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転生者なんて負け組だ  作者: 荒野旅人
第三章 ヴァラキア編

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送還の鍵

スヴァートエルフの女王、ルサールカがブラド宮へやって来た。

ヴィーラとソニアの親友だ。

ルサールカは魔王様や半神レネとの会見を終えるとすぐに俺達を呼び出した。

ジルワード殿はすぐにブラド宮内にある応接室で話ができるよう手配してくれたが、俺達は薬屋で会うことになった。

特にヴィーラとは親友同士だしな。

気軽に話せるところが良いだろうと言うことになったんだ。

以前、ブラドにいる時は毎日薬屋で飲んでいたが、ルセ平野の戦いの後、俺は行っていない。

ソニアが攫われてからそんな気分にはなれなかった。

ルサールカの話はソニアに関わりがあると言う。

そう言われれば行くさ。

薬屋は昼間その名の通り薬を売る店なんだが、薬屋としての営業時間が終わると酒場になると言う不思議な店だ。

久しぶりに来るとその不思議さが身に沁みた。

初めてソニアに連れられて来た時のことを思い出した。


「この話は魔王殿にも報告した話よ。」

ルサールカは美しいスヴァートエルフの女王だ。

スヴァートエルフはライオスエルフと同様に連邦制で三つの王国から成る。

ルサールカはその一つの女王だ。

ヴィーラと同じだな。

スヴァートエルフらしい恐ろしく白い肌に美しい顔立ち、まるで前世で見たファンタジーアートのようだ。

そんなスヴァートエルフの美しい女王様が薬瓶がぎっしりと並んだ棚で埋め尽くされた壁を背に座ると独特の素敵な雰囲気だ。

スヴァートエルフはライオスエルフやヒト族、ドワーフからダークエルフと呼ばれるが、それは第三次暗黒大戦で闇の種族と言われるオーク、ゴブリンなどのヴァラキア側へ寝返ったからつけられた呼び名だ。

肌の色は雪のように白い。

ライオスエルフのヴィーラより白い。

ダークエルフなんて呼び名とは全然違う。


「もしかしたらソニアを探す手掛かりになるかもしれない話なの。」

なんだって?

「そ、それは!?」

思わず音を立てて立ち上がってしまった。

「落ち着け。ダンカン。」

ンダギに嗜められる。

酒場ではいつもブロウと並んで一番騒がしいンダギに。

でも、ソニアの名前を聞くと居ても立っても居られないんだ。

俺は一先ず座った。

興奮してるな。

少し手が汗ばんでる。

テーブルの向こうでルサールカとヴィーラがヒソヒソ話をしている。

「もしかして彼が?」

「そうよ。ソニアの…」

チラチラこちらを見てる。

なんだよ?


「実は家臣からの報告に気になることがあったの。」

ルサールカは改めて話し始めた。

「私の領国はルセ平野に隣接してるの。」

確かにルセ平野の戦い前の軍議で聞いたな。

「そしてこれは私の領内であった話よ。怪しい馬の乗り手の一団が領内を通り抜けようとしていたのをうちの兵が問いただしたら逃げ出したのよ。その一団と言うのが一見スヴァートエルフのようで、一人はローブを下ろして顔を隠していたそうよ。十騎程の集団で大きな袋を括りかけた馬を引いていたらしいの。」

「袋?どれくらいの大きさなんだ?」

「そこまでは…でも馬一頭をあてがうような大きさよ。」

それだ!

間違いない!

袋の中にはソニアがいたんだ!

「それでどうなったんだ?」

俺は今度は立ち上がらなかった。

フレッドが俺の右肩に手をかけていたからな。

流石、俺のことを知り尽くしてる。

そうでなかったら、また音を立てて立ち上がってしまっていた。

ソニアの情報だ。

落ち着けやしない。

「当然、うちの兵達は追走したわ。その一団は北に向かっていたようだけど、追いかけられると西に逃げたわ。」

「西に逃げた?スヴァートエルフの国の西といえば山脈しかないだろう?」

「そうね。ドワーフ達の国がある山脈よ。」

「もしかして?」

「そう、アイセンブルクに逃げ込んだのよ。」

ルサールカの言葉で思い出した。

メルクハイムの森にはアイセンブルクの門の一つがあるって。

「それで?」

「うちの兵達は門の前で逃げ込んだ者を引き渡すように要求したけれど、その要求ははねつけられたわ。」

「どうしてだ?」

「アイセンブルクの返事はこうよ。今、ドワーフ諸国はアルフハイム並びにテルデサードとメルクハイム並びにヴァラキアとの争いについては中立の立場にある。だから逃げ込んできたライオスエルフを捕まえて引き渡すことはできないと。」

「やっぱりあいつらは…」

「そうね。ライオスエルフがスヴァートエルフに化けていたのよ。きっとアイセンブルクに入ってから変装を解いたのね。」

「じゃあ、ソニアはどうなるの?」

ヴィーラは苦しげな表情には心が痛む。

親友のソニアが心配だし、それをやっているのは自分の同族なんだ。

「わからないわ。アイセンブルクの北門はアルフハイムの森にあるでしょ?一団はその門から出たと思うのだけど…」

ルサールカにとってもソニアは親友だ。

彼女も不安そうだ。

それにしても…

そうだとすればソニアはクロンドロイではなく神々の宿木に連行されたことになる。

「なんだってライオスエルフがソニアを攫うんだ?」

エミィが言った。

エミィは鋭い。

そうなんだ。

そこがわからない。

「それにどうして召喚者がエルフと繋がっているんだ?」

ンダギも疑問を口にする。

それもだな。

召喚者はテルデサード王に召喚されるんだ。

フィリップの命令に従うはずだろ?

「あの召喚者はアルフハイムにいる間、かなりカレイドやエルフの貴族連中と付き合っていたからな。そこでなにかあったかな?」

フレッドの言う通りだ。

カレイドあたりと接触してから何かあったな。

それにしても、今では誰もがユキーナを召喚者と呼ぶ。

あいつの術が解けるとおかしなことに、騙されていた間に育まれた友情もなかったことになるんだ。

ユキーナは人の輪に加わるのが上手く、不思議なくらい誰とも仲が良かったんだ。

誰からも愛されていた。

それがまるでなかったかのようになってしまった。

返ってそれが恐ろしい。


「もしかして…」

ヴィーラには何か思い当たることがあるらしい。

「ヴィーラ?何か?」

「ダンカン、あなたとソニアは前に送還の鍵のことを教えてくれたわね?」

「あぁ、ここにいる皆は知ってることだしな。そうか、すまないアラン、お前にはまだ話してないな。それとルサールカも知らないか。」

俺は簡単に送還の鍵のことを説明した。

「で?その送還の鍵が今回のことと何か関係あるのか?」

「送還の鍵は王家の者なら扱えるのよね?」

「うん。そう聞いている。」

「それなら、ソニアも扱えるのよね?」

「そうさ。だからソニアは王宮に潜入して送還の鍵を奪おうとしたんだ。残念ながら送還の鍵があるはずだったところにはなく、代わりに例の巻き物があったんだけどな。」

「それかもしれないわね。」

「?」

「私の父がフィリップから送還の鍵を受け取ったのかもしれない。」

「なんだって?」

「ジャン王が崩御された直後、父はクロンドロイを訪れているわ。名目はジャン王の弔いだったわ。今にして思えばおかしかったわ。ジャン王のことを心から嫌っていた父が私や使者に代理させず、自分でクロンドロイへ行って弔意を示したのよ。」

「じゃあ、その時に。」

「わからないわ。あくまで推測よ。でも、その時、父はフィリップの部屋で二人きりになって長いこと話をしていたわ。」

「それにしてもどうしてアルベリッヒ上級王が送還の鍵を欲しがるんだ?」

「ダンカン、ライオスエルフは決して召喚者を好ましく思ってはいないわ。」

ヴィーラの言葉に俺は戸惑う。

「どうしてだ?魔王国軍を倒すのに奴等ほど頼りになるのはいないだろう?」

「ええ、そうよ。でも召喚者に自由に命令できるのはテルデサード王、つまりヒト族なのよ。」

「もしかして、エルフにとって召喚者は…」

「あなたの考えた通りよ。ライオスエルフにとって召喚者は脅威なの。あれだけ戦って魔王殿が倒せない者達よ。その力がもしエルフに向けられたら…」

「でもテルデサード王国はずっとアルフハイムと同盟を結んでいるじゃないか?」

「ええ、そうよ。でも必ずしも利害が一致するとは限らないわ。少なくともジャン王が前の大戦後にしたことは父の思うところとは正反対だった。それに、そもそも父はヒト族がライオスエルフよりも強い存在になることを許さないわ。」

なるほど。

確かにエルフ達の考え方からすればそうなるな。

ジャン王がオークやゴブリン達と講和を結んだ時、アルベリッヒ上級王はヒト族と戦をする寸前までいったんだ。

ヴィーラの言うことはよくわかる。

「それで、なんだってフィリップがエルフに送還の鍵を渡しちまうんだ?」

ンダギの疑問はもっともだ。

オークのンダギには不思議だろう。

俺達ヒト族にはなんとなくわかる。

ヒト族、特にテルデサード王国のヒト族はエルフが大好きだからな。

崇拝していると言っても過言ではない。

特に保守的な連中ほどその傾向が強い。

フィリップなんか、まさにその典型だ。

憧れのハイエルフ王、アルベリッヒ上級王に何か上手いこと言われてしまえば、あっさり渡してしまいそうだ。

「フィリップはその…」

ヴィーラには言いにくいよな?

自分達はヒト族の憧れの的だなんて。

「フィリップのような連中にとってエルフは憧れ、ハイエルフ様々なのさ。」

俺が言ってやった。

言い方キツいかな?

ヴィーラが気を悪くしないと良いんだが…

俺はどうもこう言う時、上手く言えないんだ。

「それにしてもアルベリッヒ上級王は送還の鍵とそれを使えるソニアを集めてどうするつもりなんだ?」

「わからないわ。でも、父なら…」

「?」

「召喚者を自分の自由にできると考えるかもしれないわ。」

そうか!

あのゲーム感覚でこっちの世界を楽しんでいる連中にとって、元の世界に送還されるのは嫌かもしれない。

もし送還の鍵を持っている人物に『言うことを聞かないと元の世界に送還してしまうぞ。言うこと聞けばたっぷり遊ばせてやる』と言われれば、あの召喚者共ならそっちにつきかねない。

魔王様がそれをやっても『俺達、勇者は魔王を倒すのが宿命だ』とか安っぽいゲームみたいなことを言い出しそうだが、ハイエルフ王からとなると…ありえるな。

「そして、ユキーナは王国からライオスエルフに鞍替えしたんだな。」


ソニアと送還の鍵を探す約束をしていたが、ソニアが攫われて、送還の鍵のありかがわかるとは、あまりに皮肉だ。

勿論、これはまだ推測なんだが…

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