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転生者なんて負け組だ  作者: 荒野旅人
第三章 ヴァラキア編

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魔王メルコルの出陣

御前会議は暗い雰囲気で始まった。

バリン、バラン兄弟が敗戦の報告から始めたからだ。

先ずは兵力の損耗についてだ。

西の戦線では戦闘もなく被害もなかった。

中央でバランが率いた主力は王国軍のドルパツァ川流域の平野部で対峙し、小競り合いはあったものの大規模な戦闘には至らず、死傷者はわずかだった。

主な被害はバリンの率いた東の戦場だ。

アルデア騎士団の反撃と召喚者ヒカルの攻城戦で多くの死傷者を出してしまった。

元々小部隊ではあったが損耗率はかなり高かった。

それでもアルデア騎士団と召喚者が出てくるまでは、連戦連勝して相手にもそれなりに被害を与えているはずだ。

しかしバリンはそんなことは軽く付け足し程度にしか触れなかった。

相手にある程度被害を与えたのは事実で、それは戦略上、戦術上意味のある情報だ。

だから報告はする。

けれど、それを誇りはしない。

寧ろ、被害を出して撤退したことを主に報告する。

真面目なバリンらしい報告だ。

この敗戦の結果、ルーテシア国境付近の穀倉地帯を失陥した。

次の収穫で得られる食糧が大幅に減ることが報告された。


ボブゴブリンの執事、ジルワード殿が次の収穫が入らないことによる備蓄食糧への影響を報告して補足した。

難民が増えている為、消費が増えており、収穫減はツラいようだ。


「こんな話を聞いてると負けちまったことに申し訳なくなるな…」

思わず傍らのフレッドに耳打ちしてしまった。

「まぁな。でも、ここからお前の英雄譚のくだりだぜ?」

フレッドは冷やかすように返してくる。


バリンが召喚者が前線に出てきたことを報告するのに絡めて、俺が城館を崩したことを話している。

バランがやや盛り気味に補足する。

崩れた城館には召喚者のヒカルがいて、大怪我をさせたと。

それを聞いた出席者達がどよめいた。

彼らの『おぉーっ』と言う声を聞くと、なんだか気恥ずかしい。

正直、あれはバリンや俺の気晴らしであって、実際に与えた被害はそこまで大きいとは思えない。

バラン、お前、その場にいなかっただろ?

盛るなよ!

実はこれ、魔王様直々の仕込みだったそうだ。

敗戦は事実だ。

しかも召喚者が前線に出てきた。

自軍の士気が下がるのは必至だ。

だから、これまでも召喚者を撃退してきた魔王の客分である転生者がまたやっつけた!そんな宣伝をしたんだ。

以前にも言っていたが、使われてるなぁ…

俺。

全くの嘘じゃないところがポイントだ。

流石魔王様と言ったところか。

こちらは正直迷惑だけどな。

目立つのは好きじゃないのに…

それもこれも俺が転生者だからか?

な、転生者なんて負け組なんだ。


「詫びは良い。バラン将軍、バリン隊長。此度はそこまでの痛手ではない。戦力差もある。わかっててそなたらを戦場に送ったのは私だ。」

バリンとバランが頭を下げる。


「諸国からの返事はあったか?」

魔王様からの問いに一人のヒト族が進み出た。

外交を担当する外務卿のヤーノシュ殿だ。

「残念ながら、どこからもまだ…」

「此度の敗戦は知れ渡ろうな?」

「恐らくは…王国の息がかかった商人共が吹聴してまわるでしょうな。」

「うちからも猛攻に耐えて、あの召喚者に一矢報いたと噂を流します。」

「うむ。」

「それと、魔王様。」

「うん?」

「やはり、ひと勝利欲しくございます。」


外務卿の言うこともわかる。

これまでもヴァラキア魔王国は大戦の度に南方諸国やフェリジア地方と呼ばれる東回廊海東岸の諸国と同盟を結んできた。

これが戦力で劣るヴァラキア魔王国が主にテルデサード王国のヒト族やエルフ、ドワーフ達の所謂、光の種族連合軍と対等に戦えた理由だ。

南方諸国やフェリジア諸国が敵に回るとテルデサード王国は南や東の海岸地域に兵力を分散させねばならない。

そうして兵力差を補ってきたのがこれまでのヴァラキア魔王国の戦略だ。

南方諸国やフェリジア諸国がヴァラキア魔王国と同盟を幾度も結んできた理由は簡単だ。

恐怖だ。

魔王様だぞ?

普通怖いだろ?

第二次暗黒大戦の際に魔王軍は主な戦場であった北方地域だけでなくフェリジア地方や南方諸国にも侵攻した。

当時はヒト族であれば無差別に殺戮していた魔王軍だ。

その恐怖が染みついている。

彼等は魔王軍に降伏し、忠誠を誓った。

それ以降、フェリジア諸国、南方諸国は魔王軍が蜂起する度にその傘下に入ってきた経緯がある。

因みに神々の宿木で見かけた巨神兵の抜け殻だが、北方にあるのはあの一体だけで、他の巨神兵の抜け殻は全てフェリジア地方と南方諸国にある。

神々に反乱を起こして、背徳の神メルコルについたヒト族を討伐する為に神々が侵攻したからだと言われている。

つまり、南方諸国やフェリジア諸国を味方につけるにはヴァラキア魔王国の、と言うより魔王様の恐ろしさを見せつける必要がある。

ヴァラキア魔王国がテルデサード王国に大きな勝利を得られれば、南方諸国やフェリジア諸国は再び魔王様の恐ろしさを思い出し、その傘下に入るだろう。

外務卿ヤーノシュ殿の狙いはそこにあるわけだ。


バランら将軍達がわずかにうなり、うつむいてしまった。

ヤーノシュ殿の言うことはもっともなんだが、その勝利が難しい状況にあるからな。


「私も同じことを考えていた。」

将軍達もその他の者達も顔を上げて、魔王様を見た。

「私が出よう。」

広間がどよめく。

まだ序盤戦だ。

この段階で魔王様が自ら出陣しようとするんだ。

皆、驚くよな。


「魔王様、まだ戦いは始まったばかりです。ここは我々が!」

将軍の一人が言った。

ゴブリン族の将軍だ。

「現在はハラド地方の各拠点に軍を籠城させて防御線を展開しており、戦線は膠着状態です。魔王様自らお出になられなくとも。」

バランも言った。

「そなたらの気遣いはありがたいが、戦線が膠着している今こそが良い機会だ。」

魔王様が諭すように言い出した。

「このような状況では多くの小競り合いが起きる。現在もそうであろう?」

将軍達は頷いた。


ハラド地方と言うのは前回の敗戦の後、ヴァラキア諸軍が分散して籠城した城郭群があるルーテシア国境の穀倉地帯とブラドを中心とするヴァラキア中央部の中間に位置する丘陵地帯だ。

スヴァートエルフ達のメルクハイムの森とヴァラキアを結ぶ地域でもある。

ここを奪われるとブラドはスヴァートエルフとの連携を遮断されてしまう。

丘陵地帯独特の複雑な地形のおかげで大軍を迎え撃つ防御戦には適している。

戦闘も小規模戦になりがちだ。

流石、魔王様だ。

要するにそんな小規模戦なら互いに一進一退の繰り返しだ。

そんな中に魔王様が出陣して小さくとも一つ勝てば宣伝材料になるだろうってことだな。


「無理はせぬ。安心せよ。私自ら出陣し、一つでも勝てばブラドに戻ろう。」

魔王様がそう言えば、将軍達も了承せざるを得ない。

軍議は魔王様が出向く戦場の選定に移った。


「なんか、すごいことになってきたな。」

フレッドにまた囁いたが、皮肉な表情で返された。

「こいつは俺達がまた巻き込まれる流れだろう?」

確かに、それはそうかもしれない。

『そなたらもついてまいれ。』とか言われそうだ。

魔王様自らの出陣。

帯同するのは、これまでも召喚者を撃退してきた転生者。

わかりやすい宣伝材料になるしな。

「召喚者共が前線に出てきている以上、仕方ないか?」

「誰かさんが調子に乗って城館なんか崩すしな。」

「待てよ。それまでに召喚者がハリネズミになるまで散々矢を撃ちこんできたのは誰だ?」

ユウにもヒカルにもフレッドはえげつないほど矢を撃ちこんでいる。

あいつらも俺ばかりを目の敵にせず、フレッドにも怒りの矛先を分散しろと俺は言いたい。

「俺はお前を手伝っただけさ。」

「じゃあ、次も頼むぜ。」

「要はお前は魔王様に言われれば、また戦場に出る気なんだな?」

図星だ。

戦場には出たくないが、もう流れ的に断れないし、やはり召喚者の相手は俺達がしなくてはな…

あいつら、俺を目の敵にしているようだしな。

もとはと言えば、転生者ってだけで目をつけられたのがきっかけなんだが、こうなったら仕方がない。

な、やっぱり、転生者なんて負け組だろ?


魔王様が率いる軍勢の規模、部隊や帯同する将軍達の選定、それに伴う兵站の手配、その他諸々が話し合われて御前会議は解散した。


俺達はバリン、バラン兄弟をいつもの薬屋に誘った。

また戦場だ。

飲めるうちに飲んでおきたい。

「悪いな。俺達はまだ会議がある。遅れていく。」

バラン達将軍はより実務的な詳細を決める軍議が続けてあるらしい。

流石、軍の要職にあると忙しいようだ。

「わかった。先に行って、いつもの席を確保しておく。」

「頼む。部下達も連れて行くからな。」


今夜は皆でしこたま飲むだろう。

その次は…

戦場で生き残ったらの話だ。

戦争の恐ろしさだ。

次また一緒に飲めるかもわからないんだ。


「ダンカン、何してる?薬屋へ行って席を押さえるぞ!」

ンダギに背中をどやされた。

「あの席は人気があるからな!」

ブロウが肩を組んでくる。

わかったよ。

落ち込んでも、悩んでも、結局次の戦いは始まるんだ。

だから、今夜は飲むんだ。

俺達はブラド宮殿を出ると薬屋へ歩きだした。


こうして魔王メルコルの出陣が決まったんだ。

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