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転生者なんて負け組だ  作者: 荒野旅人
第三章 ヴァラキア編

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敗戦

砦を奪取した王国軍は続々と入城していく。

とは言え、そこは小さな砦だ。

全軍が入っていくわけではない。

寧ろ場外で野営している方が多い。


深紅の地に黄金の獅子の旗が城外ではためいている。

アルデア騎士団だ。

主力中の主力と思うのだが、城外に追いやられるとは…

ヒカルとうまくいっていないのかもしれないな。

ヒカルの奴は真っ先に城内に入っていくのが見えた。

あの装飾過多のローブだ。

目立つんだ。

どうせならあの崩れかけの城館に入ってくれると嬉しいんだが。

折角の『お土産』をくれてやるんだ。

どうせなら奴に受け取ってほしい。


俺は城がある高台とは街道の走る谷間を挟んだ反対側の山の高所にいた。

ここなら城内を見ることができる。

もっと遠く離れたいが、魔法を使う以上これよりは離れられない。

魔法は視認できる対象にしかかけられないし、視認できてもはっきり見えないほど離れていては難しい。

何より、遠く離れた精霊を使役するのは難しい。

今回は俺にとっても限界ギリギリなんだ。

まぁ、うまくいかなくてもバリンには成功は保証しないと断ってあるしな。


魔王国軍は砦を放棄し撤退し峠道を登り、今は峠に陣を敷いている。

それが効いたのか、王国軍も追撃してこなかった。

坂道での戦闘では高所にいる方が圧倒的に有利であるし、しかも峠は道も狭く、大軍の利は少ない。

兵力差があるから、いつまでも守備できるわけないが、逆にその事をわかっているからこそ王国軍は無理な追撃をしてこない。

こちらがやがては戦場を放棄することはわかっているんだろう。


あぁ、放棄するさ。

『お土産』をくれてやってからな。


「さて、ぼちぼちやるか!」

俺はゆっくり背伸びして体をほぐした。

魔法はリラックスしている方が成功するからな。


俺は砦から撤退する前にあの崩れかけの城館の廃墟に念入りに魔法をかけておいた。

地の精霊を使役する魔法だ。

即ち、城館の建つ地面の土を緩くしておいたんだ。

おかしなもので、石は地の精霊の分野であるのに、人工的に組んだ石壁なんかを崩したりするような地の精霊を使役する魔法はない。

石を切り出し、加工し、組まれた時点で石は死んでおり、死体が動かないように人工の石壁などの石に魔法は発動しないのだとバーン師からは教わった。

だとしてもその土台の地面は自然のものだ。

これに干渉する魔法なら可能だ。

地の精霊と言うのは頑固と言われている。

それだけに使役するのは難しいし、特に地の形を変える魔法と言うのは頑固な彼等の性格に反するのでなおの事難しい。

だが、緩くする程度ならこちらのお願いを聞いていくれる。

それに多少なら地面を揺らしたり、崩すのも可能だ。

ただでさえ、あの城館は崩れかけなんだ。

見てろよ。


俺は杖の先を目の前の地面につけた。

集中だ。

静かに呪文を唱える。

標的は遠い。

ここから遥か向こうに見える砦の城館の土台となっている地面まで魔法を届かせなければならない。

こんな魔法やったことないからアドリブみたいなものだ。

俺は直接、遠い城館の地面の地の精霊に思念を送りはしなかった。

目の前の地の精霊に思念を送り、彼らを通じて砦までの地面の地の精霊達に次々と思念を送っていったんだ。

こんな長い呪文、こんな長い魔法は初めてだ。

少し面白い。

元々、魔法の実験的な創作は好きだしな。

魔法で遊ぶなってよくバーン師にも言われたものだ。

地の精霊達は少しずつ俺からの『想い』を伝え、繋いでくれた。

魔法が少しずつ成立していく。

地の精霊からの反応でついに俺の魔法が城館に達したのを感じた。

さぁ、ここだ!

崩れてくれ!

俺は思念を強く送った。

城館の建つ地面の土に、事前にたっぷり緩くしておいた土に…

崩れろ!


城館崩れ落ちるのが見えるまでは魔法が実現してから少し間があった。

城館の基部を支えていた地面が崩れ、沈み、その上に積まれた石壁が崩れ…

やがてそれが全体にわたるまでには時間がかかるんだな。

悲鳴がここまで聞こえてきた。

ヒカルもあの中にいてくれれば最高なんだがな!


俺はあのヒカルのまとわりつくような粘っこい嫌な口調も嫌いだし、何より、ジーナとボルンを惨殺したショウとヒカルを赦す気はない。


俺はすぐに馬に飛び乗った。

これだけのことをやったんだ。

王国軍にも魔法使いはいる。

俺が何をやったかわかるだろうし、そうなれば俺がどのあたりにいそうかは想像がつくだろう。

追手がかけられるまでに逃げなければならない。

ヒカルもいる。

奴の桁違いの魔力なら、魔力探知で捕捉されかねない。


急な斜面だが、俺はうまく馬を操って逃げた。

一歩間違えれば、斜面を滑り落ちかねない。

俺は手綱を慎重に丁寧に操って、少ない安定した足場に馬を導いた。

子供の頃からカレドニアの山で馬を操ってきたんだ。

カレドニアはフィヨルド地形だからな、急峻な山の斜面が多い。

そんな斜面の危なっかしい小道で散々乗馬してきている。

こういうのは得意なのさ。

馬も良い。

バリンに特に頼んで山岳種の馬をあてがってもらっている。

俺の手綱さばきに反応してうまく歩いてくれる。

平野で疾駆させれば他の種より遅いかもしれないが、山岳種の馬は山道では最強だ。

俺がカレドニアで慣れ親しんでいたのも山岳種の馬だ。

今乗っている馬は小柄で同じ山岳種でも大柄のカレドニアの馬と少し勝手が違うが、良い馬だ。

これならうまく逃げられるさ。


峠からも城館の崩壊は見えていたらしい。

俺を迎え入れたバリンはご機嫌だった。

砦からの撤退以来、ずっと不機嫌だったからな。

俺が戻るのを待って、軍は峠を放棄して撤退した。


峠の反対側を降りるとやはり撤退を開始していた主力と合流した。

バリンの送った早馬の知らせを受けて、すぐに撤退を開始したらしい。

主力にはヴィーラ、アラン、ソニアがいた。

ヴィーラはスヴァートエルフの鎧を着て、兜の面頬を降ろしていた。

ヴィーラの立場は微妙だ。

自ら戦場でヴァラキア側で戦ったとわかれば、色々とややこしい。

今は正体を隠すべきだ。

魔王様は戦場に出ること自体に反対していた。

しかし、ヴィーラはせめて治療師として参加したいと申し出た。

ヴィーラは魔法の大家だ。

治療術も一流だからな。

ソニアも薬師としてヴィーラと一緒に主力部隊に帯同していた。

アランはその護衛役ってところだな。

まぁ、この二人を引き離すのは難しいしな。

アツアツだ。

羨ましいね!


ふとソニアと目が合った。

「どうしたのよ?顔が赤いわよ?もしかして熱?」

「そんなことないだろ。普通だよ。」

「本当かしら?また無理して魔法を使いすぎて体を壊していない?」

ソニアの手が俺の額に伸びた。

俺は余計に顔が赤らむのを自覚した。

「やめろよ。大丈夫だって。」

「だめよ。本当に熱ないのね?」

ソニアのひんやりした手が額に気持ちいい。

「熱はないようね?」

「うん?あぁ…」

「何よ?疲れているの?」

疲れているよ。

城館一つを魔法で崩してきたんだぜ?

でも、そうじゃない。

やっぱり、熱があるのかもな。

あのひんやりした手でもう少し冷やしてほしかった。


またソニアと目が合った。

ソニアはクスリと笑った。

俺もつられて笑みを浮かべた筈なんだが…

「あなた、何か気持ち悪いわよ。」

「なんだよ?」

「あなたこそ何よ?」

今度こそ、本当に笑えた。

大声で。

「やっぱり変ね。」

ソニアが呆れた顔をしている。


この日、ヴァラキア軍はルーテシア国境付近の穀倉地帯を放棄し、本国方面へ全面撤退した。

主力は戦場での小競り合いでわずかな死傷者を出した程度だが、バリンの東の戦線にいた部隊はかなりの被害を出している。

その上でヴァラキアの中原とも言うべき穀倉地帯を失ったんだ。

敗戦としか言いようがない。

ブラドなどのあるヴァラキア中心部との間には丘陵地帯がある。

その地域には防御拠点となる城郭がいくつかあり、軍の大半はそれらの城郭軍に分散して籠城した。

俺達はバリン、バラン兄弟と一緒にブラドまで帰った。

二人は魔王様へ敗戦の報告をする。

俺達は一時休暇が与えられた。

ンダギ、ブロウは負傷していたしな。


「ダンカン、今夜は薬屋で飲むか?」

フレッドから振ってくるのは珍しい。

いつも一緒に飲んでいるからな。

わざわざ誘うなんてことなんかしないんだ。

「約束しただろ?」

「?」

「話すって。」


あの時、北の荒れ地でフレッドは言った。

『そうだな。機会があればな。けれど、今じゃない。』

でも今なんだな。

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