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転生者なんて負け組だ  作者: 荒野旅人
第三章 ヴァラキア編

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バーン師

俺の炎の玉が的の石柱に炸裂した。

「まだ、頭で考え過ぎだ。心で感じて精霊に伝えよ。」

半神レネからまた手厳しい言葉をいただく。

俺的には会心の出来だったんだが…


半神レネからの古代魔法の教えは真魔法から精霊魔法に移っていた。

半神レネの提案通り、古代魔法の手法を学んで苦手な真魔法に応用すると明らかに上達したが、期待されたほどではなかった。

そこで得意の精霊魔法で試してみると、こちらは上手くいった。

同じ強度で魔法を放っても、明らかに以前より大きな成果を実現するようになった。

「そなたは本当に精霊魔法ばかりなのだな…」

半神レネが呆れたほどだった。

ただ、そうなると半神レネの要求も高くなる。

だから、俺が会心の出来で炎の玉を撃ってもお叱りを受けるんだ。


ソニアが攫われてから半神レネの教えも急速に厳しくなった気がする。

半神レネも機嫌が悪いんだろうか?


俺は半神レネに促されて、再度、炎の玉の呪文を唱え始めた。

その時、俺達のいる屋外魔法練習場に大きな影がさした。

思わず術を止めて、空を見上げた。

巨大なものが空をかすめた!

あれは…

「ワイバーンだ!」

半神レネも見上げている。

流石に驚いていると思うんだが、相変わらず無表情だ。

「レネ様。あちらに降りるようですよ。」

「ふむ。行ってきても良い。」

行ってきても良い…って、自分は行かない。

つまり興味ないってことか?

それか、なんといってもヴァラキアの幹部だ。

何があったか知っているのかもしれない。

「では、少し失礼いたします。」

俺は走り出した。


ブラド宮の奥にはワイバーンが離着陸する為の専用の広場がある。

俺はそこへ走っていった。

何があったのか好奇心もあるし、ワイバーンが見たいと言うのもあった。

男の子はいつまでも男の子で。

ドラゴンには憧れなきゃな!

ワイバーンだけど。


俺がついた時にはワイバーンからその人物は降りていた。

思いがけない人がそこにいた。

俺は驚きのあまり立ち尽くす。

俺と同じ魔道使い協会の支給ローブ。

老齢の割にゴツい体つき。

懐かしい白髭。

バーン師だ。


まだカレドニアで育てられていた頃、バーン師は家庭教師だった。

最初に魔法を教えてくれたのもバーン師だった。

カサベラに呼んでくれたのもバーン師であれば、魔法使い協会で正式に魔法の師匠となってくれたのもバーン師だった。


カサベラの反乱以降、バーン師の消息が入ってこず、ずっと心配していた。

バーン師は魔法使い協会カサベラ支部の長だった。

協会は王家がバックについているから、反乱に加担するわけにはいかない。

バーン師はジャン王の政策を支持していて、鎮圧に加わるとも思えなかった。

しかし、王国からの命令があれば、どうするのだろうかと気を揉んでいた。


「ダンカン!ここにいたか!元気にしているか?」

バーン師は俺に気づくと破顔一笑した。

元気で陽気なお爺さんなんだ。

バーン師は。

「師匠。どうして?ここへ?しかもワイバーンに乗ってきたんですか?」

俺はやや混乱気味だ。

「そうじゃよ。詳しい話は後だ。先ずは魔王殿とレネ殿に挨拶をせにゃならん。」

バーン師は俺をなだめるように背中に手をまわしながら穏やかに言った。

「わ、私がご案内いたします。」

「頼む。ブラド宮は久々でな。」

ジルワード殿がよこした案内役にことわって、俺はバーン師を王の広間まで案内した。


「最初にここへ来たのはジャン王の命でな。先のノルデル伯アルヴァン殿に随行して来たんじゃよ。思えば、あれがジャン王が魔王殿を封印すると言う提案の一回目の交渉であったな。その後も幾度か大使のお供をしたわい。ケネス殿ともな。」

そう言うとバーン師はうまそうにエールの入ったマグを呷る。

髭についた泡を拭うと続けた。

「お前さん、儂がどうしとったか、どうしてここへ来たのか、それもワイバーンで、それを聞きたいんじゃろう?」

「それはそうですよ。師匠。驚くではありませんか?」

「ふむ。心配かけたようじゃな。話をしよう。但し…」

バーン師は一息おいた。

「但し、おかわりをしてからじゃ。」

そういうとバーン師はエールのおかわりを頼んだ。

俺も葡萄の蒸留酒をおかわりした。

今日も薬屋は盛況だ。

またローブの袖で髭の泡を拭こうとするバーン師の横で慌ててヴィーラがハンカチを取り出した。

バーン師も魔法使い協会の支部長だから身分高い人だけどエルフの女王様に何をさせるんだ?

まぁ、バーン師らしい。

ちょっと粗野で素朴なのはカレドニア気質だ。

子供の頃から面倒を見てもらっている俺にとっては祖父みたいなものだから、バーン師と再会すると心が和らぐ。


「さてと…ではカサベラでの話からしようか。」

バーン師が話し始めた。

「カサベラでオーク、ゴブリン追放令は公布されると同時に町は反乱を起こした。知っておるだろうがノルデル伯からの知らせがあったからな。町の人々の多くは既に知っておったし、公布され次第、反乱を起こす気になっておったんじゃよ。」

「バーン師はどうされていたんです?」

「儂か?儂はな、実はダリーに匿ってもらっていたのじゃ。」

「ダリーにですか?」

思わず俺はポカンとしてしまった。

ダリーは俺達の行きつけの酒場、輝く角笛亭で働くハーフオークの女給だ。

どうして彼女がバーン師を匿うんだ?

「ノルデル伯の知らせを受けてから、ずっとそうすると話し合っておったな。」

「どうしてダリーが?」

「そうか。ダンカン。お前さん達はまだ知らなかったな。カサベラでノルデル伯の知らせを受け取ったのはガレスとダリーじゃ。彼等は仲間のダンガー一党と共に以前からノルデル伯と繋がっておったんじゃよ。反乱は彼等が中心になって起こしたんじゃ。」

バーン師の言葉に俺は愕然とした。

信じられない。

ガレスは輝く角笛亭の主人で、ダンガーは闇賭場の親分だ。

俺達がいつも飲みに行っていた酒場やその常連仲間がノルデル伯一党と繋がっていたなんて…

待てよ。

俺に魔王様復活の噂を吹き込んだのはガレスだったな。

あいつ本当のことを知ってたな!


「それにしても、どうしてダリーに匿われたんですか?」

「それはこうじゃ。反乱を起こした町の住人は反乱に賛成できない者を町から追い出した。領主とその家族とかじゃな。」

それは聞いていた。

「そして儂ら魔法使い協会も王家の庇護を受けている以上、反乱には参加できん。そこで儂が人質になる代わりに他の者達を無事に町の外へ出すよう反乱軍に交渉したんじゃ。勿論、全部、芝居じゃがな。」

バーン師は得意げだ。

「では、師匠は今?」

「うむ。人質としてカサベラに残ったが、いつのまにか町から姿を消したことになっておる。つまり行方不明じゃな。」

いかにもおかしそうにひと笑いして、バーン師はまたマグを呷った。

「それでカサベラの状況はどうなのです?」

「カサベラは無事じゃよ。そなたらのおかげじゃ。」

「?」

「魔王殿からそなたらがこちらで善戦してくれておると聞いた。おかげで王国はカサベラにまともな軍隊を派遣できんのだ。援軍もおるしな。」

そうか。

ティロス王国が下心見え見えの援軍を派遣しているんだったな。

軍議で聞いた通りだ。

しかし、いつまでも保つわけではないだろう。

いい加減、王国も軍の召集が捗るだろうからな。

「それよりも気がかりなことがある。」

「どうしたのですか?」

「アルデアとカレドニアでも反乱が起きたのじゃ。」

「なんですって!?」

カレドニアが反乱だって?

どう言うことだ?

思わず拳を握ってしまった。

カレドニアは俺の生まれ故郷だ。

ロバート、アリシア、パーシーの顔が思い浮かぶ。

「お前もカレドニアの地主の息子だ。ロバートからフィリップの課税のことは聞いておろう?」

思い出した。

ジャン王が崩御してフィリップが王になってから、代々定められてきた税が増額されたり、慣例により免除されてきた税を突然課税されたり、前例のない名目の課税が追加されたりするとロバートが不満を漏らしていた。

それで潰れてしまった家もあるとも聞いている。

カレドニアや隣のアルデアは元々独立国だったのに統一の時代に強引にテルデサード王国に併合され、傘下の自治領にされてしまった地域だ。

元から王国への反感が強い。

「今回の戦争が引き金になったのですね?」

「そうじゃ。貴族達からなかなか兵を供出されないことに業を煮やした王家が自治領にかなり強引な徴兵を行なってな。不満が爆発したようだ。」

俺は握りしめた拳に痛みを感じて、力を抜いた。

カレドニアの名を聞いてついつい力を入れ過ぎていたんだ。

俺は深呼吸をした。

これまで俺のことがバレてロバート達に迷惑をかけることを恐れていた。

まさかカレドニアが反乱を起こすなんて…

王国にとっては打撃だ。

鎮圧軍が派遣されたら…

いや、もっと怖いのはライオスエルフだ。

カレドニアはライオスエルフの領土と隣接する。

王国がライオスエルフにカレドニア討伐を依頼したら…

俺はいても立ってもいられない思いだった。

ガシッとバーン師の大きな手が俺の頭に乗せられた。

そして髪をワシャワシャとされた。

「彼等はヴァラキアと同盟望んでいる。そこで儂が来たんじゃよ。」


ワイバーンはバーン師がまだカサベラにいるとの知らせがノルデル伯に届き、ノルデル伯が魔王様に頼んで飛ばしてもらったらしい。

バーン師はジャン王支持派だったから、ノルデル伯とは密かに繋がりを持っていたそうだ。

魔法使い協会の支部長ともなれば朝廷の秘密にも触れる機会があり、そんな情報を密かに流すこともあったらしい。

最初、バーン師はカレドニアのどこかで身を隠す予定だったそうだが、状況を知り、そのままブラドまできたそうだ。


「儂はドワーフ達が中立を宣言したなど知らなんだからな。スカニア山脈を抜ける時はドワーフの通報を受けたライオスエルフがグリフォンで追ってこないかヒヤヒヤしたわい。」

そう言って、バーン師は三杯目のエールを呷った。


「それが問題ね…」

ヴィーラが呟く。

「反乱したカレドニアとアルデアがヴァラキアと同盟を結んだとしてもその間にはライオスエルフの領土とスカニア山脈があるわ。」

そうなんだ。

バーン師の様にワイバーンにでも乗らない限り、カレドニアとは連絡すらできない。

ヴィーラが考え込む。

完璧の美の造形といっても過言ではないヴィーラの眉間に皺がよる。

「もしもよ…もしもライオスエルフがカレドニアに軍を出すなら、神々の宿木は空っぽになるわ。」

どういうことだ?

「今、ライオスエルフは主力のほとんどをメルワスの塔の包囲に割いているわ。」

そうなんだ。

アルフハイムの森とメルクハイムの森が繋がる国境に建つメルワスの塔を巡ってライオスエルフとスヴァートエルフが攻防戦を繰り広げている。

今はスヴァートエルフの主力がメルワスの塔に籠り、ライオスエルフの軍がそれを包囲している。

スヴァートエルフは時折り援軍を送って包囲軍の背後を脅かし、小競り合いが続いている。

これはついこの前、ここに来たルサールカからの情報だ。

「恐らく神々の宿木には最低限の守備兵しかいないはずよ。もし今、ライオスエルフが軍を出すなら、その守備兵を動員するしかないはずなの。」

ライオスエルフは強大な力を持つが人口は少ない。

軍には限りがある。

「ダンカン、あなたの故郷の危機につけ込むようなことを言ってごめんなさい。これは神々の宿木を急襲するチャンスかもしれないの。」

俺達の推測ではソニアと送還の鍵は神々の宿木にある。

つまり、ヴィーラはソニアの救出と送還の鍵奪還のことを言っているんだ。


「それは一理あるな。」

フレッドが言った。

フレッドはアルデア出身だ。

故郷に未練はないと言うがアルデアの反乱は心配だろう。


「魔王様に相談してみる価値はあるか。」

俺はそう言って杯に残っていた葡萄の蒸留酒を飲み干した。

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