戦の終わり
「若いというのは素晴らしいことだがね。まだ戦闘中だよ。お二人さん。」
スリン王の間延びした声に我に返った俺達は慌ててお互いを放した。
ソニアの顔が真っ赤だ。
きっと俺もそうだ。
俺は誤魔化すように咳払いをした。
「ソニア、どうしてここにいるんだ?俺達はてっきり神々の宿木に連れて行かれたと思っていたんだが?」
「それなのよ!ダンカン、聞いて!」
真っ赤になってもじもじしていたソニアが打って変わって笑顔でまくしたてる。
顔が近い。
俺はまた顔が赤くなってるだろう。
もういいや。
「あのね、私、ユキーナに攫われたでしょう?袋の中に入れられて馬に括りつけられたのよ!酷いでしょ?袋に入れられて馬に揺られるってどんな気分か知ってる?」
知ってるわけないだろ?
そんなの。
「それでどうしたんだ?」
「そう!それでね。袋から出されたら目の前にドワーフがいたの。私、驚いたわ!」
確かに驚くだろうな。
「それでね、スヴァートエルフがいつの間にかライオスエルフに変わっててね。それでまた驚くじゃない?それで、それで…」
興奮状態のソニアの話はいつもとりとめがない。
まるで散らかった子供部屋みたいな話し方をする。
散々、寄り道をして話してくれた内容はこうだ。
ルサールカの兵に追われたユキーナ達はアイセンブルクに逃げ込んで庇護を求めた。
ドワーフ達は中立の立場からユキーナ達を捕らえてスヴァートエルフに引き渡すことはしなかったが、一方でソニアを拉致することには協力できないと言い出した。
だからと言って、ここでソニアをライオスエルフから取り上げてヴァラキアへ送ることも中立の立場上できかねる。
そこでドワーフ達はユキーナとライオスエルフにアルフハイム側の門までの通行を許す代わりにソニアの解放を要求し、自分達で保護することにしたらしい。
ユキーナ達はかなり渋ったようだが、流石の召喚者でもアイセンブルクの全ドワーフを相手にするのは無理と考えたようだ。
そうして、ソニアはアイセンブルクに留まり、ユキーナ達はアルフハイムに逃れた。
その後、ソニアはドワーフ達の賓客として迎えられ、のんびりしていたらしい。
俺達はヴァラキアで毎日心配していたというのに!
「ソニア、ヴィーラは君を助ける為に神々の宿木に強襲をかけたんだぞ。」
「えぇっ!それで彼女は大丈夫なの?」
「わからない。予定では昨日くらいに敢行している筈なんだが…俺達がここまで来たのは囮の役割もあるんだ。」
「ヴィーラ殿ならば失敗したよ。」
スリン王が何故それを知っているんだ?
「神々の宿木に常駐させているものからの報せがあったのだよ。」
ドワーフ族は神々の宿木に大使を常駐させているし、間者も忍ばせている。
とは言え、情報が早すぎないか?
神々の宿木から一番近いドワーフの国の門まで早馬でも一日では着くまい。
「我らは独自の伝達手段があってね。ヴィーラ殿の失敗と我らがこの戦に急遽、参戦した理由にも関係がある。」
そうだ。
ドワーフ族は中立を宣言してたんだ。
どうして俺達を助けた?
「スリン王陛下、ドワーフの中立はどうなったのです?」
「少し話をしなくてはいかんな。が、しかし…」
「しかし?」
「先ずは戦いから戻った者を迎えなくてはな。」
スリン王の視線の先には戦場から戻ってきた疲れきったドワーフ兵達がいた。
そして、その中にロフト王もいた。
ロフト王自ら先陣をきって突撃したんだ。
ロフト王の鎧は脇、肩当て、兜に凹みがあった。
ロフト王の顔の半分は自らの血で汚れていた。
兜に凹みができた時の傷のせいだろう。
「手強い敵だったわい。」
「王位についてから王座にふんぞり返って、腕が落ちたんじゃないかね?」
「失敬な!まだ若い者に負けんわい!」
「儂に言わせれば、そなたもまだ若いがね。ロフト。」
スリン王とロフト王の会話が面白くていつまで聞いていたかったが、それよりも気になることがある。
「それでヴィーラは無事なのですか?」
「さてな。はっきりとはわからぬが、うちの者からの情報によるとヴィーラ殿はヴァラキアへ逃れたと思われる。」
背後でふーっと息を吐くのが聞こえた。
ソニアだ。
振り向くとソニアは座り込んでいた。
親友だからな。
心配だったんだろう。
確定情報でないのが残念だが、アランもこの話を聞けば少しは安心するだろう。
そのアラン達も戻ってきた。
ンダギ、ブロウ、アランは前衛だった。
かなり激戦だったから三人とも負傷している。
フレッド、エミィもやってきた。
仲間達は皆、無事だ。
「それにしてもアルベリッヒはげに戦上手よの。」
スリン王はまだ戦場を眺めていた。
「お言葉ですが、此度の戦はあなた達の加勢で大勝利だったのでは?」
「さよう。勝つには勝ったがね。勝ちきれなかったな。」
「?」
「アルベリッヒの魔力ならまだあの途方もないエルフの矢を幾度か放てたであろう。」
あれだけ魔力を使っといて、まだ余力があるなんて…化け物だな。
「さすれば、我々の被害は甚大であったろうな。転生者殿のお仲間も無事では済まなかったであろう。」
向こうでは再会にはしゃぐンダギとブロウをソニアが懸命に押さえつけて治療しようと悪戦苦闘していた。
「しかし、そこまで戦闘を引き延ばせばライオスエルフはもっと被害を出しておったろう。もしかしたらロフトの斧が奴のクビに届いたやもしれぬ。彼は退くことで被害を最小限に抑えたのだよ。」
ライオスエルフは人口が少ない。
同じだけの被害を受ければ、不利になるのはライオスエルフの方だ。
スリン王の言う通りかもしれない。
「ロフト、すまぬが、ワッサーブルクの兵で峠を固めてくれんか?但し、伏兵に気をつけてな。」
「承知した。」
ロフト王はすぐにまわりの家臣達にてきぱきと指示を出し始めた。
「さて、転生者殿。ヴィーラ殿のこと、我等のこと。知りたいことが沢山あろう。中で話をしよう。グンナルもおるしな。お仲間達もご一緒にな。」
そう言ってスリン王はワッサーブルクの北門を指差した。




