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転生者なんて負け組だ  作者: 荒野旅人
第三章 ヴァラキア編

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前線にて

俺達は戦場にいる。

召喚者が現れたからだ。

奴らの率いる軍勢一万がルーテシアに上陸した。

ノルデル伯が集めた情報では王国直轄領の中でも優れた者を選んで招集した最精鋭の軍団だ。

これが召喚者達に率いられて最前線に展開した。


とうとう俺達も戦争に参加することになった。

まだ俺の中で葛藤はあったが、約束は約束だ。

それに魔王様も俺達に気遣いをしてくれている。

俺達が配備されたのは前線の端の方だったからだ。


ルーテシアからヴァラキアに侵攻するには三つのルートがある。

主要なルートは中央のドルパツァ川両岸に広がる平野部だ。

ドルパツァ川の東にも西にもよく整備された基幹街道が通り、大軍の行軍も容易だ。

平野部で起伏が少ないから、攻める側に有利だ。

両軍ともここに主力を置いている。

あとはその平野部の両側に存在する丘陵地帯を越えた別の谷間だ。

どちらもドルパツァ川程の大河ではないが川が流れ、川沿いに街道が通っている。

俺達は一番東側の街道に配属された。


魔王様としては中央のドルパツァ川沿いの主戦線から外すことでリスクを軽減してくれたようだが、皮肉なことにここが一番の激戦区になっていた。

他の戦線では小競り合い程度で大きく動いてこない王国軍がこちらでは活発的に進行してきた。

「ここを突破して丘陵を越えて、ヴァラキア中央軍の背後に出たところで、奴らの中央の主力を押し出す気だな。挟み撃ちだ。」

フレッドの意見に俺も賛成だ。

だから俺達は連日のように敵の攻撃に対処しなくてはならなかった。


俺達の部隊はドルパツァ川側即ち西の丘陵と東の山地に挟まれた谷間の地域にいた。

前方から一騎、走ってきた。

伝令だ。

「うまくいきました。もうすぐやってきます。追手は約五百程です。」

部隊の隊長バリンがしめたとばかりに笑みを浮かべて頷く。

バリンはバランの兄貴だ。

弟のバランの方が将軍になってしまったが、兄のバリンも優秀なようで三つに分かれた前線の一角を任されている。

「転生者殿、やりますか?」

バリンはバランよりも礼儀正しい。

「あぁ、やろう。」

俺は丘陵の方へ馬を走らせた。

坂道は細くうねっていたが、魔王様から下賜されたのは素晴らしい名馬だ。

俺の癖のある乗馬術にもおとなしく従ってくれる。

軽々と丘を登れてしまった。

丘の上には俺と同じ魔法使い達とフレッドの率いる射手の部隊が隠れている。

「来るか?」

フレッドが立ち上がった。

「あぁ、五百騎だそうだ。」

「今回は多いな。」

「俺達がうまくやらないと逆にこちらがやられるぞ。」

「わかってるさ。お前こそ下手うつなよ?」

フレッドと軽口をたたいていると少し気が楽になる。

パチン!

手を合わせるとお互いに背を向けた。

映画みたいで格好いいだろう?


「よし!皆、準備をしてくれ。各自稲妻の術、炎の玉だ。もう一度、立ち位置と自分の役割を確認してくれ!」

俺は自分が所属する魔法使いの部隊に戻った。

俺が指示すると、魔法使い達がバラバラと離れていった。

事前に決めておいた通りだ。

前世で人を部下に持ったことがない。

俺にマネジメントなんてできるのか?と思ったが、仕方がない。

任された以上、やるしかない。

前世で散々嫌な上司に従ってきたからな。

反面教師はいる。

ああならないようにして、後はできることをやるだけだ。

振り返るとフレッドも自分の率いる射手の部隊に準備をさせていた。


フレッドの射手部隊のように弓兵だけを集めて部隊を構成するのは常套手段だが、魔法使いを集めて部隊を構成するのはこちらの世界のセオリーではない。

戦争規模の戦闘になると魔法使いの魔法は補助的な役割に徹した方が効果的だ。

だから、各歩兵部隊や騎兵部隊に少しずつ配置するのが一般的だ。

しかし、今回の作戦は俺達の遠距離火力を集中する必要がある。

俺達、魔法使い部隊はこの作戦の為だけに急遽編成した部隊だ。


前方から土煙が見えてきた。

来たな。

谷間の街道を騎兵隊が走ってきた。

味方だ。

ヒト族の騎兵隊だ。

オークやゴブリンには馬に乗る習慣がないからな。

ヴァラキア軍で騎兵隊と言うとヒト族なんだ。

五十騎ほどだ。

少ない。

更に後ろから騎兵隊が走ってきた。

こちらは王国軍だ。

アヤメを散らした空色の地に剣を持ったグリフォン。

テルデサード王国の軍旗だ。

魔王国軍の騎兵隊が敗走しているのを追撃してきたんだ。

街道にいた歩兵達も今は周囲に散開して隠れている。

敗走してきたヴァラキア騎兵が通り過ぎる。

少し間をおいて王国軍の騎兵が来た。

まだだ。

奴らの最低でも半分はやり過ごしたい。


「今だ!」

俺は号令をかけると同時に素早く稲妻の術に入った。

俺の合図とともに地に伏して隠れていた魔法使い達が一斉に立ち上がり、その三人に一人が術を唱える。

実は魔法使いが密集して同時に魔法をかけると上手く魔法が実現しない。

魔法には『かける』、『成立する』、『実現する』という三つのステップがあるんだが、魔法使い達が密集したって『かける』ことはできる。

『成立させる』ことは難しくなってくる。

例えば、精霊魔法であれば、その場にいる精霊のキャパ的なものがある。

だから、魔法を『かける』ことで精霊達にお願いして魔法を『成立させる』よう動いてもらえはするんだが、同じ場所で複数の魔法使いが同時にお願いしたら精霊達が応えてくれたとしても全て魔法通りの『実現する』には力が足りないってことになる。

魔法使いばかりを集めた部隊をあまり運用しない理由にはこれもある。

だから、できるだけ間隔を開ける為に事前に魔法使い部隊は三隊に分けておき、三人に一人が先ずは術に入ったわけだ。

使用する術にも工夫した。

大気の精霊と水の精霊を使役する稲妻使いと火の精霊を使役する炎の玉使いを交互に並べたんだ。

これで更に同じ精霊を使用する者の間隔が開くだろ?


稲妻と炎の玉が王国軍騎兵隊の尾部に炸裂した。

間隔をあけて配置した魔法使い達が一斉に術を掛けたんだ。

敵も広範囲にわたって被害を被っている。

さすがに全滅は無理だ。

それでも敵は大混乱だ。

完全に足を止めた。

そこにフレッド達の放った矢の雨が降った。

敵の恐慌状態は更に酷くなる。


「次!」

俺はお休みだ。

とは言え、次の魔法を唱え始めている。

実は魔法使い部隊を三隊に分けた理由はもう一つある。

魔法はどんなに連続で使用したくても呪文を唱える時間がかかるからな。

その間隔も技量によって差が出てしまう。

バラバラと無秩序に行くよりは、整然と切れ目なく魔法を放つ方が良いと判断した俺は、比較的魔法の実現に時間がかかる魔法使いに合わせることにして三つに分けたそれぞれの部隊が順番に魔法を放つことにした。

長篠の戦いで織田鉄砲隊がやった三段撃ちの真似をした…

なんてこちらの世界で言っても誰にも理解されない。

そもそも織田鉄砲隊の三段撃ちも史実ではないらしいしな。

号令をかけるのもそれぞれの部隊で一番早く魔法を放てる者に任せた。

最初に魔法を放った者の横にいた者が一斉に魔法を放つ。

更に次の部隊が魔法を放つ。

そして俺達が再度魔法を放つ…

やられる方としたら切れ間なく魔法攻撃にさらされるんだ。

たまったものじゃないだろう。

しかもフレッド達の矢の雨付きだ。


前線で歩兵同士が激突した時、最初にぶつかった歩兵達にはわざとすぐに逃げ出させた。

敵の歩兵が勢いづいてその歩兵達に追撃に入ったところへ、前線を任されたバリンの副将は騎兵隊を突撃させた。

王国軍は弓兵隊の射撃で騎兵隊に被害を与え、その勢いが落ちたところに自分達の騎兵隊を突撃させた。

魔王国の騎兵隊は事前に指示された通り、すぐに敗走を始めた。

王国軍は自分達の戦術がハマったと思ったんだろう。

調子づいた王国軍の騎兵隊は敗走する魔王国軍の騎兵隊を追って、ここまで来たわけだ。

罠とは思わなかったんだな。

典型的な伏兵による奇襲攻撃の成功だ。

ここまで思い通りになるとは思わなかった。

囮になって逃げてきた騎兵隊達がうまかったのもあるだろうが、魔王様の言った通り実戦の経験不足なのかもしれない。


今では隠れていた歩兵部隊が恐慌状態の王国軍の騎兵隊に襲い掛かっている。

狭い谷間で一度、混乱状況になってしまった騎兵よりも歩兵の方が有利だ。

王国軍の騎兵隊も前方の約半数は無傷だが、後方がここまで無残にやられ、退路を断たれたんだ。

右往左往している。

そこへ逃げていた魔王国軍の騎兵隊が反転して突撃した。

半数とは言え、まだこちらの騎兵隊の五倍近くはいたんだが、あの状態ではな…

この反転突撃でほぼ勝負はついた。

敵の騎兵隊で逃げられたのはほんのわずかだ。

大半が討ち取られるか、降参して捕虜になった。

降参して助かった連中は不思議そうな顔をしていた。

降参しても助けられないと教えられていたんだ。

歴史を勉強しろ。

ヒト族の歴史ではなかなか教えてくれないが第三次暗黒大戦後半以降、魔王国軍は降参した敵兵は殺さずに捕虜にしてきている。

真面目に勉強していたら、その事実は知ることができていたはずだぞ。

まぁ、敵軍も将兵には降参しても殺されるだけだと教えているんだろうな。


俺達が勝利を得たのはこれで二度目だ。

一度目も弱いと擬態して、侮ってきた敵を罠にはめた。

やり方は多少違うが。


前回は俺もまだ躊躇いがあったが、恐ろしいことだが、今回は傭兵として盗賊達を討伐しているかのように冷静に戦えてしまった。

これまでの実戦経験がそうさせたと言えば、そうかもしれないが。

でも、俺はそんな自分が少し怖かった。

フレッドの方を振り返った。

目が合った。

頷きあった。

奴も同じことを考えているのかもしれない。

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