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転生者なんて負け組だ  作者: 荒野旅人
第三章 ヴァラキア編

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ルセ平野の戦い(下)

フレッドの予想は当たった。

「負傷していない者は立て!追撃だ!」

伝令の指示を聞いた隊長が号令をかけた。

魔王様は追撃戦に進める気なのか。

俺は馬に乗った。

フレッドもだ。

二人とも馬を与えられている。

さっきの戦闘では馬は不要だったが、次は追撃戦だ。

馬があった方が良い。


敵はバラバラだった三隊が今は一隊になっている。

こちらの罠にかかって壊滅状態になった三隊の生き残りが新たに現れたセイヤの部隊に逃げ込んだからだ。

逃げにかかっている。

セイヤからの矢の雨も降ってこない。

俺はこっちに転生して生まれてから、散々、練習してきたから馬術に自信はあるが、連中はこちらに来て初めて馬に乗っただろう。

そんなすぐ乗りこなせる程、馬術は簡単じゃない。

しかも、馬を操りながら矢を射るとなると更に難しい。

魔王様が追撃を決意したのも、それが理由かもしれない。

セイヤの矢がなければ、追撃に専念できるからな。


やがて、バランの籠るロム城が見えてきた。

王国軍に包囲されている。

突如、角笛が鳴らされた。

こちらの軍からだ。

一つや二つではない。

いくつもの角笛が鳴らされた。

しかし、俺達には特に指示はない。

あの角笛はなんだったんだ?


撤退する敵の部隊が一番近い城の東側を包囲する軍の中に逃げ込んだ。

「突撃!」

すかさず号令がかけられた。

包囲軍の中に逃げ込んだと言っても一方面の包囲軍だけではたいした兵力ではない。

後で聞いた話ではこの時、追撃していた魔王国軍は約四千五百程だったそうだ。

逃げ込んだ先の包囲軍を併せて敵は約五千といったところか?

序盤で負けている向こうは士気も下がっているだろうことを考えれば、五分以上の戦いに持ち込めるかもしれない。

魔王国軍の先頭が敵に襲いかかる。

王国軍はすぐに崩れたようだ。

また敗走を続けた。

良い調子だ。

とは言え、他方面の包囲軍を併せれば王国軍はまだ三千はいるだろう。

召喚者共の部隊と併せれば約八千。

やはり、こちらの倍近い。

あまり調子に乗るとこちらがやられるかもしれない。


敵はそのままロム城の南側の包囲軍も飲みこみ撤退を続けた。

俺達は続けて西へと敵を追った。

もうロム城の南を通り過ぎようとしていた。


その時だ。

ロム城から角笛が聞こえてくる。

さっきのこちらからの角笛に城内から応えたんだ。

ロム城の西側にある城門が開かれる。

籠城していたバランが打って出たんだ!

さっきの角笛はバランに出撃を命じる角笛だったのか。

こちらは城兵も投入しての総攻撃だ。


逃げる敵が増えている。

包囲を解いた軍勢も召喚者共の率いる主力に合流して逃げている。

不思議なものだ。

今や敵の方が兵数は上なんだけどな。

散らばって逃げた兵もいるだろうが、今、俺達が追いかけている敵は倍近くいるはずなんだ。

それなのに追いかけているのはこちらだ。

戦の流れみたいなものか。

魔王様や半神レネはこれまで幾度も戦場を経験している。

彼等にはその辺がわかるんだろうな。


ロム城はルセ平野北部にある。

その北側は険しい山岳地帯だ。

そして西側は丘陵になって、その向こうは森だ。

森はメルクハイムの森まで続いている。

メルクハイムの森の一部と言っても良い。

敵はひたすら西へと退却していく。


追撃に入ってから俺は馬に乗っていたが、後ろから追いついてきた騎手に声をかけられた。

「ダンカン、フレッド、ここにいたのね?」

ヴィーラだ。

ソニアもその後ろから来ている。

ヴィーラは相変わらず面頬を下ろしているから一見誰かわからない。

繊細な模様の施された風変わりな鎧を着ている。

スヴァートエルフの鎧だ。

立場上、堂々とヴァラキア側で戦争に出るわけにもいかないからな。

これまでも直接の戦闘に参加せず、ソニアと一緒に後方部隊で負傷兵の治療に従事していたんだ。

「ヴィーラ、ソニア?いいのか?ここまで来て。」

追撃に入った時、後方部隊は参加していない。

俺はあのままあっちで止まっていると思ってたんだ。

「私達も見届けたいのよ。」

ヴィーラが答えた。

ソニアも頷く。

ライオスエルフのヴィーラはともかく、ソニアもなかなかの馬術でついてくる。

この時代、この世界、ヒト族の女性が乗馬することはあるが、戦場で武装して馬を乗りまわす女性なんていない。

貴族や富裕層の女性が娯楽で乗馬をする際は横乗りが一般的だ。

しかし、ソニアも今は軽い鎧を着て馬に跨っている。

ブラド宮ではあまりうるさいことを言わないらしい。

まぁ、暗殺者の訓練を受けているくらいだからな。


「このまま勝てるかしら?」

「どうだろう?今のままなら奴らを追い払えそうだけどな。」

「いや、まだだ。奴等がまだ出てきていない。」

フレッドが厳しい声で言った。

「奴等?」

「あぁ、アルデア騎士団だ。」

確かにアルデア騎士団がこんな無様な戦いをする訳がない。

きっとどこかで出てくる。

「確かにな。」


いつのまにか右手に見えていた丘陵地帯が近づいてきた。

敵はどうするつもりなんだ?

「奴等、高地に逃げ込んで迎撃する気だ!」

馬上で隊長が叫んだ。

隊長はボブゴブリンだが珍しく乗馬ができる。

オークやゴブリンは乗馬の習慣がないが、ヴァラキアでヒト族と交わってからは乗馬を学ぶ者もいるらしい。

確かに敵の逃げる先に小高い丘が見える。

あれに登られると厄介だ。

戦闘は少しでも高い位置にいる方が有利だからな。

「急げ!奴等を高所に行かせるな!」

隊長やバリン達の号令が聞こえてきた。

追撃速度が上がる。

「待てよ…こいつは…」

フレッドが不安そうに前方を見た。

敵が目指している丘が正面に見える。

その右手前にも丘がある。

そして…


右手前の丘に旗が掲げられた。

深紅の地に黄金の獅子の図柄。

アルデア騎士団の戦旗だ!

ここで待ち伏せしていやがった!

「皆、止まれ!」

フレッドが叫ぶ。

「隊長、右上を見ろ!待ち伏せだ!横撃を喰らうぞ!」

俺は隊長に言った。

「俺の一存では停止命令は出せん。魔王様達に使者を出そう。あと周りの部隊で話せる奴の部隊にもな。」

隊長も丘の上に掲げられた戦旗を見て、そう言った。

すぐに伝令が数騎走り出した。

しかし、遅過ぎた。

その間にも先頭の集団はアルデア騎士団の前を通過してしまった。

魔王様自らが先頭で指揮している。

俺とフレッドは後々までこの時のことを後悔した。

俺達や一部の部隊が追撃をやめた為、陣形にくびれのようなものができてしまった。

まさに丘から下って突撃してきたアルデア騎士団はそこを襲ったんだ。

俺達は見事に分断されてしまった。


バリンや隊長は分断された後方の部隊を冷静に指揮して、停止させ、迎撃態勢を取らせた。

向こうでは分断された前方の部隊が包囲されている。

高所まで逃げ切った敵の本隊も、態勢を再び整えると反転して坂道を駈け下り突撃してきた。

「魔王様達が!」

ソニアが心配そうにしている。

形勢は逆転してしまった。

俺達が救援に行けるとは思えない。

「魔王様達なら大丈夫だ。あの程度でやられるような御方ではない。しかし、前方部隊はかなりのダメージだ。」

バランが追いついて来て言った。

鎧に一本矢が突き立っている。

無事、包囲軍を打ち破って来たらしい。

やがて、前方部隊の一部が囲みを破って逃げて来た。

かなり数を減らされている。

先頭は魔王様。

それに半神レネ。

流石、元神様だ。

ユキーナもいる。

ユキーナの馬にはエミィも乗っている。

アルデア騎士団の包囲を打ち破って逃げて来たようだ。


「バラン、バリン、その他の隊長達もよく後方部隊をまとめてくれた。」

魔王様が労う。

俺としては合わせる顔がない。

俺が良かれと思ってやったことが結果としては、アルデア騎士団に易々と軍を分断させることになったんだ。

あそこで変に追撃を止めず、陣形にくびれを作らなければ、分断されずに済んだかもしれない。

「申し訳ありません。その俺達が中軍を止めるよう言ったんです。」

「気にするな。アルデア騎士団の突撃ならどの道こちらを分断しただろうよ。」

魔王様の言う通りかもしれないが、やはり後悔してしまうな。


俺達は魔王様を迎えて改めて迎撃態勢をとった。

俺達は仲間が揃ったから、仲間で固まっていた。

ンダギ、ブロウ、エミィ、フレッド、ソニア、ユキーナ、ヴィーラ、アラン。

皆、無事だ。


そこへ敵がやって来た。

先頭には召喚者共がいる。

ショウ、ヒカル、ユウ、セイヤ。

召喚者共が勢揃いだ。

不機嫌そうな顔をしている。

それはそうだろうな。

あれだけ無様な戦をやらかしたんだ。

本人達は余裕と思ったはずだ。

ここまで連戦連勝だからな。


召喚者共は話せるくらい俺達の側にやって来た。

魔王様と半神レネが同じように前に出る。

「そなたらが今回の召喚者達かな?」

魔王様は落ち着いている。

「今回は四人なのか?毎回五人の召喚者が来るのだがね?」

そうなのか?

俺は胸騒ぎした。


「うるせぇよ。魔王め。お前を倒した奴がポイント総取りだからな。」

ユウが吠える。

手にしたナイフをサッと投げた。

魔王様はこともなげに避けてみせた。

カランと音を立てて落ちたナイフが消え、ユウの手に戻る。

「かかってこい魔王め!」

ショウが剣を構えた。

もしかしてこいつら魔王様と一騎打ちでもしようと言うのか?

自意識過剰なこいつららしい発想だが…

ヒカルが稲妻の術を落としたが、目に見えない障壁に当たって消えてしまった。

魔王様の魔法封じの術の方が圧倒的に強いらしい。

「ちっ!」

ヒカルが舌打ちをする。

「こちらは礼儀正しく話しかけていると言うのに少々無作法でないか?」

「何をっ!」

ショウが大剣を振りかぶって斬りつけて来た。

魔王様も剣で受け止めた。

そして弾き飛ばした。

ショウが後退りする。

やはり魔王様は別格だ。


「無駄よ。」

なんだ?

ユキーナの声だ。

「あんた達の力で魔王が討ち取れるわけないじゃない。何よ?今日の戦争も?ありえない。」

ユキーナ?

「今まで魔王に倒された召喚者はいないけれど、魔王を倒した召喚者もいないのよ?王様達の話を聞いてなかったの?」

ユキーナ?

「こいつらはね、手ぬるいの。だから、こうするのよ。」

ユキーナはいつの間にかソニアのすぐ後ろにいた。

そしてソニアを襟を掴み、剣の切先を喉元に当てた。

「魔王はともかく。半神レネ。あんたどう言うつもりよ?裏切ったはずのあんたが魔王の封印を解いた後はこの王女様を王国に送る以外は何もしてこないじゃない。」

ユキーナは何をしてるんだ?

ユキーナは何を言ってるんだ?

「だから、あんたの様子を見る為に私が派遣されたのよ。」

派遣された?

どういうことだ?

「どうせ、あなたの大切なのはこの王女様なんでしょ?」

ユキーナは憎々しげに半神レネに言った。

「だから、こうされると何もできない。」

ソニアの喉元に当てられた剣の切先からわずかに血が流れる。

「でも、どうでもいいわ。今はこの王女様が手に入ればいいんだから。」

「なぁ、おい…ユキーナ…お前何してんだ?」

「あらダンカン、まだわからないの?」

「一体、君は誰なんだ?」

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