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転生者なんて負け組だ  作者: 荒野旅人
第三章 ヴァラキア編

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セイヤとの闘い

俺はソニアやヴィーラ、アランと鋸壁から遠方を見ていた。

俺達のいる城、ヴィエラン城を攻める王国軍の部隊が見えた。

「あれ、また援軍が来たんじゃないか?」

「そうね。これで三日連続よ。」

ソニアがうんざりした顔で言う。

ヴィエラン城はハラド地方でも最大の城だ。

出陣した魔王様が籠ったのがこの城だ。

俺達も帯同してきた。

魔王様は自らの存在を示す。

『魔王旗』をこの城の一番高い城塔の上に掲げさせた。

『魔王メルコルここにあり』という宣言みたいなものだ。

翌日からこの城を囲む王国軍に増援が送られてきた。

当然の反応だな。

「しかし、いいのか?」

「どういうことよ?」

「魔王様のお考えでは小規模戦でひと勝利稼いで、それを大々的に諸国に宣伝しようということだろ?」

「そういうことになるわね。」

「だったら、増援が集まる前に打って出て、さっさと戦闘を仕掛けないと。」

「何かお考えがあるんだろう。」

アランの声は重くて渋い。

「きっと、そうね。魔王殿はまだ戦闘を開始する様子はないわ。」

ヴィーラが同調する。

聡明で、女王としての威厳もある彼女がアランの言うことには一も二もなく賛成する。

これはもう信頼関係とかではなく、恋は盲目と言う…

「おい。皆、お呼びだぜ。」

フレッドがやってきた。

「誰から?バリンか?」

バランは今、別の城の守備を担当していてこちらにはいない。

将軍だからな。

かなりの軍勢を率いている。

別の大きな地域で軍の統率を任されているんだ。

魔王様直属軍には別の将兵もいるが、バリンは自分の部隊が前の戦で大きく減らされたこともあり、今は臨時で直属軍に入っているんだ。

「いいや。魔王様からだ。」

「先にそれを言えよ!」

俺達は速足で歩きだした。


「私達のみで向かうのですか?」

「勿論、兵はつける。バリン、頼むぞ。」

魔王様が平然と言う。

「奴が現れたのは小さな前線だ。私が行って大事にしたくない。」

『奴』というのは召喚者のことだ。

召喚者の率いる兵団が近くのピュイ谷と言うところに現れて村を占拠したという。

召喚者が兵を率いると召喚者のみに神々から与えられる能力で異様な指揮力を発揮し、率いられる兵達の士気、規律、力が上昇するらしい。

だから、すぐに召喚者の存在がわかるそうだ。

問題はそのピュイ谷と言うところが戦略上重要な所らしい。

ピュイ谷は丘陵地帯の中にある細い谷間で、谷の底を街道が走っており、ハラド地方を抜けてブラドへ向かう道の一つになっているのだそうだ。

ピュイ谷の真ん中にまるで指を突き立てたような岩があり、その上に小さな砦があるという。

その砦を押さえてしまえば、谷間の通行を押さえることができてしまう。

この砦が急襲され奪われてしまったが、どうもその部隊を率いていたのが召喚者らしいというのだ。

ピュイ谷は狭小な谷間だから戦場としては小規模だが、ブラドへの侵攻ルートを押さえる重要拠点だから無視はできないらしい。

そこで俺達に行けと。

いずれは召喚者共とやり合わなきゃ行けないんだ。

部隊を率いている召喚者は弓の使い手だったと言う。

恐らくセイヤだな。

厄介だ。

狭い谷間。

谷間の中央に屹立する砦に奴がいるとなると再攻略は至難の業だな。

勿論、向こうだってそう思うからこそセイヤを派遣したんだろう。

「今回の戦。そなたらが適任であろう?」

魔王様がニッコリ笑われた。

魔王様の魔王様たる所以がわかった気がするよ。

でも、確かに俺達が適任だ。


現地に着いてピュイ谷失陥の痛さがわかった。

丘陵地帯を貫くピュイ谷は周囲の起伏の激しい地形とは裏腹に平坦で街道の整備が進んでいる。

件の砦がある箇所はピュイ谷が少し広がり、周囲が断崖のような斜面の丘で囲まれ、その中心部に指を突き立てたような高い岩山があり、その頂上に砦がある。

あれでは難攻不落だ。

砦の規模は小さいが優秀な射手を集めて籠っているらしい。

しかもセイヤと思しき召喚者がいる。

常識では考えられないような矢の雨が降るらしい。

砦の周囲には村落があったが、王国軍に村民は殺され、屋根の焼け落ちた家屋が並んでいるだけだ。


ピュイ谷攻略の部隊は砦の二マイル手前で陣を張った。

周囲の丘陵に登れば砦が遠望できる。

作戦会議はもう終わった。

明日には作戦開始だ。

冬の夕暮れは早い。

午後早い時間にも関わらず陽は傾き、その薄明かりに突き出た岩山とその頂を占める砦を目に焼き付けた。


歩兵部隊は皆、盾を装備している。

矢の雨が降る。

盾は不可欠だ。

歩兵隊が砦に近寄ると早速、矢の雨が降ってきた。

噂に聞いていた召喚者によるものと思われる攻撃だ。

先ず、飛距離がおかしい。

フレッドによると普通の弓で届く距離じゃないと。

また、砦から放たれた時には一本だった矢が放物線を描いて降りてくる時には広範囲にバラけて降ってくる。

そうして降ってきた矢の雨は標的を傷つけると消えてしまう。

あの王都で今にして思えばセイヤだったと思われる射手の召喚者が放った矢も命中すると消えていった。

あの時は一本もののデカい矢だったが、こんな風に散弾のようなこともできるのか…

「あれは絶対にあのセイヤとか言う召喚者だな。」

「間違いない。」

ンダギが唸るように答えた。

「あれを掻い潜って砦にとりつくのは至難の業だな。」

ブロウが珍しく弱音を吐く。

そりゃそうだよな。

無理ゲーだよ。

でも、やるしかない。

そのための作戦も立てているしな。


俺達はバリンが特に選んでくれた屈強なボブゴブリン兵の集団に混じって戦場に突入した。

ボブゴブリン兵は皆、大きな盾を持っている。

矢を防ぐ為だ。

俺達ってのは、ンダギ、ブロウ、エミィ、アラン、俺だ。

ソニアには参加させられない。

危険すぎる。

フレッドとヴィーラには他の役割がある。

俺達以外にも複数の部隊が盾を構えて戦場に突入する。

セイヤの放つ矢の雨が降る。

多くの矢は盾で防げる。

王都で放ってきた矢はデカくてこんな盾なら貫通していたが、散弾にすると小さな矢しか出せないようだ。

それでもかなりの密度降ってくる矢の雨だ。

一度やられればその部隊から数人がやられてしまう。

俺達も二度やられて、四人が殺された。

ボブゴブリン兵達の構える盾に守られて俺達は砦に近づいた。

複数の部隊で突入したのは、俺達が本命であとは囮だ。

でも、それだけでは足りない。

仕掛けはもう一つある。

砦の方から悲鳴が聞こえてきた。

始まった。

ヴィーラの『妖精の矢』による攻撃だ。

流石のヴィーラもセイヤの射程外からは魔法を届かせることができない。

すぐにセイヤからお返しの矢の雨がヴィーラに降りかかる。

ヴィーラにも盾役として屈強な兵士がつけられている。

それだけじゃない。

バリンの麾下でできるだけ優秀な魔法使いを帯同させて、魔法による防御をさせている。

大丈夫とは言い切れないが、やれるだけの事はしている。

そして、ヴィーラには攻撃に専念してもらっている。

「急ごう。」

いつもは冷静沈着なアランがやや焦り気味だ。

当たり前だ。

自分の恋人が危険に晒されているんだからな。


ヴィーラの攻撃のおかげで俺達への攻撃が減った。

ヴィーラも囮だ。

砦に近づくとセイヤとは別に矢の攻撃を受ける。

砦に籠っているのはセイヤだけではない。

通常の射手の射程圏に入ったんだ。

他の部隊も同じ射程圏に入ってきた。

そこで他の部隊は時折り、矢を打ち返したりしだした。

他の部隊には歩兵だけでなく射手の精鋭を組ませている。

砦の至近であれば何とか高台の砦に矢が届く。

その間、盾の防御がなくなるのだから、勇敢な行為だ。

打ち返されれば相手もますます打ってくる。

そうしてヴィーラと他の部隊がセイヤや共に砦に籠っている射手の注意を惹きつけている間に俺達は砦の建つ岩山に辿り着いた。

ここで俺達を残してボブゴブリン兵達は離れていく。

彼等も囮になるんだ。

急がなきゃ行けない。

ヴィーラや各部隊がやられるまでに砦を制圧する必要がある。


俺達は岩山に刻まれた石段を駆け上がった。

石段はほぼ垂直に突き立てた指のような岩山を周回しつつ登っていく。

前方に扉が見える。

砦なんだこれくらいの防御施設はあるに決まっている。

俺は炎の玉をぶつけた。

流石にそれくらいで吹き飛ぶ扉じゃない。

しかし、そこにンダギ、ブロウが同時に体当たりした。

扉に裂け目ができる。

ンダギ、ブロウがすぐ身を引き、そこへアランが長剣で思いっきり扉を打ちつけた。

扉が砕ける。

アランもすぐに身を引く。

俺の炎の玉を避ける為だ。

二回目の炎の玉は扉の向こうに守備兵達に当たって炸裂した。

そこに再びンダギ、ブロウが飛び込む。

扉の向こうは岩山をくり抜いた通路だ。

長剣を振り回すアランより奴等の方が向いている。

たちまち二人は残りの守備兵を斬り伏せた。

足は止められない。

俺達は死体を踏み越え、先を急いだ。

岩山の内部をくり抜いた螺旋階段を登りきった部屋にも守備兵がいた。

五人ほどいる。

俺の炎の玉で先制し、残りはンダギ、ブロウ、アランが仕留めた。

前衛三人の連携も格段に良くなっている。


更に階段上がると城壁の上に出た。

見上げるとセイヤ達が籠る一番高い城塔が見える。

城壁を走り、その城塔に入る扉までにもう一度戦闘があった。

城壁上の狭い通路に立ちはだかる守備兵達は先頭を走るンダギとブロウが仕留めた。

二人の『妙なギザギザがついた巨大な鉄板』としか形容のしようがない凶悪な剣は血に飢えているかのようだ。

別に俺達だって殺したくはないが、一刻も早く召喚者のもと行きたい。

優しく相手している暇はない。

遂に城塔の最上階に着いた。


そこには二十人ほどの射手がいた。

思っていたより少ない。

俺達が現れると一斉に剣を抜いた。

セイヤもいる。

ンダギ、ブロウ、アランが敵兵に斬りかかる。


セイヤは一番向こう鋸壁の際に立っていた。

セイヤ一人が剣を抜かず弓を引いた。

周りではンダギ達のすさまじい剣劇の音が響いている。

セイヤは周囲の戦闘には全く興味がないかのように俺だけに矢を向けている。

なんで召喚者達は俺を目の敵にするんだ?

「よくここまで来られたな。」

「そちらが不注意なのさ。単純な囮作戦に引っかかりやがって。」

せいぜい、威勢の良い啖呵を切ってやるさ。

「なんだと?」

「自称勇者様も少しは気をつけなって話さ。」

「うるさい!」

セイヤの放った矢は弓から離れた瞬間にバラけて榴弾のように俺に襲いかかる。

俺だって無策じゃない。

全力で大気の精霊を使役して逆風を吹かせた。

吹かせたんだが…

嘘だろ?

普通の矢ならこれで十分に弾けるんだが…

セイヤの矢は何本かがこの強烈な逆風を突き抜けてきた。

俺のあちこちに矢が刺さった。

「痛え!」

本当に痛い。

刺さった矢が消える。

傷も消えてくれたら良いのに、体に空いた穴はそのままだ。

血が吹き出している。

あまりの痛さに意識が飛びそうだが、それでも死なない自分に驚いている。

胸に熱を感じる。

守護者のアミュレットが効いているんだ。

「ちっ。まだ死なないのか?お前、化け物か?」

お前に言われたくないっ!

チートみたいな力を与えられた召喚者のお前にはなっ!

俺は痛みに全力で耐えて、次の呪文を唱えた。

勿論、大気の精霊を使役する魔法だ。

逆風でダメなら次は強烈な横風だ。

正面からの風で矢の勢いを止められないなら、横風で逸らすまでさ!


マジか!?

それでも数本が体に刺さる。

セイヤの放った矢は強い横風を受けても大きく逸れることなく進んできた。

また数本の矢が体を貫く。

胸に更に熱を感じる。

守護者のアミュレットがなければ、もう死んでる奴だな。

「召喚者様の矢も大したことないな。まだ俺は生きてるぜ。」

そう言いつつもあまりの痛みに膝をついてしまう。

「流石の化け物も。これだけやられればキツいか?」

セイヤが俺を見下ろし冷笑する。

セイヤは鋸壁の際に立っている。

俺達が来るまで散々そこから矢を放っていたからな。

俺は全力で痛みに耐えて、立ち上がった。

「無理するな。とどめを刺してやる。」

セイヤが矢を番えた。

守護者のアミュレットがかなり熱い。

次、やられたらアミュレットの効果で耐えられるか怪しい。

こちらも渾身の魔法を放ってやる。

俺は呪文を唱え始めた。


「!?」

セイヤが慌てる。

さっきまで弓を構えた姿勢は大きく崩れ、仰け反るようにしてバランスを崩している。

エミィが小剣を振り上げていた。

俺とのやりとりで気を取られているセイヤの背後から近づき、矢を放つ瞬間を狙って切りつけたんだ。

流石だ!

隠密行動の天才だからな!

セイヤは流石に手にした弓を落とすことはなかったが、小剣を強く打ち付けられて姿勢が崩れた。

そこに俺の魔法が発動する。

エミィは慣れている。

すぐに横に飛びのいた。

そこに俺の炎の玉が突っ込んだ。

そうさ。

俺が今回使った魔法は防御のための風の魔法じゃない。

今回の炎の玉が本命だったのさ!


「熱い!熱い!くそぉっ!」

流石に生きてるな召喚者め。

お前も立派な化け物だよ。

相手が痛がっている間に更に炎の玉を打ち込んでやった。

でもこれで死ぬような奴じゃない。

他の召喚者共の不死身ぶりからそれはわかっている。


「馬鹿にしやがって…今度こそ殺してやるよ。」

衣服が黒焦げになったセイヤが悪鬼の形相で矢を番えた。

矢が巨大化する。

あの王都で撃ってきた奴だ。

あれにはやられたくない。

セイヤがいっぱいに弓を引き絞る。

これが俺の最後か!?


まだか?


「ぐあっ!」

セイヤが呻く。

セイヤの胸から矢尻が突き出ていた。

「あぁっ?」

さらにセイヤが呻く。

セイヤの胸から突き出た矢尻が一本増えた。

「なんだ?」

セイヤがよろめきながら鋸壁から下をのぞき込む。

今度はその背から矢尻が突き出す。


俺には誰が撃った矢かわかっている。

フレッドだ。

俺がガンガン炎の玉を放ったのはこの為だ。

目印だな。

フレッドは今、砦の下、この城塔まで矢を届かせることのできる位置まで来ている。

俺が放った炎の玉をめがけて矢を撃っているんだ。


矢に貫かれてのたうちまわるセイヤに更に炎の玉を放った。

「ぐあぁぁっ!」

死なない…

やはりこいつらは不死身なのか?

セイヤが鋸壁にもたれかかるようにして倒れた。


思えばいつの間にか周囲で剣劇の響きが止んでいる。

セイヤが立ち上がった。

そこに殺到する二つの影。

ンダギとブロウだ。

二人が『妙なギザギザがついた巨大な鉄板』としか形容のしようがない凶悪な剣で思いっきりセイヤを打ちつけた。

セイヤは衝撃で背後に吹き飛び、鋸壁を越えて城塔から落ちて行った…


俺達はこれで砦を奪還した。

因みにセイヤは逃げ延びた。

この高所から落とされたのに、生きていたらしい。

殺到する魔王国軍の兵士達をあの散弾のような矢で殺戮すると単身逃げ切ったらしい。


こうして射手の召喚者セイヤとの激闘で俺達は何とか砦の奪還に成功したんだ。

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