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転生者なんて負け組だ  作者: 荒野旅人
第三章 ヴァラキア編

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アルデア騎士団

街道の向こうから一騎来る。

斥候だ。

一人じゃない。

後ろに誰か乗せている。

エミィだと気付けるくらい近づいた時には彼はひらりと馬から飛び降りていた。

ゴブリン族は馬に乗る習慣がないからな、ヒトに乗せてもらってきたんだ。

「すぐに撤退しろ!」

それがエミィの第一声だった。

いつも冷静なエミィらしくない。

「どうしたエミィ?」

「今回の敵は今までとは違う。すぐに部隊に撤退させろ。」

「だからどうしたんだよ?」

「前衛軍はほぼ全滅だ。騎兵隊も壊滅に近い。」

「なんだって?」

「新しく出てきた奴らは今までの王国軍とは根本的に違う。とても敵う相手ではない。とにかく部隊を撤退させろ。ここも危ない。」

「前衛が全滅だって?ンダギやブロウは?」

前線で最初に突撃する歩兵隊にはンダギとブロウがいる。

二人とも戦士長として小隊を率いる立場だ。

「わからん。俺が最後に見た時は乱戦で前衛の歩兵隊はもはや部隊としての体をなしていなかった。」

「どんな敵なんだ?」

俺とエミィが叫びあっているのを聞きつけてフレッドがやってきた。

「重装騎兵といったらいいかな?人馬ともに厚い装甲の騎兵隊だ。」

「軍旗は見たか?」

フレッドが『重装騎兵』という言葉に反応した。

「あぁ。深紅の地に黄金の獅子の図柄だ。」

「そうか。バリン、悪いことは言わん。エミィの言う通りだ。撤退しよう。」

何事かとやってきたバリンにフレッドが言った。

珍しく有無を言わせない語調だ。

「なんだって?ここを破られると主力の背後を突かれる。簡単に引き下がれるか!」

来て早々、撤退しろと言われて大人しく従うほどバリンは弱気の将じゃない。

「アルデア騎士団だ。」

「なんだって?」

「知っているだろう?王国最強の騎士団だ。ここは退くべきだ。」

バリンは腕を組んで考え込んだ。

前線の一方面を任されているんだ。

簡単に撤退は決断できない。

「今すぐ戦線を放棄しろとは言わない。せめて、背後の砦に籠るべきだ。」

俺達が担当している東の戦線は背後に古い砦の廃墟がある。

俺達はそこに物資などを集積していた。

急造ではあるが城壁も修復しており、防御拠点としては機能する。

但し、この砦の背後にある峠を越されると主力が展開する主戦場の背後に回られてしまう。


街道の向こうで土煙が見えた。

「味方が撤退してきたぞっ!」

誰かが叫んでいる。

街道の向こうから味方の歩兵隊が走ってきた。

要するに敗走してきたんだ。

「エミィ、かいつまんで前線の様子を教えてくれ。」

このままじゃバリンも決断しかねるだろう。

せめて、前線でおきたことくらい聞かせてくれ。

「わかった。」

エミィは口を切ると少し考えた。

「初めは単純なぶつかり合いだった。ンダギやブロウの歩兵隊は強い。これまでなら敵と対等に渡り合えたんだが、今回は違う。敵の歩兵は突撃せずに左右に展開して、真ん中を開け、そこから例の重装騎兵共が出てきたんだ。」

歩兵のぶつかり合いを飛ばしていきなり騎兵突撃か。

思い切った作戦だが、珍しいことではない。

確かに馬上から攻撃できる騎兵の方が歩兵より有利ではあるが、整然と隊列を組んだ歩兵に長槍みたいな長柄武器でやられると騎兵も弱い。

普通は歩兵同士のぶつかり合いや弓矢や魔法などの長距離攻撃で乱れた歩兵隊に騎兵隊を突撃させるのがこの世界でのセオリーだ。

初めから歩兵に突撃させる以上、相当な自信が必要だ。

「うちの歩兵はそんな攻撃に簡単にやられるほどやわじゃないだろう?」

「いや。奴らにはきかなかったな。恐ろしい突撃力だ。うちの歩兵隊はすぐに壊滅状態になってしまった。」

「アルデア騎士団の突撃は大抵の敵を一度で打ち破ってしまう。そういう連中だ。」

フレッドの奴、やたら詳しいな。

「前衛が崩れて少し奴らの陣形も乱れたところでうちの騎兵隊が突撃した。そして作戦通りすぐにやられたようにみせかけて撤退したんだが、奴らは追撃をしなかった。うちの騎兵隊は再度、奴らを誘いこむ為に突撃した。無論、すぐに敗走してこちらへおびき寄せるためにな。」

そうだ。

今回も俺達は騎兵隊にわざと敗走させて、この地形が狭隘な場所へ誘いこんで魔法と弓矢の集中攻撃で敵にダメージを与える作戦だったんだ。

「しかし、奴らはそれを待ってたんだよ。引き返してきた騎兵隊に待ってましたとばかりに突撃して壊滅させてしまいやがった。」

バリンは悔しそうな顔で話を聞いていたが、街道を逃げてきた歩兵隊を見て決断した。

「わかった。砦まで撤退しよう。」

直ぐにバリンの部下達が散る。

各隊に伝令だ。

しかし、敵の追撃が急だ。

まだ前線から戻ってきていない部隊もいる。

果たして全軍撤退が間に合うか…


「ダンカン、すまんが付き合ってくれないか?」

「?」

「実はな…」

フレッドの提案は驚くような内容だったが、奴のことだ間違いはあるまい。

「わかった。協力する。」


歩兵隊に続いて騎兵隊も逃げてきた。

バリンは待ち伏せの部隊を率いて撤退を始めており、敗走する前衛部隊にもそのまま砦まで撤退するよう伝令を飛ばしている。

味方の騎兵隊が通り過ぎた後、敵の追手が現れた。

エミィの言う通りだ人馬ともに鉄の装甲を帯びた重装騎兵だ。

深紅の地に黄金の獅子の軍旗も見えた。

フレッドの言う通りならあれがアルデア騎士団の軍旗だ。

流石に今までの敵とは違う。

この奇襲に適した狭隘部には簡単に入ってこない。

様子をうかがっている。

数騎が走り出して、周囲に散った。

斥候だ。

これじゃ、あのまま待っていても奇襲は失敗したな。

なるほどこれがアルデア騎士団か。


アルデア騎士団。

俺も知っている。

フレッドの言う通りテルデサード王国最強の騎士団と言われている。

確か、第四次暗黒大戦時にテルデサード王国の呼びかけに応じてその旗本に参じたアルデア人の傭兵団が起源の筈だ。

第五次暗黒大戦でも活躍している。

厚い装甲に任せて己が傷つくことを恐れず果敢に突撃する最強の騎士団と言われている。


俺は北回廊海を渡る船でのことを思い出していた。

西日に照らされるアルデアの地を見つめていたフレッドのことを。

『お前は故郷に家族がいる。俺は故郷に誰もいない。そこが違うのさ。』

フレッドはそう言った。

アルデアには家族がいなくても、アルデア人の家族はいないとは言っていない。

もしかしたら、アルデア騎士団には奴の身内がいるのでは…


「じゃあ、行くか。」

フレッドは馬を静かに進めた。

俺も少し遅れて馬を進めた。

フレッドは街道の真ん中に進み出た。

アルデア騎士団の真ん前だ。

騎士団の先頭にいた連中がどよめく。


「若様!あなたはフレデリック若様では!?」

若様だって?

俺は騎士団の先頭の男の言葉を呆然として聞いた。

フレッドは真剣な表情で馬を更に進めて、騎士団達に近づく。

「若様…」

おい?

泣いてないか?

先頭の騎士を含めて何人かの騎士が涙を流しているように見えた。

「どうしてここに?」

「お前らこそどうしてここにいる?フィリップに忠誠を誓ったか?」

「若様、私たちアルデア騎士団は王家に忠誠を誓っているのです。どうか…」

「では、お前達は王家への忠誠の為に、無実の民を殺戮してきたのか?ルーテシアでどれだけのオークやゴブリンが殺されたことか。」

いつもはニヒルでクールなフレッドが珍しく怒気を含んだ声で叫ぶ。

「私達は決して手を下してはおりません!」

「我々も王を窘めてはいるのです!」

「我々は民を傷つけることはしておりませぬ!」

騎士達が次々に応える。

それにしてもこの反応…

フレッド、お前は一体、何者なんだ?


「若様こそ何故ここにおられるのです?」

「今までどこにおられたのですか?」

「騎士団はずっとあなた様をお探ししておったのです。」

騎士達が口々に言う。

「俺と俺の家族の居場所はテルデサード王国に、フィリップに忠誠を誓うものには教えられな。ここにいるのはな…」

ふとフレッドは俺の方を振り返った。

口元に奴らしいニヒルな笑みが浮かぶ。

「しがらみさ。大切なことだ。」


「我々はあなたを裏切りはしません。どんな理由であれヴァラキア軍におられるのであればお戻りください。」

「どうかな?祖父や父のことはどうなんだ?」

「私達は団長のことも、御父上のことも裏切ってはおりません。どうか我等を信じて騎士団にお戻りください。」

「戻ると言っても祖父はともかく俺は騎士団に入ったことはない。それに死にに行くつもりないしな。」

「陛下には我々がとりなします。身命を賭して!」

「だめだ。今の俺を庇えばお前達も無事では済まない。俺はな…俺達はな…」

フレッドはここで言葉を切るとまた俺の方を振り返った。

今度も口元に笑みが浮かんでいる。

皮肉でもなく、心底嬉しそうな微笑だ。

「王国とアルフハイムのお尋ね者なのさ。」


騎士団の中から一騎が進み出た。

その後ろに軍旗を持った一騎が続く。

こいつらの頭かな?

「若様。私達の騎士団に団長はおりません。団長は若様でなくてはならないのです。」

「ジェフロワか。今はお前が率いているのか?」

「はい。副団長として、団長の代理をしております。」

「そうか。俺はもう今の王国に戻れる身ではない。騎士団を頼む。」

「どうしてもお戻りになられませんか?」

「言っただろう?今や俺達はお尋ね者だ。今の俺を連れ帰ってみろ?お前達はますます厳しい立場になるぞ?」

「団長がいない限り我らは真のアルデア騎士団とは言えません。そしてフィッツロイ家の跡取りである若様こそが我等の団長です。多少の危険も厭いません。」

「駄目だ。俺はフィリップには仕えん。」

「若様。我々は…」

「わかっているジェフロワ。アルデア騎士団はテルデサード王国の王座に忠誠を捧げる。誰がその王座の主であろうとな。だから俺は戻れん。それだけが理由ではないがな。さらばだ。」


フレッドは馬を返し、騎士達に背を向け立ち去ろうとした。

まだこの戦場に残っている兵達が続く。

もとはといえばこの兵達を撤退させる時間稼ぎの為に、一芝居うとうとフレッドが提案してきたんだ。


「ジェフロワ殿!奴らを逃がすわけにはいきません!」

騎士団が戦闘隊形に入った。

流石だ。

早い。

こちらも始めるか。

俺は呪文を唱え始めた。

フレッドは馬のスピードを上げた。

フレッドに続く残兵達も急ぐ。

騎士団が突撃体制に入ったところで奴らの鼻先に炎の玉を炸裂させてやった。

騎士団達の足が止まる。

今度は俺が逃げなきゃな。

俺も騎士団を背に馬を全速力で走らせた。

後ろでは騎士団が猛然と追っかけてくる。

今度は街道両側の丘の上から矢が放たれた。

フレッドの部下達だ。

流石に騎士団の足が止まる。

その間に俺達は逃げた。

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