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転生者なんて負け組だ  作者: 荒野旅人
第三章 ヴァラキア編

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北の荒地にて

波の音。

潮の香り。

あの時、俺はここでロバートやアリシア、パーシーに手紙を書いた。

そう、ここはあの河口近く岸辺だ。

砂浜には引き上げられたガレー船が並ぶ。

俺達は野営の準備をしていた。

今のところライオスエルフの軍勢は見当たらない。

ディアリンによると奴等は一度捜索に北の荒地まで来た後は姿を現していないと言う。

今回の旅ではディアリンが仲間に加わり、ンダギ、ブロウ、アラン、エミィ、フレッド、ディアリンという顔触れだ。

ノルデル伯は相変わらずブラドで忙殺されており、ソニアはライオスエルフに攫われ、ユキーナは裏切り者だった。

ヴィーラも神々の宿木を強襲すると言う過酷な作戦に挑む為、同行していない。

それに船を出してくれてそのまま俺達と戦ってくれるトロール四十人が一緒だ。

これからディアリンと共にこの荒野に潜んでいた緑の党のライオスエルフ達が合流する。

ディアリンが仲間を呼びに行っている。


「うかない顔だな。」

フレッドの声に我に返った。

考えごとをしていたからな。

「そりゃそうさ。これからライオスエルフと戦をしようと言うんだ。生きて帰れる気がしない。気持ちも沈むさ。」

少し嘘だな。

ライオスエルフと戦って生き残れる自信がないのは本当だ。

エルフは皆、魔法の達人だ。

それでいて剣でも弓でも一流の使い手だ。

強靭な体躯も備わっている。

完璧超人のような連中だ。

ヒト族が無闇矢鱈にエルフを崇拝したがるのも仕方がないんだ。

そんな奴等と戦うんだ。

見通しも暗いさ。

「その戦にカレドニアの同胞が加わるしな?」

流石にバレてるな。

それだけではないが…

「お前、家族や故郷の人達が来ないか心配なんだろ?」

そうさ。

その通りさ。

全部バレてるな。

「今回、お前の師匠が戦士を募るんだろう?」

「あぁ。バーン師は今頃、カレドニア中をワイバーンで飛び回っている筈だ。」

「だったら…なんだ?自分やお前の一族には敢えて声をかけないとか?ないか?」

「いや。逆だ。ライオスエルフと戦をする以上、誰もが無事とはいかないだろ?だったら、まず第一に自分の身内から声をかける。バーン師はそんな人だ。」

「お前の一族から戦士を募るとしたら親父さんが統率するのか?」

「多分な。俺の父も今は結構な歳なんだがな…」

そうだ。

俺が故郷ロッホナラステア湖とその周辺の地を離れた時、俺の父ロバートはもう五十歳だった。

今は五十七歳だ。

この世界のヒト族の寿命六十〜七十歳だ。

もう初老と言って良い歳だ。

地主としては有能な人だったが戦闘経験は皆無だ。

老いたロバートが戦場に引き出されるのは過酷過ぎる。

それにロバートは誰と戦場に来るんだ?

俺の一族に戦士なんかいない。領地の住民も皆農民だ。

そんな者達がライオスエルフとの戦に出る…

俺はそれが憂鬱なんだ。


夕食が終わった頃、ディアリンが戻ってきた。

「ダンカン、仲間は明日、合流する。」

ディアリンの仲間は緑の党員だ。

未だアルフハイムに緑の党の生き残りがいるかわからない今、ライオスエルフで唯一味方と言えるのが彼等だ。

「ディアリン、お疲れ。今、スープよそうから、先にこっちをやってくれ。」

俺はパンとチーズをディアリンに渡し、きれいな椀に火にかけた鍋からスープをよそった。

「ダンカン、かたじけない。」

ディアリンはパンとチーズを受け取った。

相変わらず堅苦しいが、これでもかなり打ち解けたんだ。


あのブラドでディアリンと再会した後、俺達はディアリンを薬屋に連れ込んだ。

バリン、バラン兄弟やその配下の兵達も一緒に大いに痛飲した。

ディアリンは目を白黒させていたが、ずっと敬愛する主君ヴィーラが提唱する『オークやゴブリンとエルフが共に平和に暮らせる世界』を実体験したんだ。

その堅苦しさをからかわれたりしたが、誰もがディアリンを歓迎した。

何百年も生きているディアリンは初めてオークやゴブリンと共に酒を酌み交わし、笑いあったんだ。

まぁ、堅苦しいディアリンはほとんど笑顔らしい笑顔を浮かべることはできてなかったが…


この旅の間でもディアリンが良い奴だと言うことはよくわかった。

ディアリンにとっても俺とはどうやら馬が合うらしい。

良い友達さ。


向こうからは酒を飲んで陽気にアランに話しかけるンダギやブロウの騒々しい声が聞こえてくる。

ディアリンは俺からスープの椀を受け取るとパンを浸して食べた。

「ダンカン、もう一つ知らせがある。」

「?」

「カレドニアのシンクレア一族から早馬があった。明後日にはカレドニアの軍勢がここに来る。」

「そうか。」

「ご家族と再会できるな。」

「あぁ、そうだな。」

ディアリンの口調には気遣いが感じられた。

勿論、堅苦しいディアリンの口調だ。

なんとなく感じられるだけなんだが、わかるんだ。

目の前を流れる川の遥か上流で以前、ディアリンと話をした時の話題は、故郷の話だった。

だから、ディアリンにも何かわかるんだな。


その川が海に注ぐ河口から波の音が微かに聞こえる。

潮の香りが微かにする。

そして俺にはカレドニア人の行進する足音と身に纏う武装の鉄の臭いが感じられる気がした。

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