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転生者なんて負け組だ  作者: 荒野旅人
第三章 ヴァラキア編

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籠城戦

フレッドの『時間稼ぎ』は無駄ではなかった。

騎士団に追撃を受けていた部隊の大半が無事に逃げられた。

最後に俺達と一緒に逃げた集団の中にンダギとブロウがいた。

最初に壊滅状態に追い込まれた歩兵隊の中で二人の率いる小隊は最後まで粘っていたそうだ。

二人とも負傷していた。

フレッドと俺は二人に後ろに乗せてやると誘ったが、部下がいるからと断ってきた。

しっかり、戦士長をやっているようだな。

俺達は背後の砦まで敗走を続けた。


砦はフラド砦と言うらしい。

主戦場であるドルパツァ川流域の平野に続く峠道を見下ろす高台に位置していた。

砦から伸びた城壁が峠道まで続き、城門で塞いでいた。

城門から更に反対側の高台まで城壁が続いている。

この城門を通らなければ峠は越せないわけだ。

峠を越せば主戦場で展開する主力の背後に出る。

ここは死守しなければならない。


バリンは東の戦線を任されるとすぐにこの砦の補修に力を入れていたから、砦を囲む高い城壁と街道を扼す城壁はどちらもしっかりとしている。

但し、城壁内の城館は手つかずだからいつ崩壊してもおかしくない。

近寄るなと言われている。

円形に近い小さな砦だが、補修のおかげで堅固な城壁に囲まれた要害になっている。

俺達、バリンの率いる兵団は全てこの砦に集結した。

俺やフレッドは城内に配置された。

城壁上から街道を登ってくる敵軍を攻撃する役割だ。

歩兵は城内守備隊と街道の城門守備隊に分かれたがンダギやブロウの歩兵隊は城内組になった。

主に負傷兵が城内の守備隊に割り振られた。

ンダギ、ブロウともに不満そうだったが、俺は正直、二人が城内組で安心した。

ただでさえ戦力差が大きい上に、勢いに乗って攻めてくる軍勢と戦うのは危険だ。

敵は峠を越す為に、城門に攻撃を集中するだろう。

城門の裏側にはわずかに残っている騎兵隊も展開している。

城門を破られたら敵に突撃して一矢報いるのが役割だ。

この戦いは城門を攻める敵をどれだけ砦の城壁からの攻撃で射ち減らすかにかかっている。


敵の軍勢が登ってくる。

城壁からは遠望が利く。

高台になった岩塊の上に建てられ、城壁も砦の規模にしてはかなり高いから鋸壁から見下ろすと怖さを感じるような高さだ。

ほぼ真下を城門に向かって街道が続いている。

フレッドとは少し離れた場所に配置された。

少し離れた左手の城壁上の射手隊にフレッドがいた。

目が合った。

互いに手を振った。


登ってくる攻め手の先頭集団に特大の稲妻の術を叩き込んでやった。

俺も以前より魔力が高くなっている。

魔法は実践の繰り返しで魔力が強くなるものだ。

それもより実戦的な環境での魔法の使用が鍛錬になると言われている。

そういう意味ではここ最近は強敵相手の手厳しい状況で魔法を使いまくってきたから、かなり魔力が上がってきたわけだ。

以前ならこの一発で気絶していたかもしれないが、今ではまだまだ使えるだけの余裕がある。

最初に派手で強力な魔法をかましてやれば、少しは敵軍の士気にも影響があるだろう。

ド、ド、ドンっ!

激しい音ともに二十本はある稲妻が落ちる。

先頭の連中が一度に倒れ、続く兵達も仲間の死体に躓いた。

全速で駆け上がってきたから簡単には足が止まらないんだ。

これで足が止まった。

そこへ矢の雨が降った。

フレッドの率いる射手隊の攻撃だ。


敵は人数が多い。

怯んで足の止まった先頭集団に変わって、次の部隊が城門の向かって走り出した。

「やってくれ!」

俺の指示で魔法使い隊の一人がまた稲妻の術を放つ。

俺も続けて呪文を唱え始めた。

次は炎の玉だ。

続いてフレッド達の矢の雨。

これでどれだけの間、防ぐことができるだろうか?


ドォーン!

俺が続けて稲妻の術の準備に入った時、とんでもない轟音が背後でした。

反対側の城壁が崩れていた。

投石機だ。

この時代の攻城戦と言えば投石機によるものが多い。

当然、敵が投石機を使ってくることも想定されたが、あまり脅威にならないとの判断が下されていた。

砦がかなりの高所にあり、投石機でも城壁を崩せるほどの巨石を届かせることはないだろうと思われたからだ。

しかし、一発で城壁の一部が欠けてしまった。


ドォーン!

まただ!

今度ははっきりと見ていた。

思っていたよりもかなりの巨石が飛んできた。

城壁が一発で崩れるわけだ。

しかもその石弾は炎をまとっていた。

魔法だ!

俺は他の魔法使い達に攻撃を続けるよう指示して、城壁の上を走り出した。

いくつかの側坊塔の門をくぐり、反対側の城壁に出た。

信じられない。

確かに投石機が設置されているが、丘の下だ。

そこから手前は斜面で投石機の設置は難しいだろうとバリンは判断していた。

そして丘の下からでは距離的にも高低差的にも厳しいと考えられていた。

しかし、実際には丘の下に設置された投石機から巨大な石弾が放たれ、城壁を一撃で破壊している。

魔法に違いない。

俺は遠見の魔法で投石機を見た。

投石機なんて見たことなかったが、前世で博物館でレプリカを見たことがある。

その程度の知識しかなかったが、少なくとも俺には何の変哲もない投石機に見えた。

しかし、投石機の横に奴がいた。

やたら装飾過多な魔法使い風のローブを着た男。

ヒカルだ!

ついに召喚者が前線に出てきたんだ。

奴があの古城址で使った巨石の攻撃。

あれができるなら投石機の飛ばす石弾をここまで届かせることができそうだ。

地の精霊を使役して重さをコントロールし、更に大気の精霊を使役して強力な追い風を起こせば、理論上可能そうだ。

あくまで理論上な。

あんなの普通の魔法使いでは無理だ。

どれだけ魔力を浪費しているんだ?

しかも、炎をまとわせている。



投石機に新たな石弾がセットされようとしていた。

「来るぞっ!」

投石機のある側の城壁にいる兵達が逃げ出す。

次の石弾も確実に城壁を当たり、破壊した。

魔法によって遠隔操作された誘導ミサイルみたいなものだ。

外れるわけもない。

これは流石に無理だろう。

俺は一番近い側坊塔にはいるとその中にある階段を全速力で駆け降りた。

砦の内陣の中央にはバリンがいる。

俺はバリンのところへ走っていったんだ。

「バリン!召喚者だ!城壁が一気に崩されるぞ!」

「馬鹿な。どうやればあんなこと…」

流石に剛毅なバリンも動揺している。

「詳しい話は後だ。召喚者の魔法使いの仕業だ。ここはすぐに落とされるぞ。」

「撤退しろと言うのか?」

「そうだ。城壁はものの数分で全て崩されるぞ。今すぐ決断してくれ!」

俺は城壁の上、フレッドのいる辺りを見た。

射手隊は崩されていく城壁の方は見ず、街道へ矢の雨を降らすことに専念している。

勇敢な連中だ。

連中も、フレッドも死んでほしくない。

「しかし、主力の背後を突かれれば我が軍は壊滅してしまう。」

「早馬を出して主力にも撤退させるんだ。」

「馬鹿な。そんなことをすれば我が国南部の穀倉地帯を全て失ってしまう…」

「よく考えてみてくれ。もう冬だ。今年の収穫は終わっている。今は退こう。」

「しかし…」

バリンは崩されつつある城壁を睨んでいる。

またも石弾が城壁を破壊した。

更に炎をまとった巨大な石弾が城内の待機していた歩兵隊の中に落ちた。

悲鳴が響く。

「バリン!本当に時間がない。全滅するぞ?」

「…」

「このままではこの隊も、主力もやられてしまうんだ!」

「わかった。」

バリンは低く唸るように答えた。

バランのような勇将ではなく、どちかといえば冷静沈着な知将タイプの男だが、ここは熱い。

悔しいことだろう。


バリンが撤退命令を出した。

城壁上の兵達が降りてくる。

城内で待機していた歩兵隊とともに砦から出ていく。

有能なバリンの率いる隊らしく、動きが正確で早い。

これだけの軍がいるんだ。

またいつか取り返せるさ。


「畜生っ!」

バリンが怒りをぶちまけている。

バリンの向こうには例のいつ崩壊するかわからない城館が見える。

そうだ…

バリンもこのままじゃ収まらないだろう。

「なぁ、バリン。成功は保証できないが、このままだと悔しいだろ?」

俺はバリンに耳打ちをした。

バリンは信じられないという顔でこっちを見る。

俺も悔しいからな。

一矢は報いてやりたいのさ。

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