旅立ち、再び
「それでは儂は行くからな!」
バーン師はワイバーンに跨ると言った。
バーン師はこれからカレドニアに行く。
「師匠。お気をつけください。」
「そなたらも無理をするなよ。」
バーン師は軽く手を上げた。
ワイバーンが羽ばたき始めた。
やがてフワリと宙に浮くとそのままブラド宮で一番高い塔よりも高くまで上昇し、風をつかまえ飛翔していった。
俺はワイバーンが小さくなって見えなくなるまで見送っていた。
さて、俺達も旅に出なければならない。
気の遠くなるような旅だ。
俺が聞いたこともない未知の土地への旅だ。
昨日。魔王様は俺達の話を聞いて軍議を開いてくれた。
軍議では皆、アルデア、カレドニアの反乱は歓迎するが、連携できないとの意見だった。
ただでさえ、ルセ平野の戦いで兵力を消耗している上、地理的に絶望的な位置関係にある。
「ライオスエルフの動きが気になるな。」
魔王様が言った。
ライオスエルフは軍を出すだろうか?
もしカレドニアが攻められたらどうなるだろう?
「カレドニアが反乱を起こしたと言ってもカレドニアは全体で固まっているわけではない。組織的な対応は難しいじゃろう。」
バーン師の言う通りだ。
カレドニアは自治領だ。
地主階級になってしまった各氏族の族長や有力者がバラバラで自分の土地を治めているに過ぎない。
カレドニアを全体として統治する立場にある総督は王国から派遣されてきたよその貴族だ。
つまり王国側の人間だ。
反乱を率いるわけもないし、今頃、カレドニアから逃げ出しているだろう。
「攻められたら。厳しいな。」
そこへジルワード殿が人を連れて入ってきた。
「魔王様、ルサールカ女王陛下がお越しになられました。客人を一人お連れです。」
「ルサールカ殿?確か自国に戻られてメルワスの塔へ援軍を送る指揮を取られているはずだが?」
「急ぎのご用とのことで、この会議に参加されたいと。」
「よろしい。お通しせよ。」
頭を下げて出て行ったジルワード殿と入れ替わってルサールカが入ってきた。
そして、もう一人…
思わずヴィーラが立ち上がった。
俺もだ。
ヴィーラの口元に笑みが広がる。
きっと俺もだ。
ルサールカが連れてきたのはディアリンだった。
ディアリンはヴィーラの側近で緑の党の一員だ。
あの北の荒地で別れた後は消息がわからなくなっていた。
「ディアリン!」
「ヴィーラ女王陛下。」
ディアリンは恭しく礼をとった。
優雅で美しく、そして何よりも奴らしく堅苦しい礼をとった。
ヴィーラは席から走り寄るとその手をとった。
「無事だったのね。」
「はい。陛下。陛下の忠臣は、まだ私の他にも北の荒地で無事潜んでおります。」
ディアリンが会議の面々にした話ではこうだ。
俺達と別れた後、ディアリン達は少し遅れてヴィーラの国へ向かったが、峠の手前でヴィーラの王宮から逃げてきた者と鉢会った。
そこでディアリンはヴィーラの王国がカレイド一派の手に落ちたこと、壮絶な緑の党狩りが行われていることを知った。
彼等は北の荒地に戻った。
北の荒地には少人数ながらヴィーラの家臣が常駐している。
その者達は皆、緑の党に属していた。
やがて、カレイドが送った捜索隊が北の荒地に姿を表した為、彼等を荒野に身を潜めているとのことだ。
そして、仲間をアルフハイムに潜入させ探らせたところ、ヴィーラや俺達がカレイドの手によって捕まったこと、ワイバーンでヴァラキアへ逃げたことを知ったらしい。
驚いたのはその後だ。
ディアリンは単身、あのスカニア山脈を越え、メルクハイムのルサールカの王国まで来たらしい。
言葉にすれば簡単だがスカニア山脈を越すと言うのは生半可なことではできない。
距離もあるし、道らしい道もない。
転生前の世界で言えばアルプス越えみたいなものだ。
流石、エルフと言ったところか。
ルサールカの宮廷に着いた頃には半死半生の状態で、手当を受けて来たらしい。
流石に会議に参加しているヴァラキアの猛者達もこれには唖然としていた。
彼等の称賛を受けてもディアリンは堅苦しく頷くだけにして報告した。
「北の荒地には五十人ほどですが、同志がいます。」
これが新しい作戦の取りかかりになった。
カレドニアで募った戦士達とディアリンの仲間が合流して北の荒地でライオスエルフの軍を迎え撃つ作戦だ。
バーン師はワイバーンで北の荒地経由でカレドニアに行く。
ディアリンの仲間とカレドニアの各氏族と話し合うためだ。
カレドニアの各氏族も攻め込まれて郷土を荒らされるよりも自分達の国の外で迎撃する方が良いだろう。
それに、バーン師はカレドニア出身者では最も偉大な魔法使いだ。
皆から尊敬されている。
バーン師が募ればより戦士が集まるだろう。
望みの薄い作戦だが、これ以上の作戦は出てこなかった。
更に困難なのが、ヴィーラがその隙をついてワイバーンで神々の宿木を強襲するというのだ。
これにはルサールカが兵を貸してくれると言う。
つまり、カレドニアの防衛とソニア奪還を狙った二面作戦だ。
無論、見つかれば送還の鍵も強奪する。
これにはアランが参加したがったが、他ならぬヴィーラに却下された。
「あなたがカレドニアの戦士を指揮せずに誰が指揮をとるのよ?シンクレア氏族の次期族長のあなたが!」
そうヴィーラに言われるとアランは頷かざるを得なかった。
シンクレアは今、カレドニアで最大の氏族だ。
その族長の嫡子の言う事なら、頑固なカレドニアの戦士達も従うだろう。
アランは北の荒地の戦いに必要だった。
同じ、族長の息子でも小さな地主に過ぎないマカリスター家の息子である俺はおまけみたいなもんさ!
とは言え、俺は内心、秘めるものがある。
一つはマカリスター家のこと。
ロバート、アリシア、パーシー。
俺の大事な家族は今どうしているだろう?
できれば今度の戦に巻き込まれてほしくない。
安全なロッホナラステア湖のあの美しい土地で平和に暮らしていてほしい。
俺は家族とその幸せな生活を守りたいんだ。
もう一つはソニアのこと。
ソニアが神々の宿木に囚われているなら、俺自らワイバーンで駆けつけたい。
ソニアがいなくなって初めて気づいたことがある。
彼女がいないと俺は…
しかし、アランでさえ与えられた任務に従っているんだ。
俺も俺にできるベストを尽くすしかない。
俺達も北の荒地に向かうが、ワイバーンはバーン師とヴィーラが使う。
かと言ってディアリンのような山脈越えはごめんだ。
魔王様は俺達が想像つかないような道を教えてくれた。
こうして俺達は再び、新たな旅に出ることになった。




