
なんでそこまで知っているんだ?
あ、待てよ…
手紙だ。
あの河口で書いた手紙。
アリシアの手紙には皆のことを書いたんだ。
「あなたのことはわからないな…」
そうか、あの頃アランはまだ出会ってなかったからな。
「俺はアランだ。君と同じカレドニア人だよ。」
無口のアランが珍しく自己紹介をしている。
ぶっきらぼうで何を考えているかよくわからない奴だが、子供には優しいんだな。
「カレドニア人?氏族は?」
「シンクレアだ。知っているか?」
「うん。ロバートに…お父さんに聞いたよ。カレドニアで一番大きな氏族でしょ?」
「そういうことになるかな。」
待てよ。
アリシアの手紙の内容を全部知っているか?
しまった。
あの手紙には…
アリシアへの手紙には…
「そして、ソニア王女様。ダンカンが一番大切にしている人!」
俺は自分の顔が真っ赤になっているのを自覚した。
やめてくれ!
そうだ。
俺はアリシアへの手紙には…
何故だか、ソニアのことをいっぱい書いてしまったんだ。
ソニアのことを俺は…
ソニアがパーシーの言葉に乗っかる。
「えぇ?何それ?もっと教えて?パーシー?」
もういいって!
「アリシアが…アリシアってのは僕のお母さんね。アリシアがソニア王女様に会うことがあれば。ダンカンのことをお願いしますって伝えなさいって。」
俺は天を仰ぎたい思いだった。
アリシアは一体何をパーシーに吹き込んだんだ?
「そうなの?それってどういうことかしら?ね?ダンカン?」
「知らねぇよ。パーシー、もういいだろ?」
でもパーシーは聞いてなかった。
子供好きのンダギとブロウとふざけあっていた。
「あなたの弟。パーシー、素敵ね。」
「そうだろ?」
戦闘で疲れ切って皆、早くに寝てしまった。
いつもなら遅くまで飲んで騒いでいるところなんだが。
パーシーもだ。
今日は頑張ったからな。
ンダギ、ブロウと一緒に寝ると言って聞かず、三人は一緒に寝ていた。
俺も疲れ切っていたが、不思議と妙に目が冴えて眠れない。
ソニアも一緒だ。
「パーシー、何か面白いことを言っていたようだけど?」
「もう!もう、いいだろ?」
「うーん。わかった。今はそういうことにしとくわ。」
今は?
おいおい…
「ダンカン」
「うん?」
「今日、あなたが丘を上がってきた時ね。」
「ふむ。」
「嬉しかったの。」
「俺だって嬉しかったさ。俺達、どれだけ心配したと…」
「私ね。少しヴィーラの気持ちがわかったわ。」
どうして今ここでヴィーラの話が出てくるんだ?
「ワイバーンから降りた時のヴィーラ、アランの胸に顔を埋めて言ってたわ。『嬉しかった』って。」
思い出した。
白角城の王の広間からとんでもない破天荒なやり方で俺達を救出してくれたアランのことをヴィーラは散々罵った挙句、泣いて『嬉しかった』って言ったんだ。
でもソニア?
君はドワーフ達に保護されて、のほほんと過ごしてたんじゃないか?
「私ね。ドワーフ達と一緒にいたけれど、ずっと不安だったの。」
「どうして?」
「だって、心配になるじゃない?皆どうしているだろう?って。」
「そうか、俺達だって君のことを心配していたよ。それこそ夜も寝れないくらいにね。」
「ダンカンも寝れなかった?」
「どうかな?俺はぐっすり寝てたかな?」
「ひどい!」
「毎日へとへとだったんだよ。レネの魔法講座は結構厳しくてな。」
「お父様は約束を守って、あなたに魔法を教え続けてくれていたのね?良かった!」
「あぁ、俺のこと嫌いなんじゃって思うくらい厳しくね。」
「嫌ってなんかいないわ。そうなのお父様そこまで…」
「?」
「お父様はあなたに強くなってほしかったのよ。ダンカン。」
「そうなのか?」
「もう!わからないの!?私のお父様なのよ!」
俺にはマジでわからないんだが…
ソニアは暫くふくれっ面でいたが、やがて俺の肩に頭をもたれかけてきた。
「ダンカン。ありがとう。」
俺の呼吸は止まった。
息苦しい。
当たり前だ。
呼吸が止まっている。
落ち着け、俺。
俺はこんな美人が密着してきたことだけで、もう緊張して何も考えられなかった。
「あ、ありがとうって…な、なんだよ?」
「助けに来てくれたでしょ?それに約束も守ってくれた。」
そうか。
結果的にはそうなるな。
まぁ、考えてくれたのはヴィーラなんだが。
送還の鍵のありかを定かではないが、アルベリッヒ上級王が持っていると推測するところまでいっているからな。
「別に…その、なんだ…気にするなよ。」
「気にするわよ。」
俺達は焚火の前にいた。
パチパチと火がはぜる音だけが響く。
あのワッサーブルクの王の間で響いた音とは違う。
暖かい音だった。
次の朝、俺達はワッサーブルク、アイセンブルクを経由してヴァラキアに戻ることになった。
次なる戦いが待っているんだ。




