ルセ平野の戦い(中)
魔王様の作戦は軍を率いる召喚者達の戦争経験の無さと周りの意見を聞かない傍若無人な性格につけこんだ作戦だ。
確かに俺達の話を参考にしている。
俺達は召喚者共の声が聞こえる程まで、敵に肉薄した。
こちらに気付かず、夢中で魔法を放っている。
ヒカルが俺の射程圏内にいる。
残念ながら俺は大きい魔法はあと一回ないし二回が限度だ。
フレッドの方を見た。
奴が頷く。
同じ考えだ。
やるならヒカルだ。
ヒカルの魔法攻撃がなくなれば、中央部隊もやりやすい。
俺はヒカルとその周辺にいる兵士達を狙って稲妻の術を落とした。
ヒカルは魔法使いだ。
例え召喚者だとしても魔法をかけている間は無防備になる。
だから護衛の兵が周りにいるんだ。
こいつらまでやってしまうとヒカルも流石にツラいだろう。
俺の稲妻に続いてフレッド達、射手の矢の雨が降る。
ヒカルの周囲にいた兵士は皆倒れた。
その中でヒカルがヨロヨロと立ち上がる。
稲妻であの悪趣味な装飾過多のローブも黒焦げだ。
更に数本の矢が刺さっている。
召喚者共は不死身だが、痛みは感じる。
あの痛さは俺もつい先日、セイヤとの戦いで経験している。
よくわかるよ。
痛いよな?
同情はしてやらないけどな。
更にフレッド達が矢の雨を降らせる。
容赦がない。
また、次々と射られたヒカルが悲鳴をあげる。
次の瞬間、魔力波を感じた。
魔力探知だ。
胸がわずかに暖かい。
「畜生!俺にこんなことして無事に帰れると思うな!」
ヒカルは背後から俺達が迫っていることに漸く気付いた。
こちらを見る。
「クソったれの転生者め!そこにいたか!殺してやる!」
「皆、俺から離れろっ!」
慌てて俺の周りにいた連中が離れる。
この作戦、本当に嫌なんだけどな。
またアミュレット頼みだ。
俺の実力ではそうなるのはわかるけどな…
あの痛みはツラい!
鋭く稲妻が落ちてくる。
やっぱり凄まじい痛みだ。
身体が痺れる。
意識が飛びそうだ。
そうだ。
普通に考えてこれだけの電撃を受ければ、普通は失神する。
意識が飛ばないのも守護者のアミュレットのおかげか?
そう考えると召喚者共がこいつを欲しがるのもわかる。
あいつらは生身で稲妻を受けても失神しない程度にはショックへの耐性が備わっている。
その上でこいつをつければ、不死身の上に無痛覚でいられるわけだ。
このアミュレットの価値は大きい。
俺は思わず、ローブの上からアミュレットを握りしめた。
熱くなっている。
フレッド達は更に容赦なく矢の雨をヒカルに降らせている。
奴の絶叫が聞こえる。
あの痛みを絶え間なく感じながら魔法を放てる程、魔法は甘くない。
ヒカルは痛がるばかりで反撃ができない。
「今だ!」
隊長が号令を出した。
俺達の部隊の前衛部隊に突撃命令を出したんだ。
あの中にはンダギ、ブロウ、アランがいる。
ここまで出番がなかったからな。
アランはともかく、他の二人は嬉々として突撃しているだろう。
他の部隊からも歩兵が突撃していく。
「フレッド!俺はンダギ達のところに行く!ショウとユウの奴らを倒すんだ。お前はヒカルへの攻撃を続けてくれ!」
俺はフレッドに向かって叫ぶと走り出した。
フレッドなら少々乱戦になってもヒカルに魔法を撃たせない程度に矢を撃ちこめるはずだ。
突撃する歩兵達の後を追った。
一部はヒカルに向かっていったが、残りは更に向こうに走っていく。
魔王様直属軍の真正面の方角だ。
ンダギとブロウの小隊だ。
行き先はわかっている。
ユウのところだ。
ンダガの仇だからな。
二人ならユウに負けない戦闘はできるかもしれないが、相手は不死身だ。
その上、ユウの投げナイフだ。
あれにわずかでも触れれば、毒にやられる。
即死だ。
俺もナイフを躱す為の風魔法程度ならまだいける。
「なんだよ?テメェら!しつこいぞ!」
聞き覚えのある声だ。
ユウだ。
剣を振り回している。
魔王国軍の兵士達に囲まれている。
これだけ囲まれるとあの毒の投げナイフより剣を使わざるを得ないらしい。
ンダガはユウの剣に殺された。
神器はなくても召喚者だ
ンダガ程の腕を持つ戦士を倒してしまう力がある。
ユウを囲んでいる兵士達が次々と倒される。
そこにンダギとブロウが飛び込んだ。
『妙なギザギザがついた巨大な鉄板』としか形容のしようがない凶悪な剣による連続の斬撃をユウは躱してみせた。
流石、召喚者だ。
並の戦士なら今頃真っ二つだ。
ンダギ、ブロウがまた斬り込む。
ユウは身体をスライドさせてンダギの剣を躱し、ブロウの体重の乗った重い一撃は剣でキンッと音をさせながら受け流した。
少し離れたところで吠えている奴がいる。
「お前ら次から次へとうっとうしいんだよっ!」
ショウだ。
ショウも魔王国軍の兵士に囲まれている。
あの大剣を信じられないスピードで振り回し、敵の攻撃を寄せ付けない。
転生前の世界で剣による闘いは一対三が限度だと書かれた小説を読んだことがある。
今、ショウは同時に五、六人は相手にしている。
凄まじい剣技だ。
召喚者共以外にも王国の兵士はいるが、こちらに比べて圧倒的に少ない。
はるかに多い兵に囲まれて、召喚者共を助けに行けない。
アランもそんな王国兵を相手にしてンダギ、ブロウの背中を守っていた。
俺もンダギ、ブロウの背後に回ろうとする兵に魔法を放とうとした、その時だ。
矢の雨が降った。
混戦だ。
敵も味方も関係ない。
次々と兵士達が倒れていく。
兵士に突き刺さった矢が消えた!
セイヤだ!
俺は天を仰いだ。
まさにその時、俺たちの頭上で一本の矢が散弾のようにバラけて降ってきた。
セイヤが戦場に現れた!
これはヤバい!
「もう、これまでか!ショウ、ユウ逃げるぞ!」
背後からヒカルの叫び声が聞こえた。
「畜生!ポイント稼ぎ放題なのに!」
ユウが呻いた。
あいつこの期に及んでゲーム感覚なのかよ?
敵味方どれだけ死んだと思ってんだ。
「勝手にしろ!セイヤは俺達がいようと遠慮なく撃ってくるぞ!俺達は神器には不死身じゃないんだ!」
ヒカルの叫び声が再び響く。
そうなのか!?
召喚者達も神器にやられれば死ぬかもしれないのか!
なるほど、俺の持つ神器、守護者のアミュレットは奴らの攻撃に有効だものな。
その逆も然りか!
「仕方ない!」
ショウが悔しがる。
ザマァ見ろ!
とは思うが、ヒカルの言う通りだ。
セイヤの矢は敵味方なく降ってくる。
「ンダギ、ブロウ、アラン離れろっ!あのセイヤの矢だ!」
次の矢が降ってきた。
バタバタと兵士達が倒れていく。
その間に隙ができたのか、ヒカルが大物の魔法を放った。
炎の玉だ。
但し、特大だ。
俺が放つ炎の玉より三倍くらいはある大きさだ。
それが敵味方関係なく兵士をバタバタと倒しながら背後の方へ飛んでいく。
そんなことをして…
いつか味方に背を向けられるぞ?
その無人地帯をヒカルが走り出した。
ショウが続く。
ユウは少し遅れた。
逃すまいとンダギ、ブロウが粘ったからだ。
「ンダギ、ブロウ諦めろ!危ない!」
セイヤの矢の雨はまだ続いている。
離れることが先決だ。
三人の召喚者共以外は殆ど殲滅された。
逃げる三人の向こうに新たな部隊が現れていた。
恐らくセイヤの率いる部隊だろう。
最初の三隊はショウ、ヒカル、ユウの率いる部隊だったんだろう。
「退けっ!」
こちらも号令がかかった。
このままだとセイヤの矢の被害が大きくなる。
後退の指示だ。
三人の召喚者共が逃げ込むとセイヤの部隊は退却を始めた。
セイヤの部隊も恐らく三千程。
その他の生き残りを併せれば六千程にはなるだろう。
こちらはどれくらいの兵を消耗したのかはわからないが、開戦当初で六千だ。
士気も下がっているだろう。
セイヤは周りの軍人共の話を少しは聞くんだろうな。
因みに戦場に慣れていない俺達は敵の兵数なんて目算できない。
これ全て経験豊かな隊長の受け売りだ。
「終わったな。」
俺はフレッドのもとに戻ると開口一番言ったんだが…
「どうかな?」
「?」
「少しでも休め。すぐに進軍命令があるかもしれないな。」
フレッドの表情は厳しかった。
遠くで各隊のざわめきが聞こえている。




