表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生者なんて負け組だ  作者: 荒野旅人
第三章 ヴァラキア編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

82/97

古代魔法

「集中しろ。もっと魔力の流れに自分の意識を沿わせるのだ。やり直せ。」

半神レネの声は相変わらず不気味だ。

いつも感情がこもっておらず、どこかのスピーカーから流れているかのような声。

初め相手の思っていることがわからなかったが、今では慣れで多少わかる。

これは少し厳しめの言葉だ。

「はい。」

俺は一度深呼吸すると杖を対象の石に向けて。

呪文を唱え始めた。

火をおこす。

ここまでは簡単だ。

俺は精霊魔法だけは得意だ。

発火の術は火の精霊を使う魔法でも初歩中の初歩だからな。

ここからだ。

半神レネに言われた通り意識を集中した。

そして空中におこした火と石の間に魔力の流れを作り…

意識を沿わせる?

わからねぇ…

こうかな…

シンプルに火と石の間に作った魔力の流れに意識を集中した。

けれど、これ、今までやってきたのと変わらないな?

意識を沿わせる?

どう言うことだ?

タイムアップだ。

魔法が実現してしまった。

失敗はしていない。

目の前の石は今、マジックフリント(魔法の火打石)になっている。

但し、使えるのはほんの二、三回だ。

本当なら何十回と使えるマジックフリントができるはずだったんだ。

「意識を向けるのではなく、沿わせるのだ。」

これも厳しめの言葉だ。

仕方ない。

朝から失敗続きだからな。

「意識を沿わせる、と言うのがまだよくわかりません。」

素直に答えた。

「文字通りだ。お前は意識を集中させただけだ。」

『集中しろ。』って言ったじゃないか?

とは思ったが口にしない。

今は半神レネに教わっているんだ。

「意識を集中させることと沿わせることは別だ。意識を集中し、その上で沿わせるのだ。」

まるで心を読まれたかのようなに言われた。

半神ともなれば心も読めるのか?

「もう一度やってみせよ。」

半神レネは新たな石をテーブルに置いた。

石と言っても削られ、彫られ、磨かれた綺麗な細工物だ。

練習用ならそこらへんの石でも良いんだが、宮中ともなるとこんなものまで贅沢なのか。

「貴重な細工物だ。あまりに無駄にするな。」

また、心を読まれたか?

「はい。」

とだけ答えて、また呪文を唱えた。


実は俺はブラドに来てからソニアの勧めで半神レネから魔法を教わっている。

いつか俺が古代魔法に興味があると言ったのを覚えていたらしい。

半神レネはこの世界が創世された時から魔法を使っていたんだ。

古代魔法の権威と言って良い。


魔法について簡単に説明しよう。

魔法は大きく二つの分け方ができる。

一つは性質による分け方で、真魔法、身体魔法、精霊魔法だ。

真魔法は魔力そのものを操作する魔法だ。

ヒカルが使う探知魔法やヴィーラの使うエルフの矢、今俺が練習している呪符魔法なんかが真魔法になる。

身体魔法は魔力を通じて身体に入り込み、操作する魔法だ。

こう言うと気持ち悪いかもしれないが、要は治癒魔法のことだ。

精霊魔法は炎の玉、大気の刃、稲妻の術など精霊を使役して実現させる魔法だ。

もう一つの分類は古代魔法と現代魔法だ。

古代魔法の定義は色々あるが大雑把に言えば芽吹の時代までに各種族が神々から学んだ魔法だ。

神々も自らが使う魔法を人間にあわせて簡単にして教えてくれたんだろうが、なんせ神々の魔法だ。

難しい。

俺もバーン師から魔法を教わった際に、基礎の知識として古代魔法の概念についても教わっているが、理解できたとは言い難い。

以前に古代魔法の使い手ヴィーラに『古代魔法って、なんだかわからないけど、こう動きながら、こう唱えて、こう魔力を使えば、何故かはわからないが実現しちゃう感じの魔法だよね』と言って怒られたことがあるが、本当にそうとしか考えられない。


現代魔法はそんな理解の難しい神々から教わった魔法を論理的に理解できるよう体系化した魔法だ。

俺の使っているのは現代魔法だ。

ヒト族やドワーフ族、ノーム族の使用する魔法はこの現代魔法だ。

少なくともテルデサード王国で古代魔法を使えるヒト族がいるとは思えない。

魔法の基礎知識として大凡の概念が伝わっている程度だからだ。

ヴィーラによるとエルフはエルフなりに簡略化した古代魔法と現代魔法を両方使っているそうだ。

オークやゴブリン、ボブゴブリンも現代魔法を使っているが、ヴァラキアではまだ古代魔法が伝わっている。

だから稀に古代魔法を多少使える者もいるそうだ。


そして、ヴァラキアの中でもブラド宮ではまさに元神様がいるんだ。

本物の古代魔法に触れることができる。

そんなわけでソニアは半神レネに俺に古代魔法を教えてくれるよう頼んでくれた。

勿論、俺に事前にことわりはなかったけどな。

「聞いて、お父様が喜んで教えてくれるって!」

ソニアが満面の笑顔で報告してくれた。

『古代魔法に興味があるの?』とか『お父様にあなたに古代魔法を教えてもらえないか聞いてみようか?』なんて前段は一切なかった。

でも、これだけの笑顔で言ってくれるんだ。

受けるしかないだろ?


ソニア…

そうだ。

ソニアは今いない。

ユキーナに攫われてしまった。

どこにいるかもわからない。

ソニアのことを思い出すと焦燥感が募る。

ブラドに戻って暫くの間はろくに寝ることもできなかった。

我ながらかなり荒れていた。

仲間がいなければ越えられなかったかもしれない。

ルセ平野でのあの乱戦の時、俺は魔王様や半神レネに助けられたにもかかわらず、懲りずに一人で突出し、ソニアを追いかけようとして魔法を使い切り、また失神してしまった。

気がついた時にはブラドに運ばれていた。


そして半神レネだ。

ユキーナにより裏切り者であることが露見した半神レネは俺と同じくブラド宮にいる。

これまでと変わらずに。

ブラドに戻ってから魔王様は半神レネを自室に呼んでずっと二人で話し合った。

そして、あの場にいた者、特にユキーナの暴露が聞こえていた者には箝口令が敷かれた。

その後は何もなかったように半神レネは依然として魔王様の右腕として、このブラド宮にいる。

魔王様は俺が、いや、俺とソニアが見つけたあの巻き物のことを黙っていたことについても不問に付した。

寧ろ、『よく黙っていてくれた。』と労いの言葉をかけられた。

『ソニアのことはできるだけのことをしよう。』とも約束された。

とは言え、ソニアがどこへ連れ去られたかもわからないんだ。

順当に考えれば、テルデサード王国の王都クロンドロイに連行されてフィリップに引き渡されているはずだ。

しかし、ユキーナと共にソニアを攫ったのはエルフ達だ。

何故、エルフなんだ?


あのエルフ達と言えば、スヴァートエルフに見えたが、ライオスエルフの変装であろうと俺達の認識は一致している。

あの時、あのエルフ達はヴィーラに『ハイエルフの裏切り者』と罵った。

スヴァートエルフはライオスエルフのことを『ハイエルフ』とは決して呼ばない。

何故なら自分達につけられた『ダークエルフ』と言う蔑称と対になる呼び名だからだ。

そして、ユキーナがライオスエルフと組んでいること、ライオスエルフ達がわざわざスヴァートエルフに変装していたことから、奴等はメルクハイムの森を抜けて、アルフハイムの森に向かったのではないかとも思えるんだ。

そうであれば、ソニアは神々の宿木にいる可能性もある。


とにかく、ソニアを助けに行こうにもどこにいるかわからない今、俺は半神レネに教わる古代魔法の習得に精を出していた。

それが一番ソニアの意に沿うことと思えたんだ。

勿論、俺自身の魔法への研究意欲もあった。


半神レネは俺が精霊魔法以外がからきしダメと聞いて、古代魔法を使って苦手な真魔法を上達させることを提案してきた。

「そなたは論理的な性格でいて、魔法については魔力を感覚的に扱っているのだろう。だから感覚的に優れてなければ使いこなせない精霊魔法が得意で、逆に現代魔法では特に論理的に魔力を扱う必要のある真魔法や身体魔法が不得手なのであろう。」

半神レネは例の感情を感じさせない不思議な声で言った。

確かに俺は人から理屈っぽいと言われるし、前世ではビジネスマンとしてロジカルシンキングの本くらい読んでいたから、論理的な性格と言われたのかもしれない。

『魔法を感覚的に扱っている』は耳が痛い。

バーン師からも指摘されていた。

現代魔法では人間なりに神々の魔法を論理的に体系化している以上、使う時も論理的に魔力を操らねばならないのに、俺はどうしてもどこか適当に感覚的にやってしまう。

それでも精霊魔法はそれで上手くいってしまうから、余計にそうなってしまう。


「もう一度やってみよ。」

半神レネに言われて再び、挑戦する。

今は半神レネとこのガランとしたブラド宮の一室で魔法の修行をしている。

集中しよう。

火の精霊を使役して火をおこす。

火と石の間に魔力の流れを作った。

意識を集中する。

ここまではわかる。

意識を沿わせる?

沿わせるってどういうことだ?

待てよ?

精霊魔法が上手くいく時は精霊との一体感がある。

それか?

よし、よくわからないが…

俺は自分の意識を火と石の間に作った流れになりきるように仕向けた…

パンっ!

石が割れてしまい、空中の火も消えた。

石からかすかに煙が出ている。

しまった、最悪だ。

魔法を『破綻』させてしまった。

初心者みたいな失敗だ。

以前に言ったかもしれないが、魔法には『かける』、『成立する』、『実現する』の三段階があるんだが下手な者は『かけた』魔法を正確に扱えず『成立し』、『実現』しても、本来とは全く違うことを『実現』してしまうことがある。

これを『破綻する』と呼ぶんだ。

みっともない失敗だ。

魔法は強力なものだ。

きちんと扱えなければ危険でしかない。

だから『破綻する』のは最も良くない失敗とされている。

今回、俺は術をかけている間に考えごとをしてしまい、途中から違うことをしようとしてしまった。

それが『破綻した』原因だ。

こんな初歩的な失敗をしてしまい、さぞかし半神レネは呆れているだろう…

と上目遣いに恐る恐る半神レネの方を振り返ると…

「よくやった。今の調子だ。今のを忘れるな。もう一度。」

半神レネはそう言って新しい石をテーブルに置いた。

え?

褒められたよ?

自分自身があの魔力の流れになりきろうとしたのが良かったのか?

やっぱり、古代魔法はよくわからない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ