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転生者なんて負け組だ  作者: 荒野旅人
第三章 ヴァラキア編

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疑惑

ピュイ谷での勝利は局地戦だったが、召喚者を撃退したという意味では大きかった。

魔王様は知らせを受けるとすぐにブラドへ早馬を出し、この戦勝をフェリジア諸国や南方諸国に喧伝するよう半神レネとヤーノシュ殿に指示を出したそうだ。

しかし、それ以外の戦場ではあまりうまくいっていないらしい。

局地戦ばかりだが、敗戦が続いているらしい。

元々魔王様自ら出陣したのも、このハラド地方で最も主要な拠点であるヴィエラン城に魔王旗を立て魔王メルコルここにありと大々的に示し、王国軍の注目を集めて攻めさせる為の作戦だった。

丘陵地帯だから大規模な戦闘には向かず決戦を挑んでも兵力に劣る魔王国軍に勝機があるだろうという考えだったんだが、王国軍はヴィエラン城の包囲軍に増援は送っても攻めては来なかった。

ハラド地方の各地で兵を動かし魔王国側の拠点をあちこちで潰しにかかってきた。

こうなると兵力差がもろに影響してしまう。

各地に分散して籠城する魔王国軍だが、各拠点の兵力は少ない。

それだけの兵力がないからだ。


更にもう一つ負けが込んでいる理由がある。

各地の情報は早馬で伝えられているから魔王様自らも加わり優秀な戦術家達による綿密な作戦を各拠点に与えて対処させているのだが、これが悉くうまくいかないらしい。

常に相手に裏をかかれているようだ。


「スパイがいるのかもしれんな。」

魔王様は俺達だけの前で漏らした。

これは他の者達の前では言えないことだ。

魔王様が部下を信用していないと伝われば士気に影響する。

ただでさえ、戦況は不利なんだ。

「ドゥヴァンも頭を抱えておる。」

魔王様が苦笑した。

ドゥヴァン殿はスヴァートエルフの魔法使いだが卓越した戦術眼を買われて魔王様の帷幕に召集された人物だ。

今、各地の作戦はこの人が中心になって立てている。

俺はあまり話したことはないが、賢くて話の上手い好人物らしい。

これはユキーナの受け売りだが…

あいつは本当に話好きで、どこに行っても誰かに引っ付いて話を聞いている。

目下、一番話し相手になっているのはドゥヴァン殿らしい。

大体、この前のピュイ谷の戦いの時だってドゥヴァン殿の側にいたいと言って、来なかったんだからな。

ドゥヴァン殿も相手の話に合わせるのが上手く、頭の回転が早いユキーナは良い話し相手と言っているらしい。

最近は作戦立案の相談もしているとか。

俺にはユキーナに軍事作戦の立案なんかできるとは思えないんだが…

「敵によほどの策士がいるのかもしれませんね。」

「どうであろうか…悉くこちらの作戦の裏をかかれておるからな。」

まさかユキーナが余計な事をドゥヴァン殿に言って混乱させてないだろうな!?

ちょっと心配だ。

「折角のそなたの活躍もこのままでは霞んでしまうな。」

魔王様はやはり半神レネと比べると元神様とは思えないくらい、人間味がある。

魔王様のからかうような皮肉を聞いてそう思った。

魔王様の言う通りなのは確かだ。

魔王国は召喚者を撃退した俺達の勝利を大々的に各国に伝えるのだろうが、王国側も各地で次々と勝利しハラド地方を蚕食しつつあることを喧伝しているだろうからな。


それに俺はあまり目立ちたくない。

あの戦いのことも大袈裟に言われたくないんだ。

「いえ、あれは相手が油断して少数で砦に籠っておりましたから。」

「あの状況なら王国軍は兵力はいらぬ。そなたがいなければ私の派遣していた部隊は全滅していたであろう。謙遜するな。」

まぁ、守護者のアミュレット頼みの捨て身の作戦だ。

俺にしかできないと言われればその通りだ。

でも、死ぬほど痛かったからな。

もう二度とやりたくない。


あの後も大変だった。

セイヤを追い落としたは良いが俺はそのまま気絶して、ヴィエラン城に運ばれ治療師に治癒の術をかけてもらった。

ソニアは城に運ばれてきた瀕死の俺を見て大騒ぎをしたらしい。

とは言え、治療師の治癒の術でなんとかなった。

治療師も驚いていた。

普通なら絶対即死している傷だと。

しかも、僅かな治癒の術でみるみる治っていったそうだ。

全てアミュレットのおかげだ。

しかし、俺はあまり良い気持ちがしない。

それじゃ、まるで化け物じゃないか。

召喚者共と一緒だ。

ノルデル伯はまだこのアミュレットを身につけていろと言う。

外してどこかで保管していても、万一、盗まれて召喚者達の手に渡ったら大事だ。

もっとも神器であるアミュレットを実は召喚者ではなく転生者でも身につけられることを知っているのは俺達だけだ。


「ひと勝利か…」

俺は魔王様の呟きを聞いてヤーノシュ殿の言葉を思い出した。

やはり外交的な効果を期待するにはピュイ谷のような局地戦ではなく、ある程度の規模の決戦で勝利する必要がある。

「転生者殿、使い走りをして申し訳ないが、ドゥヴァン達に軍議を召集するよう伝えてくれ。すぐにだ。」


軍議には俺達も参加するよう言われたので会議室の端の方に座った。

会議室の中央には大きなテーブルがあり、テーブルとほぼ同じ大きさの地図が広げられていた。

精密な地図で大きいだけあって広範囲の土地が描かれている。

東はブラド、西はメルクハイムの森まで。

武官達がテキパキと金属製の模型を置き始めた。

精巧な造りの城は黒が魔王国軍が籠城している城を、銀は王国軍に奪われた城を表している。

砦もある。

次に歩兵や騎兵の人形だ。

これは各部隊を表している。

当たり前だが、銀の方が圧倒的に多い。

口頭で聞くよりもこうして地図に落とし込む方がわかりやすいものだ。

各地をランダムに攻められている印象だったが、地図で見ると王国軍が明確な意図を持って攻略を進めていることがわかる。

即ち、ハラド地方の東西分断だ。

確かに多方面に攻めてきているのだが、地図上の城の模型を見るとハラド地方の中心部を東西に長い三角形の形で占領されてしまっている。

この三角形の頂点があと一城分北に伸びればハラド地方の中心部で分断されてしまう。

そして、その頂点にある最後の城こそバランの軍勢が籠っている城だった。

地図によると丘陵地帯の多いハラド地方にしては珍しい平野部だった。

「ルセ平野で決戦を挑むしかないようだな。こちらとしては不利だが…」

魔王様がバランの籠る城のある平野部を指して言った。

どうやらルセ平野という地名らしい。

「面目ございません。これまでいいようにやられてしまい、此度の戦も奴等の思う壺でしょう。」

作戦立案の主担当に当たるドゥヴァン殿は申し訳なさそうだ。

「いや、これまでの作戦は私も了承してきたものだ。そなたの責ではない。」

「ルセ平野で決戦となりますとやはり兵力をかき集める必要がありますな。」

バリンが話題を変えるように話を振った。

バリンらしい心遣いだ。

「うむ、現在、敵と対峙していない拠点の兵は全て召集しよう。ブラドにも援軍要請せよ。トロール部隊も呼べ。」

トロール部隊と言うのはブラドに常駐している約五十のトロール衛兵のことだ。

ブラド防衛の要とも言うべき部隊までも呼ぶとは…

魔王様は本気だな。

「ハラド地方を分断されてメルクハイムとの連携が失われるとメルクハイムは落ちるぞ。此度の戦は負けられん。」

隣でヴィーラとソニアが不安そうな表情をしている彼女達の友人ルサールカが治めるのはメルクハイムの森の中でもハラド地方に接する地域だそうだ。

王国軍がハラド地方を分断してしまえば、次に狙われる地域だ。

今、メルクハイムのスヴァートエルフ達はほぼ全軍を北のアルフハイムとの国境にあるメルワスの塔に布陣してライオスエルフの軍勢と睨み合いをしているらしい。

ここで背後を突かれればルサールカの王国だけでなくメルクハイムの森全土の危機だ。

確かに絶対に負けられない決戦だ。

「ブラドからの援軍はレネに率いさせよ。この戦には彼の力がいる。」

俺は思わずソニアの方を見た。

ソニアはこちらを向こうとしない。

気持ちはわかる。

彼女は半神レネを信じたいんだ。

けれど、俺達は半神レネが裏切っている証拠を持っている。

あのフィリップの隠し場所からソニアが持ち帰った巻物だ。


あの巻物は半神レネからフィリップへの手紙だった。

内容はソニアが王国への潜入を図っていること。

王国に入国次第、ソニアの護衛役が裏切る予定であること。

そして、ソニアを王国で安全に匿って欲しいとあったのだ。

つまり、俺達があのカサベラ郊外の荒野で殺したスヴァートエルフの魔法使いと人族の戦士はソニアの護衛役であるとともに、ソニアの身柄をフィリップに渡すよう半神レネから命じられていた者達だったんだ。

ソニアは半神レネが自分を王国に売り渡すとは信じられなかった。

そして、半神レネが魔王メルコルを裏切るとも思えなかった。

ただ、一つ言えるのは半神レネが加担すれば、魔王様の封印を解くことができると言うことだ。


俺は半神レネを信じられない。

だから、今回の戦に半神レネが軍勢を率いて参加することには不安しか感じない。

これまでも巻物のことを魔王様に報告するようソニアに相談したが、彼女はそれを拒んできた。

ソニアは半神レネを父親のように慕っている。

彼を売るような真似はソニアにはできない。

しかし、もし半神レネが本当に裏切っていたのであれば大変なことになってしまう。

ソニアの苦悩は大きい。


「あの、魔王様…」

「うん?どうしたのかね?転生者殿?」

「あ…いえ、その…」

「気にすることはない。遠慮なく意見を出してくれ。」

「何でもありません。ただ、ブラドには誰か頼れる方が残る方が安心かと思い…」

「もし、レネのことを言っているのなら、そうは行かぬ。此度の戦は必勝を期する。彼抜きで戦うことは考えられぬ。」

駄目だ。

何と言っても半神レネはこの世を創生した頃からの魔王様の右腕だ。

その信頼は厚い。

俺はソニアの方を見たが、彼女は頑なにこちらを見ようとしない。


こうして魔王国軍は集めうる限りの兵力を結集してルセ平野で王国軍に決戦を挑むことが決まった。

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