北の荒地の戦い(下)
丘の上に現れたのは鋼鉄の鎧を纏った軍団だった。
斧や戦鎚が曇天の隙間から差し込んだ陽光を受けて輝く。
再び地鳴りのような角笛が響き渡るとその軍団が丘の斜面を駈け下りた。
続けて石弓兵が現れた。
彼等は…
見間違うことはない。
ドワーフの軍勢だ。
ワッサーブルクの北門からドワーフ軍が出陣したんだ。
敗走するカレドニア戦士の最後尾に襲いかかるライオスエルフの頭上に石弓から放たれた矢の雨が降り注ぐ。
ライオスエルフ達がバタバタと倒れていく。
そこへ鋼鉄のドワーフ戦士が突撃した。
まるでそれは鍛冶場でドワーフの振るう鎚のような一撃だった。
形勢は再び逆転した。
ライオスエルフの前衛はたちまち壊滅した。
後続の者達は逃げ惑う。
そこへ容赦なくドワーフ兵がなだれ込む。
しかし、ライオスエルフ達も粘りを見せた。
ライオスエルフの後方部隊から魔法が発せられる。
炎の玉と稲妻の術だ。
しかしドワーフ兵達は倒れない。
彼等は魔法封じの術で守られていた。
丘の上にはノームの魔法使い達がいるに違いない。
優れた戦士が多いドワーフ族に対し、ノーム族には魔法に長けた者が多い。
俺は丘の斜面に留まった。
ふと気づくと後方支援部隊の農民兵よりも随分前に来てしまっている。
いつしか恐怖に飲まれて徒歩の味方を置いて逃げ出してしまっていたらしい。
ドワーフ軍の登場に励まされ、我に返った。
何やってんだ?
俺は!
気を取り直せ!
「さぁ!皆、今のうちに丘に登るんだ!」
俺は再び、後方支援部隊の農民兵に声をかけた。
もうすぐで皆、丘の頂上に辿り着く。
最後の農民兵と共に俺も丘を登りきった。
そこにはドワーフ達が大勢いた。
そして、彼等を指揮しているのはスリン王だった。
「弓兵、再び斉射、麓に残るライオス共を狙え。」
スリン王は穏やかさの中に冷酷さを秘めたあの独特の声で静かに指示を出した。
「第二歩兵隊、弓兵斉射と同時に駆け下れ、討ち漏らすな。」
容赦がない。
そしてスリン王は俺に気づいた。
「やぁ、転生者殿。また会ったな。」
ライオスエルフの殲滅を命じた時と同じ穏やかな口調でそう言うと右手を軽くあげて、にっこり笑う。
丘の斜面に取り付いていたライオスエルフ達はもういない。
討たれたか、逃げたかだ。
「魔法使い隊、魔法封じを再びかけよ。来ますよ。」
スリン王はまるで世間話をするかのような穏やかさで次々と指示を出す。
ノームの魔法使い達が詠唱を始める。
スリン王の予想通りだ。
アルベリッヒ上級王の巨大な魔力の発光体が現れた。
「エルフの矢が降る前に術を成立させよ!」
ノームの魔法使い達が詠唱と共に杖を前へ向けた。
魔法封じの術が戦場で戦う戦士達に施される。
そこへアルベリッヒ上級王のあのエルフの矢が降り注いだ。
魔法封じの術が間に合ったのかドワーフの戦士達はエルフの矢をものともせず、突撃を続ける。
遂にライオスエルフ軍は全軍退却を始めた。
ここにきて敗走してきたカレドニア戦士やトロール、オーク、ゴブリン兵も立ち直り始めた。
登りかけていた丘の斜面で立ち止まると次にはドワーフ軍に続いて彼等も逃げるライオスエルフ軍に再突入していた。
これで戦いの帰趨は決した。
「ダンカン!」
二つの声が俺を呼んでいる。
一つは甲高く幼い声。
もう一つは、聞き慣れた、ずっと聞きたかった、俺の大好きな声。
ケルピーの旗の下、パーシーが手を振っている。
そしてその横には…
おかしな奴だ。
満面の笑みで涙を流している。
器用な奴だ。
笑うか泣くかどっちかにしろよ。
でも俺も人のことは言えない。
俺の頬を熱いものが伝っている。
そして自分でもわかる。
俺が笑みを浮かべていると。
俺はよろよろと歩き始めた。
そして走り出した。
そして…
そして俺はソニアを強く抱きしめた。




