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転生者なんて負け組だ  作者: 荒野旅人
第三章 ヴァラキア編

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戦況

状況が決して良くないことを知ったのはブラドに戻ってからだ。


俺達は避難民の護衛を幾度となくこなした後、休暇をもらった。

軽い怪我はソニアがその場で治療してくれるし、避難民を送り届ける町に駐屯している兵団には大概治療師がいるから、治療術をかけてもらうこともできる。

とは言え、疲労はたまっているからな。

休暇はありがたかった。

久々にブラドに戻るとノルデル伯から話を聞くことができた。


ノルデル伯は無精髭を生やしていた。

普段はしっかりと身嗜みを整えている人だ。

多忙なんだろう。

あまり寝れてないとも聞いた。

それだけ精励しているだけに、かなりの情報が集められているようだった。


ノルデル伯から聞いたルーテシアの情勢はこうだ。

最初に北回廊海の南岸に集結していた三万の軍はほぼ渡海を終え、ルーテシア各地に展開したそうだ。

三万と聞いた時、俺は少ないと思っていた。

テルデサード王国はウェスタリア地方を統一し、更に周辺を自治領として傘下に収めている超大国だ。

確か転生前の世界の話では中世の王国が動員できる兵数は五千~三万程度だったと思う。

テルデサード王国に併合されてしまった王国は十を下らない。

二~三十万は動員できてもおかしくない。

テルデサード王国の常備軍と言えば、各地の衛兵だ。

衛兵はその土地の領主に雇われている。

王家直轄地の衛兵であれば王家の命で動くが、ほとんどの衛兵がその地を治める領主、即ち貴族の配下だ。

王国軍を十分に動員できていないということは、恐らく有力な諸侯から完全な賛同を得られていないんだろう。

フィリップの人徳のなさだな。


とは言え、三万は動員してきた。

これはどういうことかと言うと大半が新規募集して集めた新兵だそうだ。

それも恩赦目的で獄中から志願してきた囚人が大半を占めている。

そんな軍隊だ。

規律も低いし、練度も低いわけだ。

こんな軍隊にはしっかりと教え、導ける指導者が必要なのだが、各地の衛兵を率いる士官たちも日常の任務がある。

このような新規募集の兵に教えている暇がない。

だから下っ端の衛兵がいきなり下士官に任命されて派遣され、元囚人の新兵達を指揮している。

どんなことが起きるか?

日頃、上官にいびられ、いじめられている下っ端の衛兵だ。

今度は自分が上官になって新兵達をいじめるんだ。

新兵達も元犯罪者だ。

各地で悪逆非道な犯罪を起こしてきた荒くれ者達だ。

黙って、舐められるわけにはいかない。

だから、ルーテシア各地で罪もないオークやゴブリンを虐殺し、住民に必要以上に威圧的な態度をとり、オークやゴブリンをかくまったり、同情的な態度をとったヒト族の住民を徹底的にいたぶるんだ。

そんなことで自分が恐れ知らずの男だと証明しようとするらしい。

馬鹿じゃないか?

無抵抗の住民を殺したり、迫害して何が強いんだ?

でも、それが現実だ。

現に俺達がこれまで相手してきた襲撃者共。

あれもくだらない虚栄心で命令を無視して国境を密かに越え、無抵抗な避難民を襲って財宝を奪おうとする新兵共が正体だ。

持ち帰った財宝を自慢して自分が弱くないことを証明しようとしているわけだ。

くだらない。


王国がこのような状況に手を打たないのも恣意的なものだとノルデル伯は言う。

「あれだけのことをすれば、多くの住民がヴァラキアに逃げてくるだろうからな。」

「何故です?自分の国の住人をわざわざ敵国に追い込む必要がどこにあるんです?」

「ヴァラキアに口のあるものを少しでも増やしたいのだよ。」

ヴァラキアの強みは何か?

実は食料だ。

ヴァラキアで一番人口比率の高いオーク族は優秀な農耕民族だ。

特にルーテシア国境近くはドルパツァ川が運んできた滋養に満ちた土に恵まれた広大な平野だ。

ここにはオーク達の大規模な農場がいくつも広がっている。

そしてその大量の収穫物が集積され、ヴァラキアの中心部で蓄積されている。

この兵糧の貯えこそがヴァラキアの強みだ。

そう言えば、前世で戦争は勝つことよりも如何に兵に食わせるかが大切と聞いたことがある。

そういう意味ではヴァラキアは優秀だ。

「そいつを何とかしたいのだよ。王国は。」

つまりルーテシアの避難民もヴァラキアに追い込んで、備蓄している食料を食わせようということだ。


「そうなると次は国境を越えてドルパツァ川流域の平野部に侵攻してくるでしょうね。」

「うむ。だが、そこが遅々として進んでいない。奴らは待っているのだろうよ。」

「?」

「わからぬかね?」

「はぁ…」

「召喚者達だよ。」


どれだけ無抵抗なものに蛮勇を奮って誇示しても、実戦となれば腰が砕ける。

荒くれ者と言っても、所詮は町中の路地裏で自分よりも弱い者達に暴力を振るってきただけの連中だ。

しかし、召喚者がくれば話が変わる。

召喚者の能力に統率力の強化というのがあるらしい。

召喚者に率いられた軍はそれだけで統率がとれるとかなんとか…

召喚者の伝説には誇張が多いように思われるが、前回の大戦からそこまで時代を経たわけではない。

たかだか三十年だ。

嘘ではないだろう。

あの練度も低く、統制のとれていない軍勢でも召喚者が率いれば多少は強くなるんだろう。


「それだけではない。」

「加勢があると?」

「無論だ。まだ王国直轄領の兵団が来ておらぬ。現在、オルトダムとカールの軍港に新たな軍勢が集結しつつあるとの情報があった。恐らくは…」

「では、その軍勢を率いるのが召喚者共ということですね?」

「あくまで推測だがね。」


あのオークやゴブリンを殺すことに飢えている召喚者共だ。

大戦が始まってうずうずしていることだろう。

次の軍勢には間違いなく奴らはいる。

最悪だ。

俺は思わず背後の仲間達の方を振り返った。

皆、軽く頷いた。

覚悟はできているんだな。

正直、俺はまだなんだ。

俺はまだ戦場に出る気になれない。


しかし、召喚者達が戦場に現れたら、俺達も前線に加わると魔王様と約束をしてしまったのだ。

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